中学一年生の伍
そんなことを考えているとあっという間に遠足の日が来た。
バスの中では百々瀬の隣には当たり前のように九重が座っていて、僕の隣には顔を赤らめた女子が座っていた。
せめて男子に座って欲しかった。
女子には本当に気を使うし、顔を赤らめているなら尚更だ。
酷い振り方などしようものなら一斉に僕は女子にハブにされるだろう。
それはよくない。
ちなみに百々瀬は入学早々その顔に寄せられた家の噂を気にしない猛者な女子に告白を受け、俺のこと知らないのに何で?と言い放ち、一時期女子にとても敬遠されていた。今も必要なこと以外は喋らないし敬遠されがちだ。たぶん家のことがなかったら執拗な虐めを受けていたに違いない。
本当に僕が選ばないことをする男である。
窓側の席から斜め前の通路の席に座る百々瀬を見ているとその間ににゅっと顔が現れた。
隣の席の彼女だ。
「橋屋くん、遠足楽しみだね!」
そういう彼女にとりあえずにこりと笑う。
「そうだね、僕楽しみであまり寝られなかったから寝るね。ついたら起こしてね」
そう言って体操服のジャージを頭から被り顔をみせないようにして僕は寝たふりを決め込んだ。
ちょっと今女子に気遣うだけの体力も気力もない。
相変わらず僕は彼のことばかり気になってしまい、でも人目も気になってしまい出口がなくなってしまっているのだ。
答えは簡単だ。
人目を気にするのならばこの遠足が終わったら百々瀬と話すのをやめたらいいのだ。
気まぐれに同じ班になったという程をとればいい。
彼をとるのならばこの後もずっと仲良くしたらいいのだ。
簡単なことだ。
答えはわかっているのに選べないだけなのだ、僕は。
馬鹿みたいだ。
百々瀬と親しくなってから僕は出口のみえない悩みにばかりはまる。
いや、出口はあるのだ。
今も二択だ。
なのに恐ろしくて
僕は選べていないだけなんだ。
はー…と息を吐いて僕は寝たフリを続行した。
そのままほんとに寝てしまえればよかったのに、席が近いばかりに百々瀬の声を拾ってしまう。
百々瀬は九重と昨日の授業中に先生が言ったくだらない冗談とか
次のテスト範囲の話なんかをしている。
真面目だ。
だけどそれが心地いい。
そう感じている僕がいるのは間違いなくて。
そこまでわかってるのに選べないなんて馬鹿みたいだとじわりと少し涙を浮かべて僕は膝をたてて丸くなった。
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