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第122話 羅生門の鬼

黄衣仙女救出の時間を稼ぐ為、坂田金時は鬼と化した源頼光と対峙する。



カカシ

オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。

親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。


ヘンリー・ウェントワース・エイクリー

地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。

契約によりカカシと旅することを義務付けられている。


緑衣仙女

道教神族、七仙女の末っ子。多くの仲間が逃げ延びた幻夢境に行く方法を探っている。

自らの毛を剃ってカツラを作り芥川に貸した。


黄衣仙女

緑衣仙女の姉。ラジオ局で強制労働させられていたが、ブリキの木こりに見逃してもらい脱出した。


坂田金時

平安時代の武士、金太郎その人。

鬼と化した源頼光を討つため、イタカの巨体に忍び込みカルコサにやって来た。


芥川龍之介

大正時代の文豪。イタカによって連れ去られ、カルコサの奴隷になっていたが、金時に助けられた。

茨木童子を欺く為、緑衣仙女に変装している。

「さぁ、頼光鬼(らいこうき)よ。坂田金時を殺せぇ、殺せっ!」

 茨木童子は至極満悦といった風で、羅生門の屋根の上で高笑いしている。


 頼光鬼は唸り声をあげて豪腕を振り回し、金時の息の根を止めようとせまる。


 金時はその猛攻をくぐり抜けて、マサカリで斬り込む。重撃である。


 だが、頼光鬼はそれら必殺の一撃をことごとくいなす。金時の斬撃は届かない。


 一進一退の攻防。

 先手必勝、先に相手に深手を与えた方が勝利する。

 戦いが長引けば鬼に比べ体力の無い金時が先に力尽きる。当然の(ことわり)


 苦しい戦いを金時は強いられていた。

かつての主人を討ちにカルコサまで来た彼だったが、いざ戦う時になってその主人を殺すわけにはいなくなった。

それに加えて、黄衣仙女救出を目的とした時間稼ぎ。手加減で渡り合えるほど頼光鬼は簡単な相手ではない。


 殺すつもりでかからなければ、時間稼ぎどころが自分が危うい。ひいては主人頼光を鬼の呪いから解放することもできない。


 結果的にそれは良い目くらましとなった。茨木童子は主人家来の殺し合いを疑うことなく心から楽しんでいる。愉悦の時間である。


 頼光鬼は戦法を変えた。羅生門を越えるほどの跳躍を見せた。

そして金時めがけて飛び降りる。


 金時はすんでのところで横に跳ねて頼光鬼から逃れたが、着地の瞬間、地面は大きく揺れて軽い瓦礫は飛び上がった。


 戦いを見守っていたカカシと緑衣に変装した芥川は立っていられずよろめいた。


「いいぞ頼光鬼、そのまま金時を踏み殺してしまえ!

 だが、あまり飛び跳ねて羅生門を崩すなよ」

 茨木童子は喜びで手を叩く。


 頼光鬼は再び飛び上がり落下する。

金時は素早く転がり落下点から回避する。


 が、頼光鬼はすでに金時の動きを見切っていた。

着地と同時に両手でがっしりと金時を捕らえたのだ。


「やった、そのまま握りつぶせ!」

 茨木童子は歓喜の叫びをあげて飛び跳ねる。


「ぐああああああ!!!!!」

 金時は悲鳴をあげる。

幸いにもマサカリを持った右腕は拘束されていなかった。

腕をふり何度も頼光鬼の右手人差し指を斬りつける。


「ぬごごおおおっ!」

 同じ部位を斬られ続け、頼光鬼は痛みに堪えながらも手に力をこめる。


 金時の全身の骨が砕け散るのが先か、頼光鬼の指が斬り落とされるのが先か。



 頼光鬼の人差し指に亀裂が入っていく。必然的に金時を握る力がゆるんでいた。


 金時はこの機を逃さず拘束からすり抜け飛び上がる。

「うおおおおお!!!!」


 渾身の一撃が頼光鬼の角に叩き込まれた。


 衝撃音。


 その斬撃、鬼の命とも呼べる角にヒビを入れる。

 

「えぇい、何をしている! 無様な戦い方をするな!」

 茨木童子は金切り声をあげて頼光鬼に怒りをぶつける。


 このとき一瞬、カカシは片目をぴくりと痙攣させた。

彼からすれば茨木童子は怒っているより喜んでいたほうがいい。


 この一瞬の変化を茨木童子は見逃さなかった。

“あのカカシ。金時が九死に一生を得たというのに喜びもしない。何が不満なのか?”

 

 カカシは金時と頼光鬼の戦いを見ているが、時折、茨木童子を見上げている。


“私を警戒しているのか? ははぁ、私が痺れを切らし加勢することを恐れているのだな。

 ふ、愚かな案山子よ。酒呑童子様の意思を継ぐ私がそのような卑怯な戦法をとると思っているのか”


 カカシは再び視線を上げる。このとき茨木童子と目が合った。

するとすぐさま戦いに目線を戻し、以後、茨木童子を見上げることをしなくなった。


“私を見なくなった。となると私の乱入を警戒していたわけではないのか。

 ではなぜ私を見ていた?”

 

 茨木童子はカカシを睨みつけた。そしてある事に気付く。


 カカシは肩に桃弓と矢筒をかけている。


“あの弓矢は桃木で作られている。鬼族(われら)にとっては一撃で死に至る神器。

 実際、頼光鬼は死にかけた。バイアクヘーの医療術が無ければ死んでいたが。

 なぜ、あれを金時に持たせない!? すぐに決着がつくではないか”


 頼光鬼はヒビの入った片角をおさえ、空いた左腕を振り回し金時を襲う。


 金時は後退してそれをかわす。


“金時は頼光鬼に決定打を与えた。どう見ても追い討ちで攻め立てる好機。

 それをなぜ逃げる? 時間稼ぎか?

 しかし、なんのために?”


「――まさか、黄衣仙女を助け出す為に?」

 茨木童子はすぐに首を横に振る。

“いやいや、ここからラジオ局は近いが、歩いて行って戻れる距離ではない。

 空でも飛べない限り不可能。……空?”

 緑衣仙女を睨む。もちろんその緑衣は芥川が変装した偽者である。

しかし、茨木童子にはそれがわからない。

“考えすぎか、緑衣仙女は目の前にいるではないか。

 桃弓のこともきっと思い違いだ” 


 茨木童子は現状を楽観視してしまった。






 ラジオ局から北の羅生門に向かって飛ぶ、黄衣緑衣姉妹の後姿をブリキの木こりは満足そうに見送っていた。


「……うぅ」

 ブリキの木こりが小さく呻くと、彼女の目鼻口、そして間接から黒いタールがあふれ出した。

「うぐ、ぎぎ、くたばりぞこないのカカシどもめ。つまらん小細工をしやがって!

 こいつぁ責任問題だっ!」


 先刻とはまるで別人ようで悪鬼のごとくの形相。外通路を通って収録室へと戻る。

そして左手でマイクを取り上げる。


 ブリキの木こりの口からタールが飛び散る。 

「茨木童子のクソがっ! 緑衣仙女に連れられて黄衣仙女は逃げたぞ!

 さっさと残った奴らを処刑しろ、こののろま!」 


 ブリキの木こりは自分が喋っていたマイクを握りつぶし、途方にくれてその場に膝をつく。

「また、またやってしまった。自分の感情をコントロールできない。

 私は、私はどうなってしまうの?」

 そして、目から涙を流す。その涙もやはり黒いタール。






 ブリキの木こりの怒鳴り声はカルコサ全土に放送された。

もちろん羅生門も例外ではない。


 茨木童子はまさしく鬼の形相でにせ緑衣仙女を睨む。

「……緑衣仙女はここにいる。だが、緑衣仙女はラジオ局にいたらしい。

 まさか身外身(しんがいしん)の法を会得していたのか」


 空を覆うバイアクヘーたちもにせ緑衣仙女を注視する。


 カカシは声を張り上げる。

「今のは誤報だ。緑衣仙女はここにいる。

 君たちは自分自身の目が信じられないのか!?」

 堂々とした態度だった。


 しかし、緑衣仙女に変装した当事者はそうはいかない。

カルコサの者どもの視線を一斉にあびて、芥川は完全に怖気づいてしまった。

「も、もう駄目だ」

 後ずさりし尻餅をついて倒れる。

男の声をだしたあげく、倒れたひょうしに緑衣仙女の頭髪で作ったかつらが外れてしまった。


「ああああああ!!!!! 誰だ貴様ぁああああ!!!!?」

 茨木童子は芥川を指差して咆哮をあげた。

そして、自分がまんまと騙されていたことに気付き怒り狂う。

「うぐあああ、貴様らぁああ、卑怯ものめぇええ!!!

 もはや一騎討ちは不成立。

 やれぇ、バイアクヘーども。奴らを殺せ!」


 一方、カカシはブリキの木こりの声を懐かしみ、同時に変わり果てた友の喋り方に愕然とした。

「もう彼女は僕が知っているブリキの木こりではないのか。

 ……いや、今はそれを気にしているときじゃない」

 弓を構えて、茨木童子めがけて矢を放つ。


 案の定、矢はバイアクヘーの肉の壁によって防がれる。


「憎きカカシめ、酒呑童子様の名を汚した罪をその身で受けるがいい!」


 バイアクヘーは次々と舞い降りて、カカシ、金時、芥川に襲い掛かる。


「わわわ、来るなっ!」

 芥川に至っては戦う術を知らず、逃げ惑うことしかできない。

すぐに捕まり空中へと連れ出される。


 カカシは即座に矢を放ち芥川をさらったバイアクヘーを打ち落とす。

「芥川、僕から離れるな。緑衣たちが戻るまで耐えるんだ!」


 地面に落ちた芥川は恐怖でふるえる。

「もう駄目だ。この数はどうにもならない!」


「最後まで諦めるな!

 君は緑衣に髪を返す義務がある」

 カカシは芥川を叱咤する。


「こんな状況で緑衣が戻って来ても事態が好転するものか」

 芥川は現実的な返しをした。緑衣仙女も戦いでは役に立たない。


 カカシはまったく聞き入れなかった。

彼は絶望することもパニックに陥ることも無く、この危機を退けることに脳を働かせていた。

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