トドメをさす。
この関係に名前をください。環ちゃん(主人公)として書いていますが、この短編、環境、人物構成から読み手のみなさんに色んな解釈をしてもらえたらな。と思います。
「おはようございまーす」
従業員用ドアからヒョコッと顔を出してオーナーに挨拶をする。
「環ちゃんおはよう、ごめんね〜急遽シフト入ってくれて」
「いえいえ、また吉木先輩遅刻なんですか?」
事務室の椅子に座っているオーナーは「まったく」というような肩をあげるジェスチャーを見せる。
アパレルの仕事だけあって、流行を取り入れている服装を纏う姿に毎回ガン見をしてしまう。
支度を終えて、入荷したアクセサリーをちまちまと並べている時だった。
「すんません遅れました!」
バタバタとわざとらしく靴を鳴らしながら先輩が私の所に近づく。
「おはよ、俺の代わり?」
「ですよ。また夜遊びですか」
チラッと見上げると首にはキスマークのような痣。それを確認したのかいたずらな笑みを見せる。
「今回は髪がめっちゃ柔らかい子でメンヘラだった」
「要らんわそんな情報、早く支度してきてください」
「へいへい〜」
グワッと大きな手が伸びてきたかと思うと私の頭をわしゃっと軽く撫で、奥へ立ち去る。
悔しいと思った。夜の相手にではなく、先輩のそんな大人な余裕を見せるところが。
結局元々人手が足りないシフトだったこともあってラストまで働いた。私えらい。お疲れ様。
更衣室から出ると既に支度を終えてスマホをいじっていた先輩がこちらに気がつく。
「おっそ」
「いや、待たんでいいのでは」
「えーそんなつれないこと言うなって」
そう言うとヘラッと笑い立ち上がる。
お互い好き合っているわけでも、付き合っているわけでも無いのに周りから見ればそう思えない光景だろう。
「今日もお熱いね〜」
その場を見ていた早川さんが弄るような声を背に「お疲れ様でーす」と言って裏口に出た。
「今夜も夜遊びですか」
「え、気になる?」
「また遅刻とか勘弁です」
「今日の感謝も込めて酒奢るよ」
「当たり前です」
近くのコンビニに立ち寄り、バッグからタバコを取り出す。
実を言うと祖父がスモーカーであまり臭いが好きではなかったが、周りの勧めもありなんとなくで始めたタバコも6mmを吸うようになってしまった。
そんな事を考えていると片手にビニール袋を下げた先輩が不機嫌に戻ってきた。
「先に一服とか酷い」
「待ってる義理ないですもん」
「環ちゃんはドライだねえ、はいこれ」
「…どうも」
カツンッと缶を鳴らし溢れないようゆっくりアルコールを口の中に流す。飲んだり吸ったりで会話もなくなりスマホを触る。
「いい男いた?」
目線をこちらに向けるでもなく問われる。
「んー、やっぱ飲み友程度です」
「え、誰それ」
食い気味にこちらを向く。
それに対してスマホを見つめながら素っ気なく答える。
「吉木先輩が知らない人」
「…ふーん」
「気になります?」
「気になる」
意外な反応に一瞬。時が止まったかのような感覚。
私に気があるかのような返しをしているんだろう。そう言う人だ。残り少ないタバコを吸い終え立ち上がる。
「さ、そろそろ電車来ますよ」
「立ち上がれない〜」
駄々をこねる子どものような声で私を見ると手を出して引き上げて欲しそうにする。でかい子どもだなあ。とか思いつつ両手で引き上げようとした時だった。
先輩は真っ直ぐに私を見つめながら、告げる。
「俺、ちゃんと好きな子できたんだ」
今回もたどたどしく、ただ一つの物語の雰囲気を読んでいただきたく頑張りました。
あまり心情をボロボロ書くと前書きの様にはいかないと考えて、2人の話を楽しんでいただけたら満足です。