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第66話 桃太郎対ブリキの木こり 前編

登場人物


桃太郎

これからどうするべきか情報を集める為、太平洋のどこかにある別世界の入口を探している。


ブリキの木こり

カルコサの戦士、黄風怪の部下。目や口、間接の隙間から黒いタールを垂れ流している。


黄風怪(こうふうかい)

ハスターから全権を受けて、地球のカルコサ軍を指揮している。顔面が白毛のテンの妖仙。


闇の神官

シュブ=ニグラスの神官。烏の被り物で素顔を隠している。道士服を着ているので仙人と思われる。


茨木童子(いばらきどうじ)

カルコサの戦士、黄風怪の部下。鬼族の生き残り。桃太郎との戦闘で右腕を失い、黄風怪から拷問を受け戦闘不能。


通天河(アーケロン) 

古代海亀の子供。ルルイエのダゴンより、カルコサを利用して桃太郎を抹殺する命令を受けている。

 ブリキの木こりは、口元から黒いタールを流し、きしんだ声を出す。

「桃太郎、今の私はハスター様の忠実な下僕。

 カルコサの栄光のため、ここで死んでもらう」


 斧を構えるブリキの木こりに、桃太郎は訴える。

「よせ! ドロシー嬢は無事なのか!?

 こんなことをしている場合じゃないだろ!」


 ブリキは目に涙をためた。涙すらタールになっていた。


 シュブ=ニグラスの神官、烏頭の闇道士はブリキの木こりが海に落ちないように足場の雲を飛ばす。

ブリキの木こりはそれに乗り、海上の桃太郎に向かって急降下。


 桃太郎は童子切安綱(どうじぎりやすつな)で応戦。が、エメラルドシティで共に力を合わせた戦友が相手では太刀筋が鈍る。


 ブリキの木こりの斧は無銘ではあるが、妖精の魔力を宿した神器である。


 両者の激突で海面がはじけ、しぶきが上がる。


 力比べならば刃に重厚さをもつ斧が刀より有利。

ブリキの木こりは桃太郎を押し負かそうと刃に力を乗せる。


 鍔迫り合い。もし、ここで桃太郎が別の刀で戦っていたら、彼の敗北で勝負はついていた。 


 童子切安綱は破壊の刀。破壊者であるがゆえに並大抵のことでは折れない。

妖精の斧に遅れをとることなく持ちこたえる。


「ドロシーは死んだ!」

 鍔迫り合いの中、ブリキはうなる。


「待て、死んだところを見たのか!?」

「見てはいない。だが、生きていたところで、私はドロシーを救えない!」


 ブリキの木こりの腕により力が入り、桃太郎が押される。


 決して桃太郎が力負けしているわけではない。足場に問題がある。

桃太郎の足場は太古の海亀の子、通天河(アーケロン)


 通天河(アーケロン)の甲羅にはブリキの木こりと桃太郎の力がかかっていた。

その力、子亀には荷が重い。徐々に沈んでいく。


「潜れ!」


 通天河(アーケロン)は、桃太郎の指示に即座に反応。桃太郎を乗せたまま潜水。


 桃太郎が急に身を引いたため、ブリキは勢い余って転落。海中に没するその寸前、闇の神官が雲も操り救う。


 海面は黄風怪の巻き起こした砂塵で黄色い砂漠のようになっていた。

空からでは、海中を動く桃太郎の姿を捉えることはできない。


 黄風怪は焦る。

「ち、これでは敵の動きが読めん。

 しかし、それは敵も同じこと! どこから出る? それとも逃げるか?

 ハッ、おい爺、茨木童子を捨てろ! あいつは鬼の気配を狙ってくるぞ!」


 負傷した茨木を抱いた闇の神官は首を横にふる。

「いや、桃太郎はブリキの木こりの位置を把握できるでしょうな。

 手負いの鬼女を狙うことはせんじゃろう」

「なんだとっ!」


 黄風怪の叫びと童子に水柱が上がり、桃太郎が飛び上がる。標的を狂いなく正確にブリキの木こりに定めている。


「なぜだ!? なぜ奴はブリキの場所がわかる!?」


 驚愕し叫ぶ黄風怪に闇の神官は答える。

「あれじゃよ。ブリキの木こりから垂れているタール。まっすぐ海面に落ちている。

 海中からそれを確認し、ブリキの居場所を特定したのじゃ」

「なんて奴」


 桃太郎の狙いは正確だが、ブリキの木こりはその軌道を見抜き、すんでのところで、のけぞりかわす。


 安綱の太刀筋が黄のローブだけを切りさく。そして、ローブによって隠された姿があらわになる。

 

 胸のハート型の宝石はくすみ茶色く濁っている。左胸は大きく裂け、その断面は錆び付いている。かなり以前にできた傷と推測できた。

何より目を覆いたくなるのはその裂けた部分から黒いタールが溢れ出てることである。


 海面から出た甲羅に着地する桃太郎に向かってブリキの木こりは叫ぶ。

「これがドロシーを救えない理由!

 レン高原で全てが変わった!

 私は、あの直後ヒアデス星団のカルコサに飛ばされた。いつの間にか左胸は裂けていた、そして――」

 おもむろに左手を左胸のタールだまりに突っ込んだ。

何かを探るように、しばらくまさぐってから左手を引き抜く。

 その手にはタールの塊が握られていたが、それは生き物のように流れ落ちて、ブリキの木こりの指や腕の関節から再び体内へと侵入していく。

「私はオズから授かった心臓を失っていた。身体中がタールに侵されて……。

 こんな状態で、こんな状態でドロシーに会いにいけると思うの!?」


 桃太郎は痛ましく思いながらも、説得を試みた。

「ドロシー嬢は、そんなことで君を見捨てたりしないはずだ。君はドロシー嬢の友人なんだろう?

 失った心臓を取り戻す方法を考えよう。手はあるはずだ!」


 ブリキの木こりは首を横にふる。

「無理よ。だって……、うふふふ。

 たまに自分の……、あはははは。

 自分の感情が思い通りにならない。多分、心臓が無いから。くすっ。

 悲しいはずなのに、きゃははははははは!!!!」

 口と目からタールが飛び散る。

 ブリキの身体がきしみ不快な金属音を発する。

「心臓が無いから! 心臓が無いから!

 無いから! 無いから! 無いから!」

 叫び声としか聞き取れない甲高い笑い声。関節がありえない方向へ曲がり回転、斧を振り回して桃太郎へ飛び掛る。


 桃太郎は安綱で応戦。ブリキの木こりの斬撃は縦横無尽に繰り出され、防戦を強いられる。

刃と刃が衝突するたびに閃光があたりを覆う。


「よせっ! やめろ! 君は正気を失っている!

 私と行こう、この近くには別世界の入口があるはずなんだ。

 そうすれば心臓を取り戻す方法だって見つかるはずだ!

 君は治療が必要だ!」


 この言葉を受けてブリキの木こりの攻撃がゆるむ。


「別の世界……?」

「そうだ。私のバルザイ刀があった場所だ。

 きっと誰かしら神仙がいる。少なくともそんな奴らといっしょにいちゃいけない!」



「ブリキの木こりよ、桃太郎の言うことに耳を貸してはいけませんぞ」

 闇の道士は、諭すようにブリキに呼びかける。

「確かに心臓を手に入れる方法はあるかもしれん。

 だが、そのタールまみれの身体にどう収めるつもりかね?

 どんな頑強な心臓でもたちまち腐ってしまうだろう。

 仮にタールを克服し心臓を取り戻し、どこに帰る? オズの国に?

 今更、説明が必要かね?

 オズもウィンキーも滅んだ亡国。今やカルコサの一部。

 となれば君が帰る場所はカルコサなのだ」


 ブリキの木こりは攻撃が止まった。


 桃太郎はすぐさま斧を奪う。

「逃げよう、ブリキの木こり。助かる方法を考えるんだ」


 闇の道士は平静さを失わず、なおもブリキの木こりに語りかける。

「君の帰るべき場所はオズではない。カルコサなのだ」


 ブリキの木こりの関節からタールが滲み出る。

「……悲しい。

 悲しいよ。悲しいけど……、ふふふふ。

 あははは、変なの。笑いが止まらないの。うふふふ。

 私、本当はカルコサが好きなのかな?

 私、ハスター様に仕えることが幸せなのかな?」


「そんなこと――」

 桃太郎は否定しようとした。

が、それを言い終わらないうちに、ブリキの木こりの関節からタールが間欠泉のごとく噴出した。

 

 黒い液体が桃太郎の両目に叩きつけられた。視力を奪われ致命的な隙が生じる。

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