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第129話 ダゴン秘密教団の攻撃

カカシたちはインスマス記念港への侵入を試みる。


カカシ

オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。

親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。

カルコサ脱出のためインスマス記念港を目指す。


ヘンリー・ウェントワース・エイクリー

地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。

契約によりカカシと旅することを義務付けられている。

カルコサ脱出のためイタカの身体をのっとる役目がある。


坂田金時

平安時代の武士、金太郎その人。

イタカを利用したカルコサの脱出を計画する。

冒険者の中で唯一インスマス記念港の土地勘がある。

 カカシ、ヘンリー・エイクリー、坂田金時の三名は桃太郎の父の手引きによって、インスマス記念港行きの荷車に忍び込んでいた。


 インスマスはルルイエの領地であった。


 ハスターはラバン・シュリュズベリィを介してアメリカ政府に働きかけた。

アメリカ政府は自らがカルコサの駒となったとも知らず、邪神討伐の信念を持ってインスマスの町を壊滅させた。

 それと同時にインスマスはカルコサの一都市に組み込まれた。


 カルコサ領となったインスマスは、ミスカトニック大学の者たちの知るそれとは大きく異なっている。

ルルイエ領時代の暗く湿った町並みはカルコサの黄赤の空に照らされて乾き風化している。

インスマス特有の生臭さもカルコサの風が全て吹き流してしまった。

かつて海にせり出していた桟橋は、今では乾いた土の上に立ち、かつての栄光を思い出そうと呆然と立ち尽くしているように見える。


 インスマス記念港はカルコサ勝利の石碑である。






 記念港行きの荷車に潜むカカシ、ヘンリー脳缶、坂田金時の三名。


 シャンタク鳥の引く荷車が停止した。


「止まったぞ。着いたのか?」

 ヘンリーの問いかけに金時が答える。

「いや、記念港まではまだあるはずだが」


 カカシは耳をすまし外の様子をうかがう。


 荷車の御者とカルコサの兵が話し声が聞こえる。

「番人さん、港に入れないとはどういうことだ?」

「カカシ一味はカルコサ脱出のために必ず港に立ち入る。

 奴らをカルコサから出すわけにはいかん。

 奴らを捕らえるまでは港には誰も入れんし近づけん。

 船も出せないのだ。

 全て黄風怪様のご命令だ。立ち去れ!」


 ヘンリーはカカシを非難する。

「おい、こっちの行動は全て読まれているぞ。

 港が封鎖された。計画は失敗だ!」

「ここからは歩きか」

「なにをのんびりとしたことを。

 途中で見つかってしまうぞ」


 金時はにやりとする。

「港が封鎖されているならイタカも身動きがとれないはず。

 目の前で逃げられる心配はないな」


「まったく、どこまでのんびりしているのか」

 ヘンリーは唯一残った自身の頭を痛めた。


 


 しかし、全てが悪いほうに動いているわけではなかった。

カルコサもカカシたちも予想していない動きあった。



  

 何かが押し寄せる音。それは次第に大きさを増し大地を揺るがす。


 外から悲鳴が聞こえる。

「わ、わわわ、濁流だ!!」


 次の瞬間、カカシたちを乗せた荷車は濁流に飲まれた。

荷車を引くシャンタク鳥はパニックを起こし自身と荷車をつなぐハーネスを引きちぎると前肢の翼で飛んで逃げてしまった。


「いったいどうなってんだ!?

 港の周辺にこれほどの水源は無いはずだぞ!」

 金時は予想外の事態に戸惑う。


 カカシたちはわけもわからぬまま濁流に押し流されてしまった。






 インスマス記念港とその近隣を襲った水害はカルコサの土と交じり合い黄色い海原を作り出していた。


 その海原に岩礁の如くたたずむ大型工船。それはかつて日本では博愛丸(はくあいまる)と呼ばれていた。

役目を終えてオホーツク海の底で眠っていたがルルイエによって回収、修復、改造された。

船体は碧く塗り改められダゴン秘密教団の紋章が描かれている。


 黄色い泥水が船体を汚していく。

「あぁ、あぁ、我らが魂の故郷が汚れた大地に辱められている。

 なんと悔しきことであるか、なんという屈辱であろうか」

 工船のブリッジで嘆くインスマス人はマーシュ家の若き当主。


 横から殻を持つ将軍が力強く慰めた。

「当主、これはインスマスの魂を取り戻す戦い。

 我らカンブリアの戦士は貴殿の心意気に触れ、この戦いに馳せ参じた。

 たとえこの穢れた地で朽ち果てようとも、ルルイエの誇りが滅びることは無い!」


 工船の背後では青い海水の滝が轟いていた。かつての平らかな大地を知る神が見れば世界の果てと見紛う光景である。


 空中に静止する古代亀、通天河(アーケロン)の甲羅の上に海水の源があった。


 浄瓶(じょうへい)(仏具、水差し)である。


 通天河(アーケロン)は勝ち誇っている。

「魚藍観音様よりお借りした浄瓶は地球の大海大河を全て容れても溢れることはない。

 これにたっぷり溜め込んだ海水でカルコサの奴らを溺れさせてやる!」

 

 ブリッジよりマーシュ家当主は命令を下す。

「インスマスの民よ! カルコサに汚された故郷に別れを告げよ!

 これ以上、我らの故郷インスマスを晒し者にしてはならん! 死を恐れるな!

 いあ!いあ!くとぅる ふたぐん!」

 工船に搭載された攻撃艇が次々に記念港に向けて出撃する。

  

 殻の将軍は配下の鎧兵たちに命令を下す。

「戦士たちよ、インスマスの民に続け!

 彼らの故郷への思いを力に変えよ!

 我らの還えるべき故郷は魂の中に。

 バージェス!」


 甲板に立った鎧兵らは身体を丸め転がりながら海に飛び込んでいく。

しかし、泳ぐことも沈むこともなく陸地を転がる車輪の如く海面を疾走する。






 カカシたちが乗った荷車は黄色い濁流に流されていく。


 金時は外の様子をうかがい、自分たちの置かれた状況を好機と見る。

「よし、この水は港に向かって流れている。

 予定よりも速く安全に港にたどり着けるぞ」


 ヘンリーは金時を楽観的だと責めたてた。

「なにが速く安全にだ!

 この濁流を見ろ! どうやってこの荷車から降りるつもりだ!?

 飛び込もうものなら溺れてしまうぞ」


 その次の瞬間、ルルイエの小型攻撃艇とカンブリア鎧兵の軍勢が猛烈な勢いで荷車を追い抜いていった。


 ヘンリーはこの通り過ぎた軍勢について指摘する。

「見たか? 今、通った船の紋章を。あれはダゴン秘密教団の紋章だぞ。

 となると、この洪水はルルイエの仕業か」


「ルルイエとカルコサは戦争状態にある。ルルイエが攻勢に出たのか。

 良いタイミングだ。この混乱に乗じてインスマス記念港に乗り込もう」

「あぁ、状況は好転している」

 カカシも金時も、この状況を有利に捉えていた。






 ハスターの宮殿は騒然となっていた。


 黄風怪は怒鳴り声をあげた。

「なぜどうしてルルイエが攻め込んでくるんだ!

 ラバンの核攻撃の効果は薄かったというのか」


 ロイガーとツァールがかしこまる。

「敵の主力はダゴン秘密教団」

「敵大将はマーシュ家の若き当主」

魚藍観音(ぎょらんかんのん)の浄瓶を用いて洪水を起こしている模様」


 黄風怪は舌打ちする。

「仏の残滓め。まだこの俺にわずらわしい思いをさせるのか」


「ほっほっほっ、浄瓶とは。

 敵はまた懐かしい神器を使って攻め込んできましたなぁ」

 烏頭の神官が黄風怪の前に来る。

「ルルイエは追い詰められているにもかかわらず、果敢に攻め込んでくる。

 彼らは生きて帰れない。それはマーシュ家当主が一番わかっているでしょうに。

 故郷を奪われたことがよほど悔しかったんでしょうなぁ。

 ここは一つわしが行って軽く蹴散らしてきて参りましょう」


「……いや結構。ここはカルコサ、こちらで解決します。

 御使者の手をわずらわすわけには参りません」

 黄風怪は丁寧な言葉遣いをしたが、言葉の節々に怒りを滲ませていた。


 そして、ロイガーとツァールに向かって言う。

「俺自ら出る。茨木童子は出れるか?」


「おそれながら――」

「茨木童子は腐った顎の治療中」

「オオカムヅミの力に蝕まれ、戦える状態ではございません」


 黄風怪の眉間にしわが深く刻まれる。

あのクソババア(カヤノヒメ)め、余計なことをしやがって”

「他に出られる者はいないのか!?」


 ロイガーはおそるおそる言う。

「ブリキの木こりなら」

「あいつは水に弱いだろう。

 ……まぁ、腕は確かか。水に関しては俺の術で援護してやるか。

 ブリキの木こりを呼べ!」


 黄風怪はブリキの木こりとバイアクヘーの軍勢を従えて、インスマス記念港へと出撃する。

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