表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/148

第79話 セレファイスの戦い④如意棒封じ

 コーンウォール沖では巨獣化した猪八戒とハイドラの死闘が続いていた。


 八戒の巨大化の術には制限がある。体力を急激に消耗し栄養失調に陥る。

対するハイドラは元より龍とも見紛う長大な体躯をもっていた。そして長期戦における栄養失調の危険性は皆無であった。


 猪八戒は積極的に攻めに入る。残された時間は少ない。

大砲連射の如く、鼻水を高圧で飛ばす。ハイドラは潜水と浮上を繰り返しそれらをことごとくかわす。

外れた鼻水は着水し、次々と水柱をあげていく。さながら海面のパルテノン神殿といった様相。

 

「醜い。元帥たる者が無様な戦いをするなら、少しでも羞恥心が残っているのなら、消え失せろ!」 

 ハイドラは同じ水軍を預かる者として、猪八戒の品性の無い戦い方を軽蔑した。 

その直後、目の前の光景に愕然とする。言葉通りに目の前から猪八戒が消え失せてしまった。


「何の目くらましだ!? 姿を見せろ」


 もちろん、猪八戒は消えていない。巨大化の時間切れである。元の長身肥満体に戻っていた。

「えへへへ、このまま続けたらスタミナ切れでこっちの命が危ない。

 さぁ、今のうちに孫兄(そんにい)の如意棒を取り戻し、悟浄たちと合流しよう」


 ハイドラに悟られないように海深く潜る。 


 巨大な赤柱、如意金箍棒が海底に突き刺さっている。

「ようし、これこれ。八トンぐらいならなんとか運べるよね。

 問題は大きさだ」


 今や如意棒はハイドラの武器。自身に合わせて如意棒を巨大化させていた。

この状態で如意棒を動かせばハイドラの注意を引くことは必定であり。よしんば回収できても持ち運んだだけでコーンウォールとセレファイスは更地にされてしまうだろう。


「えぇと、孫兄はこんな感じだったかな……。

 縮め如意棒!」


 孫悟空の声真似を、尊大で横柄な声色で呪文を唱える。しかし、如意棒に変化は起こらない。


「あれ、違った?

 すくめ如意棒! 縮こまれ如意棒! 私の命令を聞きなさい如意棒!」


 やはり同じで如意棒はまったく反応しない。


「駄目だこりゃ。私じゃ無理みたい。

 まぁ、当然か。孫兄以外のの命令どおりに伸びたり縮んだりしたら殴り合いには使えないしね」

「おい、何してる」

「あ」


 海面につけこまれた巨大な顔面。それについた二つの眼球が猪八戒を覗き込むように睨む。

「消えたと思ったら、元の姿に戻っていたか。そして私の武器をくすねようとしたわけだ。

 これほどの体格差があれば、お前など一殴りで豚のひき肉してくれる。酒の肴に調度良い」

「まっ! どっちが盗人かわかりゃしない! あげく人様をおつまみ扱いしてからに。

 相手が小さくなった途端に勢いづくなんてお里が知れてるわよ。田舎者! 国に帰れ!」

「無礼な! 我はテューポーンとエキドナの子でオリュンポス十二神の一柱ヘラより武術を学んだ身。

 貴様のような醜い脂肪の塊に産まれをとやかく言われる筋合いは無い!」


 すると八戒、笑いをこらえる。

「え、あんたギリシャ神族なの?

 うぷぷぷぷ、ギリシャ神族ともあろうお方がルルイエで下働きとはご苦労様でございますなぁ」

 自分だって道教神族でありながら故郷を追われ月を追われ、流浪の徒となっている。他人のことを笑える身分ではない。


「馬鹿め! 今、挑発など逆効果と知れ」

 ハイドラの手が猪八戒を捕らえようと伸びる。

 

 が、八戒は果敢にも九歯馬鍬(きゅうしまぐわ)を振り上げて正面から挑む。

その一振りがハイドラの人差し指と中指の間の水かきを引き裂く。八戒、その引き裂いた隙間をくぐって容易にハイドラの魔手からすり抜ける。


「愚かな! この程度の傷などすぐ再生するわ。我はハイドラぞ! ……あ」


 猪八戒は、仙雲に乗ってその場から逃げ出した。


 すぐさまハイドラは海中に引き返し如意棒を回収。浮上しそれを構えるが、まだ鼻水がへばりついていてうまく握ることができない。

「……ちっ、これでは手元が狂って魚籃様の竹林に当たってしまうかも。そうなれば作戦は台無し。

 追撃を――」

 そして、北の海域を睨む。 

「駄目だ。()()ここを離れるわけにはいかない」 


 コーンウォール沖は防衛の最前線である。作戦実行まで北から攻め入る大いなる深淵(グレイトアビス)の侵入を許してはならない。


 仙雲を駆る猪八戒は背後を警戒する。

「……やっぱり追撃は来ない。長射程の如意棒を封じたのは良かったけど回収しておきたかったかな。

 ……ん!?」

 

 視界の先に広がる竹林。

「噂のタケノコは成長してしまったのね。

 偵察が見間違えじゃなかったんだ。でも竹なんて何に――」


 八戒の独り言を腹の虫が唸りをたててかき消してしまう。


「うぐああああああ! もうっ、お腹すいた!!!」

クトゥルフ神話にはハイドラという神は二柱あって、一つはクトゥルフ配下の母なるハイドラ。そしてもう一つは外なる神(アウターゴッズ)のハイドラ。

ギリシャ神話のハイドラ(うみへび座)は後者の外なる神(アウターゴッズ)なんだそうです。


 なので今回のハイドラの「テューポーンとエキドナの云々」は間違ったセリフということになります。この辺りの整合性は後々つけるつもりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ