第十章
王城を出るとき、やっと城に平穏が訪れたみたいな顔をした侍女たちに見送られ、荷馬車に括り付けられたまま、いつものメンバープラス、母上にティータ卿が付いてきた。本来であれば、護衛に何人か腕利きのソードが随行するのだろうが、国家の最終兵器が出張るということで、怖がって誰も行きますとは言わず、どちらかというと、良い旅を!ということで、お小遣いをくれた。
王妃や大臣達の人気は高い。城を抜けて城下町にたどり着いた時、色んな方からパンやらお菓子を少しずつ貰い、目的地が近いからという事で、何も持ってこなかった荷物置き場は、すぐにでもお店が開けそうになる。
そんな中から、適当に摘んでいるとティータ卿から今回のターゲットに関して説明があった。
「現在、監視部隊からの情報ですがオレンジに移行。害意は無いみたいですが、敵意に敏感で攻撃に対し反撃してくる防衛型との事です。Bランクソード、2ランクキャスターをそれぞれ4名向かわせましたが、効果的な破壊には至っていません。現地調査を再度行い、対策を練る必要があると思われます。」
俺はティータ卿の説明を聞いた後、1回戦敗退したフローラ女史を元気付かせる為に、一つ手品をする事にした。
「ふーん、まぁ、着いて見ない事にはわからないって事ね。よっ!ジャじゃーん手から白いハトでーす!」
そう言って手を広げた上に、乗っていたのは黒いパンティー…。
5人は一瞬、はぁ?見たいな顔をしたが、一人無表情の母上。
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、事の重要さに気づいたの俺は、とりあえず、母上に下着を返そうと歩み寄る。
「は、ははは…。母上、プレゼントでございます…。」
「殿下、それ私の…(ポッ」
後ろに居るフローラ女史が、もじもじしながら言う。
俺は母上に抱き締められ、良くやった!きちんと責任は取るのですよ。あと5~6人、そこのティータ含めてやっちゃいなさい。となでなでされながら褒められた。あんた最低だなぁ!
ちなみに、俺の手品で全員のパンティーはどこかにいったらしく、戻ってきたのはフローラ女史だけ。
意味不明な展開だ。
ノーパンソード6名と戯れている内に、目的地に到着した。
パンティーの事はおいておいて、監視部隊から最新情報を収集する。
いや、下着はかないって、どうよ…。
セビータさんとルシオラさんは、もじもじしながら監視部隊と何やら話をしている。
「王妃様、この林の3km先に魔証跡があるそうです。既にオレンジからレッドに変遷を始めているようで、事態は思ったより早いと。」
「ふむ、そうか。全員、抜刀準備しておけ。いつ何があってもおかしくない。それとオラクルの腕輪は、絶対に外すな。魔証跡より、やっかいだからな。」
母上は私兵達に、そう言うと俺に手招きしてきた。
よし、丁度抗議してやろうと思ったところだ。この身、朽ち果てようとも一矢報いてやる。
俺は、フローラ女史に返そうとして、頑なに断られ、しぶしぶ装備していた黒いパンティーを武器に、母上に一太刀入れようとしていると、どうやってやった!?と思われる速さで、小脇に抱えられ、林に連れ去られていく。
1歩目すら見えなかったんですが…。
散開した陣形で、魔証跡に近づいていくメンバーと共に林の置くまで進むと、問題のターゲットはすぐに見つかった。
「レッドですね~。」
間延びした、いつもの口調で淡々と話すアディーラさん。
母上が居るせいか、周りのメンバー含め、緊張感はまったくなく、全員余裕の態度だ。
母上は、俺を抱えていない方の手を上に上げる。
「各自、剣士技の解放を許可する。」
母上が命令と共に手を振り下ろすと、周りに居たお姉さんソード達が一斉にソードスキルを発動させ、ターゲットを破壊しようとする。
空気が子気味よい音と共に抵抗を破壊し、目標物に到達すると、土煙と共に斬撃音が押し寄せてきた。
やっべ、超かっこいい…!!
時々、ソードの稽古をつけて貰っているが、実戦仕様のソードスキルを拝見するのは初めてだ。
しかも、集団戦の同時スキル使用とか、剣士を目指しているなら誰でも憧れている光景だろう。
普段、おちゃらけているアディーラさん達の姿が妙に艶やかで、スキル後の姿も理想の姿。
俺は思わず、お尻をフリフリしながら、フローラ女史のパンティーを小さな国旗のように振って応援した。
「全員、退避!2km後退っ!!」
急に、母上が宣言し、即座に視界が酩酊する。
高速に流れる景色の中で、方向が分からないが少女の悲鳴と共に林の破壊音が鳴り響いた。
「休憩後に、再度情報収集します。各自、初撃の感触をティータに報告しなさい。」
待機地点に到着後、一人も遅れていないことを確認した母上は、各々に指示を出していく。
どうやら、元々1発かまして、それから考えるという作戦らしい。
実に、母上らしい考えだった。
まとめおえたのか、ティータ卿が母上に近づいてくる。ちなみに、本来であれば、こんな光景は絶対にない。
ほぼ私的なお付き合いのあるメンバーで参戦し、事に当たっているが、ルーマース共和王国は、おちゃらけていても国。まじめにやろうとすれば、それなりの部隊がセット出張ってくる。
「やはり、物理に対し耐性があり、全てのソードスキルが通っていないようです。振動系も駄目みたいですね。」
「ふむ、全系統駄目か…。キャスター達の情報では?」
「自然改変力に抵抗も見られるようで、遠距離からの攻撃も無効、ターゲットは防御特化型のようです。」
「悩ましいな…。」
俺を小脇に抱えたまま、母上とティータ卿が話を進めていく。
「近接戦闘に移行しますか?」
「悩むわね…。ルシオラが帰還次第、決めましょう。ティータ、お茶を用意させましょう」
林一つを無き物にしたというのに、いつもと変わらないペースで休憩する一同。中には、新技を試したものもいて、対象物破壊に至らなかったが、何事もなかったかのように思い思いの時間を過ごしている。
さすが、母上のエリート部隊…。ある意味、すごいな。
「私が仕事をしている時に、優雅にお茶なんてずるいです。」
情報収集を終えたルシオラさんが、なかなかのタイミングで帰ってきた。汗一つかいていないことに戦慄した俺は、小脇に抱える母上に断りをいれて、お茶とお菓子をもって、ルシオラさんを労う。
ほら、言ってもここでは一番下っ端なわけだし…。
子気味良い音色で、ありがとうと言ったルシオラさんは、ティータ卿に状況報告。
スキル使用後の初撃の感触からほぼ変わらない相手の様子に変化は見られないと意見が一致した。
「仕方ありませんね。近接戦闘に移行します。」
母上が優雅にお茶を頂いて一言。和やかな空気は一変して、緊張感がました。
近接戦闘。それは、ソード達にとって花形とも言える戦闘。遠距離での攻撃に比べソードの身体能力の特徴である速さが一番生かされる破壊行為である。しかし、逆に攻撃を貰う危険性もあるわけで、傷が癒えるのが早いソードと言っても、硬くなるわけではないので、確率は低いが死ぬ可能性もあるということだ。
母上は、今回の魔証跡を、そのくらいのランクまで上げたということである。
相手が人であるなら、それは良い。ある程度の対処ができるだろう。しかし、今回は魔証跡、ある程度調査が進み分かっている事が増えているといっても、不測の事態は少なからず起こるだろう。
そんな状況になった事を認識し、皆の無事を祈ろうとしていると…。
「心配いりません、オラクルがやりますので。」
「は?」
「何か問題があるのですか?」
「いやいやいや、ちょっと待ってクーダサーイ。」
「大丈夫です。ちゃんと私も付いて行きますので。」
「そういう問題!?そうじゃなくて、母上。俺、実戦経験ないからね!まして、実剣なんて持ったことすらねーからっ!いきなりレッドだし、せめて安全なグリーンからでしょ!?」
「何を言っているのですか?丁度よい機会ですし、グリーンからなんて事故すら起こらないでしょう。」
「何それ…。事故で亡きものに…ゴクリ…。」
「心配いりません、腕輪も外してあげます。」
「いや、腕輪外しても…。」
「そうです、王妃様。殿下を危険が及ぶ事は、我々の本意ではありません。私がやります。」
そう言ってフローラ女史達が名乗りでる。
おぉ、女神様達よ…。普段、俺をいぢり倒してくるお姉さまの言葉に感動していると、母上がバッサリ断る。
「あなた達が思っているほど、私の息子は弱くありませんよ。特定の状況下ですと、私よりも速いのですから。」
「そうそう、母上から逃げるときだけね。って、そうじゃねーから!?結構、マジな展開だよね!コレ!」
「ほら、ノーリツッコーミと呼ばれる余裕さもあります。心配いりません。」
こうして、俺は母上と二人。再戦に挑むことになった…。