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閑話-2 マリコ視点

 私はマリコ、トモミとは高校時代からの友人だ。


 トモミとは4年ほど前から月1回くらいの頻度で手紙のやり取りをしている。手紙の内容はやはり自分達の子供のことが多い。私の子供は女の子で10歳、トモミの子供は男の子で2歳だ。子育てに関しては私の方が先輩なので色々とアドバイスすることもある。毎年子供達の誕生日にはプレゼントのやり取りをしている。トモミからは向うの惑星の貴族の間ではやっているという子供用のおもちゃが送られてきた。簡単な魔道具らしい。手を触れるとさまざまな色の光を発しながら音楽を奏でる水晶球とか、かわいいぬいぐるみ(でも地球の動物とはどこか違う)が踊りながら歌う物とかおもちゃの魔法使いの杖とかである。娘は大いに気に入っていたが、友達に見せない様言い聞かせるのが大変だった。特に魔法使いの杖はまずい。さすがにおもちゃだから危ない魔法は出ないが、光や水の玉をだしたり、そよ風を吹かせたりという魔法が使える。どこで売っているのか聞かれたら困ってしまうからね。私はこちらの幼児用の玩具を贈ったが、トモミの子供も気に入ってくれたとのことだ。


 私はマンションの一室に娘のサチコとふたりで住んでいるのだが、ある休日の昼下がりインターフォンのチャイムが鳴った。インターフォンの液晶画面には怪しい人物が映っている。フード付きの濃い茶色のマントを羽織り手には長い杖を持っている。まるでおとぎ話に出てくる魔法使いの恰好だ。怪しさ満載である。新手の新興宗教の勧誘か? と思っていると、その人物がフードを下ろした。


「トモミ!」


 と私は思わず叫んでしまう。


「マリコ~! 久しぶり~。」


 トモミが呑気そうに言う。私は急いで玄関に向かい扉を開けた。トモミの顔を直に見て、先ほどから感じていた違和感の正体に気付く、こいつ年をとっていない! いや違う、若返っている! どう見ても20歳前後にしか見えない。思わず、


「ズリ~~~」


 と叫んでトモミのほっぺをつねり上げた。


「いひゃい! いひゃい!」


 とトモミが意味不明のことを言っている。いや、ズルイよね。こちとらアラフォーまっさかり、あと数年すればアラフィーに成るのだよ。毎日お肌の手入れには最新の注意を払っているんだ。


「なんで若返っているのよ!?」


 と部屋の中に招き入れたトモミに当然の疑問を投げかける。


「いや、いちおう神だから...。」


 分かってはいるんだけど納得できない。


「説明になってない!」


「老化を止めるのは簡単なのよ。」


 聞き捨てのならないことを言った。


「あんた、たった今日本中のアラフォー女性を敵に回したからね!」


 私の剣幕に怯んだのか、アハハーと笑いで誤魔化している。


「まあいいわ、よく来てくれたわね。」


 私が少ししんみりして言うと、トモミもちょっと鼻声になる。


「元気そうね。よかった...。」


「突然どうしたの、前もって言ってくれれば良かったのに。」


「いや、突然地球の神様から依頼が入ったのよ。それでついでにマリコに会って行こうと思って。」


「そうなんだ。」


 その時、トモミが扉の向こうから覗き込んでいるサチコに気付いた。


「うわ~! サチコちゃんね! 」


 と言いつつ椅子から立ち上がりサチコに駆け寄る。


「私はトモミお姉さんよ! よろしくね~。」


 コラ~! なにがお姉さんだ!!! 私と同じ年だろうが!!! サチコはトモミの迫力にびっくりした様で自分の部屋に逃げて行った。


「あんた、繊細なうちの娘に何してくれるの?」


「ゴメン、驚かせちゃったね...」


 としんみり言う。仕方ない、後でサチコに紹介してあげよう。


「それで、地球の神様の依頼ってなんなの? 」


 その時つけっぱなしになっていたテレビが彗星に関するニュースを報道した。なんでも新しく発見された彗星が地球のすぐ傍を通過するらしい。あとひと月もすれば夕方の空に大きな彗星が見え今世紀最大の天体ショーになるだろうとの事。一部には地球に衝突する可能性があると主張する学者もいるとか。


「用事はあれよ。その彗星、ついさっき破壊して来たから来ないわよ。」


「破壊した???」


「うん、地球に衝突する可能性が高かったからね。というわけで私は地球の危機を救ったわけよ。だからご褒美をちょうだい!」


 ハァ~、まあ嘘じゃないんだろうね。お前はウル○ラマンかと突っ込みたいけど。


「褒美って、何が欲しいのよ?」


「もちろんマリコの作ったご飯よ! 和食が食べたい!」


「いいけど、急だから大したものは出来ないわよ。」


「何でもいいよ。向こうにはお米が無いのよ。お米のご飯が食べたいの。」


 相変わらず食い意地が張っているな。まあ、ご飯は炊飯器に残っているし、和食が食べたいと言うのなら、焼き魚に豆腐の味噌汁、後はだし巻き卵にお漬物くらいならすぐに用意できるか。そういえば筑前煮も作り置きを冷凍していたっけ。適当に作って出してやると、おお、食べる食べる涙を流しながら食べてるぞ。そんなに美味いか?


「うっ、うっ、美味しいよう...。」


「何も泣かなくても。」


「だって、夢にまで見た和食だよ! やっぱり日本人なら米を食わないと!」


「そんなに食べたいんだったら、魔道具のお盆に米を乗せといてあげようか? お盆が小さいからそんなに沢山は乗らないだろうけど。」


 と言った途端「心の友よ~!」と言いながらトモミに抱きしめられた。まあ、しっかり食べてくれました。やれやれ夕飯用にご飯をもう一度炊かないと。


「ふう、やっと落ち着いた。ありがとうねマリコ。あっ、それとこれお土産ね。」


 と言いつつ、何もない空間から木で出来た箱を取り出す。


「私の住んでいる町で人気のお菓子なの、直ぐ売り切れるから手に入れるのに苦労したのよ。」


 蓋を開けるとパウンドケーキに似たものが入っている。美味しそうな匂いだ。


「ち、地球人が食べても大丈夫なのよね。」


「大丈夫よ、私が保障するわ。」


 いや、トモミは偉い神様に人外宣告されたって書いてなかったっけ? あんたが大丈夫でも...と疑いの眼を向ける私に気付いたのか、


「大丈夫だって、それなら今から食べようよ、何かあっても私が治すから。そうだついでに健康診断をしてあげるよ。」


「あんた、まだ入るの?」


「甘い物は別腹よ。」


 まあ、信用することにしてお茶の用意をし、サチコも呼んで来て3人でテーブルに付く。トモミの持ってきたお菓子は確かに美味しく、食べている内に固かったサチコの表情も和らいできて、トモミに誕生日プレゼントのお礼も言えるようになった。トモミもサチコと話が出来て嬉しそうである。


 しばらく話をしていたが、その内トモミが「そろそろ帰るわね」と言い出した。


「でもその前に約束どおり健康診断をしてあげる。」


 といってどこからか杖を取り出した。そういえば部屋に入った時には持っていたのにいつの間にか消えていたんだ。その杖を持ってサチコの頭から足先まで順にかざしていく。


「はい、サチコちゃんは異常なし。健康よ! 次はマリコね。」


 こんなので分かるのか? と思ったが一応トモミにされるままにする。一応神様のはずだからね。サチコの時と同じように頭から順に杖をかざしていたが、胸のあたりで止めた。


「マリコ、最近咳が出やすくない?」


「そうかな?」


「ママ、寝てるときに良く咳してるよ。」


 とサチコが心配そうに言う。そう言われれば最近横になると咳が止まらないことがある。


「サチコちゃん、大丈夫よママの病気はお姉ちゃんが治しておくからね。」


 とトモミは言って杖を足先まで進めた。


「はい、終わり。マリコは肺にちょっと問題があったけど直しといたからね。」


「そう、ありがとう。」


 と答えたが、病気を自覚してないから治ったという実感もない。まるで信じる者は救われると述べるどこかの新興宗教の教祖様みたいだ。


「マリコ、変なこと考えているでしょう。まあすぐに分かるわよ。今夜から咳は出ないから。」


 さすが長年の付き合い。私の考えていることはお見通しだった。それからすぐにトモミは帰って行った。目の前から一瞬で消えた時は、私もサチコもしばらく唖然として立っていた。いや、理性ではトモミは神だと分かっているんだけどね、実感が湧いてなかったと言うか。


 確かにその夜から咳が出なくなった。翌日職場に行くと、同僚のシズカが話しかけてくる、彼女も私と同じアラフォーだ。


「マリコ、どうやったの?」


「何?」


「とぼけないでよ、そのお肌のハリとツヤ。どうやって手に入れたのか聞いてるのよ。まるで若返ったみたい。」


 やはり気付かれたか、自分でも朝鏡をみてびっくりしたんだ。


「何もして無いわよ。」


「あっ、自分だけの秘密にするつもりだ。ずるいわよ。」


「いや、だから何もしてないって。」


 その後、シズカを誤魔化すのに苦労した(○○温泉に行ってきたからその効能だろうとしておいた)。トモミめ、私がトモミが若返っているのを羨ましがっていたから何かしたな。


 それから、彗星による今世紀最大の天体ショーはトモミの言うとおり起きなかった。天文ファンはガッカリしているらしい。テレビでは彗星が消えてしまった原因について色々と専門家が仮説を述べていたが、その内彗星の件は世間から忘れ去られてしまった。真相を知っているのは私とサチコだけの様だ。


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