連続首なし殺人
伊丹空港から関西に戻った千本松と智恵美は、そのままタイムズに駐車してある車に乗って舞鶴に戻った。
二泊三日の旅行だったが、かなり充実した時間を過ごせたようだ。
夕暮れ、千本松は智恵美の住んでるアパートまで到着した。
車のトランクを開け、智恵美のキャリーバッグを引っ張り出す。
智恵美は両手に荷物を持って、手が離せない。
「俺が玄関まで、持って行ってやるよ」
「ジェントルマンなのね、頼もしい」
千本松は智恵美のキャリーバッグを、押して歩いた。
並んで歩いている智恵美と千本松は、アパートの階段の所に背広姿の男が三人いるのに気づいた。
そいつらを見た途端、二人は警察の連中だと直感した。
「失礼、千本松幸雄さんと小木智恵美さんですね?」
連中の一人が、警察のIDカードを見せてきた。
「そうですけど」
千本松が答えたが、心臓が破裂しそうになった。
もうサツが嗅ぎ付けたのか?
「実はあなた方のお友達の西原真衣さんについて、お聞きしたい事がありましてね・・・」
「えっ、真衣ですか・・・」
千本松の心臓の鼓動は、少しは治まった、
「あの・・・、真衣がどうかしたんですか?」
智恵美が問う。
「非常に残念ですが、真衣さんは昨晩、殺されました」
刑事のひとりが言うと、千本松と智恵美は、顔を見合わせた。
「それって本当?」
「からかってるの?」
二人とも、刑事の話を信じていない。
「本当の事です。DNA鑑定で本人と確定しました」
「どういう事だよ?!死体が真衣と分からない状態なのか?」
「ええ」
刑事は真実をしゃべる前に、一呼吸置いた。
「まさか顔を焼かれた、とか・・・」
「無惨な殺され方です」
「教えて、刑事さん!真衣はどう殺されたの?!」
「真衣さんは首を鋭利な刃物で切り取られたんです。
死体は胴体だけで、首がありません」
刑事が言うと、智恵美は急に立ちくらみがして、地面に倒れようとした。
土産物のシーサーが、道に転がる。
「おい、しっかりしろ!」
千本松は智恵美の体を引きずって、日陰の場所まで連れて行った。
智恵美を座らせると、深呼吸させた。
智恵美が落ち着くまで、刑事たちは質問するのを控えた。
ようやく智恵美が安定すると、刑事たちは質問を再開した。
「真衣さんを最後に見たのは、いつですかね?」
「昨日の晩、20時半頃に真衣と電話で話したばかりなのに・・・」
智恵美が言うと、刑事は手帳にメモ書きした。
「昨晩、20時半頃に真衣さんと電話で会話した、と。
間違いありませんね?」
「ええ」
「近頃、真衣さんに変わった様子とかありませんでしたか?
例えば、誰かに狙われているとか、つけられているみたいだ、とか・・・」
「いえ、いつもと全く変わりはありません」
「誰か真衣さんに恨みを持っているような人物に、心当たりは?」
「ないですね」と千本松。
「そちらは?真衣さんにストーカーとか思い当たるフシはありませんか?」
「ありません!」
智恵美はキッパリと、否定した。
「刑事さん、何も恨みを持つ者の犯行とは限らんだろ?
例えば強盗とかは?」
「その線も現在、捜査中です。あらゆる可能性から捜査しなきゃならんのでね」
「何か、盗まれた物は無かったの?金とか貴金属とか」と智恵美。
「実は一つだけ、盗まれている物があるんです」
千本松と智恵美は、真衣の財布かと思った。
「真衣さんのiPhoneです」
「iPhoneだけ・・・?」と智恵美。
「刑事さん、真衣の死体はどこで見つかったんだ?」
「彼女の自宅ですよ。朝飯の用意が出来たんで母親が階下から呼んだんですが返事がなく、母親が二階に上がると惨殺死体を発見したんです」
「奇妙な殺人事件でしてね」
別の刑事が、口をはさんだ。
「一晩中、彼女は両親と弟さんたちと一緒にいたんです。
両親と弟さんは、物音一つ聞いてないと言うんです」
「密室殺人だな」
千本松は戦慄の恐怖を感じた。
真衣の部屋には、窓はない。
真衣の部屋に入るには玄関から入り、もしくは窓から侵入しなければならない。
「あの、真衣の死体は見せてもらえないんですか?」
「酷い死体ですよ。見るのは構いませんが、正直お勧めはしません」
「どんなに惨たらしい死体でも、構いません。ちゃんと真衣の死体かどうか、確認したいんだ」
― ― ― ― ― ― ― ― ―
二人は舞鶴署員の死体置き場に、刑事と同行した。
千本松は智恵美に、お前が見たら必ず気絶するから見るな、と命令した。
智恵美も胴体だけの真衣の死体を見れば、吐くだろうと見なかった。
智恵美は死体検視室に入らず、外で待った。
千本松は刑事と一緒に、検視のベッドに近づいた。
真衣の死体には、スッポリとシーツがかけられている。
「覚悟はいいですね?」
シーツをめくる前に、検視官が千本松に聞いた。
これまで身内、友人、知り合いに惨い死体を見せて卒倒された事が何度もあるからだ。
「早くめくれ」
逆に千本松は催促した。
検視官はゆっくりと、シーツをめくった。
死体の全貌が、明らかになった。
真衣の死体は青白く、人目で死体と分かる。
本当に頭の部分が無かった。
今までスプラッター映画を何度も見てきたが、どうという事は無かった。
所詮、作り物だからだ。
しかし目の前の光景は作り物ではなく、リアルそのものだ。
段々と、気分が悪くなってきた。
「どうします、外に出ますか?」
刑事が聞いた。
「真衣は左腕にドクロがシルクハットを被っていたタトゥーを入れてたんだ」
千本松は真衣の死体の腕をつかんだ。
確かにドクロがシルクハットを被っているタトゥーがある。
間違いない。これは真衣の死体だ。
まずい、このままでは、吐いてしまう。
千本松は口を押さえると、急いでトイレへダッシュした。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
トイレの洗面台に寄りかかって吐いていると、智恵美が入ってきた。
「ねえ、本当に真衣だったの?!」
うつむいている千本松は、返事が出来る状態ではない。
「ねえったら!」
「真衣だよ・・・」
うつむいたまま、千本松は答えた。
「そんな・・・」
智恵美は男子トイレの床に、うずくまった。
「とにかく、全員に連絡して真衣が殺された事を報告しなきゃならん・・・」
千本松は全員を呼び出すために、ケータイを出した。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「洞穴」という名前の喫茶店に、全員が集合した。
この喫茶店は皆が高校生からの、溜まり場である。
千本松、智恵美、山田、悦子、池田、三浦、真知子の七人。
七人は改まって警察から、事情聴衆を受けた。
テーブル席についても、誰一人として口を開こうとしない。
七人分のコーヒーが運ばれてきて、初めて千本松がしゃべった。
「皆、辛いだろうが現実を受け止めるしかないんだ。真衣の事は非常に残念だ」
「誰があんな残忍な事をやったんだよ・・・」
三浦が言う。
「そうよ。真衣を殺した奴は人間じゃない。鬼畜よ」
真知子はまだ泣いている。
「その鬼畜に、誰か心当たりはないか?」
池田が聞いたが、全員沈黙している。
真衣が人に恨みを買うような人物でない事は、皆よく知っている。
「全然思い当たらないよな・・・」
山田が言うと、全員がそーだ、そーだと、うなずいた。
「それじゃあ、真衣をつけ狙ってた変質者なのか?」と池田。
「今ん所、そうとしか考えられん」
「あの暴力団の組員が、報復にきたのかも・・・」
智恵美がポツリと言う。
「どういう事だよ?俺達が轢いた事がバレてるというのか?」
池田が大声でしゃべると、皆がシィーと声を牽制した。
「でもそうとしか、考えられない・・・」
涙声で悦子が言う。
「そんな事はあり得ない!通りがかった車も無かったのに」興奮する千本松。
「通りがかった車は無かったですって?
そりゃあ、車は通ってないわよ。
でも当たりは真っ暗で誰が潜んでいても分からない状況だった・・・」
悦子が反論する。
「悦子の言う通りだ。岩陰からこっそり覗いていたとも考えられる」
山田が、悦子をフォローした。
「じゃあ、山田。お前は悦子の戯れ言を信じるってのかよ?!」
怒る三浦。
「100%信じてる分けじゃない。ただそう言う可能性の一つがあるって言ったんだ」
「山田の言ってる事は正しいわよ。あんた、ムキになる事ないでしょ」
悦子が言うと、急に三浦は大人しくなった。
「ちょっと待ってくれよ。仮に悦子の説が正しいと、仮定しよう。
あのヤクザを轢いて捨てたのが、ヤクザ仲間に見られていたとな。
それでその仲間の礼のために、まず真衣を殺した、と。
そいつが真衣を殺しただけで、引き下がるか?
俺達全員の命が危ないぞ」
山田が深刻な話を、切り出してきた。
「じゃあ俺達も、真衣みたいに次々と殺されていくってのか?
」と池田。
また、全員沈黙。
「それも考えられそうね・・・」悦子が言う。
「そんな事はない!じゃあ、そいつが俺の住所まで知ってるのか?!」
興奮する三浦。
誰も答えられる者はいない。
「それは分からんよ。だが、これだけは言える。殺人鬼は真衣の住所を知っていた。そいつは真衣の住所を、何かで知ったんだろう。
あの暗闇の中、コッソリ見ていたとしても顔までは、はっきり分からんはずだ。無理に怖がる必要はない」
千本松が明確な答えを出すと、皆が落ち着いた。
「どうする?舞鶴を出るか?ここにいるよりかは、狙われる可能性が低くなる」と三浦。
「俺は舞鶴から出ない」千本松が、キッパリ言った。
「あたしも出ない。ここが故郷よ」
智恵美が言った。
「おい、千本松、智恵美。命とどっちが大切なんだ?」池田が聞く。
「俺は死の危険と鉢合わせだろうとも、絶対に故郷から出ない。なあ、智恵美?」
「ええ」
二人の決意は固い。
「好きにしろよ。挙げ句の果てが、首なし死体になるだけだ」
池田は二人の凄まじい程の郷土愛に、呆れ果てた。




