悲惨な結末
千本松が動く度、車体がガタガタと震えた。
智恵美はフロントガラスに顔面をぶつけたショックで、また気絶している。
こいつはもう、智恵美ではない。
命賭けで助け出した後で、千本松は智恵美が地蔵たちに洗脳されてしまった事に気づいた。
奴らは約束を守るフリをして、結局俺と智恵美を殺すつもりだったのだ。
とにかく、早く車から出ないと崖から真っ逆さまだ。
千本松は車体が揺れぬよう、細心の注意を払って出ようとした。
ドアに手をかけ、ゆっくりと開けようとした。
ソロリ、ソロリと出ようとする千本松の足首をつかむ奴がいた。
ギョッとする千本松は、足首をつかんでる奴を見た。
そいつは、また意識を取り戻した智恵美だった。
目は赤色、口からは牙が生え、ドラキュラそのものだ。
「千本松~、貴様を生かして帰さんぞ~」
男の声色でしゃべる智恵美の顔面を、千本松は蹴った。
それでも、放してくれない。
「地獄なら、お前一人だけで行け!」
千本松は何度も、何度も智恵美の顔を蹴った。
蹴る度に、車体が揺れる。
ついに智恵美は、つかんでいた足首を放した。
「おっ死ね!」
最後の一撃を、智恵美に食らわせた。
衝撃でドアが開き、洗脳された智恵美は崖に落ちて行った。
生きた心地のしない千本松は、崖下に落ちた智恵美の死体を見た。
うつ伏せになって、波をかぶっている。
ドラキュラ智恵美は、死んだに違いない。
今度こそ、本当に車から脱出せねば!
智恵美を勢いよく蹴飛ばしたせいで、車体がぐらつき、落ちる寸前だ。
千本松はドアから、出ようとした。
車外を見た千本松は、全身が凍りついた。
車外は、6体の地蔵が取り囲んでいたのだ。
あれだけブッ飛ばしてきたのに、追いつかれてしまうなんて。
奴らには、テレポーテーション能力でもあるのか?
その6体の地蔵は車をつかんで、落とそうとしてきた。
「やめろ!」
千本松は無我夢中で、車外に出ようともがいた。
早くしないと、奴らに車ごと崖から落とされてしまう!
生きようとする千本松の願いも空しく、車は地蔵たちの手によって崖から落とされてしまった。
車が宙を舞っている間らは、無重力状態に感じた。
わずかな一瞬の間に、千本松は死ぬ覚悟を決めた。
車が崖下の岩場に打ち付けられると、ガラガラガッシャーン!という轟音と共に、大破した。
車はひっくり返り、タイヤは4本とも抜けて海に落ちた。
衝撃で千本松はドアから、車外へ放り出された。
その際に、岩場に頭をぶつけてしまった。
激痛で、頭がクラクラする。
千本松は額から血を流し、昏睡してしまった。
しかし、眠ったのはそんなに長い時間ではない。
5~6分ぐらいである。
自分の顔にかかる波しぶきで、千本松は意識を取り戻した。
足が痛くて、立つ事が出来ない。
千本松は這って、岩場から脱出しようとした。
車を見ると、ひっくり返ってペシャンコになっていた。
よくもこんな状態で、生きていられたものだ。
絶望状態の中から這って逃げる千本松の前に、智恵美が仁王立ちしてきた。
智恵美は、死んでいなかったのだ。
智恵美の顔は、もはや智恵美ではない。
血に餓えた野獣のようだった。
「ガウオォォォ~!」
猛獣のように吠え、襲いかかる智恵美。
千本松は足を負傷していて、立ち上がれない。
智恵美はしゃがむと牙をむき出し、噛みつこうとしてきた。
智恵美の牙が、千本松に近づく。
このまま行くと、ドラキュラ女にのどを食いちぎられる!
千本松は隠し持っていた拳銃を出すと、智恵美の口の中に突っ込んだ。
「くたばりやがれ!」
引き金を引くと、バーン!と言う音と共に、智恵美の後頭部から銃弾が貫通して出た。
岩場に倒れる智恵美。
間一髪で助かった・・・。
安堵した千本松は、まだ智恵美が生きているのではと思い、近づいた。
岩場に血だらけで倒れている智恵美は、目を閉じている。
安らかな死に顔だ。
いや、まだ智恵美が死んだと思い込むのは早計だ。
千本松は拳銃で、智恵美の顔に狙いをつけた。
その途端、智恵美の目が開き、鋭い牙をむき出して襲ってこようとした。
この女は不死身なのか?!
千本松は智恵美の顔めがけ、弾が切れるまで撃ち続けた。
ついに智恵美の頭は吹っ飛び、首なし死体になった。
そのまま岩場から、ドボンと海に落ちる。
智恵美の死体は波にさらわれ、何処か遠くへ流されてしまった。
お化けと化した智恵美がいなくなり、千本松は安堵のため息をついた。
あんな女のために潜って、大変な苦労を払って地蔵の首を捜してきたなんて!
骨折り損のくたびれ儲け、とはこの事か。
安心している千本松の背後から、不穏な影が忍び寄ってきた。
歩けない千本松は、周りを6体の地蔵に囲まれているのが分かった。
今さら、逃げるつもりはない。
「降参だ」
千本松はカラになった拳銃を、波に捨てた。
もうどうにでもしてくれ、という顔である。
地蔵の一つが、しゃべった。
「言ったはずだ、我々を愚弄した罪は重いと」
「しゃべるお地蔵さんか。お前らをテレビ主演させたら、儲かるだろうな」
笑ってる千本松は、指先に痛みを感じた。
指先を見ると、五本の指が岩にくっついているのだ。
千本松は岩から、指を放そうとした。
その度に、激痛が走る。
段々、指は岩と同化し始めた。
指が岩と同じ色に、変わってきているのだ。
「お前ら!何の真似だ、これは?!」
激痛で放そうにも、放せない。
「首を切った張本人の貴様には、もっとも苦しい死を与えてやろう。これより貴様は、岩と化すのだ。
決して死にはしない。
何千年も、岩となって永遠に苦しむがよい・・・」
千本松の顔は、激痛で歪んでいた。
俺は岩になって、永遠に苦しむだと!?
そんな科学を越えたバカな事が、あってたまるか!
千本松は腕が完全に、岩となってしまったのを見た。
ものすごく苦しい。
こんな苦痛のまま、俺は岩になって生きるのか?!
腕だけでなく、足までもが岩になってしまった。
「嫌だあぁぁぁ!岩になんか、なりたくない!」
ありったけの声で叫ぶ、千本松。
嫌がる千本松の体はついに、岩に変わってしまった。
岩になっても、意識がある。
岩のまま、激痛が走っているのだ。
岩になった千本松は喋る事も、動く事も出来ず、死ぬ事も出来なかった。
ただひたすら激痛に耐え抜くのみ、なのだ。
千本松を生きたまま岩に変えてしまった地蔵たちは、波打つ岩場から、フッと消えてしまった。
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それからしばらく経った数日後。
新居浩一は孫と一緒に歩いていると、地蔵たちの首が元通りになっているのを発見した。
「おお、奇跡じゃなあ・・・」
浩一は立ち止まった。
お地蔵さんの首はもはや、永遠に離ればなれだとあきらめていたのだ。
お地蔵さんの近くまで行って、首の付け根をよく見てみた。
どこにも、接着剤で張り合わせたような痕跡は見当たらない。
首を切り落とす前の状態と、何ら変わらないのだ。
孫の忠文は、なぜお地蔵さんの首が元通りになっているのが分からなかった。
「お爺ちゃん、どうしてお地蔵さんの首が直ってるの?」
「分からん。首を取った奴が、元通りに直したのかも。それとも・・・」
「それとも、何?」
「それとも、お地蔵さんご自身が、首を取り戻したかも知れんのう」
「お爺ちゃん、冗談きついよ!」
孫に笑われてしまい、浩一もその通りだと思った。
石で出来ているお地蔵さんが、動くはずがない。
「忠文の言う通りだよ。でも今日は首が戻ってきたんだから、お祝いをしなきゃなあ・・・」
孫と手をつないで帰る道すがら、浩一の顔には笑顔が戻った。
これで舞鶴に平和が続く事が、確実になったからだ。
この6体のお地蔵さんが、見守ってくれているのだから。
【完】




