4. 精霊の神殿
「女は殺すなよ! 稼ぎが減るからな!」
「た、助けて。」
「おとなしくしろ、怪我すると売値が下がるんだ。」
攻めて来ているのは奴隷狩りの集団で間違いなさそうだ。
「神殿には女の人が沢山いるの?」
とカイちゃんに尋ねる。
「うん、いっぱいいる。」
神殿に奴隷狩りに来たわけか。どちらに味方するかは決まりだな。私は神殿の上に来ると魔力遮断結界を解除した。カイちゃん、サラちゃんが固まった。驚かしてゴメン。地上では全員が空をポカンと見上げている。まあ、リリ様が憑依していた時には劣るだろうけど、今の私でもそれなりに神々しく光り輝いているはずだからね。
<< 神の神殿を汚すものは許しません。ただちに出て行きなさい! >>
全員に念話で呼びかけると共に、奴隷狩りの集団が集まっている所を狙って、連中の周りに雷を連続して落とす。奴隷狩りの連中は腰を抜かした様に座り込むものが続出。
<< すぐに出て行かないと、今度は脅しではすみませんよ。>>
と再度脅すとさすがに逃げ出した。私は神殿の人達に向け治療魔法を展開、全員の怪我を治療し、同時に神殿の火災を一瞬で消す。最初はあっけにとられていた神官や巫女達だが、ひとりが私に跪き頭を下げると、全員がそれに習った。本当はそのまま飛び去りたかったが、カイちゃん、サラちゃんがいるのでそうもいかず、しかたなく神殿前の広場に着地する。カイちゃんとサラちゃんは、相変わらず固まったままだったが、私が魔力遮断結界を張り直すと再起動した。
「ま、魔法使い様ってすごいんですね。」
「どう? ちょっとしたものでしょう。」
ニコッと笑いかけるとカイちゃんも微笑んだ。それを見ていた男性がひとり、恐る恐る近づいてくる。私の前に来ると正座し、頭を地面に擦り付ける様に下げる。
「女神様、我々の罪を罰しに来られたのでしょうか。」
「罪ですか? 」
「はい、先ほど女神様は『神の神殿を汚すものは許さない』とおっしゃいました。私達は廃墟となっていたこの神殿を精霊様の神殿として使わせていただいております。そのことを罰しに来られたのではないのですか?」
しまった、いつの間にか私は女神ということになっている。最初に否定しておくんだった。今からでは遅いだろうな。
「そうだったのですね。使われていなかったのであれば神殿といえど好きに使って構いません。それに私は人を探しにこの世界にやって来ただけですから。」
男性はこれを聞いて心から安堵した様だ。この神殿はこの惑星から神が居なくなって一旦使われなくなったものを、精霊様を崇める人達が自分達の神殿として使っている様だ。神がこの惑星に対して責任を果たせていないのだから文句を言える立場ではないだろう。
「寛大なお心に感謝いたします。私はこの神殿の長を務めておりますカルロスと申します。」
「カルロスさん、よろしければ精霊様の話を聞かせて頂けませんか?」
「もちろんでございます。よろしければ神殿の中の部屋にてお話しさせていただきます。」
「分かりました。案内をお願いします。」
私はカイちゃん、サラちゃんと別れてカルロスさんの案内に従って神殿に入った。カイちゃん、サラちゃんは戦争孤児でこの神殿で精霊様の信者のひとりとして暮らしているらしい。
神殿は一旦遺棄されていたからか、内部の壁等に汚れが目立つが手の届く範囲は清潔に保たれている様だ。信者の人達が出来る範囲で掃除しているのだろう。しばらく歩いて客室と思われる部屋に通された。椅子に座るとすぐにお茶を持った女性が入室してくる。お茶がテーブルに置かれるとカルロスさんが口を開く。
「女神様、この者は副神殿長をしておりますローザと申します。精霊様の話をするのに同席させてよろしいでしょうか?」
私が認めるとローザさんは挨拶をしてカルロスさんの横に座った。ふたりとも複雑な心境だろうなと思う。神がこの惑星からいなくなってから100年以上経つ。頼りにならない神に代わって現れた精霊様を信仰していたところに、突然女神の私が現れた。しかも私がとんでもない魔力を秘めていることは先ほど自分自身の目で確かめている。自分達の信仰が正しかったのかどうか不安に思っているのかもしれない。
「ご心配なく。私はあなた方の信仰について何も言うつもりはありません。むしろ、この100年この世界を加護できなかった神界に代わりお詫びいたします。申し訳ありませんでした。」
私は椅子から立ち上がってふたりに頭を下げた。ふたりは驚いた様に顔を見合わせ、あわてて私に頭を上げる様に言う。神が人に謝罪するのが相当意外だった様だ。
「頭をお上げください。きっと神様にも事情がお有りになったんだと思います。私としてはこの100年が私達の罪に対する神の罰でなかったと知って嬉しく思っております。」
「ありがとうございます。それで精霊様についてなのですが、もし精霊様が神に代わってこの世界に加護を与えて下さっているのであれば、お会いしてお礼を申し上げたいと思っています。精霊様について教えて頂けないでしょうか?」
「分かりました。それでは....」
で始まるカルロスさんの精霊様についての説明を纏めると以下の様になる。
1. 精霊様は約10年前に突然この世界に現れ、ドリスという少女と知り合いになった。その時点で精霊様には姿がなく目で見ることはできず、声を聴くことしかできなかった。
2. 少女と知り合った精霊様は少女と同じ姿を取られ人にも見える存在となった。ただしその姿は半分透けており、人でないことはひと目で分かる。
3. その頃、この世界は自然災害と異常気象で悲惨な状態にあった。少女の願いを聞いた精霊はその大いなる力を使い、現在まで世界を安定させて下さっている。
4. 精霊様を信仰する人々の数は増え続けているが、 長年続いている神への信仰を続けている人々も多く、精霊信仰者は多くの地域で迫害を受けている。
やはりこの惑星を安定させてくれているのは精霊様の様だ。ありがたい、感謝である。