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舞鶴怪談  作者: かわむら
20/20

悲惨な結末

千本松が動く度、車体がガタガタと震えた。

智恵美はフロントガラスに顔面をぶつけたショックで、また気絶している。

こいつはもう、智恵美ではない。

命賭けで助け出した後で、千本松は智恵美が地蔵たちに洗脳されてしまった事に気づいた。

奴らは約束を守るフリをして、結局俺と智恵美を殺すつもりだったのだ。

とにかく、早く車から出ないと崖から真っ逆さまだ。

千本松は車体が揺れぬよう、細心の注意を払って出ようとした。

ドアに手をかけ、ゆっくりと開けようとした。

ソロリ、ソロリと出ようとする千本松の足首をつかむ奴がいた。

ギョッとする千本松は、足首をつかんでる奴を見た。

そいつは、また意識を取り戻した智恵美だった。

目は赤色、口からは牙が生え、ドラキュラそのものだ。

「千本松~、貴様を生かして帰さんぞ~」

男の声色でしゃべる智恵美の顔面を、千本松は蹴った。

それでも、放してくれない。

「地獄なら、お前一人だけで行け!」

千本松は何度も、何度も智恵美の顔を蹴った。

蹴る度に、車体が揺れる。

ついに智恵美は、つかんでいた足首を放した。

「おっ死ね!」

最後の一撃を、智恵美に食らわせた。

衝撃でドアが開き、洗脳された智恵美は崖に落ちて行った。

生きた心地のしない千本松は、崖下に落ちた智恵美の死体を見た。

うつ伏せになって、波をかぶっている。

ドラキュラ智恵美は、死んだに違いない。

今度こそ、本当に車から脱出せねば!

智恵美を勢いよく蹴飛ばしたせいで、車体がぐらつき、落ちる寸前だ。

千本松はドアから、出ようとした。

車外を見た千本松は、全身が凍りついた。

車外は、6体の地蔵が取り囲んでいたのだ。

あれだけブッ飛ばしてきたのに、追いつかれてしまうなんて。

奴らには、テレポーテーション能力でもあるのか?

その6体の地蔵は車をつかんで、落とそうとしてきた。

「やめろ!」

千本松は無我夢中で、車外に出ようともがいた。

早くしないと、奴らに車ごと崖から落とされてしまう!

生きようとする千本松の願いも空しく、車は地蔵たちの手によって崖から落とされてしまった。

車が宙を舞っている間らは、無重力状態に感じた。

わずかな一瞬の間に、千本松は死ぬ覚悟を決めた。

車が崖下の岩場に打ち付けられると、ガラガラガッシャーン!という轟音と共に、大破した。

車はひっくり返り、タイヤは4本とも抜けて海に落ちた。

衝撃で千本松はドアから、車外へ放り出された。

その際に、岩場に頭をぶつけてしまった。

激痛で、頭がクラクラする。

千本松は額から血を流し、昏睡してしまった。

しかし、眠ったのはそんなに長い時間ではない。

5~6分ぐらいである。

自分の顔にかかる波しぶきで、千本松は意識を取り戻した。 

足が痛くて、立つ事が出来ない。

千本松は這って、岩場から脱出しようとした。

車を見ると、ひっくり返ってペシャンコになっていた。

よくもこんな状態で、生きていられたものだ。

絶望状態の中から這って逃げる千本松の前に、智恵美が仁王立ちしてきた。

智恵美は、死んでいなかったのだ。

智恵美の顔は、もはや智恵美ではない。

血に餓えた野獣のようだった。 

「ガウオォォォ~!」

猛獣のように吠え、襲いかかる智恵美。

千本松は足を負傷していて、立ち上がれない。

智恵美はしゃがむと牙をむき出し、噛みつこうとしてきた。

智恵美の牙が、千本松に近づく。

このまま行くと、ドラキュラ女にのどを食いちぎられる!

千本松は隠し持っていた拳銃を出すと、智恵美の口の中に突っ込んだ。

「くたばりやがれ!」

引き金を引くと、バーン!と言う音と共に、智恵美の後頭部から銃弾が貫通して出た。

岩場に倒れる智恵美。

間一髪で助かった・・・。

安堵した千本松は、まだ智恵美が生きているのではと思い、近づいた。

岩場に血だらけで倒れている智恵美は、目を閉じている。

安らかな死に顔だ。

いや、まだ智恵美が死んだと思い込むのは早計だ。

千本松は拳銃で、智恵美の顔に狙いをつけた。

その途端、智恵美の目が開き、鋭い牙をむき出して襲ってこようとした。

この女は不死身なのか?!

千本松は智恵美の顔めがけ、弾が切れるまで撃ち続けた。

ついに智恵美の頭は吹っ飛び、首なし死体になった。

そのまま岩場から、ドボンと海に落ちる。

智恵美の死体は波にさらわれ、何処か遠くへ流されてしまった。

お化けと化した智恵美がいなくなり、千本松は安堵のため息をついた。

あんな女のために潜って、大変な苦労を払って地蔵の首を捜してきたなんて!

骨折り損のくたびれ儲け、とはこの事か。

安心している千本松の背後から、不穏な影が忍び寄ってきた。

歩けない千本松は、周りを6体の地蔵に囲まれているのが分かった。

今さら、逃げるつもりはない。

「降参だ」

千本松はカラになった拳銃を、波に捨てた。

もうどうにでもしてくれ、という顔である。

地蔵の一つが、しゃべった。

「言ったはずだ、我々を愚弄した罪は重いと」

「しゃべるお地蔵さんか。お前らをテレビ主演させたら、儲かるだろうな」

笑ってる千本松は、指先に痛みを感じた。

指先を見ると、五本の指が岩にくっついているのだ。

千本松は岩から、指を放そうとした。 

その度に、激痛が走る。

段々、指は岩と同化し始めた。

指が岩と同じ色に、変わってきているのだ。

「お前ら!何の真似だ、これは?!」

激痛で放そうにも、放せない。

「首を切った張本人の貴様には、もっとも苦しい死を与えてやろう。これより貴様は、岩と化すのだ。

決して死にはしない。

何千年も、岩となって永遠に苦しむがよい・・・」

千本松の顔は、激痛で歪んでいた。

俺は岩になって、永遠に苦しむだと!?

そんな科学を越えたバカな事が、あってたまるか!

千本松は腕が完全に、岩となってしまったのを見た。

ものすごく苦しい。

こんな苦痛のまま、俺は岩になって生きるのか?!

腕だけでなく、足までもが岩になってしまった。

「嫌だあぁぁぁ!岩になんか、なりたくない!」

ありったけの声で叫ぶ、千本松。 

嫌がる千本松の体はついに、岩に変わってしまった。

岩になっても、意識がある。

岩のまま、激痛が走っているのだ。

岩になった千本松は喋る事も、動く事も出来ず、死ぬ事も出来なかった。

ただひたすら激痛に耐え抜くのみ、なのだ。

千本松を生きたまま岩に変えてしまった地蔵たちは、波打つ岩場から、フッと消えてしまった。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


それからしばらく経った数日後。

新居浩一は孫と一緒に歩いていると、地蔵たちの首が元通りになっているのを発見した。

「おお、奇跡じゃなあ・・・」

浩一は立ち止まった。

お地蔵さんの首はもはや、永遠に離ればなれだとあきらめていたのだ。

お地蔵さんの近くまで行って、首の付け根をよく見てみた。

どこにも、接着剤で張り合わせたような痕跡は見当たらない。

首を切り落とす前の状態と、何ら変わらないのだ。

孫の忠文は、なぜお地蔵さんの首が元通りになっているのが分からなかった。

「お爺ちゃん、どうしてお地蔵さんの首が直ってるの?」

「分からん。首を取った奴が、元通りに直したのかも。それとも・・・」

「それとも、何?」

「それとも、お地蔵さんご自身が、首を取り戻したかも知れんのう」

「お爺ちゃん、冗談きついよ!」

孫に笑われてしまい、浩一もその通りだと思った。

石で出来ているお地蔵さんが、動くはずがない。

「忠文の言う通りだよ。でも今日は首が戻ってきたんだから、お祝いをしなきゃなあ・・・」

孫と手をつないで帰る道すがら、浩一の顔には笑顔が戻った。

これで舞鶴に平和が続く事が、確実になったからだ。

この6体のお地蔵さんが、見守ってくれているのだから。



        

    


             【完】

  


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