第三章
物心ついた時は、何歳ぐらいだっただろうか…?
父上と母上がいて、俺の尊敬する大好きな兄上がいて、超絶可愛い妹が居て…。
前世の俺も似たような環境で、とても幸せな生涯だったはずだが、今はよく覚えていない。
父上から俺は、第2王妃の子供だと言われた時には驚きはなく、ただ、あーやっぱりそうだったんだ、くらいの気持ちしかなかった。
少し黒に近い銀髪、そして薄い紫色の瞳。
兄上と妹大明神様は、共に金髪碧眼。
父上も母上も、そうだったから俺だけ何かあったのか?くらいは感じていた。
行政改革が一段落した時だろうか、兄上が仕事の為に城を出て2年。
父上から私室に来るように言われて母上に抱きしめられながら唐突に言われた事は今でもハッキリ覚えている。
俺を産んだ後、第2王妃が直ぐに他界した。
お腹の子と実の母上、どちらを取るか選択した時、父上も今の母上も本気で第2王妃を優先する事を支持した。
3人はとても仲が良かったみたいだ。
ただ、本当の母上だけは、頑なに譲らず産む事を決め、身重にも拘らず城を出て
実家に引き篭もり続け俺を産んだ後、静かに息をひきとったという事。
今の母上は、兄上や妹大魔神と同じように変わらず優しく俺に接してくれる。
何かやらかした時の当たりが、若干、いやかなり俺にだけ強いように感じる時もあるが、周りの声を聴く限り、よくそれで済んだものだという。
いや、塔の頂上からロープ1本で5時間吊るされたり、
地下牢に3日間、マジ投獄されたり…。
心配そうな表情をしている衛兵達から、暖かい毛布を借りなければ、肺炎になっていたかもしれん…。
とりあえず、皆俺には普通で、何不自由なく暮らせてるってことだ。
でも、俺の周りの方、国民含めてさ目線は絶対合わせず、頑なに俺の母上の名前と姿だけは教えてくれなかった。
皆、口を揃えて嬉しそうに言うんだ、第2王妃様が生前の頃は~ 、第2王妃様には~…っと。
それは尊敬している、いつも俺に優しい兄上も目線を逸らし、複雑そうな顔をして言った。
「殿下、聞いておりましたか?何やらニヤニヤしておりましたが…。」
「ニヤニヤしてねーよっ!?」
そう俺に声をかけて来た財務大臣のハスター卿が、不安そうにしている。
どうやら俺が皆を困らせる事を考えていたとでも思っていたらしい。心外だ。
「いや、なんでも無い。少し昔の事を考えていた。会議の邪魔をして申し訳ない。」
俺は大変申し訳なさそうに(本心で)伝え、邪魔になると悪いから退席しようとした。
ガッ、しゅるしゅるシュッ。キュキュ。
「どこに行くのです?まだ会議中ですよ?(ニコリ)」
母上がどうやったら、この一瞬で出来るのかと思えるくらいの速さで、
かつ切っても無駄だと思えるくらいの紐状の何かを腰に巻きつけてきた。
視線を紐状の何かから母上に戻した時、その先端をまるで犬につけるリードのように持っている。
チッ、ダメだったか…。
「いえ、少しお手洗いに…。」
俺は申し訳程度に股間に被せられている白い布を両手で押さえて、もじもじしながら言った。
そう、隠すものは股間のみ。俺は未だに全裸なのだ。
「うむ、それは仕方ないの。言ってm「ここですれば良いでしょう?」」
父上の救済措置に被せて、とんでもねーこと言いやがったっ!!
周りの大臣達は、あぁ、またか見たいな顔をして、何も聞いていませんよ?オーラを放ち、今日は暖かいですなぁ等と社会人話に詰まった時は天気の話あるあるを隣同士でしている。
援軍が来ないことを俺は確認して、なんとかこの作戦を遂行すべく頭を回転させる。
「いや、それは現代人として、ちょっと…。」
二チャリという音が聞こえそうなほど唇を歪めた母上が、俺に最後通告する。
「では、私も同行しましょう。ほら、お立ちなさい。その格好では風邪を引いてしまいます。」
「あぁぁ、俺に逃げ道なんてなかったニャ…。」
おかしい猫語になった声と共に、俺は覚悟を決めて、ドナドナされることを決意した。
案の定、俺が居なくても会議は問題なく進められるようで、どちらかと言うと国の影の権力者たる王妃が退席することにより、スムーズに議題は進みそうな雰囲気に変わった。