死体処理
ハネられた通行人は、ボンネットの上からフロントガラスに体当たりし、ルーフを転がり落ちた。
通行人は今度は、後ろを走っていた千本松の車に轢かれた。
「やべえ!」
千本松は叫んで、急ブレーキを踏んだ。
前方を走る悦子も、急停車した。
ぐっすり眠りこけている三浦と智恵美を除き、六人は車外に出てきた。
「何て事してくれたのよ~」
真衣がグチる。
「仕方ねえだろ。運転している三浦が寝ちまったからだよ」
池田が状況説明した。
「そんな事より、生きてるの?!」
真知子が言う。
全員、轢かれた通行人を見た。
血だらけになっている。
山田がしゃがんで、通行人を調べた。
息をしてないし、脈も止まっている。
「死んでるよ・・・」
服はズタズタになっている。
しゃがんでいる山田は、通行人の背中に入れ墨が彫られてあるのを発見した。
山田は、そいつのシャツをめくった。
背中には一面、不動明王が彫られてある。
「こいつ、ヤクザだぜ・・・」
山田は立ち上がり、ヤクザの死体から離れた。
「ヤクザだあ?ヤクザが怖いのかよ?」
千本松は落ち着き切っている。
「とにかくどうすればいいの?救急車呼ぶ?」
うろたえる真知子。
「そんな事をすればどうなるのか、分かっとるのか?」
池田がドスを効かせた声で言った。
「わしらの輝かしい未来は、暗黒の闇に消える。全員、アルコール飲んでるんだ」
池田を無視して、真衣はアイフォンを取り出した。
「何のつもりだ?」
山田が真衣に聞く。
「119番にかけるに決まってるでしょ。」
千本松は真衣からアイフォンを取り上げると、日本海に向かって投げ捨てた。
「何すんのよ?!200曲もダウンロードしたのに!」
「刑務所なんか、行くつもりはねえ」
「じゃあ、これから交番まで行く」
真衣は歩いて、戻ろうとした。
全員が、真衣を追いかけた。
「やめろよ!俺達だけで黙っておけば、分かりっこない!」
山田が説得する。
「何それ?『ラストサマー』の真似?」
「『ラストサマー』が真似をしたんだ。警察には行かせねえ」
「バレないとでも、思ってるの・・・?」
真衣は全員を見た。
こいつらは轢き逃げを、隠し通すつもりだ。
「真衣、お前刑務所入りたいのか?」
千本松が聞いた。
「そんなの、入りたくないに決まってるでしょ!」
急に真衣は将来を悲観し、泣き出した。
「心配すんなよ。死体は海に捨てればいいんだ」
山田が真衣を、慰める。
どうやら真衣も、死体隠蔽に賛成したらしい。
「いいか、この事は墓場に行くまでの秘密だ、分かったな?!」
山田が再確認した。
車の中では、未だに智恵美と三浦が寝ている。
「こうなったのも、三浦のせいだ。叩き起こせ!」
千本松が命令した。
池田と山田が、智恵美と三浦を乱暴に起こした。
「おい、起きろ!いつまで寝てるんだ!」
三浦の足はヨロケているが、何とか立ち上がった。
「お前のせいで、人を殺してしまったんだ。どうしてくれるんだ、これ?!」
千本松が怒ったが、またすぐに三浦は地面の上で寝てしまった。
「こんな酩酊状態の奴なんか、ほっとけよ!今は死体を海に沈めるのが先決だ!」
山田が言うと、皆が三浦に構うのを止めた。
酔いが覚めた小木智恵美は、状況がすぐには分からなかったが、
ようやく人を轢いたのだという、認識を持った。
確かに道路には、轢かれた血だらけの死体が転がっている。
「何なのよ~、これ?!誰が轢いたの?!」
「三浦が悪いんだ」
山田が智恵美に、状況を説明してやった。
智恵美は地面にしゃがみ込み、放心常態になった。
「何も心配いらねえよ。死体を海に沈めりゃ、後は魚が食って跡形もなくなる。智恵美はその事を死ぬまで黙ってればいいんだ」
池田が智恵美を慰め、勇気づけた。
「じゃあ、死体をトランクに詰めろ。捨てに行くぞ」
千本松はいつの間にかリーダーシップを取り、皆を先導した。
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それから、10分後。
2台の車はガードレールのない場所まで、やってきた。
ここから死体を海に投げ捨て、証拠を隠滅するのだ。
千本松が、トランクを開けた。
「お前、足を持てよ」
池田が足を持ち、千本松が死体の上半身を持って、一気に海へ投げ捨てた。
まるで人形が落ちていくかのように、死体は日本海に消えてしまった。
「これで一件落着だな」
池田が千本松を見て言う。
「ああ、これで全て終わったぜ・・・」
池田は後方にいる全員に向かって言った。
「いいか、この事は死ぬまで誰にもしゃべるなよ!つまらない会話から、バレるんだからな!」
千本松は眠そうに立っている三浦を殴った。
殴られた三浦は、地面に倒れた。
「こうなったのも、全部お前のせいだ!」
倒れた三浦は、さらに千本松に蹴られる。
「よせ、もう十分だ!」
山田が千本松を羽交い締めにして、暴力を止めさせた。
三浦は口から、血を垂れ流している。
「さあ、終わったんだ!しけたツラすんのはよそうぜ!これから飲み直しだ!俺がおごるぞ!」
山田が陽気に言うと、皆の表情が少しは明るくなった。
― ― ― ― ― ― ― ―
それから30分後。
近くの自販機でビールを買った仲間は、それぞれが旨そうに飲んでいる。
日本海が、見える場所に停車して、さっきまでの悪夢を忘れようとしているのだ。
千本松は誰とも喋らず、一人でビールを飲んでいる智恵美に詰め寄った。
「終わった事をクヨクヨ考えるのは、よそうぜ」
「あたしはあんたと違って、繊細なの」
「繊細と言うよりかは、神経質って所だな」
千本松はいきなり智恵美に、キスをした。
智恵美は千本松に逆らわず、キスを受けとめた。
唇を離した智恵美の顔に、暗さは読み取れない。
「少しは明るくなったようだな」
その頃、池田は激しく損傷したバンパーを、じっと見ていた。
フロントガラスには、蜘蛛の糸のようなヒビが入っているのだ。
買ってまだ一年しか経ってないのに、こんな無惨な姿になろうとは。
この車を修理に出せば、アシがつく可能性がある。
「おい、三浦。お前の家は自動車修理工場だったよな。確か、三浦オートって名前だった」
「そうだけどよ」
「修理しておいてくれるだろうな」
「タダで修理しといてやるよ」
「当然だ。お前のせいで全員が危険な目にあったんだからな」
池田は三浦の肩を、ポンと叩いた。
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