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第97話 白い砂漠で

「うわああああああ!!!!!」

 カカシは白い空間を飛んでいた。

目に入るもの全てが白。白、白、白。


 上下左右もわからずもがく。もがいたところで身体は自由にならない。


 ばすっ!


 白い砂の壁に激突し、ようやく停止できた。


 身体についた砂を払い立ち上がる。

「ようやく地に足がついた。なるほど、地面も白なら空も白」


 布の顔面に書かれたインクの瞳で目を凝らす。

「白い。ただひたすらに白い。空と地面の境界線もわからない。

 それにしてもここはどこで、他の皆はどこにいったのだろうか?」


 頼りになるグリンダも、憎たらしい孫悟空も、恐るべきアザトースも、そしてなにより共に苦難を乗り越えた旅の仲間たちもいない。


「こいつは参ったね。よくわからない所に来てしまったようだ。

 もしかして、ここはオズの国を囲んでいる死の砂漠かもしれない」


 辺りを見回す。やはり白い。


「死の砂漠は遠目に見たが、地面と空はくっきり区別がついた。となると、やはりここはまったく知らない別の場所だ。

 ここはひどい、なんと殺風景な場所なんだろう。マンチキンのトウモロコシ畑だってこれよりはマシだ。

 こんなところにいつまでもいたら退屈どころじゃないぞ」


 カカシは歩き出した。しかし、空も地面も区別つかないほど真っ白ではどれほどの距離を歩いたか見当がつかない。

「ブリキの木こりはもちろんドロシーやライオンがこんな所に迷い込んだらえらいことだ。

 喉も渇くしお腹もすくだろう。ここには水も食べ物も無さそうだ。

 僕に心臓が無くて良かった。そんなものがあったら仲間が心配で泣き出して挫けていただろう」


 しばらく歩いていると遠方に黒い点が見えた。

「ん、何だろう。この白い世界では、白いもの以外はきっと価値のあるものにちがいない」


 点に向かって歩くと次第にその物体がなんであるかはっきり見て取れた。

近づいて拾い上げる。

「これは……、弓矢と矢筒だ。あぁ、桃太郎が持っていた。

 ということは近くにいるのだろうか」


 また辺りを見渡す。しかし、ただひたすらに白い世界が広がっていてるばかりである。


「ここに置き去りにするよりかは持っていったほうがいいだろう。

 また会えたら返せばいい、それに僕は案山子なのだから弓矢の才能があるかもしれない」

 そして弓矢と矢筒を肩にかけて歩き出した。




 果てのない白い世界。昼も夜も無く方位もわからない。やがて時間の感覚も無くなる。

ここに来てから一時間かそれとも数年か、もう何万年もこうしているのではないかと感じてしまう。


 


「駄目だ。ただ闇雲に歩き回ってもここからは抜け出せない。

 こんなのは僕らしくないぞ。

 僕には脳みそがあるんだ。ちゃんとしっかり考えて行動しなければ。

 何か役立ちそうな道具はないか」


 弓矢を持っていた。


「これだ!

 これを正面に射って落ちたところに歩いていけば、少なくとも真っ直ぐ歩くことができる!」


 カカシは早速、弓に矢をつがえて射る。

すると矢は真っ直ぐ飛ばず大きく曲線を描く。そして突然地面に九十度垂直に突き刺さる。


「……僕は弓の才能が無いのだろうか。

 それにしても弓なるものの仕組みを見るに、矢は放物線を描くもの。

 地面に対して垂直に刺さることなど有り得るのだろうか?

 しかし、目印には調度いい」


 飛ばした矢を目印に進む。矢を拾い、再び射る。


 今度は真っ直ぐ飛んだ。しかし、やはり地面に垂直に刺さる。

また矢の所まで歩く。


「うぅん、まるでこの弓矢に意思があるかのようだ。もしかして桃の妖精が道案内してくれているのかもしれない」

 カカシは推測したが、弓矢は喋らないので確証は得られない。


 矢を射って刺さった所に歩くことを繰り返し、ひたすら進んだ。

歩くたびにワラの身体のスキマに白砂が入り込み歩きが鈍くなることに気付く。早く砂漠から抜け出さなくては動けなくなってしまうだろう。





「……ゴールだ」

 矢を射って拾うの繰り返しでとうとう白い世界の終着駅にたどり着いた。


 退屈な白い世界を打ち破る黒い巨大建造物。


砂で重くなった足を引きずり建物の中へと入っていた。






 建物の中へと入る。砂まみれの外とは違い、石でできた床は塵一つ無くピカピカで輝いている。天井は高く見上げれば首のワラにクセがついてしまうほど。


 身体の入り込んだ砂を落とすと白い小山ができた。

「ふう、だいぶ身体が軽くなった。

 うん?」


 いつの間にか目の前に三メートルほどの高さをした円錐型の生物が出現していた。


 カカシはこの相手を奇妙とは思ったが、驚いたり怖がったりはしなかった。

「こんにちは。僕は道に迷ってしまいまして、ここがどういう場所か教えてはもらえませんか?」


 しかし円錐は何も答えない。


 諦めず、コミュニケーションをとろうとする。

「道に迷ってしまったんです。ここはどこで、オズの国に帰るにはどうすればいいですか?」


 やはり何の反応も無い。


 カカシは、この不思議な生物を観察した。

「なるほど、よく見れば目も、鼻も、口も、耳もない。

 これじゃあ会話はできないな」


 意思疎通ができない円錐はカカシが作った砂の山を器用に掻き集めて外に出て行った。

後を追って見ると、円錐生物は砂を砂漠に捨てていた。


「掃除をしていたのか。だから建物の中は綺麗なわけだ。

 しかし、目も無いのによく砂の位置がわかったな。不思議なものだ」 


 もう一度だけ話しかけてみた。

「ここはどういう建物なんです? 外は殺風景な白い世界で退屈してしまう。

 ここを見学させてもらっていいですか?」


 円錐の生物はカカシなど気にもとめず床を這いずりまわっている。床磨きをしているようだ。


「僕と話す気は無いようだね。  

 わかった、もういいよ。しばらくここを見学させてもらうよ。

 オズの国に帰る手がかりがあるかもしれない。

 文句があるなら言ってくれ」

 そして建物の奥の部屋へと歩いていった。


 カカシはその部屋を一目見てつぶやいた。

「ワンダフル……」


 巨大な部屋には十数メートルの天井に届く棚が無数の列を作りその列の果ては見えないほどであった。石版、巻き物、本とあらゆる情報媒体が陳列されていた。

  

 棚に置かれた石版の一つに目を通す。

「……何が書いてあるかさっぱりわからん」

 カカシの知らない言語で書かれていた。


 石版を元の位置に戻し建物の中を調べる。書庫を抜けて長い回廊を進み階段を上る。

屋上に出て周囲を見ても、白い世界が果てしなく続いているだけであった。


「あてなくさ迷うよりもここにいたほうが安全なわけだ。

 オズの国や友人たちのことは気になるが、現状ではどうにもらないし」


 書庫に戻り並び立つ書棚を見上げる。

「だが幸いここでは退屈する心配は無さそうだ。ここには数え切れないほど読み物がある。

 何が書いてあるかは分からない。挿絵や図、言語表の類が見つかれば読めるだろう」






 カカシの黒い図書館での格闘の日々が始まった。


 まったく読めない石版に巻物の山。そこに書かれていることを知る前にこの施設の仕組みについて知るほうが速かった。


 ここで初めて出会った意思疎通のとれない円錐の生物たち、それは一体だけでなく図書館中にあちこちに存在していた。

彼らは建物の清掃維持管理、劣化した石版や書物などの修復を行っている。また蔵書は館外に持ち出すことはできない。

 カカシは気分転換に外で石版を読もうとしたことがあったが、円錐生物に取り囲まれて断念せざるをえなかった。


 言語表を見つけることができたため書物の解読も捗った。その多くが古い言い回しであるがケルト、エジプト、ギリシャ神族で用いられる言語であった。

その他の言語の書物も散見されたが、文法が似ていたので比較的容易に解読することができた。


 カカシはここで多くを学んだ。アザトースとその眷属。グレートオールドワン。ケルト、エジプト、ギリシャの神々のこと。魔法道具の製法など。

「天冥崩壊戦争……、この戦いのせいで宇宙の法則が変ってしまったのか。

 地球とかいう人間の住む世界……、多分、ドロシーの国のことを指していると思うが。神々がそこに行くにはヨグ=ソトースの加護が必要なのか。

 加護が無いものは消滅する、良くて知恵と魔力を失う。か」  

「ここから脱出するには黄金の蜂蜜酒という道具が役に立ちそうだ。が、肝心の蜂がいなくてはどうにもならない」

「オズの国について書かれた書物は発見できない。元々ないのか見つけられないだけなのか。もどかしいな」


 そして現在地を中心とした星図を発見した。このことによりカカシは自分がどこにいるか知ることができた。

「ここはセラエノ第四惑星、図書館以外は何も無い所か。なるほどここから動かなくて正解だったと言える。

 円錐の生物たちはここの司書であり管理人か。」




 ある日、カカシは自身の身体の動きが鈍っていることに気付いた。

身体を支えるわらはぼろぼろに崩れ始めていた。視界がかすみ呂律が回らない、布の顔に書かれたインクの目鼻が色あせている。

 無理も無いことだった。彼がここに来て蔵書を読み漁ってから数百年の時が経とうとしていた。

いくら飲み食い呼吸がいらない身体とはいえ、物質として限界を迎えていた。

「こごで、朽ちえ……、果てるぁ」


 やがて身体は動かなくなり、物も見えず音も聞こえなくなった。


 何も感じない暗闇の中で意識だけははっきりとしている。


 カカシは、いよいよとんでもないことになったと思い知らされた。

“畑にくくりつけられていたほうが物も見えたし話し相手がいた分、まだマシじゃないか!”

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