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第25話 甦る虎物語

 『西遊記』成立以前は玄奘三蔵の旅のおともは猿ではなく虎だったとする説がある。


その名残(なご)りか、『西遊記』において孫悟空は虎の毛皮を身につけている。また三蔵法師が虎に変身するエピソードもある。




 


 三蔵法師、ライオン、ハングリータイガー、そして音楽人間アレグロ・ダ・カーポが普陀山(ふださん)潮音洞(ちょうおんどう)集落に入る。


 彼らを捧珠竜女(ほうじゅりゅうじょ)が強張った顔で出迎えた。


「アレグロ・ダ・カーポ、またお前か。

 ……うん!?」


 竜女の顔が驚きと喜びに変わる。死んだと思われていた三蔵法師を見つけたからである。


「玄奘様、無事だったのですね。アザトースの狂気に蝕まれたものと思っていました」

「はい。菩薩様のおかげで何とか無事です。しかし仏法は廃れてしまいました。

 私は、この状況を少しでも良くできればと思いここまでやって参りました」


 菩薩と聞いて竜女は目に涙を溜めた。


(いぬ)様より事情は聞いています。(第二十話参照)

 ですが、あれから菩薩様を見た者はいないのです。もしかしたら師はもう……」


「ウォッホン!」


 咳ばらいが感傷を妨げた。

太った小男アレグロ・ダ・カーポである。


「竜女殿、今日は怒ったり喜んだりメソメソしたりと情緒不安定極まれりですな。

 早く大神(だいじん)様にお目通り願いたい」


 竜女はダ・カーポをキッと睨む。


「大神は お前には会わない」

「会わない。何の権限があって貴女が決められるのかわかりませんな。

 もちろん会わないという選択肢もございますが……。

 果たして その重責を負う覚悟、貴女にありますかな?」


 竜女は悔しそうに「ついてこい」とだけ言うとダ・カーポを連れて潮音洞(ちょうおんどう)の中へと入っていった。


 それを見送り三蔵法師は嘆く。


「あぁ、あんなアザトースの家来とも話しをしなくてはならないとは。

 仏法に明日はないのか」

「おじさん、どこも同じだよ。

 皆、否応なくノーデンスかニャルラトテップの陣営につくしかないんだ。

 結局、強い奴に従うしかないんだよ」

「ん……。誰だ君は?」

「え、ハングリータイガーだけど」

「え?」

「え?」


 ハングリータイガーはダ・カーポを背から下ろしたことで、少年の姿になっていた。


 茶髪の前髪に金のメッシュを入れ、白いシャツの上から金の刺繍入りの茶色いベストを羽織っている。

下半身に目を向ければ、なるほど虎の着ぐるみを履いている。


「おうおう、ライオンも同じように変身しているが。

 君らはその人間の姿が本性なのか? それとも獣の姿が本性なのか?」


 ハングリータイガーは答えた。


「う~ん、どっちかなぁ。考えたこともないや。

 他の動物たちには俺が人間の姿をしていても虎だってわかってるしね」

「ほう」

「声や臭いでわかるんだよ。でも人間は野生の勘が鈍っているから区別できないのさ。

 知恵や知識を頼りにすると勘は衰えるからね」

「うむ、私には君と人間との違いがわからない。

 声も普通、臭いも普通だ。人間とかわらない」

「まぁ、日常生活は人間(こっち)の姿のほうが楽かな。

 だいたいの道具は人間用に作られているし。

 でもやっぱり体力や運動能力は獣の姿のほうがずっとあるからね」

「うぅむ、取経(しゅきょう)の旅のとき 妖怪の術で虎にされたことを思い出した」

「へぇ! そんなことがあったの!? どんな感じだった?」

「うむ、あのときは――」

 

 三蔵法師はハングリーとライオンに虎にされたときのことを話し始めた。





 一方、アレグロ・ダ・カーポは捧珠竜女(ほうじゅりゅうじょ)の案内で客間に通され

黒熊(くろくま)の精霊 守山大神(しゅざんだいじん)に相対した。


 二人が会うのはこれが初めてのことではない。

ダ・カーポはニャルラトテップ陣営につくようにと 再三に潮音洞(ちょうおんどう)を訪れている。


「そろそろ首を縦にふってはいただけないですか」

「何度来ていただいても同じことです。お引き取りを」

「ふぅむ。ではノーデンスにつくわけですね」

「そういうわけではございませんが……」

「何にせよ、最良の選択をすることですな。

 ずるずる先延ばしにしているうちに決着がついてしまったら目も当てられない」

「……」

「……ところで天冥崩壊戦争以来、世に仏が絶えてどれほどになりますかな?」

「さぁ……、長い年月が経ちました」

「そうですな。大戦以前は世界がこのようになるとは誰も想像できなかった。

 菩薩も絶えて久しく、今や大神(だいじん)様が潮音洞(ちょうおんどう)の主人だ」

「拙僧は戦前からの使命を果たしているだけです。潮音洞(ちょうおんどう)を守らねば僧侶たちの居場所が無くなってしまいます」

「そこが私にはわからんのですよ。もはや仏はいないのに、いったい誰に仕えているのです?

 仏がいないのに(きょう)を唱え 僧侶を名乗って精進(しょうじん)してもしようがないではありませんか」

「仏がいないからといって、仏の教えまで消えてしまうものではありません」

「なるほど。そこでなのですが我らのニャルラトテップ様は千の化身をもっています。

 最近では仏の修業も始めて、どうやらそれらしい姿形になることができるようになりました。

 内包する混沌の力が強すぎて、後光の代わりに暗黒のオーラが放出されていますが。

 いかがでしょう、ニャルラトテップ様を新しい仏とすれば あなた方も仏弟子としての体面を保つことができましょう」


 釈迦如来暗殺の首謀者でもあるニャルラトテップを仏とすることは仏教神族には耐えがたい屈辱である。 

努めて平静を装っていた守山大神(しゅざんだいじん)は目を血走らせ牙をむき出した。

が、普陀山(ふださん)の守護者としての意地を見せる。高ぶる感情を低い唸り声で静めた。


「我らがニャルラトテップを仏として仕えることはありえません。何より彼は仏ではない」

「ではもう今度こそ仏法の再興は叶いませんな。

 私とて暇ではないのです。

 ニャルラトテップ様が幻夢境を治めたあかつきには仏教は地上から永遠に消え去るでしょうな」


 アレグロ・ダ・カーポは立ち上がると客間から出て行ってしまった。


 守山大神(しゅざんだいじん)は深い溜息をついた。

そして自分の力を至らなさを呪った。唯一の慰めは仏を黒い(けが)れから守ったことであった。






 


 捧珠竜女(ほうじゅりゅうじょ)が洞から出るとお堂の陰に隠れて何かを見つめている白馬を見つけた。


「あら、玉龍(ぎょくりゅう)なにしてるの?」

「しーっ」

「うん?」


 白馬の玉龍が見ていたのは三蔵法師であった。

玉龍は三蔵法師を背に乗せて取経の旅の供をしたのだ。(原典『西遊記』参照)


 竜女は玉龍をうながす。


「玄奘様と再会の喜びを分かち合えばいいじゃない。どうして隠れるの?」

「そうしたいのはやまやまなんだけど……。あれを見てよ」


 三蔵法師はハングリータイガーと楽しそうに何かを喋っている。その横ではライオンが笑っていた。


「うん?」

「虎に獅子だよ。馬の僕があんなところに行ったら解体されて晩御飯にされてしまうよ」

「私は戦前にオズの国でライオンに会ったことあるけど 彼は紳士よ。

 旧オズの国の者は(おおむ)ね紳士。

 まぁ、悟空に比べたら大抵が紳士ね。安心なさい」

「そうかな?」

「そもそもあなたは西海竜王敖閏(さいかいりゅおうごうじゅん)の第三太子でしょ!

 虎や獅子に食われる竜がありますか!!」


 こう言われては玉龍は引き下がれない。彼の本性はその名の示す通り龍なのである。


「そうだね。馬でいることが長かったから忘れかけていた。

 お師匠様に会ってくるよ!」


 白馬は気を取り直して三蔵法師に向かって駆けて行った。

その後ろ姿を見送り竜女は一人憂えた。


「本当なら竜に戻れるはずだったのに。

 このままでは彼は心までも馬になってしまうかもしれない」

   





「お師匠様! お師匠様!」


 懐かしい声に三蔵法師が振り向く。


「おぉ、玉龍久しぶりだのう。無事で何よりだ」


 玉龍は三蔵との再開を心から喜んだが、二人の猫科の獣。

とくにライオンが恐ろしかったので、できるだけ距離をおいた。


 三蔵法師は玉龍に尋ねた。


「あれからだいぶ世の中が変わってしまったようだ。

 私にとってはアザトースとの遭遇は つい数日前のことなのだ」

 何が起こったか話してはくれないか」

「わかりました……」


 玉龍は説明した。

 

 結局、アザトースのレン高原から戻ってこれたのは桃太郎の家来の(いぬ)のみ。

 あれ以来、観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)と三蔵の弟子らを見た者はいない。


 シュブ=二グラスの風船が制御不能になった時期。(第二十一話参照)

ニャルラトテップの軍勢が天竺の西側から侵攻した。

如来を失っていた仏や菩薩らでは戦線を維持できず大雷音寺(だいらいおんじ)を放棄し、道教神族の元へ逃れた。

 敵は天竺を制圧し、逃げた仏教神族を追撃した。玉帝が治める天宮の東側からはシュブ=二グラスの風船が迫っており四面楚歌。

仏教道教連合にもはや敵の攻撃を防ぐ力は残っておらず、非戦闘員を幻夢境に逃す時間稼ぎしかできなかった。


 最後の戦い。

仏と菩薩達は全滅し、玉帝も文明国の気によって崩れる落ちる天宮と運命を共にした。

防衛戦に出陣した恵岸行者(えがんぎょうじゃ)哪吒太子(なたたいし)善財童子(ぜんざいどうじ)らは行方不明。


「――もしかしたら。もしかしたら、生き延びた仏か菩薩がいるかもしれないと。

 生きていたら きっと戻ってきてくれると、

 大神(だいじん)様が中心となって潮音洞(ちょうおんどう)を……、仏法を守ってくれています。

 でも、まだどなたも お戻りにはなりません」

「おいたわしや」


 話を聞いて三蔵法師は涙をこぼした。


 ライオンもオズの国のことが気がかりだったので、玉龍に尋ねた。

「オズの国の人たちがどうなったか知っているかい?」

 

 玉龍は話しかけられると思っていなかったので、恐ろしさのあまり腰を抜かしかけた。

 が、龍としての意地と気合でなんとか持ちこたえて返答した。

「生き残ったオズの国の人たちは各地に散り散りになっています。

 ただ、先代のオズ王は家来を連れてオズの国再興のため各地を転々としているとか」

「そっか……、どこにいるのかは わからないんだね」

「はい。残念ながら」

「探してみようかな……」


 ライオンは自身の進む道を見定め始めていた。




「ん?」


 空から馬のような頭をした巨鳥が舞い降りた。

 ハングリーがライオンにつぶやいた。


「シャンタク鳥。ニャルラトテップの使い」

「なんだって!?」

 

 怪鳥は背に黒いゴム肌をした犬人間 喰屍鬼(グール)を一人乗せいていた。


 喰屍鬼(グール)はライオンから殺気を感じとったようで両手をあげて敵意の無いことを示す。


「私は行方不明になった同胞を探している。音楽家のアレグロ・ダ・カーポというのだが……。

 こちらには来ていないか?」


「こっちだ、こっち!」


 アレグロ・ダ・カーポが手を振りながら走って来る。

 喰屍鬼(グール)はシャンタク鳥から降りると深々とおじぎをした。


「ダ・カーポ様、お怪我はございませんか? 急に連絡が途絶えたので心配しておりました」

「うむ、怪我は無い。ここに来る途中に()()()()に襲われてな。

 何とか逃げのびたのだが、私のシャンタク鳥は噛み殺されてしまった」

「あの忌々しい文明国の犬ですか――」

「よ、よせ。今その話をするな馬鹿者!」

 

 アレグロ・ダ・カーポは喰屍鬼(グール)の口を塞ぐとシャンタク鳥によじ登った。


「では、皆さんさらばだ!」


 喰屍鬼(グール)が手綱を握るとシャンタク鳥は空高く舞い上がり、いずこかへ飛び去っていった。

 

 ライオンはシャンタク鳥が飛び去った虚空を眺めながらハングリータイガーに尋ねた。


「アレグロ・ダ・カーポに会ったのってどの辺り?」

「ウルタールの近くだったかな」

「ウルタール?」

「いい所だよ。山を降りて二日もあれば着けるよ」

「……行ってみるかウルタール」

「え?」

「さっき、アレグロ・ダ・カーポの手下が 文明国の犬と口走ったのを聞いたんだ」


 ライオンの知る限り、文明国の犬とはドロシーの飼い犬の黒ケアンテリアのトト一匹のみ。


「トトに会えればドロシーたちや放浪しているオズの人たちの手がかりをつかめるかもしれない」

「なるほど、さすが王様」

「よし、そうと決まれば明日の朝に出発しよう。道案内は頼んだよ」

「おう、任せてくれ」


 ライオンは潮音洞(ちょうおんどう)の者たちの世話になるつもりは無かったので、集落外の竹林の中に野宿をしようと入っていった。

 ハングリーは三蔵法師に声をかけた。


「えっと、俺は王様といっしょにウルタールに行くよ。玄兄貴(げんあにき)とは短い間だったけど楽しかったよ。

 また会えたら仏法の話を聞かせてくれよ」

「うむ。私もなぜか君のことが他人には思えなかった。

 空腹虎よ、仏門はいつでも君を歓迎するぞ」

「僧侶になるのは……、遠慮しとく」


 そして、ハングリータイガーはライオンの後を追って竹林の中に入っいった。


 後には三蔵法師と玉龍が残された。


「お師匠様は、やはりこのまま潮音洞(ちょうおんどう)に残るのですよね」

「うむ。悟空らのことも心配だが、私が無事なのだから彼らは大丈夫だろう……」


 しかし、玄奘は気付いていた。潮音洞(ちょうおんどう)に残っていても、仏法の衰滅を止めることはできない。

ならば、自分が成すべきことはなんであるのか。彼はそれを幻夢境に着いた時から考え続けていた。






 翌朝、まだ日も昇らぬうちから守山大神(しゅざんだいじん)の部屋に玄奘がやって来た。


「玄奘様、おはようございます。いかがなされました?」

「私は色々と考えたのですが旅に出ようと思います」

「なんですって!? それは困ります、あなたは一番仏に近いお方。

 私は、あなたに潮音洞(ちょうおんどう)の主人になっていただこうと思っていたのですよ」

「お気持ちは嬉しく思います。しかし、私では仏教を守ることはできません。

 ならば私が仏様や菩薩様を探しだして、ここに連れてきましょう」

「そんなっ! 仏は皆もう……」

「ここに来られないのは、潮音洞(ちょうおんどう)の無事を知らないから、

 あるいは仏道を諦めて違う道を歩まれているのかもしれません。

 私が説得して連れ戻します」

「絶対に反対です。その旅はあまりに無謀。

 取経の旅と違ってどの神仙の助けも当てにできないのですぞ。

 西に進めばいいというものでもない。

 道中は名状しがたい冒涜的な怪物どもであふれている。

 殺されてしまいます」

「仏の導きがあれば必ず生きて戻ります。

 私が殺されることがあれば、それは私が愚かだからです」

「だから、その仏がもう……」


「玄奘様、お行きになってください」


 捧珠竜女(ほうじゅりゅうじょ)が部屋に入ってきた。


「お二人の声、廊下にまで響いていますよ。

 玄奘様、残った僧侶は少なく長旅に耐えられる者といったら玉龍だけでしょう。

 ですから旅に出るのではあれば二人だけで行ってください。

 私たちは命にかえても潮音洞(ちょうおんどう)を守ります。

 必ず仏様を連れ帰って下さい」

「わかりました。すぐに出発します。

 大神様、竜女様、必ず仏を連れて戻ってまいります」


 玄奘は深く礼拝(らいはい)して部屋を出ていった。

 大神は苦々しく思い言った。


「竜女、どういうつもりだ?

 あれでは君が玄奘様を殺したようなものだぞ」

「玄奘様は自分の意志で旅に出るとおっしゃったのでしょう?

 彼は十二冒険者の一人。誰にも止めることはできまんし、必ず大事を成し遂げます」

「十二……、君はあんないい加減な予言を信じていたのか?」

「彼らは予言が知られる前から集まっていた。

 そして、昨日はライオンまで姿を現した。

 きっとこれは そういう運命なのよ」

「やれやれ、偶然が重なれば信じてみたくもなるものか」




 玄奘は玉龍に事情を話し、共に潮音洞(ちょうおんどう)旅立った。


「玉龍よ急いでくれ! 急げばまだ間に合う」

「何をそんなに急ぐんです?」

「君が旅に出たくない気持ちもわかる。

 我々だけでは下山したら、たちまち殺されてしまうだろう。

 だからこそ助けがいるのだ」


 玉龍は背に乗せた玄奘の指示に従い森の中を走った。

すると目の前をライオンとハングリー・タイガーが歩いていた。

 二人も後ろから馬の気配を感じて振り返る。


「玄兄貴、馬に乗ってどうしたんだい?」

「私も旅に出ることにした。

 しかし、私と玉龍では旅の途中で死んでしまうだろう。

 君たちの助けが必要だ」

「僕らには、あなたは必要ない。足手まといはいらない」


 ライオンはうなり声をあげて追い返そうとしたが、

ハングリータイガーがパチンと指を鳴らした。


「やったぜ。玄兄貴ともっといっしょにいられるなんて最高。

 でも、俺らはウルタールに行くけどそれでいいかい?」

「もちろんだとも。当ての無い旅、仏様を探す旅なのだ。

 あちらこちらで手がかりを探す必要がある」


 ライオンは慌ててハングリータイガーに耳打ちした。

「やめたほうがいいよ。この人、かんしゃく持ちだし。

 身体も弱いし、食べ物もってこいとか言うし しかも肉は食べないんだよ」

「そうかな。けど食べ物の問題なら大丈夫だよ。

 俺は人参果(にんじんか)を食べたおかげで果物なら見分けがつくようになった。(第二十三話参照)

 玄兄貴、俺は果物しか持ってこれないけど それで構わないね」

「いいとも いいとも」


 ライオンは不満そうにふてたが、

親友が喜んでいるならと、この件に関しては文句を言わないことにした。


 

 そして、玉龍は気が気でない。


「ふぇぇ、玄奘様、私は獅子と虎と旅するなんてごめんこうむります。

 きっと私はお昼の弁当にされてしまうでしょう」

「これ玉龍、失礼なことを言うものではない」

「そうだぞ。俺たちが玄兄貴の大切な仲間にひどいことをするわけないじゃないか」


 そう言って二カッと笑った。


 虎の口からのぞく白く輝く健康な歯に、玉龍の心臓が止まりかけた。




 かくして三蔵法師、玉龍、ライオン、ハングリータイガーは普陀山(ふださん)を後にする。


一路目指すはウルタール。エジプト最高神バステトが治める猫族の都である。

次回は三蔵法師たちが猫の都で傍若無人の大暴れ……、

ではなく 月での(さる)のエピソードになります。お楽しみに。

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