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黒髪少女と旅に出る  作者: スコティッシュ
一、物語の始まり
3/3

3 ギルドの終わり

 記憶喪失。

 さっきは取り乱してしまったが、よく考えたら魔法で治せるんだろ、と軽く見ていたら、どんどんと話は悪い方向へと転がっていってしまう。

 少女の手当てにやってきた老医者、ラフマの口から、次から次へと悪い事ばかりが飛び出してくる。薬草をすり潰した臭気も相まって、医務室は、非常に居心地が悪い部屋となっていた。


「わしには、記憶を蘇らすなんて高度な魔法は使えんわ。前にも言うたじゃろ、わしは治癒魔法はちょっぴりかじったきり。師に教えを請うた訳でもない。専門的な事は何もわかりゃせんのよ」


「おい、じゃあ何で村医者なんて名乗ってるんだよ…」


「この村には、本物の治癒魔導師が必要な程の怪我や病気なんてないじゃろ。実際、わしの所に来るのは擦り傷やら軽い熱を出したなんて、可愛い患者ばかり。こんなややこしい患者を診た事なんてないんじゃよ。お嬢ちゃんには、済まない事じゃがの」


 ぐるぐると右足の包帯を巻きなおしながら、ラフマの口はよく回る。

 その言葉を聞きながら、少女は残念そうな、特に何も考えてない様な変な表情を浮かべていた。


「大体、わしが本物の治癒魔導師じゃったら、こんな骨折くらい一瞬で治せる。その力すら、わしにはないということじゃよ。せいぜい、痛み止めと、治るのを少しだけ早めるのが関の山じゃな」


「そうか…」


 がっくりと肩を落としたレインとティナを見かねてか、ラフマは二人に向きを直し、諭す様に話し始めた。


「二人とも、このお嬢ちゃんの面倒を見る気はあるのかい?」


 急な問いかけに、レインとティナは言葉を詰まらせた。

 ラフマの言う事は分かる。少女には記憶も、身寄りもない。なら、誰かが暫くの間面倒を見る事になる。少女が望むのなら、家族を探したり、記憶を取り戻す為の手助けも必要だ。

 誰がするのか。

 自分も関係した話と察したのか、少女も真剣に耳を傾けて聞いている。


「成り行きとは言え、わしら村の老人衆は二人にギルドを任せっ放しにしてしまった。依頼なんてこない暇なギルドだと分かっておったのにな」


「いや、それは別に…」


「私もレインも、あの人には恩があったんですから」


 ギルドを畳もうとしていた事は、ラフマの顔を立てる為に黙っておく事にする。

 このギルドには前任者がいたのだが、訳があって村を離れ、レインとティナの二人に任されていたのだ。前から暇であった事に変わりは無いのだが。

 二人は、その前任者に魔法を習ったのだ。村を出た事も、学校に通った事も無い。大人ぶっている様で、実は人生経験に乏しいと言わざるを得ない。

 ラフマは、話し始めると止まらない。もしかしたら前から考えていたのだろう。


「二人とも、これは良いきっかけかも知れん。ティナもレインもこの村で育ったから、本物の魔導師ギルドを知らんな。お嬢ちゃんの為にも、まずは治癒魔導師の力が必要になるじゃろう」


 ラフマは息を吸い直す。

 二人は少し緊張していたが、こんな時が来ると、どこかで分かっていたのかもしれない。ラフマの次の言葉が、もうすっかり分かっていた。


「他の町に出ると良い。シオンの町という所に、良い腕の治癒魔導師がおると風の噂で聞いた事がある。魔導師ギルドにいけば、強い魔導師にも会える。人の多い町とはいいもんじゃ。学ぶことが山ほどある。こんな田舎村とは大違いじゃよ」


「それは…ギルドを畳んで、村を出ていけ、という事ですよね」


「まあ、人生勉強じゃな。三人で話し合って決めると良い。別に、この村で今まで通り過ごすという手もある。そう急かしはせんからの」


 ラフマは最後に、にいっと皺を寄せて笑顔を見せた。

 二人は、お互いに目配せをし合う。だが、もう答えは決まりきっている。


「これはもう…ね、レイン」


「そうだな。行くか、シオンの町! それでいいか、お前は?」


 レインが尋ねると、少女は黒い瞳を柔らかく細めて笑顔を見せた。

 異論なし、満場一致。

 かっかっか、とラフマは声をたてて笑った。


「そうか、若いもんは決断が早くていいのう。お主らの好きにすると良い。ギルドの細かい事は、わしが片付けておく。存分に楽しんでこい、レイン、ティナ、お嬢ちゃん…そういえば、お嬢ちゃんには名前が無いのか。それはちぃと不便じゃな」


 ラフマと少女は一緒に首を傾けた。

 すると、ティナは待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせる。


「そう、それ! 私、ずっと考えてたの!」


 興奮して少女の手をとり、満面の笑顔。ティナの迫力のある胸がどーんと少女に襲いかかった。


「名付けて、クロエ! ね、どうどう気に入った?」


「クロエ…」


「由来は勿論、黒いからだけどね! でも響きがとってもキュートだと思うの。あなたにピッタリだと思うんだけどな~?」


 ぐりぐりぐり、と自己主張の激しい胸が少女を威圧する。

 クロエ、クロエと小さく口の中で繰り返してから、少女はにこっと笑った。


「クロエ…気に入った。私、これからクロエって名乗る」


「やったー! これからよろしくね、クロエ!」

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