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確率都市東京編:ある日ある朝突然に。  作者: 中崎実
第3章

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第三章【1】

 それから二日間は、特にどうって事も無く過ぎた。


 あたしたちは相田さんちに泊めてもらって、朝出かけて、相田さんとかの手伝いして、夕方帰って来て、っていう生活。時々顔を出す雅之氏は助手の人がお休みを取っちゃったそうで、なんか二日連続で徹夜して、三日目には仮眠室にも行かずに、廊下においてあるベンチでぐーぐー寝てた。

「……兄貴、せめてどっかの部屋で寝てよ。ホームレスじゃないんだから」

 茜が揺さぶっても、ぜんぜん起きない。

「ちょっと、兄貴ってば!……まったくもー」

「ああ、そうなったらあと一時間は起きませんよ」

 ひょいと部屋の中から顔を出した男の人が、そう教えてくれた。

「すみません、ご迷惑おかけします……」


 茜、顔真っ赤。

 たしかにこれ、あたしだったら他人のフリしたくなる状況だよね。


 でも、その人は全然気にしていないみたいだった。

「気にしなくて良いですよ。中尉の妹さんでしたっけ」

「はい」

「忙しいときはいつもそんな感じです、我々も慣れてますからご心配なく。おうちではきちんとなさっておいででしょうから、驚かれたかもしれませんが」

「はい……行儀の悪い兄で、すみません」

 そういえばこの人、前会ったときも変な寝方してなかったっけ。

 良く覚えてないけど。

 結局、茜は何とか雅之氏をたたき起こして、完全に寝ぼけている雅之氏を仮眠室に押し込んだ。


 ……それにしてもこの人、なんにも無いときはどーしてここまでカッコ悪いんだろ。


 だからその次の日、いきなり呼び出されて顔を合わせたときは、すごいギャップを感じた。

 呼び出された先は会議室みたいなところ。呼ばれたのはあたしと茜の二人だけで、呼んだのは雅之氏だったけど、実際には雅之氏のほかにあの気難しそうな神田さんと、横田さんがその部屋にいた。

「本題に入る前に、一つ断っておく」

 そうてきぱき話す雅之氏は、茜に起こされて寝ぼけてた人と同一人物とは思えなかった。

 雅之氏もきりっとした顔してれば、それなりに見られるんだよね。やっぱり茜のお兄さんだから、並以下の顔ってことはないはずだし。

「今から君たちにたずねる事は、強制ではない。君たちは我々の申し出に対して完全な拒否権を持っている。君たちはこの拒否権の行使に対しなんら代償を負う事はなく、我々時空監視局およびその合同作戦実行団体としての大日本統合軍は、君たちの拒絶を理由に君たちの市民としてのいかなる権利をも制限する事は出来ない」


 うんうん、難しそうなこと言ってるのもけっこう似合うかも。


「選択は君たちの意志と責任で行われるものである、と当局は解釈し、選択が行われた時点で君たちはこの解釈に同意したものとみなされる。

 と、法的な宣言はここまでで良いな。亜紀君、聞いてるか?」


 ……え?あたしにも言ってたんですか?


 つい言うと、雅之氏が少し苦笑した。

「亜紀君にも関係のあることだよ」

「はい……えっと、難しくてよく判りません」

「ああ、文章が難しいのはお役所的建前って奴だからしょうがない。これを聞かせてからじゃないと、本題に入れないんだ」


 なんですか、それ。めんどくさくありません?


 雅之氏の苦笑が、少し大きくなった。

「まあたしかに、面倒くさいな。しかし私も監視局員だからね、踏まないと拙い手続きもあるんだ」

「え~っと、つまり浮世の義理ってことですか?」

 なんでそこで、茜と神田さんまで笑うかな。横田さんは相変らずだけど。

「ちょっとフォローしてくれてもいいじゃん、茜」

「あーごめんー、でもやっぱり亜紀らしいよね」

「なにそれ、すっごい馬鹿にされたっぽい」

「してない、してない。それより兄貴、それどういう意味?」

 茜が雅之氏に質問すると、雅之氏は笑顔をひっこめた。

 はっきり言って悪いけど、雅之氏って笑わないほうがまともな人に見える。笑ってるとなんか気が抜けてて、軍服がぜんぜん似合わない。

「どう、というと?」

「なんでそんなこと言うのって事。今のって、市民に協力要請するときの決まり文句でしょ?」

「そりゃあ、協力要請するからに決まってるじゃないか」

「うわ、やな予感」

「聞かないことにするか?」

 保護者としてはそうして貰ってもいいんだけどな、と雅之氏はのんびりした事を言い、横田さんにじろっと睨まれていた。

 雅之氏は咳払いを一つして、真面目モードに戻る。

「実は現在、ピボット特定作業に遅れが生じている。これに協力を要請したい」

 いったん言葉を切って、雅之氏があたしと茜を交互に見た。

「ピボットって、なんですか?」

 なんか、理解しないとまずそうな単語だから、聞いてみた。

「そうだな、極めて不正確な言い方だが、よその平行宇宙とこの世界の間を行き来しやすくなる、そういう特殊な場所だよ」

 つまり、平行宇宙をつなぐどこでもドア。そう考えればいいんだろうか。

「まあ、そんなところだね。ドアがあるだけなら問題ないのだけど、どうも最近、そのどこでもドアを通ってこっちに武力進攻しようとしてる奴がいてねえ」


 あの、それって、非常にまずいんじゃないでしょ~か?


「もちろん、まずい」

 すごく不機嫌そうに答えたのは、横田さんだった。

「そこで亜紀君、君にドア探しを手伝って欲しい」

「でも、あたし、そういうことは何にも知らないんですけど」

「君はピボットファインダーだろう」

「なんですか、それ?」

「横田さん、彼女の記憶は操作済みです」

 横田さんが何か言う前に、雅之氏が言った。

「本人は覚えていませんよ。非常に役に立ったのは事実なんですが」

「……ああ、そうだったな」


 本人抜きで話をしないで欲しいんですけど。


 そう言ったら、雅之氏が説明してくれた。

「ごく希にだが、さっき言ったピボット、つまりドアの存在を感じ取る事の出来る人間がいるんだ。亜紀君、君もその一人だ」

「えっと、信じられないんですけど、ほんとですか?」

「覚えていないだけだよ。まあ、亜紀君自身が理解していたとも思えないけどね」

「どういうことですか、それ」

「ピボットからの敵出現を事前に察知して、悲鳴を上げてくれたんだよ。ピボットファインダーでなければ出来ない芸当だったし、いい警報機だったな」

「……もしかして、この間の?」

 夢だと思ってたあれ。

 横田さんと雅之氏は、ほとんど同時に肯いた。

「あの、一つ聞いていい?」

 茜が手を上げて、質問する。それに

「いいぞ、なんだ」

 そう、横田さんがぶっきらぼうに返していた。

「亜紀はピボットファインダーだから判るとして、あたしの役回りってなんですか?」

「もちろん、緊急脱出装置だよ」

 あっさり答えたのは、雅之氏だった。

「あー、やっぱりそうなるのか……」

 なんでか知らないけど、茜は溜息をついていた。

「それほど危険も無いと思うけれど、民間人の女の子に協力依頼するわけだからね。茜なら、亜紀君一人を連れて跳ぶ事も出来るだろう?」


 跳ぶって?


 茜をちらっと見ると、茜もあたしをちらっと見て、軽く首をすくめてみせた。

「つまり、いざとなったら、亜紀連れてさっさと逃げろってことだよね?」

 あたしには説明しないで、茜はそのまま話を続ける。

「その通り」

「補助ないと、難しいと思う」

「つまり受諾ってことで、いいな?」

「いいよ。いざって時に逃げるだけで良いんでしょ。それだけなら、やる」

「遅れず逃げろよ。……新型だ。使い方は判るな?」

 横田さんと神田さんが何か言いたそうな顔をしているけど、雅之氏は机の上に小さな機械を出して、茜の方に滑らせる。

「それと、旧型は回収するから」

「ん、判った。はい、コレ」

 茜は腰につけてた携帯入れを開けて、何か取り出すと、それを雅之氏に渡した。

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