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確率都市東京編:ある日ある朝突然に。  作者: 中崎実
第4章

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第四章【3】

 すごい重装備で、横田さんと雅之氏は出かけていった。


 あたしらは安全なところにいる必要があるって事で、かなり後ろの方にいたから、遠くから聞こえてくる音に耳を澄ませているばっかりだった。


 みんな、無事だといいんだけど。


 茜はずうっと黙ってハンカチを握り締めてたし、あたしは全然落ち着かなくって、服の裾をいじっていた。

「……ねえ、茜」

 なんとなく声をかけたけど、何を話していいか分からなかった。

「……なに?」

「だいじょぶ、だよね?」

「……うん」

 慰めたいけど、なんて言っていいのか分からない。


 それに、あたしも正直言って、慰めて欲しい気分だった。


 ものすごく不安。雅之氏は大丈夫だよと言って出かけたけど、何かあったら晴香も雅之氏も、戻ってこられない。

「それ、見えてるよねえ……?」

 あたしらの目の前5メートルくらいの距離には、ちっちゃなビーコン。

 雅之氏の持っている移動用の機械と対になっている、特別な装置が置いてあった。

 変なのが出てきた時の用心に、何人かの人が銃を持って警戒してる。

 出てくるのが雅之氏か、それとも妙なやつなのか、最初に判断するのもあたしだって事らしい。雅之氏は間違いようが無いから大丈夫と言ってたけど、判断を間違ったら、と思うと怖かった。

「大丈夫、だと思う」


 なんか、ものすごく時間が長い。


 三〇分くらい経っただろうと思って時計を見ると、まだ5分しか過ぎてなかったり。

「でもさ、茜……茜は、二人連れて跳ぶんだよね?」


 あたしと晴香。二人も運べるんだろうか。


「多分大丈夫だよ。あたしは固定度数が普通の人の十分の一しか無いし、晴香は自分の軸移動慣性があるし。亜紀はたぶん、兄貴の軸移動慣性をもらう事になると思う」

 軸移動慣性?……物理、苦手なんだけどなあ。

「要するに、晴香は勢いに乗ってるから簡単に動けるし、亜紀の事は兄貴が突き飛ばすって事。あとは機械もあるから、大丈夫」

「ふうん……勢い、なんだ」


 なんか、あんまり話が続かない。

 お通夜みたいな雰囲気だった。

 遠くで、なにかが弾けたみたいな音がしていた。


「あのさ……雅之氏が言ってた、豊洲の防人って、何?」

 全然強そうに見えない雅之氏が、自信たっぷりに言ってた言葉。横田さんが地味に頷いてたけど、意味が判らなかった。

「お父さんの実家がある国の、防衛軍の人のこと」


 そっか。茜のお父さんって、あたしらの日本の人じゃないんだ。


「お父さんの実家って、どこにあんの?」

「ペルシル線の、田舎なんだけどね。小っちゃい自治領なんだけど、それの名前が豊洲っていうんだ」

「軍隊、あるんだ」

「うん。警備隊って呼んでるけどね。成人すると、男の人のほとんどは警備隊に一年以上務めるんだけど、そこで特殊部隊にいた人のことを防人って呼ぶんだよね」

 呼び方はものすごく古いけど、実はハードな話っぽい。

「特殊部隊って、そうは見えないよね」

 体は鍛えてるけど、インドア派な雰囲気なのに。

「普通の『防人』って、無害な人に見えるんだよね。そういう人を集めてるのか、そういう風に訓練するのか、知らないけど」

 雅之氏ってたぶん、もともとインドア系なんだと思うけどなあ。

「なんで、そんな事してたんだろね」

 十八くらいで監視局に入ったって言ってたけど。

 それで大人になってから軍人もやってるなんて、ヘンじゃないだろうか。

「……あたしのせいなんだよね」

「え?」


 質問するべきじゃなかった。そう、思いっきり後悔した。


 でも、茜は全然、気にしてないみたいだった。

「ほら、うち、親いないじゃん。兄貴一人であたしを育てようって頑張ったみたいだけど、やっぱり、難しくてさ」

 難しいって言うより、どうしていいか判らなくて困ったんじゃないだろうか。

 お父さんが亡くなった時、雅之氏はまだ、今のあたしらと大して変わらない年だったはずなんだし。

「本部に勤めてたから、託児所とかいろいろあったし、大丈夫だと思って頑張っちゃったみたい。でも二年くらいで限界になって、おばあちゃんがあたしを預かってくれたんだけど……せめて自分も近くにいたほうがいいって言って、監視局の仕事休んで、豊洲にいたんだって。いろいろ都合があったらしくて警備隊に入ってたけど、警備隊が休みの日は、いつも来てたな」

「お父さん代わりだったんだ」

「そのつもりだったんじゃないかなあ。三年くらいで、おじいちゃんと相談して監視局に戻ったけどさ……あたし、兄貴の重荷にしかなってないよ」


 元気の無い声で言った茜は、ビーコンだけを見ていた。


「そゆこと言ったら、がっかりされない?」

「そうかなあ?」

「茜のこと気にして頑張ったんでしょ?それなのに茜がそうやって悩んでたら、残念だと思うんじゃないかなあ」


 どう慰めていいのかわからないけど、少なくとも、茜が悩むことじゃ無いと思う。


「そうだろうけど、兄貴の人生、ずいぶん狂ったと思うし」

「それ、茜の責任じゃないじゃん?」

 雅之氏いろいろありがとう、って言うなら判るけど。自分のせいだ、なんて思って責任感じるところじゃないと思う。

「でもさ……あたしがいなかったら絶対、もうちょっと楽できたよね」

「それ言うなら、テロリストがいなかったら、もっと楽できたよ」


 全部、お父さんとか他の人とか巻き込んだ、悪い人のせいだし。


 そう言ったら、茜はこっちを向いた。

「そっかな」

「そーだと思う」

 難しいこと考えなくても、一番悪いのが誰かなんて、はっきりしてるんだし。

「……ありがと」

 茜は涙目になったのを隠すように、あっち向いてから、そうぽつっと言った。




 それからまた、話が途切れた。

 待ち時間が本当に長い。茜は握ってたハンカチの皺を無意味に伸ばしてて、あたしはビーコンを眺めてた。

 そんなにじっと見てなくて良いんだけど、目を離すのが怖い。

 でも、眺めてると目が疲れてくる。なんか目が乾いてるような気がしたから、目薬を取ろうと思って、あたしが視線をそらした瞬間にそれが起こった。


「あ、そろそろみたい」


 茜の声で慌ててビーコンを見ると、ビーコンにくっついたライトが、小さく点滅し始めていた。

 そのすぐ近くで、ドアが開きやすい状態になってるのが分かる。


 どうやって見分けよう。


 そんな事を考えていたら、すぐにおかしな状態になった。

 今までと、全然違う。なんか金色っぽい光がドアから射してくる。

「茜、出てくるよ!」

 自分の声が上ずってるのが分かった。

「敵、味方!?」

「わかんない、危ないようには見えないけど……味方!」

 ちらっとだけど、見慣れた姿が見えた気がした。

「亜紀、準備!」

「撃つな、私だ!」

 茜の声と、雅之氏の声が重なった。

 ドアから飛び出した勢いのまま、雅之氏がこっちに向かって走る。

 その後ろで、ドアの様子が変わった。

「なんか来る!」

「次のピボットは!?」

「もうちょっと……」


 まだ開ききってない。

 雅之氏の出てきたドアのほうは、次の影が見えていた。

 影が濃くなって来て、ロボットの形がはっきりしてくる。

 あたしと茜の二人に晴香を投げるように渡し、雅之氏が銃を抜いた。


「開くよ!」


 ぎりぎりで、あたしらの通るドアが開いた。


「茜、跳べ!」


 雅之氏の声を後ろで聞きながら、晴香を二人で抱えて、茜が『跳ん』だ。

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