恐怖の真実
千本松と智恵美は真衣との約束通り、午前2時に五老岳公園にきた。
こんな時間帯を指定する事自体、疑わしい。
この公園は、中学生時代に真衣と初デートした思い出の場所だ。
二人で五老岳スカイタワーに登って、日本海を眺めたのだ。
回りは真っ暗なので、車のライトで辺りを照らした。
「真衣~、どこにいるんだ、返事をしてくれ!」
「真衣、あたしよ、智恵美!早く出てきて!」
千本松と智恵美は、暗闇に向かって叫んだ。
しばらくすると、足音が聞こえてきた。
千本松と智恵美は、心臓が高鳴った。
果たして、真衣は無事なのだろうか?
暗闇から出てきたのは、小学生低学年の子供に見えた。
「誰だ、お前は?!」
怒鳴る千本松は、その子供をよく見ようと近づいた。
「約束通りきたのに、怒鳴らなくてもいいじゃない」
真衣の声が聞こえた。
確かに真衣の声だが、その子供が真衣の声でしゃべっているのだ。
「キャーッ!」
あらんかぎりの声で、智恵美は悲鳴を上げた。
「真衣、お前いつからそんなに背が縮んだんだ?!」
千本松も、目の前の光景が信じられない。
クスリの打ち過ぎで、背が縮んだのかと思った。
もう真衣に、覚醒剤を渡すのはストップだ。
真衣の首から下は、マントで覆われていて見えない。
真衣は驚く様子を見て、笑みを浮かべた。
「うふふ、サプラ~イズ?」
真衣は首から下を覆ってるマントを、はぎ取った。
首から下は、地蔵の胴体だった。
それを見て、千本松と智恵美は足元がガクガクと震えた。
「てめえら、よくも首を切り取ってくれたな。返してもらおうか」
真衣が怒り顔で聞いた。
「何者なんだ、お前は~?!」
千本松と智恵美は余りの恐怖で、腰が抜け、地面に倒れた。
「だから真衣だってば」
真衣の頭部は、いつもの真衣の声で返事した。
「ふざけんな!」
「分からないか?お前らに首を切られた地蔵じゃ。頭がないと、しゃべる事も出来ん。だからこの女の頭をもらった。この女だけではない」
奥の茂みから、仲間の地蔵がゾロゾロと出てきた。
その地蔵の頭の部分だけが、殺された千本松の同級生・池田、悦子、三浦、山田、真知子だった。
「久しぶりね、千本松君。かわいいでしょ?」
悦子の地蔵が言う。
「智恵美、お前もわしらの仲間になれ」
池田地蔵が誘う。
「近寄ってこないで!」
智恵美は最高潮の恐怖で、立ち上がれない。
「ひええええ!命だけは助けてくれえ!」
立ち上がれない千本松は、這って逃げようとした。
「待って、あたしを置いて行かないで!」
智恵美も這って、逃げようとする。
「そうはさせるか!あんたは人質よ!」
真知子の頭の地蔵は、智恵美の足首をつかんだ。
「放せ~、この化け物~!」
智恵美は片方の足で、地蔵の胸を蹴った。
しかし石で出来ている胴体は、びくともしない。
真衣の頭の地蔵は、そのまま智恵美の足首をつかんだまま引きずり、暗闇に消えた。
「助けてえええええ!」
「ちえみ!」
千本松は暗闇に向かって叫んだ。
「あははははは!」
真衣の笑い声が、暗闇から響く。
他の地蔵も、暗闇に消えてしまった。
智恵美は化け物に、さらわれてしまったのだ。
智恵美も化け物に、首を切られるかもしれない。
だが、智恵美の命よりも自分の命の方が大事だ。
すまん、智恵美!
千本松は心の中で叫ぶと、夢中で走った。
そして車にたどり着くと、一目散に逃げた。
あんな恐ろしい目にあったのは、生まれて初めてだ。
あの怪物に比べれば、お化け屋敷の幽霊など、かわいいぐらいだ。
警察に言うべきか?
一連の首切り殺人の犯人は、ぼくが首を切り取ったお地蔵さんたちです、とでも?
話しても、相手にしてくれまい。
恐怖で顔が引きつっている千本松は、何度も信号無視した。
信号なんて、守ってる場合じゃない。
制限速度を越えて走る千本松は、ガードレールに激突した。
エアーバッグが膨らみ、千本松はその中で顔をうずめた。
衝撃で千本松は頭を強く打ち、昏睡してしまった。
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翌朝。
千本松はスズメのチュンチュンと鳴く声で、目を覚ました。
エアーバッグを枕代わりにして、眠ってしまったのか。
恐ろしい夢を見た。
真衣が地蔵に首を切り取られ、代わりに地蔵の首の代用にされてしまった夢だ。
悪夢以上に、恐ろしい夢だった。
しかしもう、悪夢から目覚める朝だ。
落ち着きを取り戻しつつある千本松のケータイが、鳴った。
ケータイをポケットから取り出し、サブ液晶を見ると千本松は凍りついた。
サブ液晶には、「西原真衣」と出ているからだ。
その一瞬で、千本松には昨夜のあの悪夢が夢ではなく、現実の物だと受け止めた。
「何が望みなんだ?」
のっけから、千本松は態度を硬化させた。
『うふふふふふ』
元は真衣だった女の笑い声が聞こえてきた。
「おい、笑ってないで用件を言え!」
『智恵美は預からせてもらったわよ。声を聞きたい?』
スマホを智恵美の口元に持っていく音が聞こえてきた。
『助けてえ、幸雄!まだ死にたくない!』
確かに、地蔵に囚われの身になった智恵美の声が聞こえた。
「智恵美!おい、真衣の化け物め、智恵美にもしもの事があったらタダじゃおかねえからな!」
『タフぶるのはよしたら?今はあたしがこの智恵美ちゃんの命を握ってるんだから』
「どうやったら、智恵美を無傷で返してくれるんだ?」
『それには条件があってねえ・・・』
「とんな条件でも飲む。だから智恵美を返してくれ」
千本松は泣きそうになった。
『この女の命と引き換えに、首を返してもらおうか。
ちゃんと六つ揃えて返してもらおう。それが交換条件よ』
「もし断ったら?」
『智恵美を生きたまま、引き裂いてやるよ』
千本松は沈黙した。
化け物の言いなりなんかになりたくないが、智恵美の命が大事だ。
「分かった。必ず6つの首を持ってきてやるよ。その代わり、そっちも約束を守ってもらうぞ。いいな?」
『約束は守るわ』
「6つの首はどこへ持ってくればいい?五老岳公園か?」
『あんたが首を切り落とした場所まで持ってきて。期限は明日中』
「明日中に間に合わなかったら、智恵美はどうなるんだ?」
『どのみち、智恵美は死ぬ事になるよ』
「何としてでも、持って行く。だから、智恵美には手を出すな!」
『せいぜい頑張る事ね。これ以上、智恵美に悲鳴を上げさせない方が賢明よ』
そこで、電話は切れた。
千本松は怒りで、ケータイを握り潰しそうになった。
あの怪物め、智恵美を人質に取るなんて!
本当にあの怪物が、許せない。
昨夜はあんなに怖がってたのに、今は憎悪の念しかない。
クソッ、怪奇映画の世界が現実になるなんて!
千本松は首を切った場所から、地蔵が移動してないか気になり、そこへ行ってみる事にした。
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