チキンレース
もうすっかり、夜は明けた。
明るくはなったが、別の問題が発生した。
帰り道、霧が出てきたのだ。
前が全然見えない程の、濃い霧である。
運転している千本松は、フォグランプを点けようとした。
だが故障しているらしく、フォグランプはつかない。
「最大濃霧警報発令だな・・・」
凄い霧に、千本松はボヤいた。
後ろにいる池田の車を、バックミラーで見た。
池田はフォグランプどころか、ライトさえも点けていない。
まあ、それも当然だ。
バンパーが大破して、ライトも壊れてしまったからだ。
千本松が車を停車すると、池田も並んで停車させた。
「お前、ライトなしで大丈夫か?また人を轢く事になるぜ」
千本松が池田に警告する。
「大きなお世話だ。一人轢こうが二人轢こうが、同じ事よ」
「これから肝試ししねえか?ライトなしで、ぶっ飛ばすんだ。先にスピード落としたり、ブレーキ踏んだ方が負けだ」
千本松がチキンレースの提案を、仕掛けてきた。
「ほう、俺にそんな挑戦仕向けていいのか?」
池田は運転技術には、自信があった。
「負けた方が勝った方に、十万払うってのはどう?」
池田の車に乗っている、山田が言った。
「よし、それでいこう。負けたら、十万払ってやるよ」
千本松が賛成した。
千本松は同乗している小木智恵美、三浦、西原真衣の顔を見た。
「聞いたろ?負けたら十万払うんだ。いいな?」
「あたしはあんたを信じてるよ・・・」
西原真衣は千本松の腕を、全面的に信用している。
「そんな事して・・・、負けたらどうすんの?」
智恵美は賛成気味ではない。
「やってみなきゃ、分からねえよ」
三浦は乗り気だ。
「よーし、1、2、3でスタートするぞ。準備はいいか?」
「O、Kだ」
「じやあ、行くぞ。1、2、3!」
池田が言い終わると同時に、2台の車は猛ダッシュした。
千本松の方が、若干速い。
このままでは負けてしまう。
池田はアクセルを踏み込み、猛スピードで千本松を猛追した。
あと、もう少しで追い抜く。
「幸雄!負けたら承知しないよ!」
西原真衣が千本松に、活を入れた。
千本松は乗っている真衣、三浦、智恵美のためにも負ける分けにはいかない。
曲がり角でもスピードを落とさず、池田組を引き離した。
「ざまあみろ!十万払うのはお前らの方だ!」
千本松はサイドミラーで池田の車を見ながら、歓声を出した。
前方を見直すと、霧でハッキリと識別出来ないが正面には子供が六人ぐらい立っていたのだ。
「何なんだよ?!」
ブレーキを踏んでも、間に合わない。
千本松はハンドルを切り、子供らしき人影をかわした。
乗っている真衣、三浦、智恵美は悲鳴を上げた。
千本松の車はスピンして、3回転半回ると止まった。
全員が、放心状態になってしまった。
これで十万払うのは、確実になってしまったからだ。
「このクソガキが~!」
千本松は怒って、運転席から出た。
霧の中、ボンヤリと子供の影が見える。
だが子供だと思ったのは、6体のお地蔵さんだった。
この地蔵を、千本松は子供と勘違いしたのだ。
遅れてきた池田の車が、追い抜いた。
「残念だったな!約束通り、払ってもらうぜ!」
池田は勝利に酔いしれている。
千本松組の誰も、口を開こうとしない。
「幸雄!あんたのせいよ!」
真衣が怒る。
「すまん・・・」
結局、千本松、真衣、三浦、智恵美の四人が金を出しあって、十万を揃えた。
「毎度あり~」
池田は代表者の千本松から、十万を受け取った。