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第84話 セレファイスの戦い⑨乱入者、黒衣仙女

 月に向かって急上昇するセラニアン城。

黒雲の中に飛び出した沙悟浄とポリクロームを豪雨と強風が襲う。


 仙雲を外壁にぴったりとくっつけ、吹き飛ばされないように慎重ロケット噴射口へ降りる。


「待ちやがれ! ラジウムロケットはお触り禁止だぜ!」

 浦島姫(うらしまのひめ)を甲羅に乗せた通天河(アーケロン)が叫ぶ。


 浦島姫の釣竿の糸はトトに切られてしまい、玉手箱と同様の効果をもつ漆玉は猪八戒の鼻の穴の中。

よって彼女が沙悟浄に攻撃を仕掛けるには降魔宝杖の間合いに入り、釣り竿で直接殴らなければならない。


 空中遊泳は悟浄よりも通天河(アーケロン)に分が有り、たちまち追いつく。


 浦島姫の振るう釣り竿を、悟浄の宝杖が受ける。軽くしなやか竿は宝杖よりも素早く鞭のようしなり連続で繰り出される。


 沙悟浄は追撃を受ける形になり防戦を強いられる。

通天河(アーケロン)と浦島姫に頭上を取られ。また魚籃観音から受けた傷も癒えないままの連戦。ポリクロームを庇いながらの戦い。


 これらは沙悟浄にとって不利に働く要素。しかし、ポリクロームという虹の娘の存在が状況を一変させる。

「ねぇ、沙悟浄。ねぇ」

「ポリクローム、あなたの力であの二人を止められそう?」

「ううん、鶴のほうはなんとかできそうだけど、亀は無理。

 私の守りの魔法は素手相手には効果が無いから。

 それよりも大事なことが」

「?」

「あの風の音が聞こえる?

 お父様が怒ってるの。早く帰らなくちゃ」

「お願いせめてラジウムロケットを壊すまで待って!」

「で、でも……」


「良いことを聞きましたわ!」

 浦島姫は叫ぶと、通天河(アーケロン)の身体を裏返し、その腹に乗る。


 そして通天河(アーケロン)も声高らかに笑う。

「俺の甲羅はブリキ木こりの斧をもはじく。が、武器ではない。

 このまま落ちて、貴様らの頭蓋を割ってやる!」


 沙悟浄、降魔宝杖を頭上に突き出し、三日月の刃で甲羅を受け止める。


 通天河(アーケロン)の甲羅の一部が欠損し破片が散る。

「この程度! 俺の甲羅が砕けるよりも、その棒が折れるのが早い!」


「うぐぐっ!」

 悟浄はこらえるが、力を込めれば傷口から血が噴出し、宝杖を握る手は震える。


 今にも力尽きようというそのとき、不意をつくような突風が吹き悟浄の足をすくう。

直後、黒い雨雲が飛び出し悟浄の仙雲を飲み込みさらう。そして沙悟浄とポリクロームを乗せたままセラニアン城から離脱してしまった。


 これには通天河(アーケロン)は面食らう。

「お嬢、どうする!?」

「彼らの始末よりも、ラジウムロケットの安全を優先します。

 先回りして守りを固めましょう」

「おう!」

 

 浦島姫は通天河(アーケロン)の甲羅に乗りなおし、そのままロケット噴射口に向かって急降下。






 雨雲は沙悟浄とポリクロームを乗せたまま城から離れていく。

「いったいこれはどういう……」


 ぼすっ


 黒い雨雲から、黒髪の少女の頭が飛び出す。

それを見て、悟浄とポリクロームは同時に叫ぶ。

「「黒衣仙女!」」


「あら悟浄、黒衣仙女を知ってる?」

「それはもう。昔、玉帝(ぎょくてい)様にお仕えしていた折、西王母(せいおうぼ)様の所で何度もお見かけしたことがある。七仙女の一人。

 ポリクロームこそ、どうして彼女を?」

「え、それはいっしょに暮らしてるからだよ」

「えッ?」


「駄目だよ、ポリー。お父さん心配させちゃ」

 黒衣仙女は二人の会話など意に介せず割ってはいる。

「いけないよ、今日は快晴のはずなんだから。

 ポリーのパパはあなたを助けるために天気を荒らしてるんだよ。

 私が前にいた国(道教)では、予定された天候を守らないと死刑だよ」

「うん、それはわかってる。でもね悟浄がはなしてくれないの」


 黒衣仙女は、じっとりと粘着質のある視線で悟浄を睨む。

「玉帝様の(さかずき)を割ったときからそそっかしいとは思っていたけど……。

 悪猿(孫悟空)の悪影響で人さらいになったの? 怖い、早く私の雲から降りてよ」

「それは誤解よ! 私はセラニアン城のラジウムロケットを壊さなくちゃいけない。

 これは悪天候だと飛行が安定しないようだから、今のうちに行動を起こさなくては」

「そうなの。でももう無駄だよ」

「そう簡単には諦めない」

「でもね、お城からだいぶ離れてしまったし、あなたの雲じゃあれには追いつけないわ。

 何より、雲の領域はもう終わる。あのお城は宇宙に出てしまう」

「!?」

「そういうことだからポリクローム返して」

 そしてポリクロームの腕を引っ張り、沙悟浄から引き離す。同時に黒衣仙女の雨雲が、悟浄の仙雲を解放する。


 ポリクロームは、寂しさとも同情ともつかない表情を浮かべると、立ち込める暗雲に向かって叫んだ。

「お父様、沙悟浄を助けてあげて!」


 するとそれに答えるかのように突風が吹き、悟浄をセラニアン城へ向かって吹き飛ばした。


 嵐は収まり、雨雲は散り失せたが晴れた青空はそこにはない。

セラニアン城は青い世界を突き抜けた。ここから先は(またた)く星々が道標となる黒い海原。月への道、宇宙である。

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