1. 私のお仕事
この小説は前作「新米女神トモミの奮闘記」の続編になります。前作を未読の方は先にそちらを読んでいただけると設定や世界観を把握しやすいと思います。
今私は宇宙空間にいる。背後にはある下級神が管理する惑星が遠く輝いている。そして前方からは小惑星群がその惑星を目指し迫りつつあった。
私は足を肩幅より少し広めに開いて腰を落とす、さらに両手を右のわき腹の前で構えある特殊な呪文を詠唱する。
「カ~
メ~
○~
メ~....」
全力の魔力を両手の手の平の間に溜めてゆく。そして、ハァッ!!! の掛け声とともに腕を前方に伸ばして一気に解き放つ。ちょっと格好をつけたが、小さい頃に良く視ていた某人気アニメの真似だ(誰も見てないから、ちょっとくらい遊んでもいいよね)。子供の頃によく真似をして遊んだものだが、大人になってから実践するとは思わなかった。小惑星群は見事に砕け散り、あるいは軌道を乱してあらぬ方向に飛んで行く。私はそれを見定めてから背後の惑星に瞬間移動した。
<< トモミちゃん、ご苦労様。助かったわ。>>
<< いえいえ、大したことありませんから。>>
<< お礼にこの惑星の名物のお菓子を用意したの、食べて行かない? >>
<< はい、よろこんで♪♪>>
神が管理する惑星に衝突しそうな小惑星や彗星を処理するのはもう何度目だろうか。小惑星や彗星の処理は本来は中級神の仕事のはずなのだが、今この銀河系の神は壮絶な人手不足なのだ。そのため最下位の亜神である私までが度々駆り出されている。それもこれも憎っくき超越者の所為で行方不明になる神が続出した所為だ。超越者から逃げるため、私達のいる銀河の神々は上級神リリ様と中級神達の力で銀河ごと別の次元に移動した。それが11年前のことである。
ちなみに、この次元には私達の銀河以外に天体は存在しない。ということは私達がこの次元に逃げ込むまでは、ただ空間のみが広がっていただけということになる。リリ様が言うには物質がなく空間だけがあるというのは本来ありえないことらしく原因を調査中とのことだ。
そういえば、明日は同じ亜神仲間のパルさんの元を訪れる約束だった。彼女は惑星ツエルクの管理神だ。本人曰く、まだ神になるには早すぎるのだが、魔力の多さ故に超越者に目を付けられ、前世で亡くなったタイミングで現在の惑星の神として送り込まれた。超越者は自分で多くの神々を行方不明にしておいて、適当な魂を神に格上げしていたらしい。もっとも超越者から逃れた現在も神不足の状況は変わらず、リリ様からも神として惑星ツエルクを管理して欲しいと依頼されている。ただ、いくら魔力が多くても本来の神には届かず。私が惑星安定化の魔道具をプレゼントするまで惑星の自然災害防止に苦労していた。
一方で、実をいうと私の魔力は異常である。リリ様の魂が離れてからも年々多くなっているのだ。リリ様からは「トモミを中級神にして欲しいって要望が多いんだけどどうする?」と無茶振りされるのだが、当然断っている。私の魔力が中級神並みだと言うことらしいが、魔力量だけで判断しないで欲しい。中級神になれば下級神の上司となるわけだが、下級神ですら年齢が数億年の方がざらなのに、生まれて半世紀にも満たない経験不足の私がいきなり上司になんか成れるわけないじゃないか! しかも平均的な中級神で約1万人の下級神が部下に居るんだよ! 幼稚園児がいきなり大会社の部長に成るようなものだよ。無理! 無理! というわけで、私は中級神並みの魔力を持つ亜神ということで少し微妙な立場にいる。
ひと仕事終え、惑星ルーテシアの交易都市ギネスにある我が家に帰還した私。そそくさと目指すは我が愛しの息子タロウのいる子供部屋である。そっと扉を開け部屋の中を覗きこむ。乳母のネスレさんと積み木で遊んでいたタロウは、私の顔を見るととっておきの笑顔になり、「ママ~」と叫んでトコトコと走って来る。
「ただいま~~。」
と言いながら私はタロウを抱き上げる、至福の瞬間である。
「おかえりなさいませ。今日も坊ちゃまはお元気でしたよ。」
と乳母のネスレさんが挨拶してくれる。お利口さんでしたよ、ではなくお元気でしたよと言うあたりにタロウの元気すぎる日常が目に浮かぶ。まあ、2歳の男の子に何をか言わんやである。
「ネスレさん、いつもありがとうございます。後は私が面倒を見ますので。」
「分かりました。それでは今日はこれで失礼しますね。」
と言ってネスレさんは部屋を出て行く。ちなみにネスレさんは私が女神であることを知らない。私とハルちゃんはドワーフの冒険者夫婦ということになっているのだ。ちなみにドワーフを選んだのは、私とハルちゃんがドワーフ体型と言うこともあるが、もうひとつ理由がある。ドワーフの寿命が人間族に比べ倍くらい長いことだ。年を取らない私とハルちゃんが周りから奇異の目で見られずに長く同じ場所で暮らすにはドワーフの方が適しているのだ。とは言ってもこの家に住んで15年近く経つ、出来るだけ人に会わない様に気を付けているとはいえ、そろそろ別の場所に引っ越した方が良いかもしれない。
「タロウ、今日は何して遊んだのかな?」
と私が尋ねると、「ん~とね、ん~とね...」と考えながら、今日ネスレさんと行った遊びをひとつひとつ説明してくれる。
「そう、よかったわね。遊んだらお腹が空いたかな? ご飯を食べに行く?」
「うん。おなかすいた。」
そんな話をしながら私とタロウは食堂に向かった。途中にあるハルちゃんの書斎の扉をノックする。
「ハルちゃん、ただいま。夕食にしない?」
「お帰りトモミ。今日はどうだった?」
いつも通りのハルちゃんの優しい笑顔をみてホッとする。ハルちゃんはアレフさんからの報告書に目を通していた様だ。ご苦労様です。私は書類仕事は苦手なのでもっぱらハルちゃんに任せている。
これが私の日常である。要するに、惑星ルーテシアの事は惑星安定化の魔道具やアレフさんにお任せし。書類仕事はハルちゃんに任せ(なんか人に任せてばかりの様な気がするがきっと気のせいだろう)、私は特に何の役にも立たず、もっぱら小惑星排除の様な肉体労働(?)に励んでいる。
ちなみに、奇跡の噂を流すためのハルちゃんとの旅は、太郎が1歳になるまでの1年間は中止、それ以降はタロウをネスレさんに預けて日帰りで出かけている。もちろん彗星・小惑星除去作業やアレフさんとの打ち合わせの予定が入っていない時だけである。アレフさん曰く、既に沢山の噂を流したから少しペースが落ちても大丈夫でしょうとのことだが、実はタロウが生まれるまでの旅はハルちゃんとのデートも兼ねて色々と食べ歩きや観光に時間を割いていたから実質奇跡の噂のペースは変わっていない(アレフさんには内緒である)。




