第123話 羅生門歌会
茨木童子はカカシの策略に気付き、総攻撃を命令する。
カカシ
オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。
親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。
ヘンリー・ウェントワース・エイクリー
地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。
契約によりカカシと旅することを義務付けられている。
緑衣仙女
道教神族、七仙女の末っ子。多くの仲間が逃げ延びた幻夢境に行く方法を探っている。
自らの毛を剃ってカツラを作り芥川に貸した。
黄衣仙女
緑衣仙女の姉。ラジオ局で強制労働させられていたが、ブリキの木こりに見逃してもらい脱出した。
坂田金時
平安時代の武士、金太郎その人。
鬼と化した源頼光を討つため、イタカの巨体に忍び込みカルコサにやって来た。
芥川龍之介
大正時代の文豪。イタカによって連れ去られ、カルコサの奴隷になっていたが、金時に助けられた。
羅生門での戦い。カカシは追い詰められていた。
空を覆うほどに舞い飛ぶバイアクヘーに対して、仲間は坂田金時と芥川龍之介。
坂田金時はマサカリで襲い来るバイアクヘーを叩き切りながら必死な抵抗を続けた。
「こいつぁ、もう負け戦だな」
もはや勝機は無く、頼光を呪いから解放する望みも絶たれた。
ではなぜ戦いをやめないのか。平安武士の意地が武器を握らせるのである。
「聞け、化け物ども! 我こそは源頼光が家来、坂田金時。
貴様らの命、頂戴する!」
圧倒的物量を前に怯まぬ金時にバイアクヘーらはたじたじとなる。
すくんだ者たちからマサカリの餌食となっていった。
「もういい。私自ら終わらせてやる!」
金時をよく知る茨木童子は平安武士の矜持を理解していた。
自ら金時を滅ぼそうと羅生門の屋根から飛び降りる。
そして、一首詠う。
「案山子立ち 酔い山恋し 羅生門 綱は絶てずと 金くすむかな」
訳:敵の策謀に陥り、酒呑童子様との大江山での日々を思い出しました。羅生門の地にて因縁ある渡辺綱ではありませんが、坂田金時を葬り慰めにしたいと思います。
この歌は茨木の決意と覚悟の表われであったが、ある人物に平静を取り戻させた。
芥川龍之介である。
彼は大正時代を代表する名だたる文豪。鬼の歌が彼を正気に戻した。
黄赤の空を仰ぎ見て、一首詠う。
「地獄変 後光激しき 神降ろし 金の蜘蛛より 綱つかむかな」
訳:ここ(カルコサ)は首をくくりたくなるような地獄だが、坊主頭の仙女が降臨し眩しい。私は金雲からの救い糸で首をくくることせず生き延びようと思う。
「なに?」
茨木童子が空を見上げれば、本物の緑衣仙女とラジオ局から脱走した黄衣仙女がいた。
「よし、救出は成功だ!
緑衣、ヘンリーの缶を高く上げてくれ!」
カカシの呼びかけに緑衣は困惑しながらもヘンリーの能缶を高くかかげる。
「え、えっとこうですか?」
そして、ヘンリーは訝しがる。
「まったく、この卑しいカカシは何を考えているのやら」
だが、今までカカシの策に踊らされていた茨木童子には状況を楽観視できない。
「お前たち、緑衣仙女の邪魔をしろ!」
バイアクヘーに指示を出す。
バイアクヘーたちは地上のカカシと上空の緑衣仙女へと群がっていく。
「わっ、きゃっ、やめて!」
怪物たちに囲まれて緑衣は大慌ててで脳缶をかかげるどころではない。
「邪魔だてするな!」
金時は一喝すると、緑衣に群がるバイアクヘーたちに向かってマサカリを投げつけた。
その一投が緑衣に掴みかかったバイアクヘーの腕を切り落とす。
緑衣は反射的に飛んできたマサカリを受け取ってしまった。
なおもバイアクヘーたちは空中にとどまる緑衣へと襲い掛かる。
「やめて、こっちに来ないで!」
緑衣はマサカリをがむしゃらに振り回す。
素人の無鉄砲な攻撃にバイアクヘーたちは怯む。
この有様に鬼と文豪に続いて金時までも詠いだした。
「主討つ 蜜酒乱れて 勘外れ 男勝かり 次ぐ無い桃矢」
訳:源頼光を討とうとしたがバイアクヘーに阻まれてうまくいかない。桃矢でヘンリーの脳缶を狙うが、緑衣仙女はマサカリを振り回している。なのでマサカリを狙うことにした。しかし失敗しては主人への償いは果たせない。なぜなら次は無いのだから。
「桃矢でマサカリを? なぜ同士討ちを……」
茨木童子には金時の歌の意味がわからない。
「金時、僕の策に気付いたか!」
カカシは弓矢を金時に渡す。
「これは君の戦いだ。自分で決着をつけるんだ」
「もとよりそのつもりよ!」
金時は弓矢を受け取ると、すぐさま上空に向けて矢を射る。
放たれた矢は上空にいる緑衣仙女へと飛んでいった。
その緑衣仙女はというと、しゃにむにマサカリを振り回していた。
その一振りが桃矢を弾く。
弾かれた矢は頼光鬼の後頭部に直撃した。
黄衣仙女はぐっと喜びの表情を見せた。
「金剋木!
木の矢と金の刃の見事な連携技ですね!」
ヘンリーの心中で安堵と怒りがせめぎ合った。
「なんと! マサカリが無ければ、私の缶で矢をはね返すつもりだったのか!
カカシめ、とんでもない策を考えおる」
「ふん、小賢しい真似を。確かに桃矢は鬼族には致命傷だ。
しかし、バイアクヘーの医療術がある限り頼光鬼は不死身!」
茨木童子はバイアクヘーの群れに命令する。
「頼光鬼に刺さった矢を抜いて、欠損した脳の代わりになれ」
すでに頼光鬼の心臓はバイアクヘーの身体に取ってかわられている。
脳までもバイアクヘーの肉体で補おうとしているのである。
「くそ、どこまで頼光様の身体を辱めれば気が済むんだ!?」
金時は第二矢を放とうと構えるが、すでに金剋木の連携技は見抜かれている。
バイアクヘーは緑衣仙女やヘンリー缶への射線上に飛び込んで妨害に入る。
「ちぃ、頼光様を成仏させる手立ては無いのか!?
カカシ、何か良い策は無いか」
カカシもすぐに策は浮かばない。
「少し時間をくれ」
「駄目だ。その少しの時間でバイアクヘーが頼光鬼の脳になってしまう」
「私に任せてください」
突如、上空の黄衣仙女が名乗りをあげた。
彼女の声にバイアクヘーたちは動きを止めた。
裏切り者とはいえ、ついさっきまではカルコサラジオの人気DJである。
「イェーイ、カルコサのみぃんなぁー! 黄衣仙女の最後の生ライブだよ!」
緑衣仙女は青ざめて黄衣の肩をゆさぶる。
「その生理的に不快な喋り方はやめて!
なんのためにお姉さまを助けたかわからない!」
黄衣は緑衣の目にたまった涙を指で拭き取った。
「いいのよ。あなたは私を助け出すために、天女の美の象徴とも言える髪を剃ってしまった。
おまけにそんな茶渋を拭いた雑巾のようなを服まで着て。
あなたの受けた苦痛に比べたら私なんてまだまだよ」
芥川の顔面がひきつる。
「その服、銀座で買ったやつなんですけど」
緑衣が着ている着流しは芥川の物である。
芥川と銀座の名誉のために記しておくと、黄衣仙女、緑衣仙女ら七仙女は道教神族でも高貴な身分であった。
よって、彼女の召し物は最高級の神器である。人間の着ている服がみずぼらしく見えたとしても致し方のないことである。
黄衣仙女はバイアクヘーたちに訴えった。
「今日でぇ、黄衣はカルコサラジオから卒業しまぁす。
私たちのカルコサ脱出を、いっちばん手伝ってくれた勇敢なバイアクヘーにはハグをプレゼントしちゃうぞ!」
「くっ、
くくくく、あはははははは!
黄衣め、切羽詰って愚策に出たわ。
ハスター様の下僕たるバイアクヘーが貴様なんぞ色仕掛けにかかるものか」
茨木童子は高笑いして黄衣をあざけった。
「なんだって、もう黄衣仙女のラジオが聞けなくなるのか!?」
「でも、黄衣仙女には幸せになって欲しい」
「うおおおおお!!!! 黄衣ちゃんのハグはわしのもんじゃああああ!!!!」
一部のバイアクヘーに効果があった。
黄衣に心奪われた者たちは命令を無視し同士討ちを始めた。
「馬鹿者、馬鹿者! 何のつもりだ。
命令に従わない奴は全員処刑だ!」
茨木童子は金切り声をあげたが、どうにもならない。
バイアクヘーたちは裏切りの黄衣仙女陣営と忠実な奴隷のカルコサ陣営に分かれて殺し合い、収拾のとれない有様となった。
その混乱の中、坂田金時はかつての主人に別れを告げようと刀を抜いた。
彼の眼前、頼光鬼の頭部はバイアクヘーが同士討ちでひしめきあい、黒い肉塊が蠢いていた。
「頼光様、家来の不徳、この一刀で償いと致します」
そして刀を構えてもがき苦しむ頼光鬼へと突撃する。
結果は歴然。金時の一太刀が頼光鬼の首を刎ね落とした。
鬼となった主人を討ったことで坂田金時は臣下の務めを果たしたのである。
頼光鬼の首の無い亡骸は羅生門に向かってぐらぐらと倒れた。その重みで羅生門は轟音とも崩れ落ちた。
お気に入りの場所を破壊されて茨木童子は悲鳴とも雄叫びともつかない声をあげて、さながら落雷のようであった。
「今のうちよ! 皆、雲に乗って!」
緑衣仙女の叫びでカカシ、芥川龍之介、そして坂田金時は仙雲に飛び乗る。
緑衣は全員が乗ったことを確認すると仙雲を加速させ平安京より離脱した。
冒険者たちは黄衣仙女を新た加え、カルコサのさらなる狂気へと呑まれていく。




