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確率都市東京編:ある日ある朝突然に。  作者: 中崎実
第4章

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第四章【2】

 待機と言われても、何をしてたらいいんだろう。


 横田さんはああ言ったけど、次の日の夜になっても連絡は来なかった。

 とりあえず、いつでも出られるように服は着ておいたけど。

 後で聞いたら、この時はすでに銃撃戦になってたらしい。民間人が出て行ける状態じゃなかったから呼ばなかったんだと、後になってから横田さんが説明してくれた。


 結局、雅之氏が迎えに来たのは、あたしたちが待機を始めてから三日目の明け方4時だった。

 あたしらがそこに着いた時、その別荘の周りでは軍の人が銃を抱えて警戒してたけど、妙に静かだった。


 そして横田さんも雅之氏も、いつもの軍服じゃなくて、灰色の、戦闘服っぽいものを着てた。

 その上から防弾チョッキみたいなものとか付けてて、やっぱり二人とも別の世界の人なんだとすぐに判る、こっちっぽくない恰好。雅之氏は片方の目だけで見るモニターっぽいサングラスが付いたヘルメットを被ってたけど、横田さんは何も被ってなくて、なんだか浮いて見えた。


「晴香、無事なの?」

 茜がそう、雅之氏に聞いていた。

「おそらくは。ただ、無傷じゃあないだろうな」

「どういうことよ?」

 雅之氏は答えなかった。

 その代わりに、

「亜紀君、警戒は続けてくれ」

 そう、低い声で言っただけだった。


 そういえば、他の観測班の人が、誰も来ていなかった。


「他の人、どうしたんですか?」

「彼らは別の任務があるし、これは監視局強制捜査課の仕事だからね」

 だから、陸軍の観測やってる人たちを部下として使うことは出来ない。雅之氏はそう説明してくれた。

「あの人たちは?」

 銃構えてる人たちって、こっちの陸軍の人っぽいんですけど。

「本郷大佐が、内乱鎮圧の名目で出動させてくれたんだよ。だけど、大佐が動かせる数には限りがあるからね。観測班は数が少なすぎて、こちらに割くことは出来ないんだ」

「逃げられたり、しません?」

「それは出来ないように制圧したよ」

 雅之氏が指差した先には、焦げた小屋の残骸があった。

「パワープラントさえ破壊しておけば、大規模移動はできないからね」

 火薬の匂いと、生臭い匂いが混じって漂ってるけど、気のせいだって事にしておきたい。それ以上考えたら、ぜったい吐く。

「それで、これからどうすんの?」

 茜も顔色が悪かったけど、そう質問していた。

「強制捜査課員二名は人質救出、陸軍は内乱鎮圧だ。具体的に言うと、どっちも突入するんだけどね」

 なんかさらっと言ったけど。

「ちょっと、兄貴、突入って」

「文字通りだよ。陸軍と監視局で目的は違うが、やる事は同じだ」

「でも兄貴、観測官でしょ!?」

「捜査官資格も持っているし、問題は無いよ」

 顔色を変えた茜にそう言って、雅之氏はにこっと笑って見せた。

「それに、私も豊洲の防人だぞ。戦闘訓練は受けているから、大丈夫だ」

「でも突っ込んでくなんて無茶!」

「しり込みしてる場合じゃないだろう?」


 危険なのは判りきってるはずなのに、雅之氏の顔は穏やかだった。


「それに茜、お前達をここに呼んだのは、別に見世物のためじゃないんだ」

 そういえば、そうだった。

 危ないところを見せるためだけに呼ぶなんて、たぶん、横田さんも雅之氏も、絶対しない。

「何させる気?」

「二段構えで晴香君を『跳ばす』。亜紀君は移動検出、おまえは移動担当だ」


 跳ぶって、どういう事だろう。


 あたしが聞いたら、雅之氏は困った顔で頭を掻いた。

「聞いちゃ、まずかったですか?」

「いや、そんな事はないよ。茜がアクシスホッパーだという事は、聞いただろう?」

 どこでもドアを簡単に通れる人。それがアクシスホッパーって呼ばれる人だ、って言ってたっけ。


 それってもしかして。


「茜が晴香を連れて、『どこでもドア』を通って脱出する、ってことですか?」

「ご名答」

 あっさり言った雅之氏に、茜がしかめっ面をした。

「最初は、兄貴が晴香を連れて、ここまで跳ぶんだよね?」


 雅之氏も、同じ事できるんだ。


「そういう事」

「同じ線にジャンプアウトするの、危なくない?」

「晴香君が重石になるから、大丈夫だろう。茜、おまえも同じ事をしてもらうぞ」

「無茶言ってるし……」

「二人連れているんだ、他線に行くほうが難しいだろう」


 二人って?


「亜紀も付いてきてよ。ここに残ってると、危ないじゃん」

 あ、そういうことか。

「それで、出る先ってどこ?」

 たしかにそれは知っておきたいかも。

「相田家の敷地内に設定した」

 それならけっこう便利かも……って、あれ?

「そんなに都合のいいところに、ドアができるんですか?」

「無理やり作る」


 なんか、むちゃくちゃな答を聞いたような気がする。


「ただ、そういう無理な作り方をしたピボットは、かなり不安定になる。通れるのはほんの数秒だから、タイミングを間違えるなよ、茜」

「なんでそーいう無茶言うわけ?ていうか、あたしだけじゃ無理じゃんそれ。見えもしないのに合わせらんないよ」

「何のためのピボットファインダーだ?」


 それってつまり、数秒しか開いてないドアを見はってるのがあたしの役割、ってことで良いんでしょうか?


 念のために聞いてみたら、雅之氏はそうだよ、と言って軽く頷いた。

「晴香君を確保したら、私がつれて跳ぶ。ただし晴香君は普通人だから、私ほど簡単には跳べない体質だ」

 その分、ピボットの乱れも大きくなる。雅之氏はそう言って、

「だから、その乱れを見たら跳躍準備の合図をして欲しい。私がジャンプアウトしたら、茜が亜紀君、君と晴香君を連れて跳ぶ」

 リレー状態で運ぶんだ。

「相手が追っかけてきたり、しませんか?」

「だから二段構えなんだよ。敵が追ってきた場合、私が中継点で足止めをする」

 そうして足止めしてる間に、茜があたしらを連れて跳ぶ。

 茜が跳ぶタイミングが早すぎても駄目だし、遅すぎても通れない。

 あたしと茜、どっちが焦りすぎても、間違っても、うまくいかなくなる。


「予行演習無しのリレーだ。二人とも、頼んだよ」


 そう言って、雅之氏はあたしら二人の頭を軽くぽん、と叩いてから、小さく笑った。

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