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舞鶴怪談  作者: かわむら
16/20

真衣からの電話

部屋のクーラーを付け、千本松はソファーに倒れていた。

もう何もする気にならない。

山田と真知子も、首を切られるなんて。

この次は絶対に、俺か智恵美に決まってる。

それとも、二人同時かも。

舞鶴にも、盆休みで誰も働いていない。

千本松は早く盆休みがおわらないかと、気分が滅入っていた。

舞鶴には首切り魔事件で、誰も外に出ようとしない。

リクライニングチェアに座っていた千本松のケータイが、鳴った。

ケータイを手に取ると、サブ液晶の画面には智恵美と出ている。

「もしもし?」

『今から会いに行ってもいい?寂しいの』

「水産加工会社は休みなのか?」

智恵美は市内の缶詰め工場で、製品のラベルのチェックをしているのだ。

『今は盆休みよ』

「そうかい。仕事も無ければ、落ち着かないよな。

俺んち、こいよ」

『じゃあ、今から行くから待ってて』


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―


10分後には智恵美がチャリンコをこいで、千本松の実家まできた。

曇っていた智恵美の顔は、千本松に会うと少しは笑顔が戻った。

「周辺を散歩してみないか?部屋の中は息苦しくてかなわん」 

千本松は自分の車に智恵美を乗せると、引き揚げ公園まで出向いた。

ここの公園が、千本松にとっては好きだった。

ここから眺めるクレインブリッジは、素晴らしい。

二人は車を降りると、新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。

やはり、部屋にとじ込もってばかりではいけない。

智恵美が千本松に、寄り添ってきた。

「やっぱり、あんたと会ったのは正解」

「そこのベンチに座ろうか」

千本松と智恵美は並んで、座った。

「残ったのは俺とお前だけだ・・・。今後はどうする?」

「それが怖くて、怖くて・・・。夜、眠れなかったの」

「まあ、当然だ」

「幸雄はどうするの?!」

「俺か・・・。京浜会だろうが何だろうが、早く来やがれって所だ」

「逃げる気、皆無って所ね」

「でも、首なんか切り取ってどうするつもりだろうか」

「きっと切った奴が、自宅の棚に生首を並べてコレクションにしてるのよ」

「俺も近い内に、そのコレクションに仲間入りかもな」   

「何を弱気になってるの」

「智恵美の言う通りだ。確かに弱気だな」

智恵美は千本松に、顔を近づけた。

至近距離でみつめ合う二人は、キスをしようと顔を近づけた。

もう少しで唇が重なり合う瞬間、一台の車が猛スピードで突進してきた。

「何だよ?!」

轢かれまいと、二人はベンチから遠ざかった。

文句を言いに千本松が車に近寄ると、四人の男達が降りてきたのを見た。

そいつらの顔は、見覚えがある。

舞鶴署の若い刑事たちだ。

「おい、このガキ。お前は何かを隠している。

正直に吐いた方が、お前の身のためだぞ」

刑事四人に囲まれた千本松と智恵美は、寒気がした。

「何だよ、俺が犯人だって言いたいのか?!」

千本松は強気に出た。

「隠してる事を、洗いざらい吐け。悪いようにはしない」

刑事達にすごまれ、千本松と智恵美は汗が一斉に吹き出た。

「何も隠してる事はない」

「ふざけるな!殺されたのは皆、お前の友人だ!

絶対に関連がある!お前が首を切り取ってんだろうが!」

「この野郎、そこまで言うのは人権侵害だぞ!」

千本松は刑事に怒った。

「おい、舟木!このガキの言う通りだぞ!」

仲間の刑事が、千本松を犯人扱いしている刑事を制止した。

千本松の顔は怒りで、歪み切っていた。

「俺に友人の首が切れるものか。俺にはちゃんとアリバイがあるんだ。俺だけじゃない。

ここにいる智恵美もな」

智恵美の手を痛い程、千本松はギュッと握った。

「痛っ」

「帰れよ、帰れってんだ!」

千本松の怒りの表情に、刑事たちは乗ってきた車に戻った。

車が土埃を上げて去ると、千本松は肩の荷が降りた感じがした。

「跡をつけ回していたなんて、ストーカーか警察か、分からなくはなってきたぜ」


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


昼過ぎ、新居浩一は孫を連れて墓参りにきていた。

墓所には他の高齢者も墓参りにきており、浩一は挨拶した。

今日は本当に、蒸し暑い日だ。

自分の両親、姉の供養のため、墓の前に立った。

麦わら帽子を脱いで、浩一は額の汗を拭いた。

孫の忠文はヤカンに入れてある水を、墓の上から流した。

墓石が水びたしになり、辺りは清涼感が増した。

「お爺ちゃん、この小百合ってのは誰なの?」

孫が聞いた。

三つある墓のうち、二つは祖父の両親のものだと分かるが、小百合の墓は誰なのか分からなかったのだ。

「お爺ちゃんの姉じゃよ。でもバカじゃから、自殺しよったんじゃ。まだお爺ちゃんが、子供の頃にな」

「ヘエ、お爺ちゃんには姉がいたんだね。でもなぜ自殺したの?」

「お爺ちゃんにも自殺の理由はよく()せんが・・・。村を守るためかのう」

「村を守るために自殺?よく分かんないよ」

あの日、姉の自殺を食い止める事が出来なかったのは、本当に悔やまれる。

殴ってでも、飛び降りるのを阻止すべきだった。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―  


終始、車を運転している千本松は無言だった。

舞鶴署の刑事たちに犯人扱いされ、気分が悪かったのだ。

助手席の智恵美は、千本松を怒らせないよう機嫌をとるしかなかった。

ここで話しかけるのは、よくない。

車が智恵美のアパートを着いた。

二人が車から降りた瞬間、物陰に隠れていた報道関係者たちが前後から、物凄い数で押し寄せてきた。

智恵美と千本松は大群に囲まれ、身動きが出来ない。

「何者なんだ、あんたらは?!」

「週刊ウェンズデイですが!」

「週刊新現代ですけど!」

「週刊新実話です!」

二人はようやく、写真週刊誌の記者たちに囲まれたのが分かった。

記者たちは了解を得ずに、二人をカメラで撮りまくった。

「今回の一連の事件の感想は?」

「巷では、あなたが犯人と噂が立ってますが!」

「犯人はあなたですね?」

「共犯はここにいる彼女ですか?」

「いい加減に白状したら?」

「よくもそんな残酷な殺し方が出来るもんだな!」

言いたい放題で犯人扱いしてくる記者どもに、千本松も智恵美も怒りを覚えた。

「お前らに話す事なんか一つもない!」

千本松は智恵美と共に、この場から脱出しようとした。

智恵美はここの地理は、知りつくしている。

「こっちよ!」

智恵美が千本松の手を取り、近くの裏山へにげようとした。

記者たちは猛烈な勢いで、一緒に走り抜けた。

二人は遠回りに、墓地に出た。

墓石の陰から記者が、二人を追いかけていったのが見えた。

千本松はグッタリとして、腰を下ろした。

今日はさんざんな日だ。

俺が親友たちを、殺すはずがない!

「もう安心よ。でもうちには戻らない方がいいみたい。張り込みしてるかも」

「あのバカ記者どもが・・・」

ミンミンゼミの鳴き声が、本当にうるさく聞こえる。

うだるような暑さの中、千本松は怒りで震えていた。

あの記者どもは、俺を犯人だと疑っている。

というよりか、俺を犯人に仕立て上げている。

もう金輪際、写真週刊誌など買うものか。

しょげている千本松の肩に、智恵美が手を置いた。

「あんな奴らの言う事を、真に受けないで」

千本松は、智恵美を見つめた。

「俺は絶対に智恵美の首なんか、渡したりしない」

その時、千本松のケータイが鳴った。

千本松はポケットからケータイを取り出すと、誰から掛かってきたのかサブ液晶を見た。

サブ液晶には、『西原真衣』と出ている。

千本松は思わず、目が引き吊った。

首を切り取られた真衣から、電話がかかってくるはずがない。

だとしたら、誰なんだ!?

「智恵美、真衣から電話だ・・・」

千本松はケータイのサブ液晶を智恵美に見れるよう、近づけた。

智恵美は目を丸くして、驚いている。

「ウソ、真衣から電話?」

「真衣が電話してくる分けないだろ!真衣は殺されたんだ!」

「じゃあ、誰からなの?!」

「真衣を殺した犯人かも知れない。

警察が真衣のスマホだけが盗まれているって、言ってただろう」

二人はどうしていいか分からず、ずっと鳴りっ放しのケータイを見つめた。

「早く出なさいよ。出れば犯人が分かるかも」

()かす智恵美。

千本松は思い切ってケータイを開き、通話ボタンを押した。

「おい、何のつもりか知らんが何故真衣を殺した?!」

怒りをこめて、千本松は相手に聞いた。

『そんなに怒らなくてもいいじゃない、幸雄君・・・』

信じられない事に、聞こえてきたのは真衣の声だった。

「えっ、真衣?!」

『そうよ、あたしよ・・・』

「良かった~、生きてたのか!?俺はてっきりお前が惨殺されたかと思ってたんだぞ!」

『ちゃんと生きてるから心配しないで・・・』

千本松は大喜びでケータイを、智恵美に渡した。 

智恵美は半信半疑で、ケータイを耳に当てた。

「もしもし、本当に真衣なの?!」

『真衣よ、この声に聞き覚えはあるでしょ?』

千本松の言う通り、本当に真衣からだった。

なら、真衣の部屋にあった首なし死体は別人なのか?

「本当に真衣?真衣の声を真似てるだけのサイコキラーじゃないの?」

『正真正銘の西原真衣よ』

疑っていた智恵美は、ようやく真衣本人だと認めた。

「真衣~、心配かけさせて!今、どこにいるの!?」

『・・・』

真衣は無言だ。

「あんた、皆死んだと思ってるんだよ、弟さんやご両親も!

早くどこにいるか教えて!すぐ行くから!」

エキサイトしている智恵美から、千本松はケータイを引ったくった。

「ちょっと、何すんの!?」

「智恵美の言う通りだ、何が起こったんだ?教えてくれ・・・」

『・・・』

またしても、真衣は無言のままだ。

「ちくしょう、何とか言えよ、真衣!」

『いいわ、真相を知りたければ今夜2時、五老岳公園に来て』

「何で、そんなに人目につかない場所なんだ?」

『うるせえ、黙ってあたしの言うことに従え!ボケ!』

一方的に電話は、切れた。

真衣があんな暴言を言ったのは、初めてだ。

千本松はリダイアルを何度もしたが、電話に出てくれない。

「クソッ、早く出ろよ!」

いつまで経っても真衣が電話に出ないので、千本松はケータイをポケットにしまった。

「どうする、警察に相談する?」

智恵美が不安そうに言う。

「ダメだ、真衣が本当に無事なのかどうか、この目で確めねえと、サツには知らせねえ」

「何だか怖い・・・」

智恵美が千本松に、寄り添った。

「大丈夫だ。二人で真衣の安否を確認しに行こう」


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―










 







































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