宿命
「ごめんなさい。ありがとう――」
私はそう言って、眠っている彼の額に唇を押し当てた。
もう、これっきりにしましょう――。
ほんとに、彼にはなんども命を助けてもらった。
私たちはお互い、魔王を倒すという宿命の元集まった仲間だった。
彼は勇者ではないけれども、努力を怠らない、すごく真面目な
なんていったらおかしいけれど、でもほんとに真面目過ぎる盗賊だった。
真面目だし、優しすぎるし……。
実際、盗賊じゃなくて勇者なんじゃないかって思えるくらい……。
しかも、とある賢者様の話では、勇者は職業ではないとか。
別に、そんな話しどうでもよかったけれど。
私は、そんな勇者様を助ける盾になりたかった。
私の性格じゃ厳しいといわれたけれど、私は彼のために魔法使いを志した。
不器用で、魔法もよわっちいのばかり……。
なんも役に立たない、哀れな魔法使い。
けれども、彼曰はく私がいてくれて充分助かっていると。
私のおかげで、どんなピンチでも負けない強い心を持つことができたと。
彼は――勇者様はおっしゃってくれた。
それだけで、私は救われていた――。
私は彼に恋心を抱いていた……。
決して結ばれることのない、恋――。
そして明朝、彼はついに最大のライバル魔王様と対峙する。
それは、勇者生命をかけた大事な勝負。
これに勝てなければ、明日の未来はもうない――。
分かってる……。
だからせめて、さよならはあえて言わないことにした。
唇に彼への想いを込めて。
彼には――勇者様には、もう迷いはない。
「……私も覚悟を決めなきゃ」
分かっている……。
分かっているんだけど、涙が止まらなかった……。
これが運命だってこと、まだ認めたくなかったから――。
「ごめんなさい。ありがとう――」
ようやく吐き出された言葉が、結局これだった。
そしてこれが、彼との今生のお別れだった――。
そうして――
彼は目の前にやってきた――
「やあ……。いらっしゃい、強きゆうしゃよ――」
魔界の王様である、私を倒しに……。