対峙
午後6時。
千本松は港に着くと、パチンコ屋に急いだ。
古い知り合いに合うためだ。
あんな怪物から智恵美を救い出すために、用心して銃を持って行った方がいい。
会うべき相手は、金さえ出せば覚醒剤やヤバい道具を揃えて貸してくれる相手だ。
名前は花藤昇。札付きの悪だ。
そいつはタバコを吸いながら、余裕の態度で打っていた。
千本松の姿を見て、顔をこっちに向けてきた。
「よお、千本松。またヤクを買いにきたのか?」
「今日は違う。実はな、銃がいるんだ」
「銃?」
「そうだ、銃だ。素人でも簡単に扱えるのがいい」
「いつもは覚醒剤しか買わねえのに、どうしたんだ?」
「理由は聞くな。ちゃんと案内してくれるんだろうな?」
「まあ、金が必要だな」
千本松は財布から、十万円を出した。
「少ねえぜ。十万で買えると思ってるのか?」
仕方なく、千本松はさらに財布から五万円を出した。
「もう財布がカラだ。これ以上は出せねえ」
花藤は千本松から五万を受けとると、自分の財布にしまった。
「お前にはガキの時から色々助けてもらったしな。15万に負けとくよ」
「早く案内してくれ。急いでるんだ」
「よっぽどの急用らしいな」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
千本松は花藤に連れられ、近くのバーまできた。
バーの地下まで降りて行くと、一人でカクテルを飲んでる老人の所まで連れられた。
「こいつがチャカを買いたがってます」
花藤は12万を、老人に手渡した。
残りの三万は、仲介手数料だ。
「おっちゃん、銃くれ、銃」
千本松は待ちきれない様子だ。
老人はスーツケースを開けると千本松に、38口径の拳銃と弾8発を渡した。
「坊や、試し射ちしてみるか?」
「いや、急がないと人が死ぬんだ」
千本松は拳銃に弾を装填すると、バーを出た。
もはや、一秒の遅れも許されない。
― ― ― ― ― ― ― ―
20時。
辺りは日が沈んで、真っ暗になっていた。
千本松は車を運転して、地蔵が祀られている場所までたどり着いた。
トランクから、魚網に入れた地蔵の6つの首を取り出した。
これでいつでも智恵美と交換出来るが、奴らはまだ姿を現せていない。
約束は今夜までのはずだ。
なかなか現れない地蔵に、千本松はいら立った。
「おい、姿を現せ、怪物どもが!お前らの首はここにあるぜ!
首はいらねえのか!?いらねえのなら、また捨てるぜ!
それでもいいのか?!」
大声で周辺に怒鳴ると、岩陰から足音が聞こえてきた。
奴らに違いない。
暗闇から、6体の地蔵が歩いてきた。
その内の池田の地蔵と山田の地蔵が、気絶してるらしい智恵美の手足を持って運んできた。
6体が、千本松の近くまでやってきた。
「智恵美に何をしたんだ?!」
「安心して。この女は眠っているだけよ。」
真衣地蔵が説明した。
「どうやら智恵美は無事なようだな。首はここにある。智恵美と交換だ」
千本松は首を地蔵によく見えるよう、高く持ち上げた。
「さっさと首を渡しなよ」
真衣の地蔵が言う。
「そっちこそ、智恵美を返せよ!智恵美を渡さない限り、首は渡さねえ!」
「あーら、随分威勢がいいじゃない?
あんたがあたしらに命令出来る立場だと思ってんの?」
真衣の頭の地蔵は、池田の頭の地蔵に向けて手を上げた。
池田地蔵は、持っていた智恵美の体を地面に下ろすと首をつかんだ。
「何をするんだ?」
「あたしの命令一つで、智恵美の首の骨をへし折る。それでもいいの?」
「やめろ!お前らの勝ちだ!首は大人しく渡す!だから智恵美には手を触れるな!」
弱腰になった千本松は、首の入った魚網を地蔵に向かって放り投げた。
すると地蔵たちはゆっくりと、魚網からそれぞれの頭をつかみ出した。
どれも似たように見えるが、一体ずつ違うものらしい。
その一連の地蔵たちの行動を、千本松は荒い呼吸で見守った。
要は、智恵美を返してくれさえすればいい。
それ以上は、深追いしない。
次に千本松が見た光景は、異様だった。
地蔵たちは、今自分が載っけている人間の首を外したのだ。
元の石の頭と交換するために。
真衣、池田、悦子、三浦、山田、真知子の頭部が地面にボテッと転がった。
人間の頭部と入れ替えに、地蔵たちは石の頭をつかみ、首の上に置いた。
すると、チェーンソーで切った石の頭は、まるで最初から切っていないかのように、ピッタリと首にくっついてしまったのだ。
千本松はホラー映画を、見ている臨場感に襲われた。
だがここで、ビビる分けにはいかない。
「約束は果たしたぞ。智恵美はもらって帰るからな!」
一秒でも早くこの場から去りたい千本松は、気を失っている智恵美を、お姫様だっこして車に戻った。
「そうはさせるか!貴様には我々を愚弄してくれた礼をするぞ!」
後ろから地蔵の声が聞こえたが、振り返るつもりはない。
やはり、俺を殺すつもりだったか。
千本松は助手席に智恵美を乗せると、車をダッシュさせた。
すぐに脱出出来るよう、エンジンは切ってなかったのだ。
しかし、地蔵たちに追いつかれてしまった。
その内の一体が、ボンネットの上に上がってきた。
スタントマン顔負けでしがみつく地蔵は、フロントガラスに怒りの鉄拳をかましてきた。
フロントガラスに穴が開き、地蔵の手が千本松の肩をつかんだ。
何とかして、この化け物を振り落とさねば!
千本松は高速のまま、車をスピンさせた。
フロントガラスに鉄拳で穴を開けた地蔵は、道路に降り落ちてしまった。
道路に転がる地蔵を、千本松はバックミラーで確認した。
もう、あの化け物地蔵は振り切った。
これで、ひと安心だ。
俺はあいつらに、勝利したんだ!
いつの間にか、千本松は笑みを浮かべていた。
助手席の智恵美が、「うーん」と声を出して意識が戻った。
「智恵美!良かった、目が覚めたか!?」
喜ぶ千本松。
目はつむったままだが、智恵美はシートにもたれかかった。
「おい、智恵美!奴らに何かされなかったか?傷とかないか?!」
気づかう千本松は、智恵美が目を開けたのを見た。
その目は、いつもの智恵美の目ではなかった。
智恵美の目は、赤色に染まっていたのだ。
「お前を殺す!」
智恵美は男の声でしゃべり、運転している千本松の首を絞めてきた。
「うげええあえ!」
智恵美の力は、とても女の力と思えない。
「俺を殺したら、お前も死ぬぞ!」
猛スピードで逃げてるのに、首を絞めるなんて自殺行為だ。
千本松は片方の腕で、智恵美の手をつかんだ。
智恵美はものすごい形相で、首を絞めている。
いつもは剛力彩芽みたいなかわいい智恵美が、恐ろしい顔に変貌しているのだ。
千本松の意識は遠くなり、ハンドルから手を放してしまった。
その途端、車はガードレールに激突した。
衝撃で智恵美は千本松から手を放し、フロントガラスに顔面をぶつけた。
フロントガラスがひび割れ、智恵美の顔は血だらけになった。
意識が朦朧とする中、千本松は車体が傾いているのに気づいた。
窓の外を見ると、ガードレールを突き破った車体は、片輪が崖からはみ出していたのだ。
このままでは落ちるし、バランスは非常に悪い。
崖の下は磯になっており、岩場に波が押し寄せている。
落ちれば、死ぬか重傷だ。




