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第21話 天冥崩壊戦争 後編

『クトゥルフ神話』とつながりの深いケルト神話からノーデンス エジプト神話からバステト ギリシャ神話からヒュプノスとトリトーンが初登場します。



『クトゥルフ神話』の謎のとされる 多くの外なる神や旧支配者が封印された中、なぜニャルラトテップだけが無事だったのか?

また、なぜ敵対するノーデンストとニャルラトテップは大地の神々を保護しているのか?


その経緯について独断と偏見と思い込みでかいてみました。


 オズのキャラバン隊がナルガイの谷をセレファイスを目指して進む。

大小の馬車を天馬をはじめとする多種多様な魔法動物たちが引っ張っていく。


 その馬車の一つにオズと沙悟浄が乗っていた。


「オズ団長、戦いはアザトースの勝利で終わったのですか?」

「いや、そんなことはない。アザトースは敗北し追放されたよ」

「!?」

「正確には、うやむやになってしまったのだ。

 よろしい、時間もあえることだし そのことについて話そう」



 オズの魔法使いは語る。


 シュブ=ニグラスが操る飛行船と風船は一撃必殺の強力兵器であったが弱点もあった。

常に文明国の空気を送りだす風船のため、飛行船を魔力で動かすことができない。

燃料など物資補給のため地上に下りなければならなかった。


 それに目をつけたオリュンポス十二神の一人 戦略の女神アテナは一計を案じる。

神である自分たちが近付けないなら、自分たちを崇拝する人間たちにやらせればいい。

神々が人間に代理戦争をやらせることなど今に始まったことではない。


 補給で地上に下り、動けないところを地上のギリシャ軍が火矢で奇襲。飛行船は逃げる間もなく灰となった。(ガス袋には水素が充満していた)

だが、この奇襲でパニックを起こしたシュブ=ニグラスの信徒の一人が飛行船と風船をつないでいたワイヤーを切断してしまった。

制御を失った風船は風に流され文明国の気を撒き散らしながら飛び去ってしまう。



 天界は風船の脅威にさらされることになったが、飛行船を破壊したことによりシュブ=ニグラスは計画的な破壊活動ができなくなっていた。

このため各神族はアザトースに対抗する軍編成と、人間の夢世界 幻夢境へ避難する準備を整える時間を稼ぐことができた。


 こと幻夢境避難計画に関してはギリシャ神族の眠りの神ヒュプノスと道教神族の胡蝶(こちょう)が多大な功績をあげたという。


 

 暴走した風船により天界冥界ともに消滅し 戦いの舞台が幻夢境に移る頃、アザトースに敵対する神族は同盟を結ぶ。

ケルト、ギリシャ、エジプトの神々を中心とした一大勢力によってアザトースの軍勢は劣勢に立たされた。


 多くの犠牲を払いながらも同盟軍による勝利を誰もが確信したとき、エジプト神族の猫頭の女神バステトは思いもよらない行動に出る。


「この戦い 終りも近い。だがその前に私はオリュンポスの女神アテナを糾弾する。

 我らが故郷を失ったのはこの女の戦略に不備があったからだ。滅びの風船を取りこぼした罪は重い」


 所詮は、反目し合う者たちのその場しのぎの同盟。いとも容易く瓦解した。


 ギリシャ神族はこれを黙殺しようとしたがエジプト神族を中心にケルト神族や力を失った神々(大地の神々など)がバステトを支持。

その数は日増しに膨れ上がり、アザトースとの戦いで疲弊したギリシャ神族にこれを抑える力は残されていなかった。

 結果、アテナは失脚しオリュンポスの権威も失墜。

バステトはその功績をエジプト内外から(たた)えられ、ホルスを押しのけてエジプト神族の最高神として君臨することになった。




 そして――



「ぎゃぁぁああ!!」


 ニャルラトテップは傷だらけになってレン高原の草原を転がる。

漆黒の空に魔王アザトースの姿は無い。

兄ヨグ=ソトースも姉シュブ=ニグラスも既に同盟軍に敗れ別次元の彼方に追放されてしまっていた。


 今、レンの空を支配するは翼を持つ黒き亜人ナイトゴーンの群れ。

灰色の草原は蒼い海原に浸食され、その中をイルカの群れが踊る。 

 這い寄る混沌を倒し戦争に終止符を打つべくケルトの大帝ノーデンスの軍隊が行進する。



 ニャルラトテップは絶叫する。


「貴様らぁ、レンに海水を持ちこむんじゃあない! 草が枯れちまうだろうがぁ!!

 このドグサレ外道どもがよォォオ!!!」


 その返答として、大帝第一の側近 元ギリシャ神族の海神トリトーンが法螺貝を吹く。

イルカの群れがニャルラトテップを突きまわす。


「痛い痛い、やめろって! 俺が何をしたってんだ畜生め!

 ひっ……」


 ノーデンスのトライデントがニャルラトテプの喉元に突きつけられる。


 この白ひげをたくわた屈強な老人神は(おごそ)かに言う。

「これで(しま)いだ。そなたらは世界を治める(うつわ)ではなかったというわけだ

 天界を破壊し神々を流浪の徒に落としたした罪、償っても償いきれぬ。永久に滅び去るがいい」

「くっ……くっそぉおおお!!!」





「その処刑、待った!」


「へ?」

 突然の仲裁者にニャルラトテップは間抜けな声を出す。


 待ったをかけたのはギリシャとエジプトの最高神となったヒュプノスとバステトであった。


「これ以上 血を流したって意味ないでしょ。天界が戻るわけじゃなし。

 俺たちはもう夢の世界を永遠に彷徨うしかないんだよ。

 ニャルラトテップも反省してるようだし許したげなよ」


 トリトーンはニャルラトテップの瞳を覗きこむ。

「ひひひひ。フヒッ。ひひひひひ」

 狂気と憎悪に満ちていた。


「ヒュプノスよ、気でも狂ったか? それに貴様の横にいるのはバステトではないか。

 我らギリシャの神を侮辱した憎き敵と何をしている!?」

「あっはっはっ、ケルトの舎弟になった奴がよくもぬけぬけと。

 裏切り者め。お前はギリシャ神族の恥晒しだよ。

 バステト、あの間抜け野郎どもに説明してやってくれ」

「ふん、よかろう。前に私がアテナを糾弾したろ。

 あれな、ヒュプノスと綿密な打ち合わせをしたうえでやったことなのだよ」


 これにトリトーンは驚愕する。


「なんということを。この大事に何を企んでいる!? ヒュプノス!

 今ここでニャルラトテップ討たねば取り返しのつかぬことになるぞ!」

「今は全ての神が夢の世界にいる。俺って眠りを司る神じゃないですか。

 ってことは現状一番偉いのは俺じゃないかなって思うわけですよ。

 でも、オリュンポスの連中がそれを認めないのはわかっている。

 俺が権力の座につくためには仕方ないじゃないですか」


 バステトもにやにやしながらノーデンスをあざける。


「そもそもこの戦争で一番得をしたのは誰かねぇ?

 ニャルラトテップ? いやいや、ノーデンス お前だよ。

 思わず舌を巻く見事な立ち回り見事なものだ。

 自分たち(ケルト神族)だけ危険を極力避け、他の神族を働かせておいしいとこだけ頂く。

 おかげでケルト神族が今や幻夢境一の最大勢力だ。これは反感をかっても仕方がないねぇ」


 トリトーンは激昂(げっこう)し法螺貝からトライデントに持ちかえる。


「ば、馬鹿な。自分たちの権勢を維持するためにニャルラトテップを牽制に利用しようというのか!?」

 ヒュプノス、お前のせいで父ポセイドンは……。

 許さぬ! そこに直れ、貴様はこの手で引き裂いてやる!!」

「だからお前が言うなって裏切りのトリトーン。

 だいたいさ、ケルト神族が天下取ったら他の神々は生きてけないよ。

 これは俺たちだけの問題じゃなくてさ、生き残った全世界の神々の死活問題でもあるんだぜ?

 バステト、神々の総意ってやつを見せてやれよ」  

「ふふふ、そうだな。ケルトの大帝ノーデンス、これを見よ!」


 バステトはパピルスの巻物を取りだす。

それはニャルラトテップの助命嘆願書であった。

そして世界中の神々の名が書き連ねられた署名簿が添えられる。


 トリトーンはそれを受け取り狼狽。

「馬鹿な! 皆、こやつに故郷や仲間を奪われた者たちばかりではないか! なぜかばう!?」

「故郷も大事だが、命以上とはなかなか思えないものだ。

 全ての神が安楽に権力に座につけるわけではない。下級神として虐げられ悪魔や妖魔に身を落とされた者もいる。

 彼らはノーデンスではなく混沌に希望を見出したのだよ。義は我らにある」

 

 バステトの言葉はトリトーンの頭にほとんど入らない。

署名簿はエジプトとギリシャの神々だけでなく聞いたことも無い辺境の精霊や妖怪の名もつづられていた。


 ヒュプノスはノーデンスに釘をさす。

「そういうわけだからニャルラトテップの命は俺らで預かる。

 こいつを殺せば全世界の神々があんたたちの敵だ。

 もう皆 戦いに疲れてんだから賢明な判断を頼むぜ」


 次にトリトーンにつめ寄る。


「ギリシャはお前を絶対に許さない。

 いずれ(しか)るべき制裁を加えてやるから覚悟しておけよ」

「黙れ、私は裏切ってなどいない。

 アザトースの眷族を根絶やしにするためには大帝の下が最善と考えたからだ。

 オリュンポスの権威を(おとし)め不浄な者に加担した者に明日は無い。

 いずれ死ぬのは貴様だ」


「くくくく、きゃはははっは、げらげらげらげら、あんたたち最高だよ! ギャハハハハハハハ!!」

 レン高原にニャルラトテップの歓喜とあざけりの不快な笑い声が響き渡った。





「――こうして、大帝ノーデンス率いるケルト神族と

 ニャルラトテップを(よう)するギリシャ、エジプト同盟の二大勢力が幻夢境(げんむきょう)の覇権を争っておる。

 これから目指すセレファイスのような独立勢力も少数ながらあるが――、

 どちらの勢力も相手を武力制圧する体力が無いから幻夢境の各勢力を保護し支持を集めているといって具合だ。 

 わしの所にもノーデンスやニャルラトテップの使者がちょくちょく来る。内容は同じじゃよ、味方につけばオズの再興に必要な土地を用意すると。

 信用できんから適当な返事で誤魔化しておるが、いずれどちらかの勢力につかざるを得んだろうな。

 皮肉なもだ。神々の権力争いがニャルラトテップの命数を延ばしおった」

 オズは話をしめくくった。


 沙悟浄は聞きなれない勢力の名前に不安を募らせていた。


玉帝(ぎょくてい)陛下(道教最高神)がどうなったかご存知ですか?」

「……亡くなられたそうじゃ。天宮に留まり多くの神仙を幻夢境に逃がし、最後は文明国の気に……」

「……」

「崩壊戦争で失われたものは多い。だが、いつまでも後悔したり悲しんでいてもしかたあるまい。

 自分ができる最善を尽くす。それが生き残った者の責任だと思う」

「……」


 沙悟浄は黙したままである。



 思うことはただ一つ。


 玄奘三蔵(お師匠様)は無事だろうか?







 馬車が停車し、誰かが叫ぶ。


「セレファイスに着いたぞー!!」


 沙悟浄は馬車から下りセレファイスの前に立つ。


「綺麗……」


 紫水晶やトルコ石で作られた尖塔が天を(つらぬ)かんばかりに立ち並んでいる様はガラス細工の巨大な花束のようでもある。

 それを抱擁するかのように大理石の城壁が都市を囲う様は力強さの中に気品さを兼ね備えていた。


 一瞬我を忘れるが、そうそう簡単に傷心を(いや)せるわけもなく表情がまた曇る。



 

 セレファイスの玄関口である青銅の大門の前でオンビー・アンビーとジェリア・ジャムが入国手続きを行っている。

沙悟浄とオズは馬車の中で手続きの完了を待っていた。



「……もし」

「?」


 馬車の外から声をかけられ外に出ると、黄土色のターバンを頭に巻いたローブの男が立っていた。


「お待ちしておりました、偉大なるオズの魔法使い様」

「そなたは何者かな?」


 見たところ三十代くらいのようだが、その目の輝きは少年でもあり老人のようでもあった。

夢の世界なら、そういった不可解な人物がいても不思議はないのかもしれない。


「私はセレファイスの支配者クラネス王の使いの者です。

 我らの王は、あなた様が各地で披露しているという魔術に大変関心を持っておいでです。

 ぜひ、王の前で魔術を披露してください。お礼も差し上げます」

「ほう、それは光栄。では、とっておきの魔術をご覧に入れよう。

 しかし、とっておきの魔術は危険も多く陛下の居城を壊してしまうかもしれん。

 わしが魔力をこめてた特別なテントの中でお見せしてもよろしいか?」


 とっておきの手品には種も仕掛けもいるので トリックを自由に配置できるサーカステントでやらせろという意味である。 


 使いの者は微笑んだ。


「それはさぞ素晴らしい魔術をお見せいただけるのでしょう。

 かしこまりました、テントを設置できる広場にご案内しましょう」


 入国手続きも済み、ターバンの男に案内されて馬車の一団はセレファイスの城下を進む。



 馬車の中でオズは沙悟浄にささやく。


「これは幸先(さいさき)が良いぞ。クラネス王に気に入られれば様々な情報が効率よく入る。

 君の師匠の行方もわかるかもしれん」

「そうですね。手がかりだけでもつかめれば……」


 しかし、二人はクラネス王という人物のことをまだわかっていなかった。


 この王は元イギリス人。純血の神々のように手品と魔法を混同するようなことはしない。



 はたしてオズの魔術は通用するのか。

次回 『クトゥルフ神話』より夢見る人クラネス王が初登場します。

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