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双子ソムリエ乱戦  ―白濁液の正体は―



「え、白い液体が出てきたって?」

「ぼくも見たよ。あの子のから白いのが出てくるところ」

「ここ学校なのに、いいのかな? でも、なんなんだろうね?」

「舐めて確かめて見ればいいんじゃないか?」

「変態じゃん。怒られるって」

「もしもマズかったらどうするんだよ!」

「毒だったりしない? だれか殺そうとしてるんじゃ……」

「あーもう。大丈夫だって。もっとあいつを信じてやれよ。それなら俺が――」

 そう言った少年は――




――――――――――――




 トイレから出てきたところだった。

「オイ! マコてめえ!」

 グイっ――問答無用で胸ぐらを掴まれる。

「うわっ! ナオ! いったい――」

「とぼけんじゃねえ! クラスの子に聞いたぞ。おまえ、よくも……」

 鋭くつり上がった目尻。殴られそうだった。

「待て、……俺だ俺!」

「ん? 俺って、もしかして、正志か?」

 彼らは双子だった。そっくり。瓜二つの。

「マコは一人称が『僕』だもんな。そうか、正志の方だったか。――おまえら紛らわしいんだよ!」

「そう言われてもどうしようもねえだろ。むしろ一番被害を被っているのは、俺だ」

「髪型とか変えて見分けられるようにしろよ!」

「行き付けの床屋のおじちゃんが面白がってあいつと同じように切りやがるんだよ。てか、この無作為ヘアなかなか気に入ってるし。変える気ねえけど」

「んことどうでもいいんだよ!」

「いや、ナオが聞いたんだろ……?」

「それより正志、おまえも手伝え!」

「は? なにを……」

「兄の方――真斗、マコを探すんだよ!」

 ほら行くぞ、と怒りながらに要求した。

 はあ、と溜息をついた。

 ――いったい、あいつ何をしたんだよ……。




 3年3組教室。

 席に座って教科書などを取り出していた。

「いたぞ。ナオ」

「オイ! マコォてめぇ! こらぁ」

 発見報告に続いて、まるで闘牛のように突っ込んでいく。

「ん? よう、ナ――」

 グイっ――問答無用で胸ぐらを掴んだ。

「うおっ! ナオ? なにが――」

「とぼけんじゃねえ! クラスの子に聞いたんだ。おまえ、よくも……」

 鋭くつり上がった目尻。殴りそうだった。

「待て、……俺だ俺!」

「は? 俺って、まさか、正志か?」

「まさかもなにも……俺しかいないだろ……」

「ちょっ……ちょっとまて。いや、待つな。ちょっと来い!」

 そのまま手を取って連れて行く。

「は? なんだ、うおおおおおおぉぉぉ」引きずられてゆく。

「おい、てめえ、廊下にいる正志! 逃げんな。待ちやがれぇ!」

 もう一人の双子が逃げていた。

 追い駆ける。

 腕を掴まれ引きずられてゆく双子が、呟く。

「はあ。いったい、あいつ何したんだよ……」




 廊下を双子が疾走する。

「おい、待てよ」跳び付く。

「うわっ!」捕まる。

 双子を双子がラグビーのようなタックルで止めた。2人して廊下を転がる。

 友達がその場へ。

「よっしゃ、よくやってくれた。正志。これで――って、おい」

「「 ん? なんだよナオ 」」

 言葉が重なった。

「おまえら、どっちが真斗でどっちが正志なんだ」

「……いや、なにいってんだよ」

「……いや、なにいってんだよ」

 双子は顔を見合わせる。

「「 俺が、正志だけど 」」

「………」



捕まえた廊下で双子に問いかけた。

「おい。どっちがマコだ?」

 圧。――その言葉には圧力があった。

 双子は互いを指差した。

「「 こいつ 」」

「シンクロしてんじゃねえよ! オレをからかってるんじゃねえだろうな?!」

 ツッコミした。

「なに言ってんだ。俺は真剣だぞ。――ったく、あいつ何をやらかしたんだよ……」

「なに言ってんだ。俺のセリフだぞ。――ったく、ナオが混乱すんだろうが……」

「くっそが……マコの奴め、うまく隠れやがって……」

 見比べる。……わからん。

 たしかに所々違いはあるのだろうが、どこかが違っていても、その違いがある方が真斗なのか正志なのかわからないので、話にならない。

「てか正志、どっちかわかんねえけど正志の方。マコがお前のマネしてんだぞ。もっと怒れよ、ムカつけよ。殴りかかったりしろよ」

「いや、俺も憤りはあるんだが、あまりにもナオの怒り方がヤバかったから、怒るに怒れなかったんだよ」

「それ、俺のセリフだけどな。ていうか、真斗のやつ、何やったんだよナオ」

「真斗のやつオレが教室からトイレに行っている間に――い、いいや、それは、とにかくどうでもいいんだよ」不自然にごまかした。「真斗を見つけ出せば解決するんだ。――……てか、こいつら……どうやって見分ければいいんだ?」

 そっくりな双子を見て、悩む。

「母さんなら見分けられんだけどな」

「そうだな。百発九十九中くらいで」

「親でも間違えんのかよ。いや、百回やって99回あてられるのはすごいか……?」

 驚愕する。

「まあ、外すのは後ろ向いていたりして、姿が見えていない時だけどな」

「料理や洗濯で手が話せないとき、たまに。――それでも当ててくるんだけどな、母さん」

「それはおばさんがスゲえよ。なにあのヒト、気配とかで見分けてんの?」

 てか姿みえないならオレんちだってオレと兄貴を間違えられるわ、と一般論。

「ちなみに父さんは間違えるんだ」

「ああ、百発八十中くらいで外す」

「それ、逆にわかっていて、からかっているパターンだろ。親父さんのは!」

 なんでハズしている確率の方が高いんだよ、と一般意見。

「そうじゃなくてオレが言いたいのは、真斗と正志――2人を見分けるのに、今すぐ使える確実なものを教えてくれ」

「あ、そうだ。あいつケツにホクロがあるぞ。それで見分ければいいんじゃねえか?」

「嘘ついてんじゃねえよ。ケツにホクロがあんのは俺だろ」

「は? ケツにホクロがあるのはお前なら、お前が真斗じゃんか」

「違う。ケツにホクロがあるのは俺――正志である俺だ。あいつのケツにホクロがあるという情報が嘘だ」

「おい、ナオが混乱するだろ。ケツにホクロがあるのが――」

「苗倉双子、お前ら黙れ! どっちにしろ、んなとこ確認できるかっ!」

 キレて悪態をつき、そして教室の時計を見上げる。

「昼休み残り時間あと15分か……それまでにケリつけねえと」






 5分後。

「とりあえず苗倉兄弟。コレを持て。オレから見えるように」

「ん? なんだこの紙」

「何か書いてあるな」

 その紙にはそれぞれ『A』と『B』が書かれていた。

 双子はそれぞれ律義に友達に見えやすいように頭のうえに掲げて持つ。

「それぞれをとりあえず区別するために作った。――お前は『苗倉A』で、お前は『苗倉B』だ」

「えー、なんかこの表記、ゲームのザコキャラみたいで嫌なんだけど……」

「文句を言うな苗倉B」

「てか、こんなの作るのに5分も使ったのか、時間の無駄じゃないか?」

「こうしなきゃ見分ける方法がねえお前らが悪いんだよ苗倉A」

 とにかくだ、と前置いて話す。

「どっちがマコなのか、早くハッキリさせて聞き出さなきゃなんねえんだよ。――んで、どっちが正志なんだ?」

「「 俺 」」

「同時に言うんじゃねえよ。苗倉Aと苗倉B」

 感情のままに怒鳴る。




「クイズだ」

「おい、いきなり何か始まったぞ」

「こんなんで真斗が捕まるのかねえ……」

 双子があきれていた。そんなことはお構いなしに友人は出題。

「俺たちのクラス、3年2組の担任はだれだ?」

「えっと……」

悩むそぶりのA。

「たしか……村上先生じゃなかったか?」

 腕を擦りながらなんとなくで答えたB。

「Bぃ! てめえがマコかぁ!」

 掴みかかろうとする。

「うわっ! まてまてナオ。俺は正志だ」

「うそつけ! クイズに答えられただろうが」

「つか、隣のクラス担任くらい、なんとなく憶えているだろ! 真斗はAで、答えられないフリをしているだけだ!」正論だった。

「む。そう、か、……そういうこともあるか。答えられないフリをしているか……」

「ちょっとナオ、頭に血のぼり過ぎてんだろ……冷静になれよ」

「てことは、答えられなかったフリをした『A』がマコで――」そして『A』を見る。

「いやいや、まてまてナオ。隣のクラスの担任なんて、あんまり憶えてないだろ。ナオだって、きっとナオ自身が隣のクラス担任を憶えていなかったからそのクイズを出したんだろ?」

「む」不満だが「まあ」納得する。

「そう。俺はふつうに思い出せなかったんだよ。――まあでも、俺だって冷静によく思い出せば村上先生だったって思い出せるけどな。昨年、トランプ没収した先生だろ。2年連続で真斗とナオのクラスの担任だから、さすがに憶えるわ」

「なるほど。村上先生、正志とも無関係でもないか……」

「ちょっと冷静になれよ、ナオ」

「そうだ。ちゃんと見分けられるようなクイズ出せよ。ナオ」

「うるせえ、おまえマコにするぞ」

「「 どんな脅しだよ!? 」」

 同時につっこんだ。

 双子の片方が提案した。

「てか、それなら、俺しか正解できないクイズを出すべきじゃないか?」

「ん? どういうことだ苗倉A」

「そうだな」Bが引き継いで話す。「真斗が答えられるクイズを出しても、こいつ、答えないかもしれないだろ。だから、俺が答えられて、真斗は答えられない、そういうクイズを出すべきだ」

「なるほど……よし!」

 双子の友人は質問する。

「正志、おまえの好きな食べ物は?」

「「 ハンバーグ 」」

「嫌いな食べ物は?」

「「 うめぼし 」」

「得意な教科は?」

「「 国語 」」

「苦手な教科は?」

「「 特にはない 」」

「好きなゲームは?」

「「 んー、ポーモンかな 」」

「好きなスポーツ」

「「 特にないけど、サッカーとか? 」」

「ファーストキスはいつだ?」

「「 そんなん言えるかっ! てか、したことねえよっ 」」

 ……。

「らちがあかねえ!」憤慨。「てか、てめえらシンクロしてんじゃねえよ。やる気あんのか?」

「いや、やる気とか言われてもなぁ……」

「俺らとしても、はやく解決してほしいけど、何を言ったところで、だしなぁ……」

「それにさっきの質問、だいたい真斗のやつと答えかぶってんだよ」

「そうだ、ちゃんと『俺』しか答えられない問いをしろよ」

 そっくり双子の波乗会話に頭が痛くなってくる。

「うるせえ! うぜえ! お前らがややこしいのが悪いんだろうがっ」


 あと5分。

「なあナオ。落ち着けよ。冷静に考えれば、きっとナオならば犯人がわかるはずだ」

 苗倉Aが励ます。

「そうだ。ナオ、なんだかんだ頭いいからな。トランプのときもケーキのときも、わかったし、落ち着いて考えればこいつが真斗だってわかってくれるはずだ」

 苗倉Bも応援する。

「あー、くそ。こいつらは……。――って、ん?」

 引っかかりを覚えた。




 思いついた。

「おい、苗倉双子。最後の質問だ」

「ん? わかったのか」

「ふう。やっと解放されるのか」

 友人は2人をよく観察しながら、尋ねる。

「今日の昼休みの行動を聞かせろ」



「まず苗倉Aから」

「ああ、俺は雨が降って校庭で遊べねえから、図書室に行っていた。マンガとかパラパラといくつか見てた。それからトイレに寄って教室に戻ろうとしてた」

「なるほど。んじゃ、苗倉B」

「俺は校舎をぶらぶらしてた。真斗やナオと遊ぼうと思ってクラスにも行ったけど2人ともいなかったから、他のヤツらといくらか話して時間を潰して、自分の教室に戻ったんだ」

「……なるほど」

 分かった。










 逃げないように腕を掴んだ。

「お前だったのか、苗倉B」

「ちょっ、な、はぁあ!? ――いや、俺、正志なんだけど」

 とても驚く苗倉B。

「正志の教室――3年3組の教室にいたのもお前だろ? オレが掴んだ腕を擦っていたからな」

「ああ、俺なんだから、自分の教室の自分の席にいるだろ、ふつうは。――まったく強く掴みやがて……握力、強すぎるぞナオ。今もちょっと痛いし」文句をつける。

 この『正志』の腕を掴んで引っ張って、逃げた『正志』を追い駆けた。

 逃げた『正志』は、腕を引っ張ったということを知らないのだ。

 痛がるような素振りはできない。演技すらできない。知らないのだから。

 つまり――

「逆に、あのとき逃げ出したのが苗倉A、お前だよな?」

 拘束していないもう一人の双子に目線を飛ばす。

「うん」

「つーことは、最初にオレが掴みかかったのが苗倉Aということだ」

「うん。そうだね。トイレの前で会ったのが僕であってるよ」

「あっ、ナオ。あいつ『僕』って言ったぞ。こいつ認めたぞ。やっぱアイツが真斗じゃん。苗倉Aが真斗だぞ。――俺、正志」

 捕らえている苗倉Bが必死に言う。

「うるせえ。そんなのもうわかってんだよ。トランプやケーキのことをオレと話せるのは正志だからな。――てか、もう問題はそこじゃねーんだよ!」

「は?」

 わけがわからないようだ。

「おい、マコ。まず昼休みの行動に嘘はねーんだよな?」

「うん。僕は教室にはいなかったよ。――それなのにナオから『身に覚えもないのにすでに僕がやったってことにされていた』からね。いったん、時間をおいて落ち着いてもらうために正志のフリをしたんだ」

「……やっぱりな」

「逃げたのも、時間を稼いでナオに落ち着いてもらうためだったんだ」

「それは……わかった。けど、お前も話をややこしくするなよ」

「ごめん。でも、ああでもしないと、ナオに殴られそうだったし……」

「…………そりゃ悪かったな。クラスで『お前』だって聞いたから、そのまま信じ込んでたんだよ。けどお前が『犯人がわかるはず』って言ったので、ひらめいた」

 ――『犯人』は別なのではないか、と。



 腕を掴まれ拘束されている方の双子が物申す。

「まてまて。俺だってなにかやった覚えはないぞ。俺がなにしたっていうんだよ?」

「僕の推測だけど、正志は僕らのクラス――3年2組教室でなにかしたんだろ?」

「お前らのクラスで? 3年2組でか?」

「ナオが席を外していた時に『怒るようなこと』があったらしいし。正志は昼休みに教室に来ていたんだろ? 僕は図書室にいたし」

「は? いやいや、こんな怒られるようなことなんてしてねえよ? どちらかというと、疑いを晴らして感謝されるくらいのことしか――」

「なにしたんだよ、正志」

 兄が弟に促した。


 腕を掴まれて拘束される弟が話す。

「ナオの、水筒がなんか、あやしいって話になってたんだよ。3年2組のヤツらのあいだで」

「すいとう?」

「ああ、なんか白い液体が出るところを見た、とかな。毒なんじゃねえか、とか、誰かを殺そうとしてるんじゃないか、とか、言われてたんだ」

「なるほど」

「それで俺が、ナオはそんな奴じゃねえだろと、そう思って、『それなら俺が飲んでみてやるよ』って毒見したんだ」

「毒見って、正志おまえ……」

「だから、ちょっとだけ注いで、ほんの少しだけ飲んでみたんだよ。毒なわけないだろ、って。怒られるほど飲んでないぞ? フタのコップに1ミリくらいしか入れてない」

「…………」

「ちなみにスポーツドリンクだったんだけどな。あ、ナオ。水筒にスポーツドリンクを入れるのは、水筒の中の金属が溶けるからやめたほうがいいってテレビで――って、イテテテ! 掴むのが強ええ。握撃がいてえ!」

 真っ赤な顔をして、ただただ力を込めていた。


 犯人を見つけたので、本題に入る。

「……それで正志、どっちから飲んだんだ?」

「え、どっちからって……?」

「……だ、だから、取っ手を右側にして飲んだのか、左側にして飲んだのか、そういうことだよ。どっちで飲んだんだ?」

「……んー。わすれた」

「おい! 忘れたって……」

「別にどっちでもいいじゃん。大したことじゃねえだろ?」

「……は?」

「なんでそんなことで必死になってんだよ、女々しいな。なんだ間接キスになるとかそんなこと気にしてたのか? たいした問題じゃないだろ?」

「…………」

 腕に込められた力が緩んでいく。

「ん? どうしたナオ」

「…………もう、いい」

 顔を伏せてそのままどこかに行ってしまった。


「え、え?」

「…………はあ」

 何もわかっていない弟に、兄の方は溜息が出た。


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