スキルの効果、2つ
終わったーー!!京都も東京もやっと終わったーー!!
これでやっと自由...ではありませんが、これからいつも通りのスピードでかけると思います!!
これからが私の夏休みだ!!...え?もう秋?
朝早く王都へと向かい馬車を走らせ早、半日が過ぎた。
王都への道は日本の道路のように舗装された真っ平らな道ではなく土がむき出しとなったでこぼこ道。
天気はクソ暑いほどに快晴。
外は虫がブンブンと耳元を飛ぶ不快な道でいながら馬車の中は「エコノミー」や「ビジネス」なんかでは決してない「ファースト」の快適な王都への旅になっていた。
「いやぁ…何というか…」
「私たちの部屋より心地良い所ね」
雪のように柔らかな腰掛けをそっと撫でる。しかし馬車が動けば起こり得るはずの振動は殆ど伝わってこなかった。
高性能なサスペンション…
視界を上へとあげてみれば四角い箱から冷たい風が流れていることが肌で感じられる。
冷房完備…
上げた視界を少し戻せばドリンクスターが堂々と鎮座していた。
ドリンク飲み放題…
おまけに空間魔法を贅沢に使った簡易図書館まであるという。
いやはや、何ということでしょう。
想像していた狭く蒸し暑く、ガタガタと揺れ尻が痛くなる馬車は、どこかの匠の心意気により動く快適喫茶店と変貌しているではありませんか。
「そうじゃろ?何せ我が家の家宝、『タロウコレクションNo.016、快適馬車』じゃからな!」
なんだタロウコレクションって。
今、俺たちはマッティアさんの好意により贅沢にも俺とリナとミアという三人だけで馬車に乗っていた。
「あ、そういえば、つい二週間ほど前にこの辺りで盗賊が出たって話知っておるか?」
「盗賊?」
ミアが唐突にそんな話を切り出した。
盗賊っていうと誘拐、窃盗、殺人、金になることなら何でもやる極悪集団。
到底出会いたいとは思わない。
でも、この期待裏切る世界でそううまくいくものか...
「そう盗賊じゃ」
「盗賊が出るなんて随分と物騒じゃない。すぐ捕まえとかないと危ないじゃない」
リナがぶっきらぼうにそう答えた。
どうせその「危ないじゃない」の前に「私が」となどが入ってるんだろ。
リナがジロリとこっちを睨む。
「何勘違いしとる。言ったじゃろ?盗賊が出たと、過去形じゃ」
「それじゃ、盗賊は捕まったって事?」
「そうじゃ!この道を歩いていたたった一人の女に返り討ちにあったらしいんじゃ!!」
ミアは興奮し思わず立ち上がって熱弁する。
盗賊は捕まったのか。
つまり、危険はないと。
良かったぁ。
ふぅ。
つい安堵のため息をついた。
「つまり!そこまでの強力な力を持つ女は魔女である可能性が高い!今度こそ立派な魔女になるチャンスなのじゃ!!」
ドンッ!
馬車が急に止まった。
そのおかげで不意に前のめりに力が襲いかかった。
座っていた俺とリナはどうにか倒れずに済んだが立っていたミアは一回転しそうな勢いで頭を強く打ち派手にこけてしまった。
「うぅ…痛いのじゃ…」
ミアは涙目で頭をさすりながら小動物のような瞳を使い上目使いでこちらを見る。
か、可愛い。
…じゃなくて
ミアに手を貸して起こしつつ何が起こったのかと颯爽と馬車の外へと出る。
「親方がやられた以上やけだ!!お前ら!人生最後の大仕事だ!!派手に暴れてやれ!!」
「おおおぉぉぉ!!!」
ボロい服にボロい頭巾で顔を隠して手にはそれぞれバラバラの武器を携えたならず者集団、十数人。
そう盗賊団の皆さんのご到来出会った。
なんと早いフラグ回収。
馬車に乗れば必ずやってくるお約束の展開。
圧倒的チート能力を持ってるならいざ知らず、こちとら一回でも刺されれば終わりの貧弱転生。
やめていただきたい。
盗賊たちは手に持つ武器を高々とこちらに見えるように走り飢えた鳥のようにわらわらと押しかけ迫り来た。
ドクッ
心臓の鼓動が一つ跳ね上がった。
「落ち着いて対処しろ!数はこっちが多い!一人で受けるな!」
ギルドのおっさんが迅速で状況を素早く読んだ的確な指示を飛ばした。
おっさんの指示を受けたギルドの職員の対応は素早い。
すぐさま剣を抜き荷馬車を守る陣形を整えた。
そのあまりにも隙のない手早い対応に思わず呆然と立ち尽くしてしまった。
バタリ、バタリとまた一人また一人盗賊達は流れ作業のようなリズミカルな痛快さでギルド職員に切られ殴られ倒れて行く。
「いやー、さすが仕事しなくて良いって言っただけあるわね」
あくびを噛み殺しながら馬車からゆったりとリナが降りてくる。
相変わらず危機感のないやつだ。
わからなくは無いけども。
皆真剣な表情を浮かべてはいるものの、形勢は圧倒的に優勢だった。数でも練度でも負けていないのだから当然といえば当然。
「おい!ぼさっとするな!!」
おっさんが鬼気迫ったガラスが割れんばかりの轟音で怒鳴なった。
しかし、形勢が優勢だからと言って完全に安全というわけでは無いという当たり前のことをもっとよく考えるべきだった。迂闊だった。
気づけば最後の生き残りである一人の盗賊がまっすぐとこちらの馬車に向かって走ってきていた。
盗賊との距離は5メートルほど。
油断した。うっかりした。後悔はいくらでも思い浮かんだ。
盗賊はそんな俺の降り積もる後悔を知る余地もなく手に持つナイフをギラリと光らせ迫り来る。
盗賊の狙いはどうやら一番小さく若いミアだった。
さらにはミアはちょうど馬車から降りたところで叫ばれまだ唖然としていた。
小さくて、か弱くて、動揺している、これ以上標的としてはベストな獲物はいないことだろう。
まずいと思い、少年より貰い受けた(奪った)ナイフを懐から抜き愚直にもミアの元へと走った。
ただ真っ直ぐに直線に。
すでに盗賊はミアに向かってナイフを振りかぶっていた。
カンッ
金属と金属のぶつかる甲高い音が響いた。
盗賊は突然の乱入者にナイフを弾かれ対応出来ず慌てふためく。
『猫の予感』
今が勝機とスキルを使いつつ懐に飛び込む。
この数ヶ月ただ仕事をしていた訳じゃない。
夜中プルーに鍛えてもらっていたのだ。
狼狽した盗賊は腰の入っていない振りを繰り出した。
ナイフが怪しく光る。
「この程度!あの時ほど怖くはないッ!!」
後ろへ逃げるのではなく膝を曲げかがむ事で盗賊のナイフをかわす。
盗賊の鈍間なナイフなんて狂気の少年の燃える剣に比べれば軽く鳥肌が立つ程度。
ナイフが盗賊の伸びきった腕に釣られてぬるりと頭の上を通過した。
髪の毛がナイフに数本刈り取られ陽の光を反射してキラキラと光り空へと舞まった。
目に見えないものもはっきりと認識できた。
これもプルーに鍛えてもらってどうにか使えるようになったスキルのおかげであった。
辛うじて使えるようになったスキル『猫の予感』は第六感を異様に高めるものだ。ただし...
ナイフが頭上を通り過ぎた頃には中途半端な攻撃をしたせいで盗賊は完全に体制を崩していた。
「ニャりやーー!!」
俺は足に目一杯の力を加え斜め前へと飛びナイフの底部盗賊の溝内を強打した。
盗賊はばたりと倒れる。
何とか倒した。
足がガクガクと震えてはいるが、また一つ死の危機を乗り越えたのだと実感した。
震える足で何とか後ろを振り向く。
腰を抜かして倒れてはいるものの怪我をしていないミアが変わらずそこにいた。
可愛い...
安心してつい、尻餅をつく。
目の前にそっと手が差し伸べられた。
「お疲れ様。でも、ニャりやー!ってどんな掛け声よ。閉まらないわね」
全てのスキルにはメリットとデメリットが存在しているらしい。
そして、『猫の予感』のデメリットは、話す言葉に「ニャ」がついてしまうこと。
何とも地味で嫌なデメリットだ。
どんなにかっこつけようと見栄を貼ろうと、これじゃあまりに失笑ものだ。
「でもまぁ、ありがと...」
リナは一呼吸置いてから照れ臭そうにしながらそういった。
俺は会心のドヤ顔でこう答えた。
「どういたしましてニャ」
「...アーッハッハッハ!!」
リナは腹を抱え笑った。
そういえばまた台風が来てますね。この前も来たというのに。
ふと思ったんですがトラックにはねられて異世界にいく人は多いですが、たまには台風に飛ばされるくらいの文字通りぶっ飛んだ転生の仕方も面白いかなと。突飛な話は現実でも小説でも面白いものです。
では、皆さんまた次話でお会いしましょう!
さようなら。




