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第143話 おしゃべりなワニ族

冒険者一行はウルタールに入るためにワニたちの背の上を歩く。


玄奘三蔵

生き残った仏や菩薩を探し出し、衰退する仏門の建て直しを考えている。


臆病なライオン

ライオンの少年。オズの国の仲間たちを探している。


ハングリータイガー

人肉食欲求を抑えている細身の虎の少年。ライオンの親友

肉を食べない三蔵を敬愛している。


玉龍

三蔵法師が乗る白馬。その本性は龍である。


牛魔王

かつては凶悪な大魔王だったが、気がふれてしまっている。

穏やかな性格になり紅孩児の人形を実の息子と思っている。

今では見聞を広める為に幻夢境を旅している。


ケット・シー

猫の王子。ノーデンス率いるグレイトアビスの所属だが地位は低い。

ウルタールの王位を狙っている。

 臆病なライオン、ハングリータイガー、ケット・シーがいれば無条件でウルタールに入国できるはずであった。

しかし、牛魔王が渡しのナイルワニと揉め事を起こしたために、水堀に暮らすワニ族の数を数えることになってしまった。


 ハングリータイガーを先頭に、臆病なライオン、玉龍に乗った三蔵、ケット・シー、最後に牛魔王という順番でワニたちの背を歩き出した。

冒険者たちはワニたちの背中を踏みながら、ワニの数を数えていく。


「8、9、10、11――」


「15、16、17、18――」


「22、23、24、25――」


「ところで、皆さん、ここまでの旅は大変だったでしょう」

 明るい声が足もとから聞こえた。

「ほらぁ、ニャルラトテップの手下とか盗賊がうろうろしてるからね」

 

「――31、32、33、え?」

 ライオンは下を向く。どうやらワニが話しかけてきたようだった。

戸惑った。今はワニの数を数えているのだ。返せる状況ではない。


 ケット・シーも困惑する。

「にゃ。最初出てきたワニはやたら物々しい喋り方だったのに。

 このワニはやたら馴れ馴れしいにゃ」


 別のワニが陽気に笑う。

「それは君らが初対面だから一応それっぽく話していただけだよ。

 難しいんだ。俺らの中でも頭が良いのしかできないから。

 ワレら、セベクにツカえる、ナイルのタミ」

「ほーんと、ほとんど呪文だよね。

 この前それ言ったら舌を噛んじゃったよ。

 俺たちはセベクのナイルワニ、よろしく。でいいじゃんね」

  

 玄奘三蔵は嫌な予感がした。

このワニたちはどうやら静かにしていることが苦手らしい。

お喋りは問題ない。だが、お喋りに気をとられてはワニの数を数え間違える危険がある。


「53、54、55、56――」


「74、75、76、77――」


「僕たちは本当は皆明るいんだよ。

 でも、口が大きくて力が強いから他の種族はみーんな怖がっちゃうんだ」

「ねー、私たちほど優しくて大らかな種族はいないのにね」


「89、90、91、92――」


 足下のワニたちはお喋りをやめない。

「ねぇ、旅人さんたち。どうして怖い顔をしてるの?」


 臆病なライオン、玉龍、ケット・シーは無理だった。お喋りと恐怖で集中力が途切れてしまった。。

もうどこまで数えたか分らなくなっていた。


 玄奘三蔵も恐怖に押しつぶされそうになっていたが、目を閉じ経を唱えて心を無とし持ちこたえた。

玉龍の歩幅、そして唱えた経の長さでワニの頭数を把握できる。


 先頭のハングリータイガーは、冷や汗をかきながらも数を数え続けた。


 最後尾を行く牛魔王はワニぐらいは恐れない。集中して数を数えていた。


 だが、気の良いワニたちの善意の攻撃はとどまることを知らなかった。

「ぼくたちの話がつまらないのかな」

「くすりともしない」

「どうしよう。悲しいよ」

「そうだ、歌を歌いましょうよ。笑顔になれる素敵な歌を!」

「それはいい考えだ。皆で歌おう!」



♪無限なるヘフ神、ありがとう。


♪あなたの智慧への感謝の印。受け取りください。


♪さぁ、手を出してごらん。拾い上げよう棒っきれ。


♪10人仲間を集めたら、棒っきれ10本。


♪つなげて結んで足枷だ。足枷1個できあがり。



「108、109、110、う?」

 ハングリータイガーも牛魔王も慄然とした。

数を数えているときに、数字の歌を歌われたのだ。



♪1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!


♪いけない。船が流される。


♪一十百千、睡蓮かきわけ流される。


♪一十百十、足枷10個つなげて結んで(もや)い縄。


♪一十百千、つなげて結んで船止まる。



 ハングリータイガーはワニ数えから脱落した。

牛魔王、目を血走らせながらも持ちこたえた。



♪一十百千万十万、カエルの子どもが飛び出した。


♪手を広げて数えてみよう指の数、一十百千万。


♪一十百千万十万、カエルの子どもは一十百千万匹。


♪一十百千万十万無限! ヘフ神! ヘフ神! ヘフ神!


♪一ヘフ、十ヘフ、百ヘフ、千ヘフ、万ヘフ、十万ヘフ、無限ヘフ!



 牛魔王、数が分らなくなる。ここで脱落。


 玄奘三蔵だけは馬上にて、目を閉じ経を唱え続けていた。

もとより数は数えていない。ワニ族の歌に惑わされてはいない。


 玉龍の歩幅と経を唱えた長さでワニの頭数を割り出す。

艱難辛苦の取経の旅の中で得た技である。三蔵の思惑通りに事は進みワニ族との約束を果たせそうであった。



 ワニたちは、ヘフ神を称える歌を歌いきって満足した様子だった。

思い思いに世間話を始めだした。

「ところで、セクメト様のことをどう思う? 新しい結婚相手は見つかるかな」

「さぁ、どうだろうね。ウルタールの雄猫どもは腰が引けている様子」

「気の強いトラかライオンでないと無理だろうね」


 ハングリータイガーと臆病なライオンはどきりとした。

どちらも結婚ということに対して真剣に考えたことがなかったからである。


 ワニたちは、そんな二人のことはおかまいなく続ける。

「そういえばこんな噂を聞いたよ。この近くを玄奘三蔵という男が旅をしてるって。

 なんだっけ。なにかの神官らしい」

「なにかの神官ってなんだよ。で、その神官がなんだというんだ?」

「ぼく知ってる。童貞の神官なんだって」

「なんじゃそら。童貞を司る神の神官なのか? そんな神なんて聞いたことが無い」


 玄奘三蔵の目蓋がぴくりと動いた。


「違うよ、玄奘三蔵が童貞なんだって」

「ふーん、もてない男を神官にしてる神様か。その神様は自分の神官が童貞で恥ずかしくないのかな」

「その話が本当ならその神様は、神官に女をあてがうべきだよね。夢が無いよ」


 経文を唱える玄奘の声がうわずり始めた。


 ケット・シーはびくびくと震えだした。

「にゃ、にゃんか玄奘の様子がおかしいにゃ」

 

 後ろに続く牛魔王も焦る。

「これはいけないぞ。玄奘三蔵は童貞を馬鹿にされて怒るような男ではない。

 が、お釈迦様を侮辱されれば話は別だろう。今はなんとか怒りをおさえているようだが。

 彼を信じるんだ!」


 ワニたちは自分たちの上を進んでいる者が玄奘三蔵と知らなかった。

知っていたとしても、彼らは自分たちの好奇心をおさえることはできなかっただろう。

「ところが、その玄奘三蔵という男はけっこうもてるらしい。

 同種族はもちろん、鼠、蠍、兎にも求められたって話だ」

「多種多様だな! あらゆる種族の女をとりこにするというわけか」

「ということは、もしかしたらセクメト様も玄奘三蔵を気に入ってしまう可能性も!」


「いい加減にしろ!」


 玄奘三蔵の声が響きわたった。

ワニ数えの失敗が確定した瞬間であった。


「私はどんな女性とも夜をともにすることはない。

 けがらわしい!」

 

 玄奘三蔵の怒りは、玉龍を震え上がらせた。

玉龍は、ついうっかりしてしまい、下にいたワニの頭を強く蹴り飛ばしてしまった。

 

「私は御仏に仕える身。それゆえに精を漏らさず己を清めているのだ。

 私はそれを苦痛だと思ったことはない。信念でそうしているのだ!

 だから私をいくら悪く言おうがかまいはしない。

 だが、お釈迦様を恥ずかしいだの、女をあてがうだの、夢が無いだの。

 お釈迦様を侮辱する言動は許せん!」


 玄奘三蔵の剣幕に押されてワニたちは黙ってしまった。

冒険者たちは無事に対岸に辿り着き、ウルタールの門をくぐった。


 ワニたちは誰一人として、冒険者たちに自分たちの人数を聞くことができなかった。


 ウルタールに入国すると、玄奘はがっくりとうなだれた。

「私としたことが。怒りに身を任せたばかりにワニの数がわからなくなってしまった」


「いや、あのワニたちはお喋りだし数の歌まで歌いだした。

 結局、誰もワニの正確な数は数えられなかったんだよ」

 ハングリータイガーは玄奘を慰めた。  


「そうか、ワニたちとの約束は果たせなかったのか。

 困ったことだ。後々、問題にならねばよいが」


「もう過ぎたことはしょうがないにゃ。

 今はウルタールに入れたことを喜ぶのにゃ」

 ケット・シーは前向きだった。

「それに僕が王様になれば、あのワニたちが数のことで文句を言っても黙らせることができるのにゃ」

「それはそうなのだろうが……」

 玄奘の心は晴れなかった。

 


「ようこそ、おいでくださいました」


 突然の声。

冒険者が声の方を向くと一人の老神官が立っていた。

「私はこのウルタールの神官を務めるアタルと申します。

 どうぞ以後、お見知りおきを」


 冒険者たちを歓迎するウルタールの老神官アタル。

彼はにっこりと微笑んだ。

「さぁ、バステト様とセクメト様がお待ちです。

 どうぞこちらへ」


 ケット・シーは目を輝かせたが、臆病なライオンは薄気味の悪さを感じたのだった。

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