第114話 カルコサのレンガ道を行く
カルコサに挑む冒険者たちは、亡都平安京にいるという侍と奴隷の救助に向かう。
カカシ
オズの国、エメラルドシティの王。ドロシー第一の従者。
親友のブリキの木こりを探しにカルコサまでやってきた。
ヘンリー・ウェントワース・エイクリー
地球人の民俗学者。脳みそだけになり缶詰に入れられている。
契約によりカカシと旅することを義務付けられている。
緑衣仙女
道教神族、七仙女の末っ子。多くの仲間が逃げ延びた幻夢境に行く方法を探っている。
カルコサにいるという姉、黄衣仙女の行方を追っている。
カルコサに来て初めての朝を迎えた。
冒険者たちは先を急ぐ為、夜明けと共に出発した。
スラム街のに立ち並ぶスピーカーからカルコサラジオが流れる。
『グッモーニーン♪ あっさでーすーよー。
今日も元気一杯、笑顔のスマイルでハスター様のために働こう!
ハスター様に感謝の気持ちを忘れずにいこっー。
いあいあ、はすたぁイェーイ!
さぁ、皆もいっしょにぃ、いあいあ、はすたぁイェーイ!
……あー、元気ないなぁ。元気ないとイタカの刑だよ。
さぁ、もっかい、ってみよぉー!!』
声の主は黄衣仙女である。
妹の緑衣仙女は心を痛めた。
「あぁ、お姉様はあんな下品な喋り方はしないんです。
お姉様はもっと上品で穏やかで……」
「無理矢理言わされているんだろう。あるいは操られているのかも。
他人を奴隷にする奴は、ろくでもないことをやらせて楽しむものさ」
カカシはハスターを軽蔑した。
「それにしても、ここの奴隷はどういったことをさせられているのだろうか。
ちと見当がつかんな。それにイタカの刑とはいったい……?」
緑衣に抱えられたヘンリーは不可解といった具合で考え込む。
緑衣仙女は仙雲を呼び出す。
「さ、私の術で行きましょう。歩くよりずっと速いですよ」
冒険者たちは仙雲に乗る。
注意を引かないように低空飛行で西進する。ビル街を抜けると荒野が広がっていた。
あちこちにどこの時代とも国ともつかない建物が点在している。それらも過去に滅亡した都市の一部なのだろう。
カカシは地面に視線を向けて驚きの声をあげた。
「あ、これは!?」
西に向かってまっすぐ伸びる舗装された道路。それは黄のレンガで造られていた。
「黄のレンガ道、なぜここに!?」
黄のレンガ道とはオズの国、エメラルドシティを中心に東西南北に伸びる通行の要である。
ヘンリーはカカシに現実を突きつける。
「オズの国は滅び、そしてカルコサの一部となった。
道路とて例外ではあるまいよ」
「わかっているよ。ただやはり聞くのと見るのとは違うね。
実際に目の前にあると驚くものだよ」
さらに進むと前方にエメラルドの巨大な山が確認できた。
それはまごうことなき、オズの国の首都エメラルドシティだった。
「緑衣、いったんここで止めてくれ」
「え、このエメラルドの山が平安京ですか?
想像したのとだいぶ違いますね」
「違う、これは平安京じゃない。
僕が治めていたエメラルドシティだ」
「なんですって!?」
緑衣は仙雲を止める。
エメラルドシティの様子を見ると、城の外壁に足場が組まれ、鉱山奴隷たちがピッケルを手にして外壁を砕いている。
そのエメラルドの塊は運び出されて次々に荷車に乗せられている。
ヘンリーは息をのむ。
「エメラルドの城を解体している。まさにエメラルドの鉱山か」
カカシは言葉を発せなかった。
ただ呆然としてエメラルドの城に向かって歩いていく。
「緑衣、カカシを止めるんだ!」
ヘンリーの言葉で緑衣は動く。
平安京へ急がねばならない。なによりカカシに自分の城が破壊される光景を見せるのは酷なことであると思えた。
「やめてください、もう先に進みましょう」
緑衣はカカシの腕をつかんだ。
だが、カカシは言い返す。
「自分の国も守れない。僕は王の器ではなかったんだ。
でも、国の最後を見届けるのは王だった者の義務なんだよ」
緑衣は返す言葉が見つからない。ヘンリーも黙ってしまった。
ただ城に踏み込むカカシの後を追うだけだった。
城内の調度品は全て運び去られた後だった。内装の白壁にヒビが入り崩れかかっている。
ほとんどの奴隷は外壁で働かされているので城内に人影はなかった。
カカシたちは玉座の間に入った。
玉座の間といっても、もはや玉座は無く、採掘道具などが置かれた倉庫と化していた。
「もしや、王様ですか?」
ピッケルを取りに来たであろう一人の奴隷がカカシに近寄ってきた。
「やっぱりそうだ。自分はウィンキーの国の者です」
ウィンキーとはオズの国の西地域の呼び名である。
「君はここで働かされているのか」
カカシの言葉にウィンキー人はうなだれる。
「はい。このカルコサを支配しているハスターは、かつてドロシー様が倒した西の悪い魔女の生まれ変わりなのです。
記憶は失ってもドロシー様やオズの国に対する憎しみは忘れていません。
この城の奴隷のほとんどはオズの国の出身者です。
私たちにエメラルドの城を破壊させることで、私たちの心の支えをも壊そうとしてるのです」
ヘンリーはハスターの残酷さに恐怖する。
「むむう。ハスターめ、恐ろしいやり方を考えるものだ。
エメラルドの採掘と同時にオズの民衆の心も砕く」
「おい、誰だ労働中の私語は厳禁だ! そして休憩中の私語も厳禁だ!
つまり私語は厳禁だ!!」
廊下から何者かの怒鳴り声が響く。
ウィンキー人は慌てる。
「いけない、見張りが来ました。隠れてください。
王様、あなたが見つかると厄介です」
緑衣仙女はバナナ葉のリュックにカカシを押し込んだ。
しかし、倉庫内は荷物がひしめきあって隠れられそうな場所が無い。咄嗟にしゃがんでしまった。
「今、喋っていたのはお前かぁ?」
怒鳴り声の主、バイアクヘーが姿を現し廊下をベタベタ歩きながらやって来た。
ウィンキー人は咄嗟に嘘をつく。
「はい、カルコサの偉大なる黄衣の王ハスター様を讃えておりました。
いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく――」
「ふん、まぁいいだろう。
……お前は誰だ!?」
バイアクヘーはヘンリーの脳缶を持って暗がりにしゃがんでいる緑衣仙女に気付く。
「おぉ、君は蜂蜜酒の儀式によってここに来た黄衣仙女の妹だな。
客人よ、仲間から話は聞いているぞ。
それにしても、こんなエメラルド鉱山をうろうろしているとは」
「エメラルドがきらきらして綺麗だったので」
「はっはっはっはっ、女への贈り物は宝石が一番だと言うしな!
だが、ここのエメラルドを黙って持っていってはいかんぞ。
ここのエメラルドは全てハスター様の所有物。
見つかったらその場で死刑だからな」
「気をつけます。ところで姉が働いているラジオ局はどこでしょうか?」
「おう、ラジオ局はここから西の平安京に行き、そこを南に進んで羅生門を抜けた先だ。
高い黒い塔だからすぐにわかる」
「わかりました」
緑衣は拱手してバイアクヘーに礼を述べた。
「そうそう、それともう一つ」
バイアクヘーは思い出しように言う。
「ここから東のスラムで動く案山子を見たという目撃情報が入っている。
案山子なのでそれほど素早く歩けるわけではない、この辺りには来ていないと思うが……。
もし見かけたら我ら一族に知らせて欲しい。
動く案山子は珍しい。まず間違いなくドロシー・ゲイルの手下だ。
奴を捕らえればハスター様もさぞお喜びになるだろう」
「見かけたらお知らせします」
「うむ」
そしてウィンキー人に詰め寄る。
「はたしてその案山子はお前たちの王様かな。
クックックッ、貴様らをいたぶる材料が増えると思うと楽しみでたまらないよ。
さぁ、早く道具を持って採掘に戻れ! このノロマ!」
ウィンキー人は短い悲鳴をあげて玉座の間から飛び出していき、それを追い立てるようにバイアクヘーも出て行った。
緑衣仙女はカカシをリュックにつめたままエメラルドの廃城を後にした
仙雲を呼び出し黄のレンガ道に沿って西へ飛んだ。一言も喋らなかった。
普段から憎まれ口をたたくヘンリーも何も言わなかった。
リュックの中からカカシが声をあげた。
「君たちが僕に気を使ってくれているのはわかる。
でも、心配はいらない僕は悲しさも怒りも感じない。心臓を持ってないからだ」
緑衣とヘンリーは無言のままだった。
カカシは続けた。
「以前、ブリキの木こりと口論になったことがある。
脳と心臓どちらかが大事か。僕は脳を選び、彼女は心臓を選んだ。
結局、どちらも意見をゆずらなかったけどね。ドロシーが何も言わず困った顔をしていたのをよく覚えているよ。
たけど今は思う。心臓があれば、涙の一つも流せたのだろうとね。
怒りに任せて、あのバイアクヘーを殴りつけることもできたのだろうとね」
ようやくヘンリーが口を開く。
「それは……、賢い選択ではないな。なにより君らしくない。
あそこで騒ぎを起こしたら、たちまち包囲されて全滅していた。
そしたらあそこの鉱山奴隷たちも助けられない。
君は最善の選択をした」
「ありがとう。
だけど必ずここには戻ってくる。
必ず彼らを救い出す」
カカシは決意を固めた。
冒険者たちは平安京を目指して風を切って進む。




