第116話 金時語る、カルコサ脱出の策
坂田金時はカルコサ脱出ルートを冒険者たちに語る。
カカシ
オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。
親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。
ヘンリー・ウェントワース・エイクリー
地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。
契約によりカカシと旅することを義務付けられている。
緑衣仙女
道教神族、七仙女の末っ子。多くの仲間が逃げ延びた幻夢境に行く方法を探っている。
カルコサにいるという姉、黄衣仙女の行方を追っている。黄衣仙女は平安京より南のラジオ局に勤めているという。
坂田金時
平安時代の武士。昔話の金太郎その人。何か目的があってカルコサに来たようだが……。
芥川龍之介
大正時代の文豪。カルコサの奴隷になっていたが金時に助けられた。
陰陽師屋敷の地下室。
カカシ、緑衣仙女、坂田金時、芥川龍之介が円になって座り、ヘンリーの脳缶が床に置かれた。
カカシが切り出す。
「で、金時。あなたはどうやってカルコサに?」
金時は答える。
「イタカだ。あれに乗ってきた」
カカシとヘンリーは驚く。イタカとはハスターの眷属であり。青き炎を放つ巨人。
頼んで乗せてくれるような相手ではない。
金時はにやりと笑う。
「芥川先生もイタカに乗ってきたんだぜ。いや乗せられたと言うべきか。
カルコサは滅亡した都市を組み込み無限に膨張する複合都市というのは知っているな」
一同は頷く。カカシは自分が治めていたエメラルドシティをカルコサで発見したのだ。
そして、金時が住んでいた平安京も取り込まれていた。
金時は続ける。
「この都市構造。実はある問題を抱えている。ゴミだ。
なんせ滅亡した都市をそのまま取り込むからな。崩れた瓦礫も、使いようもないゴミもまとめてだ。
誰かが掃除をしなくちゃいけない。では誰が?
ハスターの眷属はそんな面倒な仕事はやりたがらない。奴隷にやらせる。
しかし、奴隷はわざわざヒアデス星団までやって来てくれない」
ヘンリーは察する。
「奴隷狩りか」
「ご名答。その奴隷狩りを一手に引き受けているのがイタカだ。
奴は奴隷船にして動く監獄。幻夢境だろうが覚醒の世界だろうが構わずやって行って、奴隷を捕まえてここに運んでくる。
ほとんどが掃除担当で廃品回収。なにかしら才能や技能があると別の仕事をやらされることもあるみたいだな。
奴隷の選定基準は知らんが、欲深かったり、ぼんやりしてたりするとイタカの注意を引きやすくなるらしい」
芥川は金時の視線に気付き抗議した。
「ぼんやりしてたっていいじゃないですか!」
「まぁ、俺も芥川先生も一度死んだ身。幻夢境からイタカに乗ってここに来たからな」
カカシは金時の説明に納得した。
「となると、脱出も奴隷狩りに行くイタカに乗って?」
「その通り。イタカは奴隷狩りだけじゃなくて、働けなくなった奴隷やゴミの廃棄もやっている。
捨てられる奴隷たちに紛れてイタカに乗り込むんだ。
ひどいもんだ、空から奴隷を落とすんだ。飛ぶ術を知らないとまず助からない」
ミスカトニック大学の調べによると、イタカよって転落しした犠牲者は一様に奇妙な装飾品を手にしているという。
これは犠牲者が価値あるものと思いカルコサから盗み出したものだが、実際は壊れた役に立たない神器であり、ゴミであるから没収されなかっただけのことである。
緑衣仙女は脱出の目処がたち奮い立つ。
「私は飛べますから落とされても平気です。お姉様を助け出して幻夢境に行きます」
「お姉さんが囚われているのか。そいつは心配だな。
しかし、飛べるということは人間ではないな。天女か」
金時の問いかけに答える。
「はい、私も姉もです。黄衣仙女と力を合わせればより多くの奴隷を転落死させずにすみます」
「黄衣仙女、ハスターを崇め奉る放送を流してる奴じゃないか。大丈夫なのか」
「違うんです! お姉様は本当はあんな下品な喋り方をするような仙女じゃありません!
きっと脅されて無理矢理言わされているんです」
「わかった、落ち着け。カルコサの連中ならやりかねんことだ」
カカシは一つの疑問を金時にぶつける。
「イタカを脱出手段にするとして、そのイタカはどこに?
ここから遠いのですか。
それともう一つ、あなたがここに来た目的は?
あなたの奴隷解放のやり方は計画性があるようには見えない。
それは他に優先する目的があるからでしょう?」
「おいおい、待ってくれ。そんな一度に質問せんでくれ。
順番に答えるから」
芥川が笑って答える。
「僕が金時さんと合流したのは逃げ出した後ですからね。
奴隷のために遠路カルコサまで来るような方じゃありませんよ。
彼がここに来たのは――」
次の瞬間、轟音とともに暗い地下室に光が差し込んだ。
頭上に広がるカルコサの黄赤の空。そして、その空を飛び交うバイアクヘー。
冒険者たちはハスターの眷属に見つかってしまった。
ヘンリーが絶叫する。
「おい、ここは安全な場所じゃなかったのか!?」




