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確率都市東京編:ある日ある朝突然に。  作者: 中崎実
第3章

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第三章【3】

 山間の田んぼというか畑といった感じのところで、護衛の人に一緒に来てもらわなきゃいけないような何かがあると言われたって、全然ぴんと来ない。

 危ないとかそういう事はぴんと来ないけど、なんか変な場所(雅之氏はそれがピボットなんだと言っていた)はそれなりにたくさんあって、地図の上にその位置を書き込むのが大変だった。

 出掛けにちょっと説明してもらったけど、それですぐに上手に作業できるってモノじゃないし、あたしは地図読むの苦手だし。

 一緒について来ている兵隊の人なら、知ってるんじゃないだろうか。そう思って、やり方を知らないかどうか聞いたら、二人とも判らないと言われてしまった。

「頭使う仕事は、わかんねぇんです」

「自分らは兵隊ですからねぇ、体動かすのが仕事なんですわ」


 ……そういうもんなんだろうか。


「考えるのは士官の仕事ですよ。それに、俺達そんなに、学が無いんで」

 うーん。

 そんなこんなで結局、変な場所の位置を教えるのがあたしで、地図の上に書き込んだりする作業が茜、という分担に落ち着いた。

 暇なのか、一緒に来ているうちの片方、山田さんと言う人が、距離を測るのを手伝ってくれたりしたけど。

 午前中の三時間くらいかけて、調べられた場所の数はたった十五個。本当はもうちょっとあったんだけど、地図に書き込めたのはそれだけだった。

 あんまり優秀じゃないよね、あたしらって。

「同感~」

 茜も、ちょっとうんざりしたような顔になっていた。

「なんかさあ、この調子だと、あと三日くらいかかりそうじゃない?」

「うん。晴香がいれば、手先も器用だから助かったんだけどな」

「そーだよね」

 はっきり言って、あたしと茜じゃあまりいい組み合わせじゃない。あたしは手先はまあ器用な方だけど、肝心の作業の事が良く分かってないし、作業を良く理解している茜はけっこう、細かいところで抜けてたりする。

 なんとゆーか茜のこれって……雅之氏と同じパターンじゃないのかなあ。血は争えないのかもしれない。


 でも、うんざりしてたのはあたしらだけで、中山さんと雅之氏は、なかなかの出来だと誉めてくれた。

「それで、ほんとに役に立ちます?」

「十分だよ。ところで午後の作業だが、作業開始前にまたちょっとした説明をするから。1時にはここに戻って来てくれ、いいね」

「はーい」

「それと君たちの昼食だが、女の子の分だけ別に用意してくれたそうだ。地元の人のご厚意だ。余分な事は喋らないようにして、ご馳走になってきたらいい」

「他の人、いいんですか?」

「他の連中はこれが仕事だよ。君たちは違う。それに、たまにはこういう特別扱いも悪くないだろう」

 たしかに、悪い気分はしない。

 それにご飯はかなり美味しかった。普通の煮物と味噌汁に漬物がついてるご飯で、煮物は化学調味料じゃなくて、本物のかつお節の味がしてた。

 ご飯のお礼を言って、戻ってきたらジャスト1時。

 ちょうど説明が始まったところで、あたしらはこっそりみんなの後ろに座ったけど、雅之氏はもちろん気がついていたみたいだった。

 ちょっとまずかったかもしれない。

 そんなことを思った時、背中のあたりがぞわぞわするような気分になった。

 なんか、危ないものが来てる。


「そこ!」


 まともな言葉なんか、出てこなかった。

 そっち向いて指差して、叫ぶのが精一杯。

 次の瞬間、何人かが行動を起こしたのが、なぜかスローモーションみたいに見えた。

 雅之氏が拳銃を抜きながら、矢島さんに撃てと叫ぶ。

 矢島さん達は持っていた長い銃を構え、説明を聞いていた人たちがさっと機材の方に走り出す。


 あたしと茜は、耳を押さえて、その場にとっさに小さくなっただけ。

 あとで雅之氏には思いっきり笑われたけど、とにかく動けなかった。


 銃声がいくつか響き、矢島さんが誰かにあたしらを動かすように命令しているのが聞こえた。

 誰だか判らない手に引きずられて、物陰に移動する。

 どのくらいそうしていたのか判らなかったけど、気がついたら、銃声は止んでいた。


 ……誰か怪我したんでなければいいけど。


 そう思いながらこわごわ覗いたら、とりあえずほとんどの人は無事みたいだった。

 無事じゃなかったのは……また、雅之氏。機材を入れてきた木箱の横に倒れてた。




「お兄ちゃん!」

 茜が悲鳴みたいに叫んで駆け寄るのと、中山さんが誰かを呼ぶのはほとんど同時だった。

 でも、あたしは次のそれに気を取られていた。

「また出た!」

 ゆがんだ空間の向こうに、なんか変なもの。上手くいえないけど、危ないそれを見ながら叫ぶ。

「木村君、退がって!」

 あたしを乱暴に押しのけた佐藤さんが、何か黒いものをあたしの指さした先に投げ込む。

 ぽん、と音がしたような気もするし、何も聞こえなかったかもしれない。ゆがんだ『窓』はひしゃげて、変なものと一緒に消えた。

「他に無いか」

「ええと、あ、あそこ」

 佐藤さんが投げようとした方向が、ちょっと違う。袖を引っ張って、違うと言ってる間に、三番目のそれは消えた。

「木崎曹長、変動は観測できるか!」

「は、今しばらく時間がかかります、少尉殿!」

「くそっ」

「佐藤さん、あっち。ちがう、もうちょっと上です」

「見えないと言うのは不便だな」

 佐藤さんはそういいながら、その黒いものを野球のボールみたいに投げるんじゃなくて、肩から腕を突き出すように投げていた。

 いつ、どこから、あの変なのが出てくるかわからない。もしかしたら、あたしのすぐ後ろかもしれない。

「あとはもう無いか?」

 佐藤さんがそう聞くまでに、たぶん五個か六個の窓を消したと思う。

「……多分」

 断言するのは、すごく難しかった。

 ここで本当に『無い』って言っちゃって、でもすぐにあれが出てきたりしたらどうしよう。あたしが無いって言ってみんな気を緩めたとたんに、また誰かが撃たれるかもしれない。

 佐藤さんはあたしを見て困ったように首をかしげていたけど、あたしにはなんにも言わないで

「木崎曹長」

 そう、木崎さんに声をかけた。

「佐藤少尉殿、変動は収束傾向にあります」

「判った。引き続き警戒に当たれ」

「は」

「木村君、ご苦労様。これでしばらく、あいつらは出てこないと思っていい」

「……ほんとですか?」

「出てきても、こちらで対処できる」

 あたしにうなずいて見せた佐藤さんの目が、少し横に流れた。

 あ。雅之氏。

「茜、どう?」

 慌てて駆け寄った時もまだ、雅之氏は目を閉じたままだった。

 仰向けに寝かされて、軍服の襟が緩めてある。茜は雅之氏の頭の方に女の子座りしたまま、白い布で雅之氏の頭を押さえていた。

「血、とまんないよ」

「……撃たれた、の?」

 一瞬、最悪の結果を考えたんだけど、息はしてるし、顔色も悪くない。生きてる。

「かすっただけだって、療兵の人が言ってたけど」

 茜が鼻を啜ってから、片手で目元をゴシゴシこすった。

 こすった方の手も、雅之氏の血で汚れてた。

「茜、汚れるよ」

「べつにいいよ……」

「代わるから、洗ってきなよ」

「いい、ここにいる」

「……茜、落ち着け」

 すごく小さい声だったけど、そう言ったのは雅之氏だった。

「え、お兄ちゃん?」

「……おまえ、テンパってる時は『お兄ちゃん』なんだなあ」

「起きてたんなら脅かさないでよ!」

 茜の声が裏返ってたけど、あたしはそれを笑う気分にはなれなかった。

「怒鳴るな、頭に響くんだ」

「だって!」

「失礼します、中尉殿」

 茜が怒ろうとした時に、治療係っぽい人が割って入ってくれた。

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