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第一章【3】

 事情を聞くというから、あたしはなんとなく、刑事ドラマの取調室のようなところを想像していたのだけど、すっかりあてが外れた感じだった。


 大正浪漫漂う古い家具が配置された、だれかのオフィスに通されたからだった。数は少ないけどきれいに手入れされた本棚と机、黒板と地図。机の上の電話はもちろんアンティークっぽいデザイン。事務室とかオフィスっていうとなんか機能的なイメージがあったけど、温かみがあっていい感じのインテリアだった。

 そこであたしが話した相手は、本郷さんという五十歳くらいのおじさん。肩の階級章っていうのだろうか、飾りは横田さんより星が二つほど多かった。その他に、神田さんというこれもやっぱりおじさんが一人と、雅之氏とほとんど同じくらいの年に見える福田さんという人だった。

 福田さんだけは、着ている制服が違う。紺色の制服は、海軍のものなんだって。へえ。


「さすがに、二度目ともなると落ち着いているね」

 とりあえず何が起きたかを全部話すと、福田さんがそう言った。

「二度目って……あの夢って、現実だったんですか?」

「ああ、そうだよ。暗示をかけて、夢だと思い込んでもらったそうだ」

「夢だった方が良かったかね?」

 これは本郷さん。

「はい。だって、目の前で人が死んじゃうんですよ?嫌じゃないですか」

 それで思い出した。御舘中尉も死んじゃったと思ってたけど、どうして元気なんだろ、雅之氏。ずいぶんひどい怪我をしてたと思ったけど。

 うっかりそんな事を言ったら、一番気難しそうな神田さんまでが笑っていた。

「ああ、御舘観測官が危なかったのは事実だよ。我々の医療技術では手の施しようがなかったので、監視局の付属病院まで特に送り込んだ位だからね」

 福田さんがそう説明してくれた。

「あ、そうだったんで……あれ?でも、まだ一週間くらいしか経ってませんけど」


 それであんなに元気になるんだろうか。


「君の故郷ではその位だろうが、こちらでは五年ほど経っているんだよ。御舘中尉の時間では、約一年かな。お互い、同じ速度で時間が流れているわけじゃないんだ」

「うーんと、よく判りません」

「そうだな、君のところに浦島太郎の話はあるかな」

「はい」

 唐突な感じはしたけど、福田さんは真面目な顔をしていたので、黙って聞くことにした。

「竜宮城に何日かいたら、浦島太郎の故郷では何百年も経っていただろう。それと同じで、君の故郷では一週間が過ぎる間に、こちらでは五年が過ぎていたんだ」

「あ、そういうことなんですか。でも、御舘中尉には一年って、どういうことですか?」

「彼は、こことも君のところとも違う時間線、ああ、平行宇宙といったほうが判りやすいかな、そこで治療を受けたからね」


 ……じゃあ雅之氏っていったい、幾つなの?


 そんな疑問がチラッと浮かんだけど、これはさすがに聞かなかった。この人たちに聞いても仕方ないだろうし。

 それより、こっちの時間のほうが早く流れてるって事が気になる。もしかして、試験前日に勉強が間に合わなかったら、こっちに来るといいのかもしれない。あっちでは一晩しかなくても、こっちで一ヶ月くらいあるんなら、試験勉強に苦労しなくて済みそうだし。

 でも、そういう事はしちゃいけないらしい。残念。


 結局、事情聴取と言ってもたいしたことはなくて済んだ。

 違う担当者と話しをしたという茜も、あたしと同じような事を聞かれたと言っていて、話をした後はとりあえず、女性職員の人にお茶とお菓子を貰ってくつろぐ事にした。

 出された酒饅頭は、かなり美味しかった。

「兄貴も、たまにはこういうもののお土産くらい持って来てくれてもいいのに」

 茜が二つ目のお饅頭に手を出しながら、ぶつぶつ言った。

「え、買って来てくれないの?」

「うん。一応、そういう事しちゃいけない決まりだから。でもさ、兄貴ばっかり美味しいもの食べてずるいんだよね」

「陸軍の飯とか戦闘糧食とか、そんなのばっかりだぞ」

 いつのまにか入って来た雅之氏が、茜の頭を軽く叩いて言った。

「なにすんのよ、兄貴」

「それほど羨ましいなら、この機会に堪能してみるか?」

「乾パンと氷砂糖なら、やだ」

 それはあたしでもイヤだ。でも戦闘糧食って、なに?缶詰かなんかだろうか。

「非常食なら缶詰と乾パンだね」


 それなら要らない。普通のご飯のほうがいいし。


「正直だな」

 雅之氏があたしらの頭をぽんぽんと軽く叩き、女性職員の人がくすくす笑っていた。

「ところで、私は今から晴海の方に出掛けてくる。夕方には拾いに来るから大人しくしてるんだぞ、茜」

「えー、どういうこと?」

「仕事だよ。亜紀君も、夕方になったら迎えに来るからそれまで適当に時間を潰していてくれ」

 適当にって、やる事無いんですけど。晴香はまだ寝てるし。

「暇なら、パンチカード並べでも手伝ってやってくれ」


 にやっと笑って片手を挙げ、雅之氏は出て行った。

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