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千波と  作者: 久木
11/13

二人で忘年会

久し振りの千波との食事。

待ち合わせはいつもの駅の時計台。駅ビルのトイレで、髭を反り、ペーパータオルで洗顔し、マウスウォッシュでうがいし、香水をつけ直す。一つ一つの動作を終えてく度に、千波に会えると言う期待が膨らんでいく。洗面台で隣の男も髪を念入りに整えていたが、この男もどうやらデートの仕度のようだ。


そして約束の場所で千波を待つ。この一連の準備から、いや、お店とプレゼント選びから始まっている、この準備を積み重ねた上で彼女を待つ緊張感ほど楽しくも不安な時間は無い。


「くわっち、待った?」

「俺もさっき着いたところだよ。」

笑顔で現れた千波、約束の時間に来てくれた。今回は珍しく黒いロングコートだった。そうして二人並んで歩き出す。外は12月だと言うのに、それほど寒くはなく、雨が降りそうな天気だった。途中、店がなかなか見つからず、何度か行き来したが、無事に予約時間に着くことができた。


店に入り、早速、二人でメニューを見た。早速、乾杯のお酒を頼みつつも、千波はワイン飲み放題に関心を示したので、後でオーダーした。

「くわっち、一年お疲れさま。乾杯しよっか。」

「一年いろいろあったけど、乾杯。森山さん、今日はありがとう。」

久し振りに色々話したが、中心は彼女が社内の人間関係で、他の人間のトラブルに巻き込まれて疲弊している話ばかりだった。明るく気さくな性格だからこそ人間関係の中心に居ることが多い彼女に人は救いを求めるようだ。私に出来るのは、仲のよい飲み友達として千波に共感し、最後は一緒に明るく笑い飛ばしてやるぐらいだった。少しでも気が紛れてくれればと思う。

料理はチーズフォンデュを選んだが、30分ワイン飲み放題では、店に幾つもワイン樽があったので、二人で継ぎに行き、その場所で次々と飲んでしまった。

「森山さん、このワイン、とってもフルーティーやよ。」

「あ、ホントだ。私の飲んでたそっちのワインも、軽くて飲みやすいよ。くわっちもどう?」

「おお、こりゃ確かに円やかやな。こっちのやつはどうかなぁ?」

「んー、ちょっと渋めで重たいね。」

「こんなに次々とワインを二人で飲めるって、何だか楽しいね。」

「私もだよ。」

そのまま普通のワインに飽きてくると、シャンパンも飲み放題だったので、アフタークリスマスと言うことで、ボトルを開け、シャンパンで乾杯した。

「森山さん、ほぼクリスマスってことで、もう一回乾杯しよっか。シャンパンだし、雰囲気出るよ(笑)」

「クリスマスって、やっぱシャンパンだよね。かんぱーい!」

「かんぱい!ところで、くわっちサンタさんからプレゼントが有るんだ。」

「いつも、貰ってばかりで悪いから、私からもだよ。」

そう言ってサプライズお菓子を渡したら、千波からもハンカチを貰った。すごく嬉しそうに受け取ることにしたし、実際に嬉しかった。

プレゼントを渡し合い、シャンパンで乾杯する。会社の同期と言う友人関係である私達がやっていいのは、ここまでなのだろう。

千波には言わなかった事がある。今日は私の誕生日だ。図ったわけではない。しかし結婚後、妻以外の女性と二人で誕生日に食事したのは、今回がはじめてだし、これからも無いのだろう。おまけにプレゼントまで貰ってしまった。


千波がお手洗いを済ませている間に会計を済ませたら、またもや千波はすまなそうにしていた。対等にならないのが嫌なのだろうか。しかしその隙に会計を済ませるのも男のスマートさだろう。

千波は「いつもお洒落なお店ばっかり、自分で選んでくれるけど、たまには私に投げてくれて良いんだよ」とも言っていた。何だかやりたそうにしてるのだから、次は任せようかな。


店を出たら雨だった。傘を鞄から出そうと、千波がまごついてる様だったので、私は折り畳み傘をさっと開き、千波を入れる事にした。千波が傘の真ん中に来るぐらいに、私は左肩が入るかぐらいに歩き出した。

千波は、

「くわっち、濡れちゃうよ?」と何度か言った。

「それなら、もっとこっちに来れば良いよ。」

私は思いきって彼女の肩に手を回し、私に寄せた。千波は何も言わず、少し遠慮がちに私へ寄せたまま歩くあたり、悪い気はしてないのか。プレゼント渡し合いしてから、何だか良い雰囲気だ。

そのまま近くのバーに入った。ここは事前に何度かいって調べておいた、ムーディーなバーだ。

そこでも色々話したが、5年ほど前に付き合っていた同期の話が中心。どうやら完全に吹っ切れた訳ではなさそうだか、あっちが浮気でもしたのが耐えられなかったのだろう。また付き合う気は無いみたいだ。

他の男の話も聞いたが、束縛系の女々しいやつだったと。そりゃあ誰でも嫌だわな。つまりさばさばしてて必要以上に絡まず、けど気遣いの出来る、そして男気のある男がタイプみたいだ。そんな千波の恋愛話を聞いていたら、終電が近づいたので、帰ることにした。


バーから駅へも、一つ傘に、千波の肩を抱き寄せ歩くことにした。千波が、

「今日はありがとう、元気出たよ。けど今日は金曜じゃないからこの後も居られないね、今度は新年会やろう。」と。上手くアフターをかわすのが、さすがと思ってしまう。私は、

「俺の方こそありがとう、いつも元気にさせて貰ってるよ、前の職場の近くならもっとお店詳しいからそっちにしようよ」

「そこなら、近いし行こうかな」


そうして千波の地下鉄の降り口の前に来た。ここで握手して別れるのが定番で、千波と向かい合った。

私は酒の勢い、今日の雰囲気、そして込み上げる別れの寂しさを感じていた。

自然、彼女を抱き締めた。

しかし人目もあるし、引き離しはしないが、彼女は何となく戸惑いつつ迷惑そうな感じがした、そして直ぐに離れた。そして、どちらともなく、今日はありがとう、今度は新年会しようと行って、さよならしたのだった。


ちょっと最後は調子に乗りすぎた、と思っている。千波は大切な女友達だ。しかし一方で変に意識し始めている自分を感じている。千波を一人の女性として好きな気持ちの存在。否定出来ない。しかし不思議とセックスしたいとは思わなかった。千波を抱きしめ、キスしたとしてそれはとても幸せな事だと思う、しかし、その先の事を想像しても、興奮しない。千波は美人な部類だ。しかし、性欲を感じないし、彼女で性欲を満たしたいとは全く思わない。何故だろう、高嶺の華だと思っているから?大切にしたいのか?でもそうなら、もっと節度を持つべきだ、とも思う。だから自分でも千波への気持ちは測りかねているのかも知れない。

何にせよ落ち着かねば。これ以上踏み込んだとして、上手く行っても行かなくても、千波との今の関係が壊れてしまうのが怖い。何より千波の気持ちが分からないのも事実だ。

本当に次、会って貰えるのかは、千波次第なのだろう、そう思った。

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