第六章
ルーマース共和王国は、肥沃な大地に恵まれた豊かな土地、そして海あり山ありの生物が多く生息する、この大陸では屈指の国力を持つ国である。何分、力もあり貧困とはまったく無縁の歴史を持つ為、一世代前では、のほほーんと生活していたが、周りの国の発展力が急に伸びてきた為、最近になって各分野に力を入れ始めてきた。
大陸にある国同士は争いとは無縁で、多種多様な種族や文化があるものの、お互い助け合って来た歴史もあるだけに、大きな問題は抱えておらず、お互い悪くない協調路線を引いていることもあってか、不穏なことを起す輩や戦争に発展するようなきっかけを作ることも無い。
ただし、オラクルから見た視点は違った。
当たり前のように発生していた伝染病の問題や、衛生そして流通の問題。都市部から離れた地方の状況。これらを整備することにより、国益にまず繋がるであろう事を、すぐさま仄めかしによって実現させた。
と言うのは建前で…。
全ては超絶可愛い妹大神官が、伝染病にかかったのがきっかけで、キャスターの唱える魔法でも治らず、次第に衰弱していく姿をみて、前世の知識を総動員してまで助けたかったのが本心である。
カビや家畜の一部と戯れるオラクルを見ていた周りの人達が、ミスラの病により、一緒に狂ったかと噂されていたが、駄目元で試した結果、快方に向かった為、見てみない振りをされた。
ジェーンナーやフレミーング様々である。
ミスラ王女病事件の後、情報の適切な扱いにより、オラクルの事は伏せられていたが、城内に居るものは、この事実を知っていた為、次第に子供ながらも接し方は変わっていった。
ただ若干のやりすぎ感が否めなかったが母上の教育方針のおかげか、自由は概ね確保できている。
この先、大陸で残る運命として、生活している人種の寿命が延びることによる弊害や、その他の国々で考えられるであろう問題に解決するべく、ある程度の方針を残して…。
ルーマース共和王国 国王ロドセット・A・ルーマースII世は名君とされている。
そのもっともな理由として、ファイマ商業連合国より娶った妻ルーマー・A・ファイマの存在、そして第2王妃の存在が大きい。
ロドセットが若い頃、近隣諸国の問題となっていた魔証跡によるモンスター大量発生の際、率先して他国の為に兵を率いて討伐に向かった。その時に出会ったことがきっかけでルーマーが妊娠。出来ちゃった結婚後、しばらくは大人しかったが、国境付近で発生したフォリオ火山の噴火により、フォース教和国を襲った自然災害の救助に大幅に助力。なんだかわからない内に第2王妃が誕生していた。
あれ?フォース教和国の女性神長クラスって全員未婚で生涯…。
ともかく、ロドセットは祭イベントがあると国を放置し率先して参加した。
こうした結果、国内の文官や仕官達からイベント男と認定され、頭を使うことにはまったく関与しない。
そんな限定的な状況のみ力を発揮する父上は、現在、平穏な道を進んでいるルーマース共和王国には、いささか不要で、必要になっているのは、調整調和ができる人材となり、母上の存在が大きい。
たぶん、先日行われた会議の後、大臣達は時間を作って母上の承認を貰うのだろう。
「ところで、何で晩餐会なんてやることになったんだ?今さら国外向けにアピールする何かの必要もないだろう?」
アディーラさんが煎れてくれたお茶をフーフーしながら、俺は何も考えずに質問した。
うん、うまい。うますぎる。十万石ま…、ごほん。
紫色の顔をし、うんうん悶えているハスラーを看病していたセビータさんが、はぁ?みたいな顔をして答えてくる。あれ、俺なんか変なこと言ったかな?
「殿下、それ本気で言ってます?もうすぐ王族の命名式で、本番前に事前にお披露目するのが今回の目的じゃないですか。」
言い終わると、姉の入れたゴッドブローの責任を感じていた彼女が、ソードでもキャスターでもない、今だに復活しそうにない大臣の看病を諦めて、俺が読み終わった本を抱えて戻しに行ってくれた。
居なくなった妹に代わりアディーラさんが引き継ぐ。
「そうですよ~、殿下。周りの事ばかり~興味を持って~しまうのは~悪い癖です~。少しは~ご自身の立場も~お考えになって~下さいませ~。」
「つってもなー、名前なんてどうせ父上のオラクル・A・ルーマースなんちゃらか、母上のA・ファイマなんちゃらになるんだろ?」
「そうですが~、それは~大変名誉な~ことなんですよ~?」
「そんなもんかね。」
俺好みの未読本を何冊か抱えて戻ってきたセビータさんが、戻りがけに、あ、これも好きそうかな…。などと呟きながら、俺に聞こえるように続く。
「それに、ほら。命名されると色々な書類に簡単な事業ながらもサインする事になるだろうし、意外と悪くないかもよ~?殿下がちょちょいと出来るチャンスが巡って来るかもしれないしね。」
「セビィ~」
一瞬、股間の何かが縮み上がりそうな空気を感じた。これは聞かなかったことにする。絶対に。
「アハ…、アハハハ…。」
取り繕った引き気味の笑顔を残し、セビータさんが本を俺に渡してくれた。
重ねられた本の一番上にあったのは「出来る!パンティーの脱がせ方 その7」なんだこれ?
コンコン…
微妙な空気になった部屋になる小さめな音に、フローラ女史が対応する。
「海…」
扉越しにかけられた言葉に、一瞬訳が分からないという気配を感じさせながら、必死に答える誰か。
いや、もう気配察知で分かっているんですがね…。
「ふえっ!?、や、やま…ですか?」
どこかで聞いたような事を思い出したのだろう、なんとかひねり出して関門を突破しようとする妹将軍。
しばらく会っていなかった事もあってか、久しぶりに顔を見たかった俺は、フローラ女史に言った。
「フローラさん、分かっているなら入れてやれよ…。」
「いえ、いやしかし…任務が…。」
セビータさんが渡してくれた本達を床に置いた俺は、可愛い妹を迎えるべく席を立ち扉を開けた。
「ほら、ミースおいで。」
「おにーさまぁぁぁ~!」
扉が開いたとたん、とんでもない力でタックルを決めベアバッグするミスラに、タップする俺。
「ふぉっ、ギブギブ!ミース無理だから、死んじゃうから!メキメキ言ってるからっ!!」
吹き飛ばされた勢いで床に後頭部を打ち付けて若干吐きそうだとは、言わない。
だって、妹様が離れちゃうだろ?
「ミスラ様、このままですと一生殿下と出会えなくなってしまいます。私はそれでも構いませんが、もう少し力を込めて差し上げると良いかと。」
「おぃ!フローラ!変なこという、ぐぎぎ…。」
「ふぇっ!あっ、おにーさま、ごめんなさい。まだなれていなくて…。」
手を離したもののマウントポジションをとった姿勢のまま、ミスラは申し訳なさそうに泣き顔になった。
「だ、大丈夫だよ。ミースとりあえず、太ももに力を入れるのを止めようか、
ギリギリ言ってるからね、ね?」
「やっ!」
メリッ…
「う”…」
思ったよりも3倍は出ていた力の本流に会った事もない、お婆様の面影が見えてきた。
「ミスラ様~、本日は~如何致しました~?」
そう言ってアディーラさんは、妹大魔王の襟首をひょいと掴んで、俺が座っていた場所に置いた。
「し、死ぬかと思った…。お婆様綺麗だったな…。」
「殿下、何訳分からないこと言っているんですか。」
そう言ってセビータさんが俺を助け起してくれる。
「おにーさまに、おねがいがあってきたの。」
少し俯いて小声でアディーラさんの質問に答える。
「ミースのお願いならなんでも答えてあげるよ。言ってごらん?」
そう言った俺の言葉に周囲の人間が一瞬身構えるが時既に遅し…。
「おにーさまとけっこんしたい…です…。」
「うんうん、いいよミース。って、え?なんだって?」
「いいのっ?やったー!!」
は?え?ちょっとまってっ!
「ごめん、ミースもう一度言ってくれないかな?」
「はいっ!おにーさまとけっこんしました!さっ、つまとなるわたしのへやにいきましょう!」
そう言ってミースは俺の左手首を掴み、骨が一部欠けたと思われるような音がしたが、そんな事など関係無いとばかりに、ぐいぐいと外へと向かおうとする。
「ちょ、ちょっと待ったっ!ミース、すこし落ち着こう!」
「いいえ、まちませんわ、おにーさまとしょやなるものをむかえるのです。ぴくりともうごかなくなったちちうえがいっていました!」
『もうわしにはむりじゃ…、オラクルならなんとかしてくれる…ゴフッ(吐血)とっ』
父上ー!!!