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異端ノ魔剣士 ─外伝─  作者: 如月 恭二
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字数が少ないから手抜きじゃないか、だって?


如月にそんな器用な真似は出来ません(笑)


 ミシェルと別れた後、男は街の北側に移動。情報を探るべく、手近な酒場に潜り込んだ。国王のお膝元ともなれば、明るい内から酒を呑もうとする人間に渋い顔を見せようが、ここではそのような野暮な気持ちを起こすものは居ない。

 代わりに、小声で何事かを相談する者や、楽しげに杯を傾ける者が居る程度である。


 カウンター席に腰を据えると、目に飛び込んだものは、刃傷沙汰(・・・・)の痕跡だ。黒々とした付着物が不穏な空気を助長していた。

 まず考えるまでもない。血痕であろう。拭き取って居るのだろうか、じっくり検分しないと分からないものである。


 「果実酒を一杯。モノは葡萄(ぶどう)で頼む」


 軽い酒を頼むと程なくして、鮮やかな紫を並々と湛えたそれが置かれる。むっつりとした主人を前に一口(すす)ると、控えめな酸味が果実本来の甘さを引き立てていることが分かる。

 いい葡萄酒だ。そんな世辞に、店主は眉一つ動かさない。連れない男だと思いつつ、周囲を観察していると、いつの間にか林檎(りんご)が三切れ供出されていた。それは肉厚でありながら、角張ってはいない。そこそこに騒がしい店だが、どうやら静かに出されたらしい。

 よくよく見れば、()せぎすの優男と言ったところか。短く切り揃えられた髪は快活な印象だが、人は見掛けによらないものである。或いは彼も、この街のご多分に漏れず荒事の心得があるのだろう。とは言え、人情の分かる人間は得難い。改めてそう思うと、口元が緩むのは自然な事だった。


 「心遣い、感謝する」


 黙り込んではいるものの、感情表現が苦手なのだろう。親近感が湧く相手だ。

 感慨深く、果肉から(にじ)み出る蜜を味わいつつ、視線を動かすことも忘れない。

 そもそも戦闘に限らず、情報収集は避けて通れない行為の一つである。些細(ささい)な動向、兆候に耳をそば立てる。実際、見落としがあったが為に、懇意とする情報提供者が死に、自身もまた危機に陥った。失敗に学ばねば、ただの愚か者でしかない。いっそ臆病(おくびょう)と言われる方が良いのだ。


 間抜けにも、咀嚼(そしゃく)する音が次第に尻すぼみとなる。最後の一切れは、半分も残っていない。男は追加でライ麦パン三つと、山鳥と玉葱(たまねぎ)のスープを頼む。


 手持無沙汰(てもちぶさた)な彼は、暫し手を遊ばせて居たが直に飽きてしまった。そのうえ気になる情報もなく、通りは至って静かである。

 結局彼は、調理に勤しむ店主に目を向けた。

 (よど)みなく、素早い手つきで作業を行う彼の姿は見ていて小気味良いものだ。特に野菜と肉の下処理が同時進行であることに驚かされた。鮮やかな手際に、息をするのも忘れる。ナイフの取り回しも、最早熟達した職人のそれだ。

 思わず口笛で賛美した。軽々しい上に無礼かとも思ったが、心なしか見せ方が変わった。ただの作業に見えたそれが、徐々に魅せる動きに移っていったからである。


 ──まんざらでもなさそうだな。


 出来上がった料理が陳列されて、ようやく目を離す。随分と夢中になっていたようだ。気が付けば、客の顔触れも変わっている。

 さしたることもなく、ごろごろとした山鳥を頬張る。(いささ)か骨が多過ぎるのは(たま)(きず)だが、癖もなく深い味わいが身体に染み渡る。岩塩と、僅かに添えられた青唐辛子がアクセントになっていた。やや硬めのパンも、スープに浸すと化けるものだ。瞬く間に食べてしまう。

 スープの具材の馬鈴薯(じゃがいも)を口にいれようとしたところで、彼は気掛かりな話を小耳に挟んだ。若い男たちの会話である。


 「なあ、知ってるか? 南西部の小さな町で、猟師が食い殺されたらしいぞ」


 「大方熊かなんかだろ。よくある話じゃないのか。仕留めたと思った獲物が、実は気絶していただけで逆に食い散らかされる、とかな」


 「それがどうにも違うんだと。足跡は、熊にしては小さいし、狼のものとするなら相当な巨躯(きょく)だろうって話だ。どういう訳か、ここ最近、その周辺で熊は出没していないらしい」


 「……まったく分からん。そうなると、残ったのは獅子(しし)の類だろ。痕跡はどうだ?」


 「毛の質からして違うらしい。獅子も居ないと来てる。妙な話さ」


 その一言を最後に二人は首を傾げ、話題が切り替わる。聞く限りでは猟師であるらしく、鹿を狩る算段に移ってしまった。めぼしい情報もなく、肩すかしを受けた気分だが、料理は旨い。

 スープの一滴すら余すことなく堪能し、席を立つ。支払いは金貨一枚である。

 彼は釣りを取り出そうとした店主を制する。


 「実入りの良い仕事があってな。俺は今、気分がいいんだ。気が変わらん内に収めておけ」


 「……どうも」


 男にしては、やや声が高い。それでいて、蚊の鳴くような声量である。


 「旨かった、また来るぜ旦那」


 年季の入った扉に手を掛けた時、彼は言った。


 「私は、女なのだが……」


 思わず転けそうになったが、客は揺らぐ様子がない。周知の事実らしい。目を丸くするが、店主は相変わらず(だんま)りである。

 (きびす)を返すと、またのお越しを、という声が聞こえたような気がした。


 ──本当に人間ってのは、見掛けによらねえな……。


 嘆息する彼の口元にはしかし、苦笑の色が浮かぶ。

 それは困惑というより、喜楽の様相であった。

勿論、いつでも本気です(笑)!

因みに私が考案した、大上段切り下ろし百連という技があるのだが、どう思う?


柊「……どうって?」


分かった、もういい……。

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