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第127話 黍団子工場

冒険者たちは緑衣仙女救出とカルコサ脱出の下準備として黍団子工場に潜入する。


カカシ

オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。

親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。

カルコサ脱出のためインスマス記念港を目指す。


ヘンリー・ウェントワース・エイクリー

地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。

契約によりカカシと旅することを義務付けられている。

カルコサ脱出のためイタカの身体をのっとる役目がある。


黄衣仙女

ラジオ局で強制労働させられていたが、緑衣仙女らの活躍で逃亡する。

だが、今度は妹の緑衣が囚われの身となってしまい、その身を案じている。

妹をハスターの宮殿から助け出すことに執念を燃やす。


坂田金時

平安時代の武士、金太郎その人。

イタカを利用したカルコサの脱出を計画する。

冒険者の中で唯一インスマス記念港の土地勘がある。


芥川龍之介

大正時代の文豪。イタカによって連れ去られ、カルコサの奴隷になっていたが金時に助けられた。

緑衣仙女から借りた仙衣を返す義務がある。

 黍団子工場の工場長は憂鬱だった。

もうどれだけの時間ここで働かされているか思い出せない。

死ぬことも許されず奴隷として永遠に働かされるのだ。気持ちも沈む。


「地獄よりも酷い場所があったとはな。逃げ出す方法もわからない。

 息子が助けに来てくれるのを信じて待つしかない」


「おい、入るぞ」

 乱暴な声と共にバイアクヘーが工場長室の扉を開けて入ってくる。

「工場長、高品質黍団子の生産ペースが落ちているぞ」


「黍団子はそもそも大量生産できるものじゃない。

 とくに高品質なものは一日で作れる数に限りがある。

 粗悪品なら数は揃えられるが、それにしたって工員の数を増やしてくれなきゃどうにもならない」

 工場長は反論したが、それはあまりに弱々しいものだった。


「あぁ? できない理由じゃなくてさ、できる方法を考えようよ!

 それがお前の仕事なんじゃないの!?」

 

 仕事も何も男は無理矢理連れてこられ工場長として働かされているのだ。

この強制労働に対するモチベーションを上げることも保つこともできない。


 工場長が黙っていると、バイアクヘーは何か思いついたようでにやりと笑った。

「確かに、お前一人に知恵を出させるというのは酷な話かもしれん。

 俺は優しいからな。生産ペースを上げる良い方法を思いついた」

「……何をするつもりだ?」

「こうするんだよ!」

 工場長の胸倉をつかむ。

「ら、乱暴はよせ」

「いいから来い!」


 バイアクヘーは胸倉をつかんだまま工場長室を出る。

そして、そのまま黍団子の特別製造室まで引っ立てて行く。


 特別製造室では女工が一人で作業していた。

工場では多くの工員が働いているが、彼らの作る黍団子は質が低かった。


 特別室で一人で黍団子を作るこの女性こそ、高品質の黍団子を作ることが出来る唯一の工員だった。


 女工はバイアクヘーに胸倉をつかまれた工場長を前にして表情がこわばる。

「ちょっと、夫に何をしてるんですか!?」

「あー、いいからいいから。それよりも黍団子の数が少なくはないかね?」


 カゴには彼女の作った黍団子が山盛りになっていた。


「これでも精一杯やっています。腕だって痛いし、少しくらい休ませてくれてもいいじゃないですか」


 バイアクヘーは女工を嘲笑した。

「努力に評価を求め、愚痴をこぼし怠けようとする。

 ふん、典型的な無能だな。

 だが、俺は心が広いからな。そんなことで怒ったりしないのだ」

 そして、工場長を殴りつけた。

 

 工場長は床に倒れた。バイアクヘーは馬乗りになって何度も殴り続ける。


 女工は悲鳴をあげる。

「やめて! もうやめてよ!」 


 バイアクヘーは殴るのをやめたが、工場長は痛みでうめいている。


「いいかよく聞け、オオカムヅミの力を授かった者よ。

 ルルイエとの戦いはこちらが優勢とはいえ予断を許さず、まだまだハスター様に従わない有象無象がひしめいている。

 我らカルコサが全宇宙の覇権を握るために、その身体能力と魔力を高める黍団子は大きな助けとなる。

 つまりそれはお前の才能がカルコサのために役立つということだ。

 それが幸福であるということになぜ気がつかない!?」


 女工はバイアクヘーを恨みがましく睨んだ。

「それと夫を痛めつけることとなんの関係があるというの?

 もう乱暴はやめて!」


「あぁ、あぁ、あぁ、なんという誤解。君は激しく誤解してる。

 どうしてわかってくれない。俺はただお前にやる気をだしてほしいだけなんだ。

 俺は労働者を愛している。どうして君たちはその愛と期待に応えようとしてくれないんだ。

 俺だってつらいんだ。これ以上、夫を傷つけたくないのなら黍団子の生産量を今の倍に増やせ。

 できるな? やれ!」

 バイアクヘーは一方的に黍団子増産を命令して部屋から出て行った。


 部屋には夫婦だけだ残された。


「あなた、しっかり」

 女は工場長を労わった。


「だいぶ痛むが大丈夫だ。それより黍団子を今の倍なんて無茶だ。

 お前の腕が壊れてしまう」

「大丈夫、きっとその前にあの子が助けに来てくれるわ。

 ここの化け物たちは鬼に比べてひ弱そうだし。

 それまで耐えるのよ。助けが遅いのはこの場所がわからないからよ」

「……あぁ、わかった。息子ならあんな奴ら一ひねりだろう。

 でも無理だけはしないでくれ。こんな所でお前に先立たれたら私は一人でどうしたらいいかわからない」

 工場長は成す術を知らず、ただただ途方にくれるばかりであった。





 

 カカシたちは黍団子工場の黍倉庫に潜入していた。

倉庫は運び込まれた黍入り袋で埋め尽くされており、冒険者たちはその陰に潜んでいた。


 カカシは仲間たちに言う。

「ここは材料の倉庫だから、その完成品である黍団子の倉庫まで移動する必要がある。 

 黍団子の倉庫に入ったら出荷先を調べる。インスマス記念港行きとハスター宮殿行きだ」


 ヘンリーの脳缶は難色をしめす。

「それを初めて来た建物で誰にも見つからずにやりとげるのか。難しいな」


「僕が先頭になって進むよ。もし見つかったら本物の案山子のフリをしてやりすごすさ。

 それでも、ばれてしまったら――、僕に注意が向いているすきに金時が援護してくれ」


「よし、任せろ」

 カカシの言葉に金時は深くうなずいた。

 

 冒険者たちが作戦を立てているうちに、誰かが倉庫に入ってきた。

 その人物は独り言を言っている。

「今の在庫も処理しきれていないというのに納品してきた。

 在庫が溢れすぎて腐らせでもしたら、また始末書だ」


 カカシたちは黍袋の陰から様子をうかがう。

良くないこと倉庫に入ってきた者は納品された黍袋の数を点検しているらしく、その足音が少しづつ近づいている。


 そして、とうとうカカシたちが隠れる黍袋の前までやってきた。。


 ばさっ


 カカシは本物の案山子のふりをしてその場に倒れた。


 納品の数を点検していた人物、工場長は目の前で倒れたカカシを目の前にしてびくりと身体を震わせた。

「……なんだ案山子か。収穫のときに巻き込んでしまったんだな。

 そういえば近頃騒ぎになっている侵入者一味の首領格は生きた案山子らしいが」


 工場長は倒れたカカシを片手で持ち上げる。

「これは普通の案山子だな。

 うーん、茨木童子を出し抜き、その手下の頼光鬼を倒したという話だが期待するだけ損だ。

 たかだか鬼一人を殺すのに手こずり茨木を取り逃がすようではな。とてもハスターから私たちを助けてくれるとは思えない。

 やはり息子の助けを待つしかないのか」


「一つ質問ですが。その息子というのは、もしかして桃太郎のことですか?」

 カカシは顔を上げて工場長に言葉を投げかけた。


 工場長、手にしていた案山子が喋ったので驚いて音のない悲鳴をあげた。


 そして、カカシを床に叩き付けて声をふりしぼり早口でまくしたてる。

「お前は何者だ!? どうして息子を知っている!?

 私をどうするつもりだ!? 

 ハスターに歯向かう心意気は買うが、あんたたちじゃ実力不足だ!

 しかし、息子に私たちの居場所を報せてきてくれるなら、ここにいたことは黙っていてやる」


 ヘンリーの脳缶が尊大な態度で桃太郎の父をなだめる。

「これだから学の無い奴は困る。

 物事は順序だてて進めるもの。そんなに一度に質問して要求をつきつけられても応えられんぞ」


「こんどは缶が喋った。だがまぁ確かに一理あるな。

 案山子、君は私の息子、桃太郎を知っているのか?」


「僕にとってはもう随分と昔のことですが、彼に会ったことがあります。

 彼なら、あなたが言っていたように茨木も頼光鬼も難なくしとめていたでしょう」

 カカシは桃太郎の父に桃弓と矢筒を見せた。


「おぉ、これは息子が天界の桃木より授かった武器。

 しかし、なぜこれを?」


 カカシは、桃太郎がシュブ=ニグラス筆頭神官の囚われていることを話した。


 桃太郎の父はがっくりと肩を落とした。

「なんてことだ。息子はやられてしまったのか……。

 助けは来ない」

「殺されてはいない。どうやら桃太郎をシュブ=ニグラスの下僕にすることが目的のようだ」

「私たちだけでなく息子までも奴隷にしようと言うのか」


 桃太郎の父は深くため息をついた。

それは腹の底から絶望を払う決意の一息であった。

「私の息子は日本一、鬼殺しの力を持つ英雄だった。

 だが、それに甘えていた。自分で努力することを忘れ、助けてもらうことばかりを考えていた。

 桃太郎は日本一である前に私の子だ。私は父親として息子を助けたい。

 残念ながら私は戦いではまったく役に立てないし術が使えるわけでもない。

 しかし工場長の地位を利用して、あなたたちを支援することはできる。

 何か力になれないだろうか」

「待ってくれ。僕たちにはとても桃太郎を助ける余裕は無い。

 僕らはカルコサから脱出を考えているんだ」

「君は私の話を聞いていたのか? 他人に頼ることはしない。

 私は親として子に報いたいと思っているのだ。

 カルコサの邪魔をする君らに力を貸すことは結果的に私たち親子のためになるのだ。

 私たち家族はいつまでもカルコサの言いなりにはならないぞ」


 カカシは桃太郎の父親が持ち出した理屈が理解できなかった。

が、カルコサへの敵意が自分への善意と好意に結びついていることは理解できた。

「ありがとう。僕らは二手に分かれて行動するつもりだ」


 カカシは仲間たちを紹介し、二手に分かれる計画を桃太郎の父に話す。


 桃太郎の父は腕組みをして考え込む。

「……そうか、インスマス記念港とハスターの宮殿に行きたいのか。

 どちらにも荷は出している。

 インスマス記念港の荷の調べはそれほど厳しくない。問題はハスターの宮殿だな」 


 カカシは尋ねる。

「やはり警備が厳重なのですか?」


 桃太郎の父は首を横に振る。

「もちろん警備は厳重だ。だが、重要なのはそこじゃない。

 宮殿に送られるのは妻が握った黍団子だ。

 そんなに大きな荷物じゃない。両腕で抱えられる木箱だけだ。

 で、その宮殿に行くというのが――」

 そして、宮殿に乗り込む冒険者を見る。

 七仙女の一人、黄衣仙女。

 文豪、芥川龍之介である。

「あんたたち二人は小さな木箱に入れるのか?

 小さくなる術が使えれば可能だろうが……。

 いや、けっこう、そんな術が使えるようには見えないな。

 となると大人二人は入れる箱が必要になる。

 いつも小さな木箱が大きな箱に変わってみろ。

 すぐに中身をあらためられるぞ。

 宮殿外壁の入口あたりで見つかっておしまいだ」


「小さな箱だと大きな箱……、通常なら不可能な潜入。

 カルコサの客人として招かれているのは日本神族のカヤノヒメ……。

 うーむ、もしかしたら敵の目をうまく欺いて中身を見られることなく宮殿内に侵入できるかも」

 芥川龍之介は何か閃いた様子だった。

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