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舞鶴怪談  作者: かわむら
8/20

死体処理

ハネられた通行人は、ボンネットの上からフロントガラスに体当たりし、ルーフを転がり落ちた。

通行人は今度は、後ろを走っていた千本松の車に()かれた。

「やべえ!」

千本松は叫んで、急ブレーキを踏んだ。

前方を走る悦子も、急停車した。

ぐっすり眠りこけている三浦と智恵美を除き、六人は車外に出てきた。

「何て事してくれたのよ~」

真衣がグチる。

「仕方ねえだろ。運転している三浦が寝ちまったからだよ」

池田が状況説明した。

「そんな事より、生きてるの?!」

真知子が言う。

全員、轢かれた通行人を見た。

血だらけになっている。

山田がしゃがんで、通行人を調べた。

息をしてないし、脈も止まっている。

「死んでるよ・・・」

服はズタズタになっている。

しゃがんでいる山田は、通行人の背中に入れ墨が彫られてあるのを発見した。

山田は、そいつのシャツをめくった。

背中には一面、不動明王が彫られてある。

「こいつ、ヤクザだぜ・・・」

山田は立ち上がり、ヤクザの死体から離れた。

「ヤクザだあ?ヤクザが怖いのかよ?」

千本松は落ち着き切っている。

「とにかくどうすればいいの?救急車呼ぶ?」

うろたえる真知子。 

「そんな事をすればどうなるのか、分かっとるのか?」

池田がドスを効かせた声で言った。

「わしらの輝かしい未来は、暗黒の闇に消える。全員、アルコール飲んでるんだ」

池田を無視して、真衣はアイフォンを取り出した。

「何のつもりだ?」

山田が真衣に聞く。

「119番にかけるに決まってるでしょ。」

千本松は真衣からアイフォンを取り上げると、日本海に向かって投げ捨てた。

「何すんのよ?!200曲もダウンロードしたのに!」

「刑務所なんか、行くつもりはねえ」

「じゃあ、これから交番まで行く」

真衣は歩いて、戻ろうとした。

全員が、真衣を追いかけた。

「やめろよ!俺達だけで黙っておけば、分かりっこない!」

山田が説得する。

「何それ?『ラストサマー』の真似?」

「『ラストサマー』が真似をしたんだ。警察には行かせねえ」

「バレないとでも、思ってるの・・・?」

真衣は全員を見た。

こいつらは轢き逃げを、隠し通すつもりだ。

「真衣、お前刑務所入りたいのか?」

千本松が聞いた。

「そんなの、入りたくないに決まってるでしょ!」

急に真衣は将来を悲観し、泣き出した。

「心配すんなよ。死体は海に捨てればいいんだ」

山田が真衣を、慰める。

どうやら真衣も、死体隠蔽に賛成したらしい。

「いいか、この事は墓場に行くまでの秘密だ、分かったな?!」

山田が再確認した。

車の中では、未だに智恵美と三浦が寝ている。

「こうなったのも、三浦のせいだ。叩き起こせ!」

千本松が命令した。

池田と山田が、智恵美と三浦を乱暴に起こした。

「おい、起きろ!いつまで寝てるんだ!」

三浦の足はヨロケているが、何とか立ち上がった。

「お前のせいで、人を殺してしまったんだ。どうしてくれるんだ、これ?!」

千本松が怒ったが、またすぐに三浦は地面の上で寝てしまった。

「こんな酩酊(めいてい)状態の奴なんか、ほっとけよ!今は死体を海に沈めるのが先決だ!」

山田が言うと、皆が三浦に構うのを止めた。

酔いが覚めた小木智恵美は、状況がすぐには分からなかったが、

ようやく人を轢いたのだという、認識を持った。

確かに道路には、轢かれた血だらけの死体が転がっている。

「何なのよ~、これ?!誰が轢いたの?!」

「三浦が悪いんだ」

山田が智恵美に、状況を説明してやった。

智恵美は地面にしゃがみ込み、放心常態になった。

「何も心配いらねえよ。死体を海に沈めりゃ、後は魚が食って跡形もなくなる。智恵美はその事を死ぬまで黙ってればいいんだ」

池田が智恵美を慰め、勇気づけた。

「じゃあ、死体をトランクに詰めろ。捨てに行くぞ」

千本松はいつの間にかリーダーシップを取り、皆を先導した。


       ― ― ― ― ― ― ―


それから、10分後。

2台の車はガードレールのない場所まで、やってきた。

ここから死体を海に投げ捨て、証拠を隠滅するのだ。

千本松が、トランクを開けた。

「お前、足を持てよ」

池田が足を持ち、千本松が死体の上半身を持って、一気に海へ投げ捨てた。

まるで人形が落ちていくかのように、死体は日本海に消えてしまった。

「これで一件落着だな」

池田が千本松を見て言う。

「ああ、これで全て終わったぜ・・・」

池田は後方にいる全員に向かって言った。

「いいか、この事は死ぬまで誰にもしゃべるなよ!つまらない会話から、バレるんだからな!」

千本松は眠そうに立っている三浦を殴った。

殴られた三浦は、地面に倒れた。

「こうなったのも、全部お前のせいだ!」

倒れた三浦は、さらに千本松に蹴られる。

「よせ、もう十分だ!」

山田が千本松を羽交い締めにして、暴力を止めさせた。

三浦は口から、血を垂れ流している。

「さあ、終わったんだ!しけたツラすんのはよそうぜ!これから飲み直しだ!俺がおごるぞ!」

山田が陽気に言うと、皆の表情が少しは明るくなった。


    ― ― ― ― ― ― ― ―


それから30分後。

近くの自販機でビールを買った仲間は、それぞれが旨そうに飲んでいる。

日本海が、見える場所に停車して、さっきまでの悪夢を忘れようとしているのだ。

千本松は誰とも喋らず、一人でビールを飲んでいる智恵美に詰め寄った。

「終わった事をクヨクヨ考えるのは、よそうぜ」

「あたしはあんたと違って、繊細なの」

「繊細と言うよりかは、神経質って所だな」

千本松はいきなり智恵美に、キスをした。

智恵美は千本松に逆らわず、キスを受けとめた。

唇を離した智恵美の顔に、暗さは読み取れない。

「少しは明るくなったようだな」

その頃、池田は激しく損傷したバンパーを、じっと見ていた。

フロントガラスには、蜘蛛の糸のようなヒビが入っているのだ。

買ってまだ一年しか経ってないのに、こんな無惨な姿になろうとは。

この車を修理に出せば、アシがつく可能性がある。

「おい、三浦。お前の家は自動車修理工場だったよな。確か、三浦オートって名前だった」

「そうだけどよ」

「修理しておいてくれるだろうな」

「タダで修理しといてやるよ」

「当然だ。お前のせいで全員が危険な目にあったんだからな」

池田は三浦の肩を、ポンと叩いた。



     ― ― ― ― ― ― ― ― ―



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