罰当たり行為
千本松はしばらくボンヤリしていたが、ふと思い立つと、トランクからチェーンソーを、取り出した。
「何をするつもり?」
「こうなったのも、このお地蔵さんたちだ。ブッ壊してやらねえと、気がすまねえ」
千本松はチェーンソーのエンジンを入れた。
キザキザの刃が、高速で回転が始まる。
智恵美は、チェーンの回転音が激しくて耳をふさいだ。
歯医者でドリルを使われるのと、同じ感覚なのらしい。
まず千本松は、一直線にならんでいる地蔵の右端からチェーンソーで首を切り落とした。
地蔵の首が、地面に転がる。
「きゃははは!面白そう、あたしにもやらせてえ!」
西原真衣が、千本松に近寄った。
「いいか、こうやって持つんだ」
千本松は回転しているチェーンソーを、真衣に渡した。
振動がひどく、真衣は持っているだけで精一杯である。
千本松が背後から、真衣に手を添えてやった。
「ちゃんと支えておくから、うまく切るんだぞ」
真衣は千本松に手伝ってもらい、一体の地蔵の首を切り落とした。
「俺にも、やらせてくれよ。やらねえと、イライラする」
三浦もチェーンソーを貸してもらい、地蔵の首を切り落とした。
「智恵美、お前もやれよ。サッパリするぜ」
三浦は地蔵の首を切るよう、智恵美に催促した。
「イヤよ、バチが当たったらどうするの?!」
腕組みして拒絶する智恵美は、そんな事をすれば呪われると感じた。
「智恵美がやらねえなら、俺にやらしてくれ!」
横で見ていた山田が、興味を持った。
ストレス解消には、うってつけだ。
山田は三浦からチェーンソーを受け取り、地蔵の首を切り落とした。
無傷のままの地蔵は、残る一体である。
「誰か切りたい奴はいるか?智恵美はどうなんだ?」
山田は背を向けている、智恵美に言った。
呪われたくない智恵美は、背を向けて断固拒絶している。
そんな智恵美に向かって、皆が「ちーえーみ!ちーえーみ!ちーえーみ!」と、シュプレヒコールの大合唱を始めた。
信心深い智恵美も、段々と腹が立ってきた。
こんな地蔵さえいなかったら、幸雄の方が勝っていたのに。
そう思うと、こんな地蔵がこんな所にある事さえ許せない。
「ぬおお~!」
急に振り向く智恵美は、走って残る一体の地蔵を蹴った。
怒る智恵美は山田からチェーンソーを奪い取ると、自分でエンジンをかけ、刃を回転させた。
「十万の怨みじゃ~!」
智恵美は地蔵の首を、一刀両断した。
最後の地蔵の首が、地面に転がる。
「こうでもしなきゃ、腹の虫が収まらない!」
興奮している智恵美は、地蔵の首を切り落とす事で、落ち着きを取り戻した。
千本松はチェーンソーを智恵美から返してもらうと、トランクへしまった。
腹の虫が収まった所で千本松は、地蔵の首を蹴って日本海へ捨てようとした。
「待って!」急に悦子はストップをかけた。
「何だよ、急に信仰心が芽生えたのか?」
蹴るのを止めた千本松。
「そのお地蔵さん、どこかで見た事があると思ってた。
それは京都府の重要文化財よ。
江戸時代に建立され、数々の災いから民を救ってきたという伝説があるって、テレビで紹介してた」
悦子が説明すると、皆がゲラゲラ笑った。
「笑い事じゃない!あんた達は府の重要記念物を破壊してしまったんだから!」
「だとしたら、余計壊し甲斐があるってもんだ」山田が言う。
「どうでもいいようなガラクタを壊すよりかは、有名な物を壊した方が、騒ぎが大きくなる。
それで大騒ぎになって、慌てふためく姿を見るのが好きなんでな」
池田が悦子以外の皆を見渡して言った。
全員、この事が全国中継でネット放送されれば、してやったりという顔だ。
「ケダモノが・・・」
悦子は愉快犯の友達を持った事に、深く失望した。
「どうでもいいけど、この首は捨てるぜ!」
千本松は再び、蹴ろうとした。
「やめて、捨てるなら、どっか他の場所に捨てて!
ここじゃ、すぐに発見されてしまう!」
悦子は何とかして、罰当たり行為の発覚を遅らせようとした。
「分かったよ、悦子がそこまで言うんなら・・・。
この首は永遠に見つからないような場所に、捨ててやる」
千本松は六つの地蔵の首を、トランクに詰め込んだ。
この首は沖合い漁業に出ている時に、海に捨てればいい。
千本松は親父の漁師と共に、漁業をしているのだ。
朝の余興が終わった頃に、霧が晴れてきた。
「あ~、これでスッキリしたわ」
真衣が千本松に、抱きついた。
「あんた達、器物破損でしょ」
悦子は怒ってる。
そんな悦子を、皆が笑った。
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翌日。
新居浩一はいつものように、お地蔵さんにお供え物をしに出向いた。
老人になった浩一には、舞鶴地蔵にお供え物をして今日一日の無事を祈る事が、朝の日課になっていた。
「待ってよ、お爺ちゃん!」
孫の忠文が追いかけてきた。
元気明朗な孫である。
「忠文、走らんでええぞ。コケたら危ないだろうに・・・」
忠文は走って、祖父に追いついた。
浩一は孫と手を繋いで、お地蔵さんの祀られている場所まできた。
そこの光景を見て、浩一は背筋がゾクゾクっとした。
お地蔵さん全員の首から上が、無いのだ。
誰がこんな罰当たりな事を・・・。
イタズラにしては、度が過ぎている。
「お爺ちゃん、お地蔵さんの頭がないよ、どうして?この前はあったのに?」
「誰か心ない者が頭を盗んだんじゃ・・・」
とにかく、警察に連絡せねば。
浩一は簡単ケータイを取り出すと、舞鶴署に電話をかけた。




