表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/148

第139話 アトラク=ナチャの悲劇

 ウルタールを目指す玄奘三蔵、白馬の玉龍、勇気のライオン、ハングリータイガーの一行。

彼らはその道中で牛魔王に出会ったのであった。


 牛魔王、『西遊記』を含め数多の伝説にて語られる大魔王である。

強大な神通力をもち、武芸にも秀でて剣、棍、弓、槍とあらゆる武器を手足のごとく使いこなす。

 妖怪のみならず天界の者たちにも一目置かれていた力と恐怖の象徴であった。


 その魔王、かつての凶暴性はなくなり、すっかりおかしくなっていた。

息子をかたどった人形を紅孩児(こうがいじ)と呼んで愛でていた。攻撃性もなく清流のように穏やかである。

「ところで、皆さんはどういった旅をされているのでしょうか?

 私たち親子のような遊興ではなく、なにか真剣で鬼気迫るものを感じます」


 牛魔王の問いに三蔵法師は答えた。

「仏教の衰退はいちじるしく、私を含め仏門の者たちは導いてくれる方を求めています。

 きっと、まだ無事でいる仏様か菩薩様がいらっしゃるに違いありません。

 その方を普陀山(ふださん)潮音洞(ちょうおんどう)にお迎えしようと思っています」


 ライオンも続いた。

「オズの国の皆が各地を転々としているようなんだけど正確な場所がわからないんだ。

 ウルタールのような大きな都市に行けば情報を集められると思ってそこを目指しているんだ」


 牛魔王は深く頷いた。

「これは噂なのですが、ウルタールをさらに東に、海を渡ったセレファイスという国で戦争があったとか。

 その国には空に浮くセラニアンという城があるのですが戦闘のさなかに墜落してしまったそうです。 

 この件にどうやらカンノンと呼ばれるルルイエの神官と豚の怪獣と赤毛の色黒の女が関与しているようなのです。

 私はそのカンノンと豚と赤毛は、観世音菩薩様と猪八戒と沙悟浄ではないかと思っています。まったくの別人の可能性も捨て切れませんが」


 この情報にハングリータイガーは飛び上がって喜んだ。

「凄い、やったね。玄兄貴、さっそく菩薩を見つけたんだね」

「うむ、さすが菩薩様だ。

 それに私の弟子たちはそう簡単にやられはしないよ。無事なことはわかっていた。

 しかし、困ったことに私が目を放すと暴力性を抑えられないようだ。空の城を打ち落としてしまうとは。

 叱るにしても居場所がわからねば会うことはできない。あとは悟空だ。どこでどうしていることやら」


 牛魔王は続けた。

「セレファイスに行くにも、やはり途中のウルタールで準備を整えるのが良いでしょう。

 そこで折り入って頼みがあるのですが……」

「頼み? 言ってみなさい」

「実はウルタールの都なのですが、猫族とワニ族そして許可ある者以外は立ち入り禁止なのです。

 実際、私たち親子は門前払いされてしまったのです。

 しかし猫族の同伴者であれば立ち入りが許されます。

 どうか私たち親子もウルタールへ連れて行ってください」

 

「それはかまわないが……。

 猫? この中に猫などいないが」 

 三蔵法師は旅の仲間たちを見渡した。


「いえ、二人いるではありませんか。男の子が二人」

 牛魔王の視線の先にはライオンとタイガーがいる。


 三蔵法師は察して苦笑い。

「いや、この二人は獅子と虎だよ。猫ではないよ」

「いやいや、獅子も虎も広い意味では猫族ですよ。じゅうぶんです」


 するとハングリータイガーは意地悪く笑った。

「おっさん、ちょっと図々しいんじゃない?

 こっちにそんな頼みを聞く義理はないんだけど」


 三蔵法師はハングリータイガーをたしなめる。

「これ、人の頼みをそう無下にするものではない」

「玄兄貴、そうは言ってもこの牛の言っていることは無茶にもほどがあるよ」


 牛魔王は全て心得たといった具合で言う。

「いえいえ、その少年の言うことはもっともです。

 もちろん私もただでウルタールに同行させてもらおうとは思っていません。

 この先にも盗賊や化け物がうじゃうじゃいます。

 護衛を引き受けましょう」


 ハングリータイガーは、納得できない様子だった。

「護衛って。そんなの俺たちがいるから間に合ってるよ。

 うちの王様はアトラク=ナチャを倒したことがあるんだぜ」

「ほう、この子がアトラク=ナチャを倒したというのか。

 なかなかの勇気の持ち主とは思っていたが、実力も伴っていたか」


 ライオンはびっくりして飛び上がった。

「アトラク=ナチャって誰!? 勝手に話を作らないでよ」

「なに言ってんの! 森の仲間たちを食い殺してた大蜘蛛のことだよ。

 王様が背中をへし折って殺した奴だよ」

「え、あの蜘蛛そんな名前だったの?

 知らなかった」


 これを聞いて牛魔王は大笑い。

「はっはっはっはっ、殺した相手の名前など覚えもしないか。

 このライオンはなかなかに戦い慣れしている。

 しかし、困った。これでは確かに私の護衛など必要ないかもしれん」


 アトラク=ナチャ、本来ならばン・カイの奥底で巣作りをしているはずである。

だが、オズの国の壊滅を企んだニャルラトテップに無理矢理連れてこられてしまった。

 慣れないオズの地で巣作りができず、心労から動物たちを喰い散らかし、不貞寝していたところをライオンに奇襲されてしまったのである。

 ライオンはアトラク=ナチャの名前を聞いたことがなく、タイガーもアトラク=ナチャの名前を知ったのはオズの国滅亡の後だった。

そのためオズ王立図書館の記録には大蜘蛛としか残らなかったのである。

 

「もういいたくさんだ! 

 悟空も八戒も殺しの話はしていたが、自慢話や笑い話のようには語らなかったぞ。

 空恐ろしいわ!」

 三蔵法師は顔を真っ赤にして拳を握りしめた。 


 牛魔王は深く頭を下げて拱手した。

ハングリータイガーもしょげかえって、小さな声でごめんなさいと答えた。

 

「私の経験上、護衛というのは多くて困ることはない。

 牛魔王よ、私からもお願いします。ウルタールまでごいっしょしましょう」 


 牛にも虎にも、怯むことなく臆することなく怒りをぶつける玄奘三蔵を前にして、

やはりこの男と旅をするのは大変だとライオンは痛感するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ