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リンの萬屋奮闘記  作者: 砂鳥ケイ
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02最初の依頼

リンは少年の依頼である『攫われた姉を救出せよ!』を受け、少年の姉が攫われた場所を訪れていた。


「ここが、ねーちゃんが怪しい奴らに攫われた現場だよ」

「ふむふむ…」


リンは食い入るように地面を見て何やらボソボソと独り言を呟いていた。


「よし、一度整理してみようか」


誘拐された少年のお姉さんの名前はマリー。

誘拐された時間は、本日の朝方恐らく9時頃との事。

少年と一緒に朝の買出しの途中にイキナリ何者かに姉を連れ去られたらしい。

一瞬の出来事で、人数が2人という事以外顔はおろか、性別さえも分からないという。


なるほどね。


「少年、ちなみに質問があるんだけど」

「なんだよ」

「朝方連れ去られてから、僕の所に来るまで、その間何をしていたんだい?」

「ずっと気絶してたんだよ。ねーちゃんが連れ去られる時に、俺は犯人に殴られたんだ。運悪く、ここは薄暗い路地だったから誰にも気づかれなかったんだ」


それを聞いて、リンはまたしてもボソボソと何かを呟いている。


「なるほどね。少年、喜ぶといい」


少年は「何が?」という顔をしている。


「お姉さんの居場所が分かったよ」

「ほ、本当かよ!」

「うん。ではお姉さんの所へ行こうか」

「でもなんで分かったんだよ!周りをキョロキョロ見て、ブツブツ独り言言ってただけじゃないか」

「細かい事をいちいち気にしていたら、ろくな大人にならないぞ少年。早くお姉さんに会いたいのだろう?」


リンは強引に少年の手を引き、ある場所へと向かった。


次第に少年は、進むに連れて段々とその表情に不安を募らせていった。

気持ち口数も減った気がする。


今、二人の居る場所は、この国でもゴロツキがはびこっている政府でも簡単には手が出せない危険指定区と呼ばれている場所だった。


「兄ちゃん・・ここってヤバいとこじゃないのかよ・・」

「そうなの?」


リンはそんな事などお構い無しと言わんばかりに更に奥へ奥へと進んで行く。

すれ違う人達の眼つきが怖い気がするが、きっと目力が人一倍強いだけの一般市民なだけだろうとリンは見向きもしない。


「よし、着いたぞ少年。キミのお姉さんはこの中にいるはずだ」


着いた先は、1軒の古びれた小屋の前だった。


少年が恐る恐る小屋の扉を開けようとした時だった。

リンは少年の首根っこを掴み、自分の後ろへと隠す形で摘みあげる。


「な、なにす・・」


少年が喋りかけたその時だった。


小屋の扉が勢いよく開き、中から大柄の男が2人出てきたのだ。


「ああ?なんだお前?」


リンの身長は170cm程度だったが、目の前の2人はそれを遥かなる高みから見下ろしていた。

恐らく2人共2m近くあるだろうか。


至近距離で睨まれているが、睨めっこなら負けない自信がリンにはあった。

後ろにいる少年は、今にも泣き出して逃げ出してしまいそうになっている。

リンが少年を今もガッツリ掴んでいなかったら、彼方へ走り去っていたかもしれない。


「僕達は人を探しています。その探している人がこの中にいるので、連れて帰ってもいいですかね?」


単刀直入に聞いただけだと言うのに、少年の顔が血の気が引いたように一気に青ざめていく。

2人の男は、何故か笑っていた。


「おい、兄貴聞いたか今の?」

「ああ、こいつ頭おかしいんじゃないか?」

「こんなとこまでノコノコと来やがって、可笑しな事言ってやがるぜ。どうやら殺されたいらしいな」

「今なら、身包み剝ぐだけで、命までは見逃してやる」


今度は逆に少年が、僕の服を引っ張っている。

声には発していないが、誰が見ても逃げようと言いたい事は分かる。

リン以外は。


「どうした少年?お姉さんに会いたいんじゃないのか?」


少年は、既に半泣き状態となっている。

しかしハッキリと応えた。


「もうこうなったらやけだ。くそぉ、ねーちゃんを返せっ!」

「なんだガキ!どうやら痛い目にあいたいようだな。やっちまえ!」


リンは振り返り、少年の前へとしゃがみ込む。


「よく言った少年」


少年の頭を撫でた。

後ろには、今にも殴りかかってきそうな状態のゴロツキ共の姿があった。


「な、なんだ・・体が動かねえぞ!」

「何がどうなってやがる!」


拳を振り上げたゴロツキ共は、何故かその状態のまま固まっていた。


リンはゆっくりと立ち上がると、ゴロツキ共の方へと振り向き鋭い眼光を向ける。


「さてと、邪魔だよ」


そう言った瞬間だった。


ゴロツキ共は、口から泡を出して、その場に倒れこんでしまったのだ。

少年は何が起こっているのかまったく理解出来ていなかった。


「入るよ」


リンは少年と手を繋ぎ、小屋の中へと入っていく。


小屋の中は狭く、すぐに中に誰かがいるのが分かった。

少年の良く知った人物がそこに蹲っていた。

それは少年と同じ、狐耳の少女だった。


僕には精霊術以外に磨き上げられた特殊能力を持っている。


それは、なんと見ただけで相手の年齢をズバリ的中させる能力だ。

もちろん、容姿と実年齢の伴わない、例えばエルフのような長寿種は、正確とは言えないが、とにかく何に役立つのか分からない能力である事は間違いない。

その僕の見立てでは、目の前の彼女は19歳という結論に至った。


「ね、ねーちゃん!!」

「え、シンクなの?」


少年はシンクという名らしい。

シンクは勢いよく姉の元へと駆け出していく。


2人は、固く抱き合っている。


「でも、どうしてここが分かったの?」

「兄ちゃんが案内してくれたんだ」


マリーは鋭い眼光でリンを睨みつける。


「そんなに悪そうな顔じゃないけど、貴方も誘拐犯達の仲間なの?」


僕が少年をこの場所を案内した事で、どうやら誘拐犯の仲間と勘違いされたようだ。


「違うよ!ねーちゃん!この人は、ねーちゃんを見つける為に俺が雇ったんだよ!」


マリーは少年の言葉に凄く驚いた表情をしていた。

しかし、すぐに切り替えて謝罪の言葉を述べる。


「勘違いして、ごめんなさい」


リンはニコッと微笑み返した。


「気にしなくてもいいですよ。そんな事より、目的も達成したので、戻りましょう」



3人は、足早にリンの事務所まで戻って来た。

戻ってきた時には、既に陽も沈みきっており、辺りは闇に包まれていた。


「それにしても、ねーちゃんはあいつらに何もされなかったのかよ?」

「もう、変な事思い出させないで!」


マリーいわく、連れ込まれた時は、ジロジロと見られたり、話し掛けられるだけだったのだが、次第に欲情し出した誘拐犯は、マリーを襲おうとしてきたらしい。

あんな大柄の男達に襲われたら、か弱い女性など抵抗すら出来ないだろう。普通ならば。


しかし、何故だか誘拐犯はマリーに指一本触れる事が出来なかったそうだ。


少年は考えていた。

リンと出会ってからおかしな事ばかり起きている事を。


「もしかして、兄ちゃんの仕業か?」

「さて、どうかな」


リンはニコッと微笑むだけで、少年の望む答えは話さなかった。


「外は既に陽が沈んでしまった。両親が心配するといけないから、そろそろ家に帰った方がいい」


何故か2人が下を向いてしまう。


「私達、捨て子なの・・。だから両親の顔すら覚えていなくて。シンクとも本当の兄弟じゃないの」

「それは、申し訳ありません」

「ううん、いいの。それでも帰る場所はあるから私とシンクはまだマシな方だと思うから」


少年は何故だが下を向いたまま元気がない。


「どうした少年。最初に会った時の元気はどこに言ったんだい」


少年は頭をさっと一掻きすると、笑顔を見せた。


「うん、兄ちゃん、ありがとな。ねーちゃん助けてくれて」

「僕は萬屋だからね。依頼されれば、何だってするさ」


少年が地面に頭を下げている。


「お金は必ず払う!何年かかっても!だから、待っててくれよ」

「あ、そういえば、依頼料をまだ言ってなかったね」


そう告げると、リンは奥にある自分のデスクまで行き、机上に置いている紙の束に何やら文字を書いている。


その数字の書かれた一番上の紙をペリッと破ると少年に手渡した。


それを見た少年は驚いている。

隣にいたマリーもそれを見て同じく驚いていた。


少年が口を開けたまま喋らないので、痺れを切らした姉のマリーが代わりに疑問に思っていることをリンに告げる。


「えっと、リンさん。一応確認ですけど、この紙に書かれている数字は、その・・1なんですけど、単位はもしかして、金貨いや、銀貨でしょうか?」


この世界の通貨は、シンプルで三種類しか存在しない。

1金貨=100銀貨=10000銅貨となっている。


僕が紙に書いたのは1という数字だけだった。

マリーの質問も至極最もだ。


「いや、銅だけど?」


二人共、「えっ?」という顔をしていた。


「僕の依頼料の決め方は独特でね、その時の気分次第かな。それに支払いはいつでもいいから。当然無利子だよ」

「1銅貨でいいなら、すぐに払います!」


姉のマリーから確かに依頼料である1銅貨をリンは受け取った。


「まいどあり」


2人が帰ろうと事務所の外に出た。

時刻は、既に0時を過ぎている。


「待って」


出て行こうとする2人をリンは呼び止める。


「外は暗いから、コイツを連れて行くといい」


そう言い、リンが何かを口ずさむと、目の前にパッと火の玉が出現した。

火の玉は、煌々と辺りを照らしている。


「この二人を無事に家まで送り届けてくれ。後、優しく明るく照らしてあげてね」


二人はまたしても口をポカンと開けて驚いていた。

そんな二人にリンは笑顔で「バイバイ」と手を振った。


この国での最初の仕事は、大成功だったと言える。

この調子で、どんどん仕事をこなして、大きな事務所を構えてやる。


リンはニヤニヤと独り言を呟いていた。

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