表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/148

第131話 監獄イタカ

カンブリアの将軍アノマロカリスにブリキの木こりは追いつめられる。


カカシ

オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。

親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。

カルコサ脱出のためインスマス記念港を目指す。


ヘンリー・ウェントワース・エイクリー

地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。

契約によりカカシと旅することを義務付けられている。

カルコサ脱出のためイタカの身体をのっとる役目がある。


坂田金時

平安時代の武士、金太郎その人。

イタカを利用したカルコサの脱出を計画する。

冒険者の中で唯一インスマス記念港の土地勘がある。

 アノマロカリスの二対の顎がブリキの木こりを左肩から押しつぶしていく。

「鉄の娘よ、貴様の苦しみももう終わる」


「ああああ!!!!」

 ブリキの木こりは顔中の穴と関節から黒いタールを流し悲鳴をあげる。


「やめろ!」


 第三者の声にアノマロカリスはブリキを捕らえたまま振り返る。


 インスマスの崩れかかった民家の屋根に立つ者がいた。

桃弓を構えたカカシである。

「ブリキの木こり、ようやく見つけた!

 エビの怪物め、僕の親友を放してもらおう」


「あ、あぁ、あああ」

 ブリキの木こりから苦悶と怒りの色が消えた。

彼女の中で親友との再会への喜び、そしてカルコサに堕ちた悲しみがせめぎ合い感情を高まらせた。


 アノマロカリスは低くい声で訂正した。

「我はエビでもなければ怪物でもない。

 誇り高きカンブリアの戦士、アノマロカリス!」


「なんだと!?」

 これに強く反応したのがカカシの横に置かれたヘンリーの脳缶であった。

「カンブリアのアノマロカリス!

 絶滅した古生物だと!?」

 

「話す缶よ、少しは物を知っていると見受ける。

 だが魚籃観音(ぎょらんかんのん)の導きで絶滅を免れたことは知らぬようだな」


 後から続く坂田金時は困惑した。

「この薄気味悪いエビの怪物は物の怪の類ではないのか?」


 ヘンリーは説明する。

「うむ、地球上に存在したれっきとした生物だ。

 クトゥルフやアザトースの創造物ではない」  


 アノマロカリスはブリキの木こりを放す素振りは見せない。

「この鉄の娘を解放を望むか。

 何故に?

 我はクトゥルフ様に忠誠を誓ったカンブリアの戦士。

 カルコサの戦士は葬るのみ」


「それは違う!

 僕らはカルコサを助けているんじゃない。

 彼女は僕の親友なんだ」


 カカシの言葉を受けてアノマロカリスは闘志を燃やしてしまった。

「成程。カカシよ、そなたが友情で動き鉄の娘を救うならば、 

 我はマーシュ家当主の(こころざ)しで動き、鉄の娘を葬らん」


「まるで話が通じん奴だ。

 ここでルルイエまで敵に回すメリットはないぞ。

 引くべきだ!」

 ヘンリーは訴える。


 が、金時はマサカリを構えて戦闘体制に入る。

「ヘンリー、まさに正論。(いくさ)として正論。

 だけど、カカシはあの娘のためにここまで来たんだろ。

 かつての主人のために来た俺と同じよ。

 ここで引き下がったら大馬鹿者よ」


「フン、そんな調子の良く啖呵を切って無駄なことよ。

 このカカシ、こう見えて頭の回転も早く、物の理をわきまえている。

 ここは引くのが得策よ」

 ヘンリーは旅の中でカカシを理解しているつもりだった。

感情よりも理屈で動くと理解していた。事実その通りであったし、感情的になることは皆無だった。


 だが、このときばかりは違っていた。


「カルコサの者であろうとも僕の親友であることに変わりない!

 ブリキの木こりを殺すつもりなら戦うまで!」


「よく言った!」

 カカシの宣言を受けて金時は力強く合いの手を入れる。 


 アノマロカリスはブリキの木こりを放す。


 次の瞬間には金時の間合いに入り腹部に突進。

甲殻の肩が金時の腹部にめり込む。


 金時はうめくが堪えて、反撃に出る。

「いい一撃だ!」


 金時の振るったマサカリがアノマロカリスの頭を直撃。

が、硬い甲殻に刃は通じない。

「鉄の刃ごときで、我が装甲は破れん。

 押し返すまでのこと」


 再度、アノマロカリスは突進。金時はよろめき大きな隙を作る。


 そこへカカシが援護に入り、桃弓より矢を放つ。

桃矢も敵が悪鬼ならば根を張り命を吸い取るが、相手は(いにしえ)のカンブリアの者。効果無し。

ただ木の棒が甲殻にはじかれるだけのことであった。


 アノマロカリス、カカシは脅威にならないと即判断。第一の目標を金時へしぼる。

「名も知らぬ者よ。ここではてるがいい」

 二本の顎を振り下ろす。


 金時、これをマサカリで受け止める。

「名も知られず討たれては武士の恥。

 俺は源頼光が家来、坂田金時よ!」


 そして、アノマロカリスを押し返す。

「貴様の体に刃は通じずとも、力押しは通じると見た。

 親よりもらったこの体、足柄山(あしがらやま)の動物たちと鍛えたこの足腰。

 一つ、相撲で勝負!」


 もちろん古代生物のアノマロカリスは相撲を知らない。

だが、金時の言動で全てを理解した。

「なるほど、力比べか。よかろう、受けて立つ!」


 平安末期の武士(もののふ)とカンブリアの古生物が正面から睨み合う。

種族も時代も越えて、カルコサ領インスマスで火花を散らす。


 両者の体がぶつかり合う。力と力の押し合いである。


「よし、アノマロカリスは金時に任せてイタカの所へ急ごう」

 ヘンリーはカカシを促す。 


 摩天楼と見紛う体躯をもつイタカはカカシたちからも確認できた。

ダゴン秘密教団とトリロバイト兵の猛攻に気をとられカカシたちには気づいていないようである。


 しかし、カカシの足取りは重い。彼の目の前に潰れかかったブリキの木こりが横たわっている。


 カカシとブリキの木こりは物も言わず互いを見つめ合う。


「カカシ、金時が時間を稼いでる今を逃すな!

 誰も助からないぞ!」

 ヘンリーの叫びで、カカシは我に返りイタカに向かって走りだした。

ヘンリーの言葉通り、ここで立ち止まっていてはブリキの木こりをハスターから取り戻すことはできない。


 ブリキの木こりは無言のまま、つぶれた自身の体を殴り、叩き、動けるように形を整えていった。


 



 

 ダゴン教団攻撃艇の捕鯨砲から打ち出された銛がイタカに足や腕、胴体に突き刺さる。 


 イタカは全身から不規則に青い炎を噴出し抵抗する。

その度に攻撃艇がバラバラになり、インスマスの町は崩れ落ちていく。


 魚人の教団員たちの怒号は飛び交う。

「イタカの動きを止めろ! 捕鯨砲撃てぃ!」

「故障船の救助に回れ!」

「そんな余裕あるかよ!」

「イタカの力が強すぎるっ」

「このままだと攻撃艇が全滅するぞ! 退避命令を」

「駄目だ、撤退は許さん!」


 イタカの巨体より繰り出される純粋な暴力は、数で勝るダゴン教団とトリロバイトの兵士を圧倒しつつあった。


「おい、あいつは何だ!?」

 魚人の一人が指差した先。

戦禍の中、ヘンリーの脳缶をかかえ走るカカシの姿があった。


「ほっとけ、イタカに集中しろ!」

 別の魚人が叫ぶ。


 ヘンリーはそびえ立つイタカに圧倒される。

「噂には聞いていたが、なんという巨体、なんという力。

 カルコサ随一の巨人にして奴隷船、空を歩く監獄」


 カカシはヘンリーを励ます。

「ちょっとした山登りだ。

 登頂後はイタカの乗っ取りを頼むよ」 


 ヘンリーは気を取り直す。

「まったく無謀というか大胆というか。

 乗っ取れなければカルコサで野垂れ死にだ」


 カカシは崩れかかった桟橋から攻撃艇の一つに飛び乗る。


 ちょうどその船はイタカに向けて捕鯨砲を撃った直後であった。

カカシは捕鯨砲とイタカの右腕に刺さった銛を結ぶロープに捕まった。

これをよじ登ろうというのである。


 イタカは鬱陶しそうに右腕をふりまわす。

攻撃艇は水面を離れ、イタカの頭上を飛び越える。必然、カカシやダゴン教団員らも空を舞う。


 カカシは手に金の柄のステッキを握り、攻撃艇とイタカを結ぶロープに絡める。

「ワンダフル! 上るより下りるほうが速い!」

 ジップラインの要領でロープを滑り下り、イタカの右肩に着地。

直後、銛のロープはちぎれて、攻撃艇は捕鯨砲もろともバラバラになりながら墜落。


 カカシはわきにヘンリーの脳缶をかかえながらも、イタカ頭部への侵入を試みる。


 イタカは鉄格子に木の根が絡みついたかのような体表をしている。その姿はまさに生きた監獄である。


 イタカは地球や幻夢境で奴隷を捕らえると牢屋状の体内に閉じ込めてカルコサへ運ぶ。

カルコサからは役に立たなくなった奴隷と魔力を失ったアーティファクト、そして都市拡張で出た廃棄物をまとめて運び出し、地球や幻夢境で廃棄する。

 

 今、その体内にカカシが分け入る。

セラエノで得た秘術を用いてイタカから知性を奪い、(から)になったイタカにヘンリーの脳を接続しようと試みる。

地球人民俗学者ヘンリー・ウェントワース・エイクリーは宇宙の旅の果てにイタカの身体を手にしようとしていた。


 しかし、事はカカシの計画通りに進まない。


 イタカ頭部に侵入したところはダゴン教団員とトリロバイトの兵士たちにしっかりと見られていた。

「見たか、あのカカシうまいことをやった。

 俺たちもイタカの身体に乗り込んで奴を内側から破壊するんだ!」


 勇敢な教団員とトリロバイト兵士たちは捕鯨砲から突き出た銛につかまる。

「よし、撃て!」


 捕鯨砲が発射され、銛にしがみついたルルイエの軍勢がイタカへの着地を試みる。

振り落とされた者も多くいたが、何人かはイタカの身体に飛び移り体内へと侵入。銛、散弾銃、手斧などで攻めたてる。


 体内の中で暴れられてはたまならい。イタカは蒸気船の汽笛のような悲鳴をあげて腕をふりまわす。

そのはずみでルルイエ攻撃艇を二艇を廃船にし、インスマスの建物を蹴り飛ばした。


「まずいぞ! このままだとイタカを乗っ取る前にイタカが殺されてしまう!」

 慌てるヘンリーをカカシは低い声でさとす。

「ヘンリー静かに。今は身体があったころを思い出して。

 手足を動かすイメージを絶やさないで。

 イタカを乗っ取るんじゃない。君がイタカなんだ」


 カカシがセラエノで得た呪文を唱える中、ヘンリーは意識を存在しない手足へと集中させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ