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舞鶴怪談  作者: かわむら
15/20

逃亡

三浦と悦子は深夜、車で舞鶴を脱出する計画だった。

首なし死体になってまで、舞鶴にいるつもりはない。

どこか遠くへ逃げた方がいい。

三浦は悦子と、共に東京へ行くつもりだった。

東京なら、高校からの同級生がたくさんいる。

大学進学で東京にいる友人が、大勢いるのだ。

そいつらにマンションに一緒に住まわしてもらう事は、手配済みだ。

大急ぎで荷物をキャリーバッグに詰め込むと、車のトランクに、詰め込んだ。

悦子は助手席に座り、三浦は運転席に座った。

いつもはハシャギまくる悦子だが、今回は無言のままだ。

車の中は、不穏な空気に包まれた。

三浦はこの状況を打破すべく、悦子に話しかけた。

「もう心配する必要はないんだ。一段落するまでは舞鶴を離れる」

「もし・・・、事件が解決しなかったら・・・」

「そこまでは考えてなかったなあ」

「じやあ、今から考えてよ」

「俺にもよく分からんよ。今は目先の事が先決だ」

「最低半年は東京で様子を伺うことね」

「とにかく、死の危険からは逃れられたんだ」

車で走行中、悦子はオシッコが我慢出来なくなってきた。

トイレに行くのを忘れるぐらい、急いでいたからだ。

「ねえ、ここら辺にコンビニない?」

「全然ないな・・・」

「あたし、トイレにいきたいの」

「コンビニもないし、公衆便所も何もないよ」

「コンビニがある所まで、後どれくらい?!」

「そうだな、後30分ぐらいかな・・・」

「そんなに待てない!」


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―


やむなく悦子はそこら辺の草むらで、小用を足す事に決めた。

三浦は車に座って、悦子が戻るのを待っていた。

腕時計を見ると、15分経過していた。

小便するだけで、15分かかるのか?

いや、大の方もしているのかも。

三浦はもう少し、待ってみる事にした。

さらに、もう15分経過した。

いくら何でも遅い。

三浦はドアを開けたまま、外に出た。

絶対に見に行ったら殺す、と言われたにも関わらずにだ。

「おーい、悦子!?何やってんだ、遅すぎだぞ!」

悦子が行った方向に向け、叫んだ。

悦子の返事はない。

「返事をしてくれ!」

返答のないのに、三浦は(いら)立った。

痴漢と言われようが、悦子に合うつもりだ。

途中、三浦は何かに蹴つまずいて、倒れた。

何につまづいたのか、三浦は見た。

最初はマネキン人形なのかと思った。

よく見ると、それはマネキン人形ではなく悦子の死体だった。

当然の如く、首から上がなかった。

「ひいいいい!」

三浦は悲鳴を上げた。

殺人鬼は、すぐそばにいるのだ!

慌てふためき、三浦は車まで、走って戻った。

無我夢中で、三浦は車を発進させた。

もうあの殺人現場から、だいぶ遠ざかった。

ここまで逃げれば大丈夫だろう。

しかし殺人鬼は、どうして悦子があの場所にいると分かったんだろう?

もしかして、小型の発信器でも付けられたのだろうか?

三浦の額は、汗びっしょりになった。

実は殺人鬼は、三浦が車から離れている隙に、乗り込んでいたのだ。

いきなり後部席から刃物を、三浦の(のど)に突きつけてきた。

「死にたい?」

真衣の声が聞こえた。

「たたた助けて~!」

命乞いしている三浦を無視し、殺人鬼は刃物で三浦の首に突き刺した。

車は車線をはみ出し、道路脇の木に激突した。

衝撃でドアが開き、中から首のない三浦の死体が道路に倒れた。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―


次の日も、舞鶴は天と地がひっくり返った騒ぎになった。

小中高も臨時休校になり、子供の姿は昼間でも見えなくなった。

舞鶴には、戒厳令が敷かれたかのようだ。 

そんな中、真知子は怖くて山田の実家にお邪魔していた。

山田の部屋に居ても、体を震わせている。

「そんなに怖いのか?」

「ええ」

真知子は怖くて、山田に寄り添った。

「これからどうする気?」

「分からんよ」

「分からなかったら、首が無くなってもいいの?」

「この際、プライドは捨てた方がいい。警察に保護してもらうんだ」

「断られたら?」

「断られたら・・・、ヤクザを轢いたのは僕達ですって正直に話すよ。そうすれば警察が、京浜会から救ってくれるはずだ」

「そんなに都合よくいく?」

「いかせてみせる。僕を信じろ」


     ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


その日の夜。

真知子と山田は意を決して、舞鶴署に乗り込んだ。

ここには「舞鶴連続首なし殺人事件捜査本部」が置かれており、事実上ここが司令塔である。

夜でも舞鶴署の中は、殺人事件の捜査で幾人もの人で溢れており、ごった返しになっていた。

これだけの人数がいれば、安全だ。

山田は受付で担当刑事に会わせてくれ、としきりに頼んだ。

熱意が通じたのか、担当刑事の一人がこっちへやってきた。

この刑事にも、真衣・三浦・悦子・池田について、さんざん質問されたものだ。

「話は聞いたよ。警察に保護してもらいたいんだって?」

「はい」

担当刑事は、真知子と山田の顔を見た。

二人共、怯え切っている。

「刑事さん、首を切られてるのは全員、僕の友人なのは知ってるでしょ?!」

「だからと言ってねえ・・・」

刑事が難色を見せると、真知子は泣き始めた。

「刑事さん、そんなに僕らの首なし死体が見たいのかい?」

山田は真知子をなだめた。

刑事はじっくり考えてこんで言った。

「いいでしょう、これは私からの好意です。

今晩は警察に泊まっていきなさい。取り調べ室を、君達に貸してあげるよ」

「今晩だけ?」

「明日からはもっとリラックス出来る場所を手配する。

だから心配はいらない」

山田と真知子の顔には、希望の笑顔が戻った。

警察にご厄介になれば、首切り魔も手出し出来ないからだ。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


山田と真知子は取り調べ室の椅子に座って、ボンヤリとしていた。

「事件が解決するまで、家は警察になるの?」

真知子は不安がる。

「そういう事になるかも知れん・・・」

「何だか気が滅入っちゃいそう・・・」

ドアが開いて、刑事が二人分のコーヒーを持ってきてくれた。

「あ、どうもすみません」

礼を言う山田。

刑事は、コーヒーを机に置いた。

「何か君達、知っている事はないのか?」

刑事は、椅子に座った。

「は?」

「殺されてるのは、君達の友人ばかりだ。これには必ず繋がりがある」

「それよりも捜査の進展はどうなんでしょうか?

誰がやったか見当ぐらい、ついてるんでしょうか?」

「まだ見当もついとらんよ」

刑事は席を立った。

「明日の朝ご飯はどうする?

近所の弁当屋に注文しておいたから、宅配してきたら持ってきてやるよ」

「おそれ入ります・・」

刑事が出て行った後、山田と真知子は互いの顔を見つめ合った。

「やっぱりヤクザを轢いたって、正直に話すべきじゃ・・・」と真知子。

「そんなに刑務所が好きなのか?」

「そんな事言ってる場合じゃない!

命がかかっているのよ!」

「もう少し、様子を見てからにしよう。それからでも、遅くはないだろう?」

真知子がうなずいたので、山田はそれ以上言及しなかった。

しかし警察に洗いざらい告白して、京浜会に捜査の手を伸ばして

もらわなければならなくなるのは、時間の問題だ。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―


朝方になった。

真知子はトイレに行ったきり、40分も戻ってこない。

しかし、警察内で真知子が殺されるなんて、あり得ない。

山田は婦人警官に頼んで、女子トイレの中を調べてもらおうと、立ち上がった。

その時、不意に取り調べ室の電気が消えた。

停電かと思い、山田はドアから出ようとした。

しかし、ドアには鍵がかかっていて、出られない。

山田はドアノブに力を入れて、何度も回したが開かない。

いつの間に、鍵を閉めたんだ?

暗闇の中で、山田は落ち着こうとした。

「ねえ、山田くーん」

真衣の声が、聞こえた。

「え、真衣!?」

「こんな所で何をやってるんだ?」

続いて、池田の声が聞こえた。

「真衣、池田、死んでなかったのか?!

どうやって中に入ったんだ?!」

山田は手探りで、真衣と池田のいる場所を探した。

「早く、あたしたちの仲間になりなさいな」

今度は悦子の声だ。

「何を言ってるんだ?!どこにいるんだよ?!」

「早く仲間に入れ、山田。悪い心地はせんぞ」

三浦の声だ。

山田は急に両手、両足をつかまれ、床に倒れた。

「何すんだよ?!」

倒れた山田は、四人の内の誰かに首を切られた。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


刑事は二人に届いた弁当を渡そうと、取り調べ室のドアを開けた。

「弁当持ってきてやったぞ」

なぜかテーブルはひっくり返り、椅子は倒れ、部屋は散乱していた。

床には血の海が、広がっていたのだ。

あまりに凄惨な光景に唖然(あぜん)とした刑事は、弁当の入った袋を落とした。

テーブルの陰から、倒れた足が見える。

「おい、大丈夫か?!」

刑事がテーブルを回り込んで見た光景は、この世の物とは信じられなかった。

倒れている男の死体には、首が無かったのだ。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―


舞鶴署全体がパニックになり、非常警報が鳴りひびいた。

まだ殺人犯は署内にいるかも知れないのだ。

一切の出入り口を封鎖し、出る者入る者厳重なチェックがされた。

刑事たちは各部屋に殺人犯が隠れていないか、ひと部屋ずつ、しらみ潰しに調べていった。

まだ山田と一緒にいた女の所在がつかめてない。

その女が犯人、という可能性も無くはない。

刑事が三人、女子トイレの中を調べていってる。

一つだけ、ドアをノックしても応答がない。

「藤崎真知子さんですね?」

刑事が聞いても、返事がない。

二人の刑事が万が一の場合に備え、拳銃をドアに向けて構えた。

この女が犯人に間違いない。

「返事がないので、開けさせて頂きます」

刑事がトイレの個室のドアを、蹴破った。

「わっ!?」

「ひええ!」

「うへあ!?」

三人共に戦慄した光景を見てしまった。

便器には、首のない死体が座っていたからだ。












































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