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第37話 ドックス王子、カチカチ兎に敬意を表す

前回のあらすじ

温泉街で月警察の公開訓練が催された。

その訓練中、草合わせの競技で臨時教官フロッグマンにイカサマ疑惑が浮上する。

見物していた木落猿(きおちざる)は証拠品である接合オモダカを確保するためにフロッグマンを殴り倒してしまい、暴行容疑で取り押さえられてしまった。



前回からの主な登場人物


カチカチ

月警察長官の白兎。裁きの炎(コノハナサクヤビメ)でフロッグマンのイカサマを証明するが、投げ飛ばされ気絶してしまう。


フロッグマン

イップ国の蛙人間。自己顕示欲が強い。月の民衆の尊敬を集めるためなら偽造やドーピングと手段を選ばない。木落猿に殴られ気絶してしまう。


木落猿(きおちざる)

桃太郎の猿の父親。イカサマをしたフロッグマンを殴り倒したため、警官たちに現行犯で取り押さえられてしまう。


見猿、言わ猿、聞か猿

桃太郎の猿の三つ子。見猿が最初にフロッグマンがイカサマをしていることに気付く。


ドックス

狐族の王子。公開訓練の出資者。フロッグマンに騙され、彼を臨時教官に任命してしまう。


猪剛鬣(ちょごうりょう)

S&T社勤務の豚。公開訓練を見物していただけ。

 昼過ぎ、温泉街所轄刑事のトラ猫は暴行現場の見聞していた。


 取り押さえられた加害者の木落猿(きおちざる)、木陰で気を失っている被害者のフロッグマン、

そして、その横で警察トップのカチカチは耳を噛まれたショックで悪夢にうなされていた。(第36話参照)

 それを訓練中だったエリート警察官たちや野次馬が囲うようにして並んでいる。



「あぁ、父が何か問題でも?」

 父親逮捕の報せを受けて、息子の(さる)が人垣をかき分けて、おろおろしながらやってきた。


 トラ猫刑事が答える。

「そこで横になっている蛙を殴ったんですよ。

 目撃者も多いし、現行犯逮捕です」

「あぁ、父はなんでそんなことを?」

「フロッグマンという蛙が草合わせの競技でイカサマをしたので、その証拠品であるオモダカを奪ったのです。

 話を聞く限り、フロッグマンも相当にあくどい奴なので気持ちはわかるのですが、今のご時勢、暴力沙汰は困るんですよ。

 わかるでしょ?」


 月では以前、ノーデンス派やニャルラトテップ派の暴動略奪が頻発したため、住民たちは暴力事件に対して神経質になっていた。(第35話参照)


「びえぇえぇえん!!」

 見猿が泣いていた。顔に巻かれた包帯の目の部分が涙で濡れている。

「ぼ、僕がいけなかったんだ。イカサマに気付いても黙ってればよかたんだァ!」

 言わ猿は無言で見猿の背中をさすっている。

 木落猿は逃げないように縛られていたが胸をはっている。

「見猿、泣くんじゃねえ。男ってのは、たとえ法律に触れようとも正しい事をしなきゃいけないときがあるんだ。

 お前は、本当のことを言った。それに悪いことなんてあるもんか」


「父さん、そんなことを言ってる場合じゃないでしょう!」

 (さる)は父親を一喝した。

「なんてことをしてくれたんです。月では暴力沙汰を起こすことは重罪なんです。

 最悪、追放刑になりますよ」

「なんだって!?」

 やっと我が子と再会し孫の顔も見れたのに、追放されると聞いて木落猿は青ざめる。


 トラ猫刑事が口を挟む。

「あー、いえ、おそらく一年以内の懲役か罰金刑で済むはずです。

 ほら、追放されたのはインスマス人でしたし」(第28話参照)


 木落猿はトラ猫刑事に追いすがる。

「いったい、どうなってるんだよ。俺がいったい何をしたってんだ!?

 あの蛙は悪党だぞ。なんで悪党をやっつけた俺がこんな目にあうんだ?」


 トラ猫刑事は気の毒な人を見る目で木落猿を一瞥すると(さる)に言った。

「失礼ですが、あなたの父親は……、どこか辺境から来たのですか?

 法律という概念が欠落しているように見受けられますが」

「あぁ、えぇとそれは……」


「フロッグマンが目を覚ましたよ!」

 猪剛鬣(ちょごうりょう)が叫ぶと、皆、フロッグマンの所に集まった。


 フロッグマンはくらくらしながらも上半身を起こした。

「ん、んんんん。はて、いったいなんの騒ぎですかな?」


 トラ猫刑事は呆れて言う。

「なんの騒ぎですかじゃないよ。原因を作ったのはあんただろうが」

「?」

「あんたは、この猿に殴られたんだよ。それで今まで気を失っていたの!」

「……」


 フッログマンは縛られた木落猿を見て答えた。

「いや、我輩は誰にも殴られていない。気を失ってなどいない」

「はぁ?」

「ちょっと、居眠りをしていただけだ」

「おい、馬鹿なことを言うな。大勢が見ていたんだぞ」

「見間違いでしょう」

「集団幻覚とでも言うのかね?」

「さぁ、それは。しかし、殴られたという本人が違うと言っているのだ。

 我輩は誰にも殴られていない」 


 フロッグマンは明らかに見当違いのことを言っている。

しかし、頭を打って記憶喪失になったわけではない

 彼にとって大切なことは自己顕示欲を満たしチヤホヤされること。これが第一目標であり目的なのだ。


 フロッグマンは木落猿を見て思う。

“我輩は、こんな頭の悪そうな学も何も無い猿に殴られて気絶したのか。なんという汚点、一生の恥、こんな事実あってはならぬ”


「猿よ、君は我輩を殴ってはいない。そうだね。そうだと言いたまえ」

「なにっ」


 木落猿はフロッグマンの尊大な態度に頭に血が上ぼってしまった。

「なんだと、このひょろひょろ蛙め。馬鹿を言うんじゃねえ。

 俺が殴ったんだよ。何が居眠りしてただ、馬鹿野郎!」

「……なんて頭の悪い猿だ。お前のためでもあるというのに」

 蛙は低くうめいたが、どうにもならない。


 (さる)はフロッグマンの真意に気付いていたので父を叱責する。

「父さん! やってないと言って下さい。また離ればなれになってしまいますよ」

「なにぃ、このバカ息子め。どうしてお前は言うことやること、せこいんだ?

 男にはなぁ、曲げてはならないスジってもんがあるだろうが!」 

「馬鹿はあなただ!」

「なんだとぅ!? てめぇ、親に向かってなんだその口のききかたは。

 おい、猫。俺の縄を解きやがれ、この馬鹿に一発おみまいしなきゃ気が済まん」


 トラ猫刑事は無茶苦茶な要求に苛立つ。

「今一番の馬鹿はあんただろ! 暴力ふるうとわかっていて縄を解けるもんか!」


 親子喧嘩に猫刑事の怒鳴り声。とうとう見猿だけでなく聞か猿と言わ猿も泣きだしてしまった。


「うぅっ……」

 飛び交う怒声と泣き声で、カチカチも目を覚ます。


「なんだ、いったい何の騒ぎだ?」


 縛られている木落猿、泣きわめく三つ子の猿。


「え、なんで?」

 事情を知らないカチカチは困惑する。

 するとフロッグマンが近付いて言う。 


「カチカチ氏、我輩は色々と考えたのだが、雑草合わせの優勝を辞退しようと思う。

 やはり教官が優勝というのはおかしい。優勝は君の部下から選ぶとよかろう。

 それと、この後のスケジュールだが、我輩は急用を思い出したので失礼する」

「おい、勝手な事を言うな。草合わせで不正を働いたことはわかっているんだ。トリックを白状してもらうぞ。

 私の裁きの炎(コノハナノサクヤビメ)は――」

「あと大事なことだが、我輩はそこの猿に殴られてないからね。

 誰が何を言おうと殴られてないからね!」


 そして、一目散に走り去ってしまった。


「まて、お前には詐欺容疑がかかっている!」

 警官たちは取り押さえようと追いかけたが、ゾソゾ薬でドーピングしたフロッグマンに追いつくことはできなかった。


 カチカチは呆然として、近くにいたドックス王子に訊ねる。

「いったいどうしたというのです?」

「あ、あぁ、すまない。余のミスだ。あんな蛙を信じたばっかりにこんなことに。

 この後の訓練は余が責任をもって引き継ぐ」

「それはそれで良いのですが、なんで老猿が縛られているのです?」

「それが実は、あの猿がフロッグマンを殴り倒してしまってな」

「え、殴られてないと言っていましたが」

「それは嘘だ。ここにいる全員が暴行の瞬間を目撃している。現行犯で逮捕されたのだ」

「しかし、肝心の被害者、フロッグマンが否定しているのでしょう?」

「それはそうだが」


 カチカチは縛られた木落猿をよくよく観察した。

「……私は、この猿は無実だと思う。

 私だって伊達に長官はやってない。この老猿は弱い。

 化け狸にすら勝てないだろう」


 弱いと言われては木落猿のプライドが許さない。

「なんだこのウサ公め! 俺が弱いだと? 馬鹿にしやがって。

 おい、縄を解け。その毛をむしってやる!」

「父さん、なんてこと言うんだ。この方は警察の長官だよ。

 父さんが百人いたって敵いやしない」

 (さる)は父親を叱ったが、キーキーわめくのをやめない。


 カチカチは鼻をならす。

「あのフロッグマンを倒したと言うなら、この縄を自力で千切ってしまうはずだ。

 フロッグマン、奴の筋力は相当に強い。

 私が勝てなかったフロッグマンに君が勝てるはずがない」


 トラ猫刑事は困ってしまった。

「しかし、長官。それでは目撃者の証言はいかがいたします?」

「そこが問題なのだ。肝心の被害者が事件を否定しいなくなってしまった。

 和解や示談という選択もあるが、被害者が被害そのものを否定したことはなかった」




 (さる)は一つ案を思いつきドックスに話しかける。

「ドックス王子、うまくこの場を収める策を思いついたので献策したく思います」

「なに? それは有難い。どのような策を用いるつもりかね?」

「全部、王子のせいにしてしまうことです」

「? どういう意味だ?」

 ドックス王子は(さる)の言葉に耳を傾ける。







「訓練やめ!」

 辺りにドックス王子の声が響く。

「皆、ご苦労であった。対詐欺訓練終了である」


 トラ猫刑事はいぶかしそうにドックス王子を見る。

「詐欺訓練?」

「左様、フロッグマンが臨時教官というのも、カチカチが倒されたのも芝居である」


 訓練警官も観衆も半信半疑。否、九割九部疑いの目でドックス王子を見る。


「この対詐欺訓練は余が考えたものだ。

 君たちはフロッグマンが詐欺師役と見破れたかね?」

「はぁあああああ?」

 全員が、ふざけるなといった具合にドックス王子に非難の目を向ける。

 しかし、ドックス王子は平然として続ける。

「この訓練は草合わせの競技ではない。真実はフロッグマンの詐欺を見破る訓練であったのだ。

 しかし、勘の良い市民が先に見破ってしまった。

 なに気にするな。これは警官が無能というわけではない。余の不手際だ」


 カチカチはドックスに詰め寄る。

「いい加減な発言は控えていただきたい。私はそんな話は知らない」

 

 ドックス王子は他の誰にも聞こえないように小声で言う。

「知らなくて当然。訓練に臨場感を出すために、長官である貴殿にも秘密にしていたのだ。

 ……君は黙って余の言う通りにしたまえ。それで誰も傷つかず収まる。名誉も守れる」

「!?」


 王子は民衆に訴えかける。

「考えていただきたい。カチカチ氏は、月の民を代表する英雄である。

 その英雄を、イップだかどこかの田舎蛙に倒せることなどできようか。答えは否!

 今、縛られているか弱い老猿がフロッグマンを殴り倒した事実こそ、その証拠。

 カチカチとフロッグマンの戦いは出来レース。でなければカチカチ氏が負けることなどあろうか」

 そして、木落猿の縄を解く。


「やい、この狐野郎、誰がか弱いだと? 思い知らせてやる!」

 木落猿はドックスに殴りかかったが、たちまち返り討ちにされて取り押さえられる。

「皆も、この猿を悪く思わないでほしい。彼は善良な市民であって、良かれと思ってしたことなのだ」




 これが(さる)がドックスに授けた策だった。


 警察の臨時訓練教官がドックス王子だったことで、各々の不名誉を無かったことにできる。


 ドックス王子はフロッグマンの口車に乗って彼を教官にしてしまい暗愚と呼ばれても仕方がない。

しかし、ドックス王子が教官だったことにしてフロッグマンがその助手だったことにしてしまえば、全て王子の計画ということで片付けられる。


 カチカチは月警察の長でありながら、フロッグマンに急所である耳を噛まれ倒されてしまった。彼のキャリアに修復不能の傷を残した。

しかし、この戦いが訓練のための八百長であるならばカチカチの名誉は傷つかない。


 木落猿は感情にまかせてフロッグマンを殴り倒して暴力事件にしてしまった。

しかし、そんなことになってしまったのはドックス王子が観衆に対して配慮が欠けていたためである。


 結果的に、ドックス王子が警官を訓練をする力量が不足していたということになる。

それでも、蛙に騙された事実より、はるかに傷は浅くて済む。



「納得でるものではありませんな」

 カチカチはドックス王子の前に立つ。

「王子、あなたは明らかに嘘をついている。臨時教官はあなたではない、フロッグマンだ」

「いや余が教官だったのだ。フロッグマンが教官だと多くの者の名誉が傷つく」

「名誉よりも真実。私は裁断者として真実を明らかにする義務がある」


 カチカチは名誉よりも真実を重んじる。彼は今までそうやってきたし、それこそが彼の力の源であった。

「王子、あなたが嘘を押し通すのであれば、私はコノハナノサクビメの名の下にあなたを裁かなければならない」


 かたやドックスとて狐族王族の誇りがあり、引き下がるつもりはない。

「よかろう。余は最良の選択をしている。裁かれるいわれはない」


「それは無茶だ!」

 (さる)は王子を止めた。計算外だったのだ。カチカチの名誉は守れるので身を引くと考えていた。

見誤っていた。カチカチは、誰よりも公平で潔白な精神の持ち主だった。そして、ドックスもそれに応える気概があった。




 ドックス王子は右手を差し出した。カチカチも右手を出して王子の手を握る。


 裁きの炎(コノハナノサクヤビメ)がドックス王子に燃え移る。


「うぐおおおおお!!」


 炎が王子の全身をなでまわす。皆、かたずを飲んで見守る。


「ぐああああ、あっ、あっ、あぁ、ああ?!」



 そのとき、ドックス王子の覚悟とカチカチへの敬意が奇跡を呼んだ。



 燃え移った炎は青く変色し、徐々に納まっていき鎮火する。

王子は火傷一つ無く、何が起こったか、すぐには理解できず呆然としていた。


「これは……、そうか!」


 王子が念じると、尾に青い炎が燃えがる。

ドックス王子は狐火の術を会得したのだ。そしてひらめく。

「よし、夜の訓練は弓術とする。

 余の狐火が照らす(はす)の葉の(まと)を、いかに素早く正確に射抜くか競ってもらおう!

 文句は言わせぬ、余が臨時教官なのだからな!」


 カチカチは納得してうなずいた。

裁きの炎(コノハナノサクヤビメ)で無傷であり、新たな力に目覚めたというなら、もう何も言うまい。

 ドックス王子、そして狐族にコノハナノサクヤビメのご加護あれ」


 ドックス王子は嘘をついた。しかし、誰かを貶めることでも辱めるためでもない。まして自分だけ良い思いをするためでもない。 

ただ、全員の名誉と尊厳を守るという願いだけである。その想いが裁きの炎(コノハナノサクヤビメ)から火傷ではなく力を授かったのだ。


「ありがとう、そなたの気転と策のおかげで、大事にならずに済んだ」

 ドックス王子は、(さる)に厚く礼を述べた。



 事件は円く納まった。しかし、黙っていればいいのに余計な事を言う者が必ず一人はいるものである。

「でも、それって屁理屈なんじゃないの?」

 猪剛鬣(ちょごうりょう)である。


 そのいらぬ一言に横にいた(さる)は肝を冷やし、ドックス王子はギンッと睨みつける。


「……」

 王子は険しい表情で猪剛鬣(ちょごうりょう)に詰め寄る。


「な、なによ。悪気は無かったの。ごめんなさいね。

 レディをそんなにジロジロ見るのはやめてよ」

「月に豚とは珍しいな。もしや君が猪八戒か?」


 猪八戒!


 猪剛鬣(ちょごうりょう)は懐かしい響きに心が震えた。

「も、もしかして王子、あなたは――」

“かつての仲間に会ったのだろうか? お師匠様? 孫兄(そんにい)? それとも――”


 しかし、それを言おうとして別の言葉に遮られる。

 

「違うよー。このお姉ちゃんは猪剛鬣(ちょごうりょう)っていうんだよー」

 事情を知らない見猿がドックス王子に答えてしまった。


「ふむ、そうか。これは失礼した」

 ドックスは命の恩人である沙悟浄の先輩には興味があったが、それ以外の豚にはまったくの無関心だったので、踵を返してしまった。


 猪剛鬣(ちょごうりょう)は手を伸ばし、ドックス王子を呼び戻そうとした。

“誰からその名前を聞いたんですか? 三蔵法師ですか? 悟空ですか?”


 だが結局、なんの言葉も出なかった。いや、出さなかった。

全て過去のこと、終わったことなのだ。今更、僧侶に戻って何になるのか。


 猪剛鬣(ちょごうりょう)はドックス王子の背中を見送った。


 (さる)猪剛鬣(ちょごうりょう)に話しかける。

「あなたを知ってる誰かが無事なことがわかりましたね」

「うん……、あっ!」

「どうしました?」

「どうしよう、今朝、電話で嫦娥(じょうが)が、明日の会談で懐かしい人物を連れてくるって言ってた。

 きっと道教神族の誰かだろうとさして気にして無かったけど……」

「ドックス王子は、あなたのことを猪剛鬣(ちょごうりょう)ではなく猪八戒と呼んでいましたよね」

「あぁ! 私のことを猪八戒なんて呼ぶ者は限られてる」

「どうするのです。明日、来るのでしょ?」

「えっと、私は病気になる。ちょっと体調を崩す」

「良いんですか?」

「良いのよ。今の生活を失うなんてまっぴら。

 あなただって、交渉は奥様にまかせて欠席したほうがいいわよ。

 もし、あなたの古い仲間の消息を知っていたら……」

「これは私の旅館の将来を決める問題でもあるのです。欠席するわけにはいきません」

「わかったわ。とにかく私は明日病気ね」


「ねぇ、二人して何を話してるの?」

 見猿が聞くので(さる)は手をふって返答を拒む。

「子供には関係のないことだ」


「おい、もう、皆でお昼にしないか。ごたごたのせいで、けっこういい時間だぞ。

 まさか、夜まで警察の訓練を見物するわけにもいかんだろ」

 木落猿は警察のお世話になる原因を作ったが、さして反省をしていない様子だった。


 (さる)猪剛鬣(ちょごうりょう)は互いに顔を見合わせて、気分晴れぬまま三つ子と老猿をつれて食事処に向かうのであった。

先日、東京国立博物館の「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」行ってきました。

まさか甲巻前半部分を観るためだけに2時間半も費やすとは恐れ入ったぜ。

まぁ、色々と勉強になりました。明恵上人とか。

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