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第126話 黍畑を抜ける

カカシたちは黍畑から脱出した。


カカシ

オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。

親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。


ヘンリー・ウェントワース・エイクリー

地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。

契約によりカカシと旅することを義務付けられている。


黄衣仙女

緑衣仙女の姉。ラジオ局で強制労働させられていたが、ブリキの木こりに見逃してもらい脱出した。


坂田金時

平安時代の武士、金太郎その人。

鬼と化した源頼光を討つため、イタカの巨体に忍び込みカルコサにやって来た。


芥川龍之介

大正時代の文豪。イタカによって連れ去られ、カルコサの奴隷になっていたが、金時に助けられた。

 カルコサの(きび)農園にて収穫された黍を積んだ荷車。

その荷車は風車小屋ほどもある巨大さである。そしてまたその荷車を引くシャンタク鳥も巨体である。

 御者(ぎょしゃ)は農奴が務める。農奴は手綱も鞭も持たず、ただ言葉でシャンタク鳥に命令していた。

目をはなすとあらぬ方向へ飛んでいったり、荷車を置いていってしまうためである。

 

 三人のバイアクヘーが空から下りてシャンタク鳥の荷車を止めた。

「おい止まれ。検問だ。荷物を調べさせてもらう」


 農奴は答える。

「へい。しかし荷の点検とは珍しいだな」

「ハスター様に抗う危険分子どもが黍畑に逃げ込んだのだ。

 積荷に隠れて脱出を図る可能性がある」

「そんな奴らを乗せたりしないだよ」

「それをこれから調べるのだ。貴様が知らんうちに忍び込んでいるかもしれん」


 バイアクヘーたちは荷車の中に入る。

 収穫された黍が詰まった布袋がうず高く積まれていた。


「一度の大量輸送は効率的だが、この中に紛れた侵入者を探し出すには非効率だ。

 しかも、必ずここに潜んでいるというわけでもない」

「ぼやくな、手分けして探せ。異常を見つけたらすぐに報せろ」


 バイアクヘーたちは荷車の中を見回った。

彼らはカカシら侵入者たちを探していたが、カカシたちはすでに彼らを監視していた。


「ん?」

 一人のバイアクヘーが異変に気付く。

高く積まれた黍袋の一角がぐらぐらと動いているのである。

 ここに隠れているのだろうと思い、仲間を呼ぼうとした瞬間。積まれた黍袋が崩れ落ちてバイアクヘーを下敷きにしてしまった。


「どうした!?」

 仲間二人がすぐさま駆けつける。


 倒れた一人は仲間に助けを求める。

「黍袋が崩れてきたんだ。助けてくれ」

「わかった。今、どかすからな」


 下敷きになったバイアクヘーは顔を上げて叫ぶ。

「あっ! 後ろだ後ろ!」

 

 救助に来たバイアクヘー二人の背後にカカシと坂田金時がいた。彼らはそれぞれ金のステッキとマサカリを手にしており背後より襲い掛かる。


 カカシと金時は打撃でも斬撃でもなく、得物の柄をバイアクヘーの首にかけて絞め落とした。


 下敷きのバイアクヘーは大声を出そうとしたが、黄衣仙女はその口にヘンリーの脳缶をつめこむ、そして脳缶の重みを利用してバイアクヘーの首をへし折った。


 冒険者たちが矢や刃物の使用をさけたのは、バイアクヘーの体液が荷車内に飛び散ることを嫌ったためである。

戦いの痕跡を残すことは発見されるリスクを高める。それは彼らを匿ってくれた農奴を危険にさらすことでもあった。


 農奴は荷車から物音がしなくなったことを確認し、バイアクヘー三人が全滅したと察した。

 彼もまた日頃からハスターの眷属たちに蔑まれていたので、鬱憤晴らしにカカシたちに協力してくれたのである。

「シャンタク、もういいぞ。工場に行ってくれ」


 シャンタク鳥は命令を受けて再び荷車を引いて歩き出した。

シャンタク鳥は名状し難い怪物ではあるが、やはり威張り散らしているバイアクヘーを嫌っていたので見て見ぬふりを決め込んでいた。






 冒険者たちは積まれた黍袋の陰で計画を話し合う。


 金時が切り出す。

「確認するぞ。緑衣仙女の救出のためにはハスターの宮殿に乗り込まなくちゃいけない。

 が、残念ながらこの戦力で正面突破は無理だ。

 農奴からの情報によると、この荷車は黍団子工場に向かう。

 そこで製造された黍団子、とくに高品質のものは宮殿に送られる。その荷車に潜み宮殿に向かう」

 

 カカシが続く。

「だが、全員で宮殿には行かない。二手に分かれる。

 僕と金時そしてヘンリーはインスマス記念港に行く」


 インスマス記念港。西暦1900年代、ルルイエの拠点インスマス港はアメリカ軍によて壊滅した。

その滅亡とともにカルコサ都市群に組み込まれた。今やインスマスはカルコサの玄関口である。

これはカルコサのルルイエに対する勝利宣言であり侮辱であった。


 金時は回想する。

「記念港は他の星や幻夢境行きの船の発着場だ。もちろん奴隷と廃棄物の輸送のためにイタカも出入りしている。

 俺はイタカに潜んでカルコサに来た。だから帰りも記念港からイタカに潜んで脱出するつもりだった。

 ここでの道案内は任せてくれ」


「だがもうイタカに潜む必要はなくなる。僕がセラエノから得た知識を使って、ヘンリーの脳をイタカに組み込む」

 カカシは金時の計画を、より強固なものに押し進める。


「うぅむ。久々に動けるようになれると思ったら風に乗りて歩むものになろうとは」

 ヘンリーはイタカの巨体を想像し武者震いするかのように声を響かせる。


 黄衣仙女は深呼吸する。

「その間に私と芥川様でハスターの宮殿から緑衣を助け出す」

 

「そして、私が宮殿に突入し仙女たちと芥川氏を回収し幻夢境へ脱出。

 ……カカシよ、この策いささか強引であるまいか?」

 ヘンリーはカカシに対して疑問を呈した。


「……言いたいことはわかるよ。

 警備が厳重であろうハスターの宮殿に黄衣と芥川を送り込むのは危険が大きすぎる。

 イタカの身体の乗っ取りもうまくいかないかもしれない。

 なにより、これから行く黍団子工場がどんな施設かわからない。

 それはわかる。

 で、ヘンリー、他に何か良い案はあるのかい?」

「むっ、代案を出せと?」

「まさか。せいぜい緑衣を見捨ててイタカに忍び込むぐらいだろうね」

「わからんな。それでも良いではないか。

 仲間を見捨てないなんて理想主義者の言葉だ。ときに非情な選択をしなければならないときもある」

「確かに君の言うとおりだ。

 だが、僕の友人たちは誰にも負けない勇気と心を持っている。

 同じく誰にも負けない脳を持っている僕は彼らに恥じない振る舞いをしたいだけさ」

「まったく、とんでもない理想主義者だ」


「ヘンリー様、お嫌ならお一人でお逃げ下さい。

 私は妹を助け出す可能性が少しでもあるのならそれにかけます」

 黄衣仙女は決意を固める。


「僕も金時や緑衣には助けらましたし恩は返します。

 日本男児の矜持というものです。……柄じゃありませんけどね」

 芥川もカカシに賛成といった具合。


「このまま逃げるのは容易い。しかし、俺の主人を弄んだカルコサの連中には一矢でも二矢でも報いてやりたいじゃないか」

 金時はにやりと笑った。目の色が武士特有の好戦的なそれに変る。


「わかった、わかった。君らの本気は伝わったよ。

 従うよ。やれやれ」

 ヘンリーは僅かな可能性にかける冒険者たちに呆れつつも協力を約束した。


「あんたら、盛り上がってるところ悪いが静かにしてくんろ。

 そろそろ黍団子工場につくべ」

 農奴は正面を向いたまま冒険者たちに警告した。


 彼らの行く手にそびえる白い城、黍団子工場。

はたしていかなる困難が冒険者たちを待ち構えているのか。

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