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第147話 メネス神の歓迎

冒険者一行は神官アタルの経営する宿屋で一晩を過ごした。


玄奘三蔵

生き残った仏や菩薩を探し出し、衰退する仏門の建て直しを考えている。


臆病なライオン

ライオンの少年。オズの国の仲間たちを探している。


ハングリータイガー

人肉食欲求を抑えている細身の虎の少年。ライオンの親友

肉を食べない三蔵を敬愛している。


玉龍

三蔵法師が乗る白馬。その本性は龍である。


牛魔王

かつては凶悪な大魔王だったが、気がふれてしまっている。

穏やかな性格になり紅孩児の人形を実の息子と思っている。

今では見聞を広める為に幻夢境を旅している。


ケット・シー

猫の王子。ノーデンス率いるグレイトアビスの所属だが地位は低い。

ウルタールの王位を狙っている。

 臆病なライオンはアタル宿屋のベッドで目覚めた。

隣のベッドではハングリータイガーが気持ちよさそうに寝息をたてていた。


 ライオンはベッドから下りてカーテンを開けた。

朝の陽射しがガラス窓を通して室内を優しく照らす。


「いい朝だ」


 本心からの言葉だった。

今まで生きていた中で最高の朝。心身ともに冴え渡り恐れるものなど無いほどに自信に満ち足りている。


「う……、ん」

 ハングリータイガーも目覚め、身体を起こす。

「王様、おはよう。気持ちい朝だね」

「うん、おはよう。こんなに気分の良い朝は初めてだよ。 

「これからまたセクメトに会うというのに、全然こわくないんだ。

 なんとかなりそうな気がしてきたよ」

「おぉ、それは頼もしいね。

 俺も空腹を忘れてしまったよ」


 二人は元気良く部屋を出て食堂へ向かった。

そこで二人は愕然とした。


 食堂にはすでに、三蔵法師と牛魔法、そして風猫と月猫が席についていた。

だが彼らの表情は暗く陰鬱で生気が無かった。


「おはよう、どうも昨夜は寝つきが悪くてな。

 経を唱えても気分が優れない。こんなことは滅多に無いのですが」

 三蔵は指で頭を強く押さえた。


 牛魔王は身体をぐきぐきと鳴らす。

「どうもこの宿の部屋は私には窮屈で。

 身体中が痛むのです」

 牛魔王の膝上の紅孩児人形もぐったりとしているように見える。


 風猫と月猫も毛並みからツヤがなくなりぼさぼさとしている。

「まったく、なにがウルタール最高級の宿だ」

「最高級が聞いて呆れる。今まで泊まった宿の中でも最低最悪だ」


 ライオンとタイガーは小声で話し合いながら席につく。

「他の皆の部屋は酷い部屋だったのかな」

「まさか同じ建物だよ。そんなに大きな差はないはずだよ」


 ほどなくしてアタルがやって来た。

「皆様、おはようございます。今日はさわやかな良い朝ですな。

 朝食をお持ちしますので、好きなだけお召し上がりください。

 その後またセクメト様に謁見してください」


「なにが良い朝だ。こんなに酷い朝は生まれて初めてだ。

 ここにいる客たちの顔を見ても何も感じないのか?」

 月猫がクマのできた目でアタルを睨む。

  

「これはこれは。あまり体調が優れないようですな。

 医者を呼びましょうか」

 アタルは心配するような素振りを見せたが、どこか落ちついていた。


「邪魔するぞ」

 低い女の声。全員の視線がそれに集中する。

獅子の頭を持つ女神セクメトであった。後ろにはバステトが控えていた。


 アタルは跪いた。

「これはこれは。神殿でお休みと思っておりました。

 こんな朝早くにわざわざおいでいただくとは。

 一体何事でございましょう?」


「もちろん、私の夫なる男がここにいるのだ。

 本当は昨日ゆっくりと話すつもりであったが体調を崩したというではないか。

 心配でいてもたってもいられず来てしまった」

 セクメトは興奮しそわそわしている。


 一方、後ろにいるバステトは苛立ち不安困惑が入り混じった複雑な表情をしている。

「セクメト、お願いだから考え直して、あなたのしていることは無意味よ」

「あなたにとっては無意味かもしれない。でもね、私にとっては大変意味のあることなのよ」

「あなたの友情を信じた私が馬鹿だったわ。このエゴイストめ」

「なんで親友の愛情をわかってくれないの!?」

「とても理解できないし応援できるものではない!」


 アタルはセクメトとバステトの間に割ってはいる。

「言い争いはおやめください。夫候補たちの前ですぞ」


 セクメトはもじもじして冒険者たちから視線をそらした。

「……すまない。つい興奮してしまって。

 昨夜は誰を夫にしようか悩んでしまって一睡もできなかったのだ。

 未だに答えが出ない。

 どうすればいい。私の夫に相応しいのは玄奘様か牛魔王様か」


 この発言を受けて、玄奘三蔵が無表情となった。

瞳を黒く濁らせて、不愉快さを体現した。


 一方の牛魔王も無表情であった。だが彼は三蔵とは違う。

過去には異種族の愛人もいた。彼からすれば表情を変えるほどの発言ではなかった。

「セクメト様の夫となることは、やぶさかではありません。

 ですが私は旅の身ですのでウルタールに身を置くことはできません。

 もしセクメト様が私と旅をする気持ちがあるならばいっしょになりましょう」

 条件が合えば結婚しても構わないと意思を示した。


「不愉快だ。なぜそのような申し出をされるか理解に苦しむ。

 迷惑でしかない。私はお釈迦様に身を捧げている。結婚なんてもってほかだ」

 三蔵法師はきっぱりと断った。セクメトに目を合わせようともしない。

ただ断るだけにとどまらず、怒りをあらわにしてセクメトを拒絶した。


 二人の反応にバステトは起こるであろうことに恐怖した。

「セクメト……」


「ヴアアアアア!!!!!!」

 セクメトの咆哮でアタルの宿はガタガタと揺れた。

牛魔王のどちらつかずの態度、そして玄奘三蔵の露骨な嫌悪はセクメトの女としてのプライドを深く傷つけた。

「余の愛を軽くみる者も。拒む者も許してはおけぬ。苦しみぬいて死ぬがいい」


 月猫は風猫に耳打ちする。

「兄上、これも計画のうちなのか?」

「まさか、まだ何もしていない」

「逃げよう、疫病をばらまくぞ」

「いや、間に合わない」


「やめなよ!」

 怒りに我を忘れ暴走するセクメトに立ち向かう者がいた。

臆病なライオンであった。

「愛してもらえないからって殺すなんて乱暴すぎるよ。

 そんな調子で会う相手会う相手を次々と殺していたら君はずっと一人ぼっちだよ」


「子どもが余に説教をするか! 許せぬ。

 アタル、この無礼な三人を牢にぶちこめ!」 

「は、はぁ、御三方、申し訳ありませんがいっしょに来てもらいますぞ。

 せめてセクメト様が落ちつくまでは牢にいてもらいます。

 機嫌を損ねて病をまかれたら大変なことになってしまいます」


 ライオン、三蔵法師、牛魔王はアタルに連れて行かれてしまった。

セクメトは足をどすどすさせるという猫らしからぬ振る舞いをして宿から出て行ってしまった。

 

 その場にはハングリータイガーと風猫と月猫、そしてバステトが残された。


 バステトは目を見開いて硬直していたが、はっとした様子で我に返った。

「皆、無事ね。セクメトがあんなに怒るものだから死者が出ると思ったけど」

 そして残された者たちを見て、これをチャンスととらえた。

「セクメトが気にしていた僧侶と牛が牢獄送り。

 これで猫族からセクメトの夫を選出できるというもの」

 

 ハングリータイガーはバステトを睨む。

「俺は結婚なんかしないぞ」


 風猫月猫も同じ反応をする。

「我々には関係ない。辞退させていただく」


 バステトはにやりと口を歪ませる。

「おおいに結構。帰りたければ帰るがいい。

 ……セベク! セベクはいるか!?」


 バステトが声を張り上げると、ワニの頭をした男神セベクが現れた。

「バステト様、お呼びでございますか?」

「うむ、ここにいる三人の男子はセクメトの夫候補である。

 だが不服らしい。帰りたいそうだ」

「ほほう、セクメト様の愛を拒むとは命知らず。

 しかし気が進まないなら帰るがいい。

 ……私の忠実な下僕(しもべ)たちが住む堀を泳いでな」


 猫族にとっては泳ぐことは命がけ。

そこにワニが加わっては死ぬも同然である。


 風猫は声を引きつらせる。

「これは監禁だ」


 月猫は足をすくませる。

「これは脅迫だ」


「いやいやいやいや、セクメトの夫になれる者は一人だけ。

 夫にもれた者は無事にウルタールから出してやろう」

 バステトは意地悪く微笑んだ。獲物を追い詰めた猛獣のそれである。


 ハングリータイガーはバステトを睨む。

「結局、一人はウルタールに閉じ込められるじゃないか。

 王様たちまで酷い目にあわせて」

「ふん、殺されていないだけでも有難く思いなさい。

 セクメトにしてはよく殺戮を自制できたわ。

 あなたたちはもうセクメトの夫候補なのよ。

 くれぐれも言っておくけど結婚したくないからと、わざと無礼な態度はとらないように。

 ウルタールから出る前に殺されてしまうわよ」

「王様たちを牢から出せ!」


「むむ、先刻より無礼なトラだ。

 バステト様、まずこのトラの子を死刑にしてしまいましょう」

 セベクは大きな口を広げて進言する。


 それをバステトは制する。

「いいのよ。その勢いがセクメトの前でも持つか見ものよ。

 一番最初に死ぬのはこの子かもね。くくく」


「ふにゃあああ。にゃんだぁ、騒々しいにゃ。

 気持ちの良い朝が台無しにゃ」

 大きなあくびをしながらケット・シーが食堂に入ってきた。

もちろん、この猫の王子も夫候補である。


 ハングリータイガーはバステトのいいようにされている状況に怒りを覚えつつも、牢に入れた仲間たちを助けたいと強く願うのであった。

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