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第85話 セレファイスの戦い⑩猪八戒不退転

続けることが飽きたとか嫌になったわけではないのですが、ただでさえ遅い筆が中々進みません。

私生活が忙しかったこともあるのですが、寝ても覚めても『ポケモンGO』と『シン・ゴジラ』のことばかり考えているのが主な原因です。

 セラニアン城が宇宙に突入する前、玉座の間では猪八戒がしめあげられていた。

トトも口と脚を太い縄でしばりあげられて身動きをとることができない。


 八戒は鼻腔に煙玉をつめられて倒れたまま身動きできないが、気力だけで眼球を動かし自分を取り囲むインスマス人たちを睨みつける。

「……この魚ども、私に乱暴する気でしょ。

 なんのつもりか知らないけど、そうやって子孫を残す。あんたたちの常套手段。

 気持ち悪い、このパラサイト集団」


 ゾス=オムモグは白い頭蓋頭を、八戒の顔に近づける。

「それは誤解であり、表面的なものの捉え方だ。

 血が交わることで絆が生まれ、共通の父母を持つ。

 君は敵ではなく家族となる。我らの意思は唯一無二の大司祭クトゥルフの下に統一され争いは終わる。

 例えば――、今、我らが滅ぼさんとする月を見よ。財産家が幅を利かせ、合議制の名の下に利権を奪い合っている。

 彼らは生まれた家も立場も種族も違う。まとまれるはずがない」

「阿呆が……、身内同士で殺し合う例なんてごまんとある。

 ルルイエも遠からず仲間割れして滅びるんじゃない?」

「それはその一族に指導者の器たる者、父たる存在がいないからだ。

 我々は違う。我々の意思はクトゥルフの意思。大司祭は生けとし生ける者全てに呼びかけ、その声をあまねく届ける」

 皆がクトゥルフの呼び声に耳を傾け、その教えを守る」

「ふん、退屈そうな世界ね」

「なんとでも言うがいい。お前の運命は決まったのだ。

 ……いや、今日ここで初めて会った我よりも、よく知る者のほうが受け入れやすいかもしれん」

 そして、重い体を引きずるように動かし下がる。


 代わって進み出たのは魚籃観音(ぎょらんかんのん)

「猪八戒よ」

「……菩薩様? 本当に? 偽者じゃなくて?」

「えぇ、もちろん本物です。今の私は魚籃観音を名乗っています。

 知っての通り仏教は衰退し、再起を図ることは不可能でしょう。

 なぜだと思いますか。それは大乗の教えが間違っていたからです」

「!?」

「ルルイエこそがこの世の本質を捉えています。

 先に沙悟浄に会い説得を試みましたがうまくいきませんでした。

 彼女は頑なに心閉ざし、仏門の幻影に執着しています。

 あなたから彼女を説得してはもらえませんか?」


 猪八戒はゆらぐ。悟浄ほど意思は強くない。


 魚籃は腰を落とし、八戒の鼻の穴に手を突っ込む。そして疲労の原因、時の神器である漆玉を引き出す。

「ねぇ、猪八戒?」


 八戒は起き上がり両膝を床につける。

「菩薩様の言うことなら間違いないと思います。仏教の荒廃ぶりは身に沁みるほど理解しております。

 ルルイエに従います」


 ゾス=オムモグは歓喜で顔をゆがめた。


 そして、八戒の両目から涙が零れる。

「ですが、もうしばらくお待ち下さい。

 我らの師匠、玄奘三蔵が生きていることがわかりました。

 私からお師匠様を説得し、それからルルイエに従いたいと思います。

 この身もインスマスの民に喜んで捧げ、良い子を産みたいと思います。

 それで……、あの……」

 もじもじとして言葉につまる。


 魚籃は言葉を促す。

「どうしたのです? 言いたいことがあるのなら遠慮せず言いなさい」

「はい、あの、もしお師匠様が、やはりルルイエには従わず仏道を貫くのであれば、私はそれに従いたいと思います」


「この二枚舌の偽り者がぁ!!」

 ゾス=オムモグの口蓋がさけんばかりに広げり咆哮を轟かす。

「一仏僧と菩薩。どちらが高貴で尊く正しいか、その区別もつかないか!

 お前は観音菩薩よりも仏の成り損ないの元人間の言うことに従うと言うのか!」

「あの方は特別な方なのです。

 あの方といっしょにいたから堕天の身でも己を正すことができました。

 人肉欲求も愛欲も治まって、取経の旅を続けるたびに自分が清浄になっていると実感できたのです。

 だから、お師匠様が健在である限り決別するなんてできません!」

「黙れ! ルルイエに従わない者は敵だ!」


 ゾス=オムモグの寸胴の胴体から、太い触手が伸び猪八戒を叩きのめす。


「ぎゃっ」

 猪八戒は顔面から床に叩きつけられる。


「そんなに仏が大事か! 大司祭の子供たちの前でよくも言ってくれたな!

 ルルイエは肉食も愛欲も認めている。なぜ頑なに禁欲の道に走る?

 貴様はもっと快楽を求めているはずだ! 苦痛ではなく快楽を!」

 ゾス=オムモグは怒りに任せ、何度も何度も触手で殴りつける。


 八戒は涙を流して床に染みを作る。「それでも……、それでも……」と言い続けている。

その涙は痛みからくるものではない。決意と覚悟、三蔵法師との師弟の絆の表れであった。


 そのことがゾス=オムモグの怒りを加速させた。

「少しは貴様の意思を尊重し、楽しませてやろうと思ったが。その考えが甘かった!

 貴様の能力は中々に魅力的だ。ルルイエの深海牢獄につなぎ、その身体朽ちるまでインスマスの民の母胎となってもらう。

 だが、その前に貴様の心が砕け抵抗できなくなるまで徹底的に痛めつける!!!」


 触手をがむしゃらに振るい、ひたすら打ち据える。


「背中の次は正面だ。ひっくり返せ」

 ゾス=オムモグの命令でインスマス人は猪八戒をひっくり返し仰向けに寝かせる。


 ルルイエの王子は殺意と憎悪を込めて触腕を振り上げた。




 

 

 ルルイエ、月への進軍。これを阻止するため、月の警察はガレー船の艦隊で漆黒の海原に乗り出し守りを固めた。


 カチカチ長官も自ら前線に立ち、司令艦にて指揮を執る。

「……経済力に物を言わせ、それに甘んじた結果か。月には軍隊が必要になってしまった。

 地の利があるとは言え、我々はルルイエのことを知らなすぎる」


 ガマガエルの刑事がゲロゲロのどを鳴らす。

「長官、これは想定外です。弱気になってはいけません」


「想定外か。そう、いつだって想定外で大切なものを失ってきた。

 だが、それで月を失うつもりはない。

 ただ迫る敵は退けるのみ」 

 カチカチが覚悟を決めたとき、敵襲を報せる鐘が鳴る。

「迎え撃て! 魚人どもに月の大地を踏ませるな!」 


 月のガレー艦隊に搭載されている主兵装、月の生息する鹿の角を束ねて作られた固定式大弓アクティアス・アルテミス。その名が示す通り、青白のヤママユガと見紛う美しさである。


 その優雅な外見とは裏腹に、月の敵対者には情け容赦ない守護者の牙である。弦を引くにも三人がかり、打ち出される矢は桂の幹をまるまる一本使った贅沢な仕様である。

直撃すれば鋼の戦艦をも貫く。


 だが、ルルイエ軍の船はラジウムロケットで航行するセラニアン城。

 月の艦隊が放つ矢も、城壁を砕きはするが停止までには追い込めない。


「セラニアン城! ルルイエがセレファイスを制圧した理由がこれか!

 弱点はないか?」

 カチカチ長官は、望遠鏡でセラニアン城を観察する。

「……魔術で城を動かしているのか? ならば術者を倒せば……。

 む、あの炎と煙は……、ロケット? ロケットで推力を得ているのか」

 分析し命令を下す。

「全艦、セラニアン城後部のロケットに矢を集中させろ。敵の足を止める」


 直ちに命令が全艦に伝わり、アクティアスの矢がラジウムロケットに向かって放たれる。

 

 ロケットブースターに向かって矢が放たれるが、それらを守護する者たちがいた。

浦島姫(うらしまのひめ)通天河(アーケロン)である。浦島姫は通天河(アーケロン)を盾とし構えて矢を落とす。

 だが、それだけでは雪崩のごとく放たれる大木を防ぎきれず、アクティアスの桂の矢がロケットブースターの一つに直撃し、その機能を奪う。


 旗艦より、ガマ刑事は勝機を得たりと声をあげる。

「セラニアン城の減速を確認した! このまま射ち続けろ」


 攻撃は最大の防御である。それは月の勢力だけでなくルルイエにも当てはまる。


 捕鯨砲、かつてルルイエが鬼ヶ島制圧の折に用いた兵器である。


 セラニアン城の窓から銛が打ち出され、月ガレー艦一隻の船底に刺さり食い込む。


 ガレー艦とラジウムロケットならば推力はロケットが圧倒している。

銛には丈夫な鎖が繋がれていた。銛の餌食となったガレー艦はセラニアン城に引きずられた。


 犠牲となった艦のアナウサギの艦長は死を覚悟した。

「我、作戦続行不可能。総員退艦せよ」


 直後、彼の船は無傷の仲間の味方艦数隻を巻き込み大破し宇宙の星屑と散った。

何とか味方を巻き込まず名誉を守れた船も、ラジウムロケットが噴出す炎の前に引き出されて灰となった。

この炎、かつて帝釈天によって兎族にもたらされた聖なる炎とは真逆。

ルルイエラジウムの不浄な炎。身心供に鍛え上げ、覚悟の決まった兎族の警官たちをも恐怖震撼させた。


「鎖が無い分、アクティアスが射程が長く素早い。

 距離をとり、敵砲台を破壊せよ!」

 

 月ガレー艦隊は距離を取りつつもセラニアン城を包囲並走し、桂の矢を射ちこむ。一つ一つ確実に捕鯨砲を沈黙させる。


 その間にも、セラニアン城は月に激突せんと前進する。


 アクティアスの矢が再びラジウムロケットへと向けられる。

しかし、ロケット付近で守りに付く浦島姫と通天河(アーケロン)に焦りはない。

「捕鯨砲は艦隊戦力の削減と時間稼ぎに役目を果たしました。月までの航行は充分です」

「くくく、|ラジウムロケット(かがり火)に群がる矢(蛾)は残らず叩き落としてやるぜ」


 その瞬間、矢も届ないのにロケットの一つが爆音黒煙を上げて砕け散った。そこに立つのは赤毛の僧侶。

 

 浦島姫は糸の切れた釣り竿を振り回す。

「あらあらあら、あら。離脱したのにどうやって戻ってきたのでしょう?

 まぁ、よろしくてよ沙悟浄。作戦の邪魔はさせませんわ」


 悟浄は語らず、降魔宝杖を構えて返事とした。


 両者、セラニアン城の底面に立つ。噴き上がるラジウムの炎、紅蓮の柱が立ち並んだ。

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