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中学一年生の弍




 HRがはじまった。今日は二週間後の遠足の班分けの日だ。クラスメイト達は各々仲良しのメンバーで集まっている。僕の周りにも人がいる。

 でも僕はいつもなら信じられない行動をとった。



「百々瀬君、一緒の班になろうよ」



 一人机に肘をつきぼーっとしている彼の席の前に立ち、にっこりと笑ってそう告げると周りはざわついた。彼は僕の真意がわからないのだろう。首をかしげたがゆっくりと口を開いた。



「・・・別に俺はいいけど、君のお友達はよくないんじゃない?」


「あー、うん。僕、百々瀬君と一緒の班になってみたいからそれでもいい奴だけ同じ班になろうよ」



 にこにこと笑いながらそう告げると何人かは残った。予想通りである。残った3人はあんまり他人のことを気にしない、楽しいことが優先のさばさばした3人だ。

 百々瀬君も多分居心地が悪くなることはないと思う。

 それ以外の僕の友人たちは橋屋の優しさだろなどと言っていたが、そんなものはない。確かに、傍から見たら、ぼっちの百々瀬君に僕が気を使ったみたいに見えるかもしれないし、そう見えるだろうと思ったからあえて堂々と百々瀬君を同じ班に誘ったわけだけど、これは僕が百々瀬君を知りたくて、僕の気持ちを優先させた結果だ。

 ちょうどよく先生に指定された人数である五人になったし、僕は黒板にその五人の名前を書く。

 その後は百々瀬君の周りの席に適当に座った。



「橋屋、なんで百々瀬君?関わりあったの?」



 百々瀬君の前の席の椅子に行儀悪く前後逆で座っている麻井あさいが椅子をがたがた言わせながら僕に聞く。麻井はにーっと笑いながら八重歯を見せた。

 それにその隣に座っている木藤(きふじ)がのる。



「そうそう、急だったしびっくりした!今まで話してんの見たことないし」



 木藤は興味がありますと言わんばかりに、大きな瞳をさらに大きくさせて僕を見る。



「僕よく図書室行くだろう。彼図書委員だから。話してみたら面白かった」


「へぇ、橋屋って臭いものには蓋をってタイプだと思ってたけど」



 本人目の前にしてひどいことをいうのは九重(ここのえ)だ。いたずらにその細い瞳をさらに細くさせてにんまり笑っている。ちなみに彼はひどいことをいうが悪意はない。

 その悪意のなさに気づいたのだろう。百々瀬君はぷっと噴出した。



「九重君って結構いうタイプなんだな」


「いや、俺の方こそ百々瀬は笑うんだってちょっと驚いたよ」


「あー・・・んー・・・ん。俺の家のことって知ってる?」



その質問にみんながこくりと頷く。うちの学年じゃ彼の家が祓い屋であることは有名な話なのだ。なんせ彼は目立つ。



「うん、それで、俺はみんなが俺の家のことで関わりたくないのわかってるから、わざわざとっつきやすい感じになりたくないだけ。とっつきやすい感じになると今度は受けたくもない相談を受けることになるから・・・」



 ちょっと歯切れ悪くそう告げる彼に俺はくすくす笑った。



「でもその受けたくもない相談に親切に乗ってあげてたじゃないか」


「え、そうなの?!ていうか、百々瀬ってオバケが見えるって本当なの?!」



 木藤がそう大声で聞くので麻井が軽く殴って黙らせた。これは百々瀬君にとってデリケートな話である。大声で話すことではない。木藤、空気読め!

 案の定クラスメイト達がこちらを見ている。九重が何でもない、木藤が馬鹿なんだとみんなに手を振った。

 そう言われてしまうとクラスメイト達はこちらを見るのをやめざるを得ない。でも聞き耳は立ててるだろう。

 木藤め。馬鹿め。

 もっと百々瀬君に聞きたいことがあったのに。

 まぁいいや。遠足の時なら聞き耳立てられないだろうし、そのとき聞けばいいんだ。焦ることない。



「ごめんな、木藤が馬鹿で。俺はそういうのどうでもいいし、遠足ちゃんと来てね。確か学校行事よく休んでるよね?」


「・・・麻井君よくみてる。あんまり関わり合いになりたくないんだ」


「でももう橋屋の誘いに別にいいけどって乗っちゃったんだから、それは百々瀬が決めたんだからちゃんと来いよ。橋屋がお前に関わりたいって言ってお前は承諾したんだから」



 九重が細い目でじっと彼を見る。彼は少し詰まったけれどわかったと返事した。

 ああ、よかった。

 本当に九重は聡明で悪意がなくて気持ちがいい男だ。だから百々瀬君もわかったと返事をしたんだろう。

彼がきてくれるとわかったところで僕は意識を切り替えた。このHR中にやらなきゃいけないことはあるのだ。



「遠足の話をしようか。とりあえず僕が班長ね。このメンツだと面倒くさいしほかに誰もやりたくないだろ?やりたい奴いる?」



 みんな笑って首をふる。うん、知ってた。別にそれでいい。委員長とか班長とかそういう役割にはなれいてる。



「ん、で、まー、古墳のぼって、歴史館行って、その辺ののっぱらでご飯食べて、帰ってきたら発表しましょうねっていう簡単な遠足だけど、先に発表の課題を決めといたほうがいいね。歴史館は縄文弥生の展示物がたくさんなわけだけど、何について書くことにする?」


「土器が楽なんじゃない?縄文土器も弥生土器もあるならそれの対比を実物みながら再確認すればいいんだろ?」


「うん、それが楽だね。あとはどうやって狩猟から農耕に移っていったかみたいなテーマもあると思うけど、かなり手間がかかるし成果が得られるかわからないからね。僕も土器がいいな」


「じゃあ、それで」



 満場一致で麻井の案に決まったときHRが終わるチャイムが鳴った。

 これからが楽しみだな。


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