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7人7色  作者: 蓮千里
7/7

担当:智菜&智香2

ファイル・0 キャラ雑談




「――――いや、だから何で続けるこのコーナー」


うんざりと蛍が言う。


だが、応えるものは誰もいない。


幸はシャボン玉を無意味に飛ばしているし、


星花はそれをまともに食らってわめいているし、


杏と智菜&智香はお茶を満喫していた。


「たくっ……コイツはまだ寝てやがるし」


八つ当たり気味に、グースカ寝ている理奈を睨み見る。


「……キャラ雑談って何だ?俺しか喋ってねーのに」




「べっつにいいんじゃない?私たちのせいじゃない」


「って、いきなり何起きてやがんだ?!理奈!」


心臓に手を当てて驚く蛍。


そんなに驚くことだったのだろうか……




「あ、お早うございます理奈さん」


「理奈さま、今お茶をたてますゆえ」


「お茶菓子をつまみながら、しばしお待ち願うでございます」


「理奈、よく眠ってましたね」


「セーカ君を助けてほしいっす〜」


理奈が起きた途端、騒がしくなる住人を蛍は複雑な気持ちで見ていた。






「”起動”」


「でございます」


どさくさに紛れて双子が小さく口開く。






ここは、赤い夢。


どんな人間でも持っている世界。


そこに彼女達はいた。


そこで待機していた。


自分達を呼ぶ、人間の助けの声を。


7人で話しながら、助けの声を待っていた。


迷える子羊達の声を。


助けの声を彼女達は、迷える子羊の声と言っていた。


7人は能力を生かして、迷える子羊を己のやり方で解放していくのが役目。


姿を見せることも、隠すことも、その者の勝手。


どう助けるかは、7人とも違う。




さあ、7人7色始まりです。










遊びたい、話したい……


私が思うなら、きっとあの子も同じ気もちだよね?






ファイル6 担当・智菜&智香【下】〜双子に幸あれ〜




「う、う”ぅ”……」


苦しみながらもウォライは立ち上がろうとする。


その姿を見ながら、改めて智菜と炎龍の相性の良さを実感する智菜。






本来、『炎』が『水』に勝てるはずがない。


だが炎龍と智菜は確実にウォライを苦しめた。


原因は、ウォライの身体の造りだ。


ウォライは『水』の精霊だが、身体は氷で生きている。


炎をぶつければ蒸発させるのは簡単だ。


それと『強い心』。


心から、『水に勝ちたい』と強く願いながら攻撃することは大切だ。






「智菜、流石は天性の炎使いでございます……」


ふっと笑みがこぼれる智香。


どこか懐かしさを感じているような眼差しだ。


「では、こちらも反撃するでございます……滝柱!」


地面から無数の水が一直線に溢れ出す。


まるでテーマパークのアドベンチャーように、次々と溢れ出す水柱。


ウォライは必死に水に近づこうとするが、まるで避けるように遠ざかる。


水しぶきの一滴すら、落ちてこない。




「―――――あ、あんた……」


「悪いことした精霊には優しくしないでございます」


絞りだすような声のウォライ。


厳しい眼差しの智香。


2人の間を冷たい風が駆け抜けた。






****


「――――幸の姐御、いっちゃいけないっすか?」


「駄目です」


星花の台詞が終わると同時に、幸は言った。


「星花、俺も反対だぜ?ちなみに杏もそうらしい」


蛍の言葉に無言で首を縦に振る杏。


「行きたいのはやまやまですが、最終決断を下すのは幸さんではないですし」


「俺でもない。他ならぬ、理奈だからな」


皆、それぞれの台詞をはくと無言で理奈の部屋を見る。


さきほどから、何の音もしない。


「ま、寝てはないだろうな」


「呼んできてくださいますか?蛍」


幸の微笑みは、『NO』と言ったらしばかれる微笑だった。




****


「……はっ言うじゃないか……でもそっちが攻撃しない限り、ファライは生き続けるんだ……」


ウォライは半分なくなった顔で話し出す。


『ざまーみやがれ』とでもいう風に。


「そんなこと、わかっているでございます。


ですが、わたくしが攻撃してしまえば、貴女さまは復活。


どちらにしても、こちらが不利です」


意外と落ち着いた声音の智香に、再度恐怖が全身を駆け巡るウォライ。


智香の目は、何かを待っている目だ。


「何を―――」


「敵にこちらの作戦を教える方がどこにいるのでございましょう」


にっこり笑う智香の背後から、覚えのある精力が感じ取れた。


「ファライ?!」


「おまたせでございます!!」


ウォライの声をかき消した、元気な声は勿論、智菜。


彼女は炎龍と共に現れた。


ファライを炎の鎖で縛り付けたまま。


「―――遅れたでございますか?」


「大丈夫でございます」


手のひらを互いに叩き、ウォライを見る2人。


「ウォライは、後一撃といったところでございますか」


「ですがわたくしがウォライに攻撃しない限りは、倒せないでございます」


智菜が問い、智香が答える。


会話の内容のわりには、2人の顔に焦りの文字はない。


全て計算どおりといったところか。


「それでは、始めるでございます」


「心に迷いを失くして、信じることが大切でございます」


智菜と智香が同時に空へと舞い上がる。


「炎弾の舞」


「氷の大雨」


智菜と智香が同時に技を繰り出した。


ターゲットは勿論、ファライとウォライ。






****


コンコン


軽くノックをする蛍。


幸に脅迫されて、理奈を呼びに来た蛍。


聞こえるはずの理奈の返事が聞こえない。


「まさか寝たのか?理奈の奴」


ブツクサ言いながら、蛍は理奈の部屋を開けて中にズカズカと入った。


「おい、理奈。なんで電気つけてな―――!?理奈?おい理奈??」


蛍の怒鳴り声は、虚しく部屋に響いた。


理奈の部屋には誰もいない。


「幸、幸っ!!理奈が!」


「蛍、落ち着いてください。理奈の居場所はわかっています……」




ドダダダダと階段を駆け下りる蛍が向かった場所は、当然ながら幸の居場所。


珍しく何度も転びそうになりながら、蛍は幸の所に辿り着いた。


息を弾ませながら、飛び込んできた蛍。


対して幸は、とてつもなく落ち着いている。


「――――あ、あの馬鹿は、どこだよ?!幸っ!」


「?!蛍の兄貴、落ち着いてくださいっすっ!」


蛍が取り乱したのを初めてみた杏、そして星花の2人かがりでとめに入った。


だが、蛍の力は2人が予想していた以上に強い。


一瞬でも気を緩めれば、幸を叩きのめすだろう。


理由は分からないが………




「よく聞いて下さい、蛍。そして、星花と杏も」


蛍の豹変に動じず、マイペースで話す幸。


だが、この時の杏たちが聞こえていたかはわからない。


それでも幸は話す、淡々と。






「理奈は、自ら作った決まりを、破りました。


今、理奈は智菜たちのほうにいるんです……


『どんなことがあっても、担当ファイル以外に介入しない』という決まりを破って」






****


「炎弾の舞」、「氷の大雨」がウォライを襲う。


が、ふたつの技が当たる瞬間信じられないことが起きた。






「――――1対2とはなかなか卑怯な真似をするじゃない?」


捕らえていたはずのファライが、ウォライの前に立ち、


「氷の大雨」をかわしてウォライに当てる。


最も、まだ美奈の格好をしていたが……


「炎弾の舞」は素手で見事に受け止めていた。


「よく炎龍から逃れることができたでございます……」


「大変な精力を使ってしまったのではないでございますか?」


智菜と智香が交互にファライに尋ねる姿は、本当に幼女だ。




「炎龍の使い手、智菜。


あんた言ってたね、『炎龍が私と戦いたい』って言ってるって」


美奈の姿のファライが確認する。


「………そうでございますが?」


智菜の返答直後、美奈の中からファライが飛び出した。


その顔は笑っている。


「炎龍!」


落下してきた美奈を炎龍が背でキャッチした。


智菜の呼びかけがなくとも、炎龍は助けに行ったと思うが。


「じゃ、望みどおりに始めるよ!ウォライも完全蘇生したことだし?」


言葉どおり、見事に傷跡は修復されていた。


智香の放った『氷の大雨』が原因だ。


下唇をかむ智香。


だが、起きてしまったことは仕方がない。


智菜と智香は背中合わせにファライたちに向き合う。


「やるしか、ないでございます」


「上手くいくかは、わたくしたちの心次第でございます」


智菜と智香が弾かれるように、精霊たちに向かっていく。










「おーおー……やってるやってる」


お気楽モードで理奈がはく。


理奈の現在地は、篠塚家から少し離れた樹の上。


右手でしっかりと愛刀・冴凪を握っている。


「智菜、智香……あんたたちを信用してないわけじゃないけど来ちゃったよ。


もしもの時に備えて、ね」


理奈の表情に影が出来る。


いつもの勝気な顔つきではない。




「思う存分、戦い抜きなさい。智菜そして智香」


帽子を目深に被りなおし、理奈は傍観に入った。






****


空が異様な光を放った。


たった一瞬のことなのに、目をきちんと開けれない智菜と智香。


目を開けられないのは、炎龍と青龍も同じらしい。


見えなくとも、2匹の状態はわかる。


伊達に古くからの友達ではない。


『智菜、大丈夫でございますか?』


『智香こそ大丈夫でございますか?』


心で呼びかけ合いながら通じる2人。


目が見えないため、ギリギリのところでファライたちの攻撃を回避する。


一時の休みもなく。


息つく暇さえ与えないファライたちは、完全に遊んでいた。


「目が見えない奴を、一撃で殺してもつまらないからね」


「でも、見えるようになったときは……あんたたちの最後だよ」


ファライもウォライも、剣を手にしていた。


どちらとも、よく光っている。


だが、そんなことは分からない智菜と智香。


ひたすら避けて飛んで、避けて飛んでの繰り返し。


反撃したいのはやまやまだが、下手に撃つと被害が大きくなる可能性がある。


美奈と奈美の安全は確保したものの、他の人間に、森に迷惑はかけられない。


「一か八か……やってみるのもいいかもしれないでございます」


智菜が智香の心に話しかける。


未だに目は見えないが、ファライたちに負けたくないという闘争心を失くしていない。


失くしてしまえば、自分たちの『負け』だから。


「運を天に任せてみてもいいかもしれないでございますね」


智香が言葉を返す。


正直、幼い2人の集中力も体力も限界に近かった。


いい加減、反撃しないと危ない状態なのは確かである。


「では、わたくしがファライたちの相手を―――」


「わたくしは、奈美さまたちを」


智香と智菜が二手に分かれた。


まるで見えているかのように、手を叩いて。


「一体、なんのつもり―――」


「炎龍!激炎覇!!」


紅の炎がファライとウォライの前に立ちふさがる。


智香を追おうとしたウォライが反射的に後ろに下がった。




「行かせないでございます!智香の方には決して!!」


2人の前に躍り出た智菜は、勇ましく台詞をはいた。


休まず、自らの両手から小さな炎を連続で投げつけていく。


「目が見えないといって、これ以上回避を続けても百戦錬磨でございます。


だったら、わたくしたちも攻撃にまわるのでございます!」


言いながらも智菜の手は休まない。


加勢するように、炎龍もそれに続いて炎をはいていく。










「頑張るのでございます、智菜そして炎龍……わたくしもすぐに行くのでございます」


言いながら、2つの鱗をとりだした。


炎の鱗には美奈が、水の鱗には奈美が眠っている。


「―――本来なら、智菜と一緒にやるべきことですが、


今はそんなことを言ってられないでございます……」


両手を組み、智香が口を開いた時だった。


目に、誰かの手が当てられたのは。


「―――おし、これでいいでしょ」


数秒間当てられた手が声と共に離れると、周りの景色が目に入ってきた。


ただ気になるのは、今の声だ。


明らかにあの声は――――


「り、理奈さま?」


驚きでポカンとしている智香に、冴凪がコツンと当てられる。


正真証明の理奈が立っていた。


笑いながら、目の前に立っていたのだ。


智香も赤い夢の住人のひとり。


決まりを知らないわけじゃない。


「何故、ここに―――」


聞こうとしたその時、


「智香、やるでございます!」


智菜が猛スピードで智香の元に舞い降りる。


同時に理奈はファライたちの元に飛んで行った。










「あんた、誰?」


「見たことない。弱いのはわかるけど」


ファライとウォライが理奈を怪訝そうに見る。


いきなり挑発的な発言をするのは、理奈が精霊をまとっていないからだ。


理奈が持っているのは、冴凪だけ。


精霊には物理的攻撃は全く通用しないのだ。


「めざわり」


「逝きな」


ファライとウォライの同時攻撃が理奈に向かってきた、その時。


理奈の長剣、冴凪が空を切った。真横に。


「――真横の、バズーカ砲―――――!!」


引き裂いた空気が、すんでのところでとまり、


ファライたちの攻撃を全て吸収する。


「んでもって……連続バズーカ……ホームラン!」


冴凪を大きくふっていくと、触れた部分がボールの形になり、


ファライたちの方に帰っていく。


直径2mはあるボールを見事に当て返す理奈に、ファライたちも気を引き締めた。


「名前は?」


「言う必要は、ない」


ウォライの問いに、冷たく答える理奈。


すばやく精霊たちの頭上に移動した。


「我が友、冴凪よ。お前の力、今ここで解放すべし……『神経一時破壊!』」


精霊の頭上から一直線に冴凪を下していく。


2人の精霊を同時に裁く為、理奈は冴凪の中心を握っていた。


ファライとウォライの真ん中に、理奈が割り込んだ形になる。


「――――しばらくは、あんたら動けないよ、絶対に」


ファライもウォライも睨みつけることすら出来ない状態だった。


『智菜、智香……早く、してね』


静かに、理奈の背中を汗がつたった。






****


「理奈はんが、決まりを破った……?」


目を見開き、白装束と同じような顔色になる星花。


血が下がっていくのが自分でもよくわかった。


杏は何も言わずに、幸の顔を凝視する。


幸はそれに応えることはしなかったが。


きまづい沈黙が流れ出す。




赤い夢を作ったのは理奈。


自分たちを誘ってきたのも理奈。


だから、当然、決まりを作ったのも理奈なのだ。


その本人が、破った。


いや、裏切ったに近い。


言い過ぎかもしれないが、彼女たちにとってはそれくらいの重罪に値する。




「……あんの馬鹿」


ぶつけようのない怒りが蛍の身体を駆け巡る。


「蛍、怒っても仕方ありません」


「確かに起こっちまったのはしゃーねーだろうが……


アイツはやっちゃ池ねーことをやったんだぜ?!」


幸がなだめるが、蛍の怒りは爆発するばかり。


そんなとき、杏が口を開いた。


「――――――でも、わかる気がします。


理奈さんは、智菜さんと智香さんを実妹だと思っていると思うから……」


「そーいや理奈はんって、生きてた時……」


「……ええ、理奈には双子の妹がいたんです」


星花の言葉を幸が継ぐ。


その顔は、とても悲しい顔だった。






「―――でも、智菜たちは双子じゃ、ねーだろが」


今なら、どんな音でも聞き逃さない静けさが、蛍たちを支配する。






****


『ここは、どこだろう』


私、篠塚美奈は、とんでもなく奇妙な場所に来ていた。


あたり一面が真っ赤な世界に。


「明らかに地球じゃないわね」


赤い着物で動き回る美奈。


どこにも出口というものがない。




「この世界に出入り口なんて必要ないですから、当然でございます」




いつの間にか、美奈の背後に幼女が立っていた。


深紅の着物を身にまとった幼女が。


「時間がないので単刀直入に聞くでございます……


篠塚美奈さま、貴女さまは実妹の奈美さまにお会いしたいと思うでございますか?


会ってしまえば、代々継がれてきた精霊の力はなくなってしまうでございますが」


美奈は、幼い智菜を凝視して一言だけ言った。歌うように。




「遊びたい、話したい……ひとりで遊ぶのは、もう飽き飽き」




美奈の顔に偽りはない。


それが読み取れたから、にっこりと微笑んだ。


「智香、OKでございます」


智菜がぽつりとこぼした声で現れたのは、智菜そっくりの幼女。


「あ、貴女たちも双子?」


「見てのとおりでございます、美奈さま。


それはさておき、貴女さまにお会いしたいという方がいるのでございます」


智菜と智香が左右に移動すると、そこには自分がいた。


一度は鏡かと思ったが、明らかに着物の色が違う。


それに、鏡は喋らない。




「遊びたい、話したい……


こう思うのは、自分がもうひとりいると知っているから―――」




やはり歌うように喋る自分。


自分であって自分ではない少女。


「奈、美?」


美奈は問うが、肯定の返事はない。


この無言は『肯定』の返事に値するのがわかってるから。


ふと、美奈は微笑みながら歌いだす。




「遊びたい、話したい……ひとりで遊ぶのは、もう飽き飽き」




「遊びたい、話したい……こう思うのは、自分がもうひとりいると知っているから―――」




美奈は黙り、続いて奈美が声に出す。




「「遊びたい、話したい……私が思うなら、きっとあの子も同じ気もちだよね?」」


2人のハミングは、とても暖かいものだった。






****


息がきちんとできないという行為は、大変きついことだと理奈は改めて実感していた。


もう、冴凪を持っているのも億劫だ。


いっそのこと手を離してしまいたい。


「………っ」


漏れそうになる声をなんとか押し戻す理奈。


あと、幾度繰り返せばいいのだろう。


そんなことがよぎった時だった。


自分の手が冴凪から離れたのは。


「―――しまっ……!」


落下を止める力も残っていない理奈は、急降下するしかなかった。


それをみすみす逃がす精霊たちではない。


「よくもまあ、余計なこと、してくれたね」


「……逝け」


ファライもウォライも冴凪から離脱し、すでに攻撃態勢に入っていた。


肩で息をしているというのに。


精霊たちが、剣を同時に振り下ろすとどす黒い光が放たれる。


標的は勿論、理奈だ。


「よ、避けきれるわけないっしょ………」


と目をつぶった時だった。












「『―――100年に一度、酉が鳴く満月の夜に産まれし子供は光の双子……


光の双子は、すぐに引き離すべし。それが2人のためである。


光の双子は決して会う事は許されぬ。


しかし、どうしても会いたいならば、会えば良い。ただし光は永久にもてなくなるが……』」


歌声を聴いたとき、理奈は笑った。


「……ギリギリ、だね……」


そういい残して、消える理奈。


彼女の役目は、ここまでだ。




「助かりました、理奈さま」


「帰ったら、お茶をご一緒しましょう」


智菜と智香、そして炎龍と青龍がファライたちの光を弾き返す。


「――もう、フィナーレといたしましょう」


智菜の台詞に笑い出すファライ。


「ついに負けを認めるか」


この言葉に対して、智菜は首を横に振る。


「負けは、貴女さまたちでございます」


「何だと?」


眉間にしわを寄せ、問い返すウォライ。


「……伝承の1節にあるでございましょう?


「『どうしても会いたいならば、会えば良い。ただし光は永久にもてなくなるが……』」と。


美奈さまと奈美さまは、光……すなわち『精霊の力』より、互いを取ったのでございます。


あの方たちにとって必要なのは『支え』でございますから」


智香の言葉が信じられないらしい。


ファライもウォライも目を大きく見開くばかりで、動かない。


智菜と智香が、ファライたちに近づく。


勿論、炎龍たちと共に。




「―――わたくしは忠告したでございます……


『本気で攻撃しなくては、貴女さまは永遠に消滅する』と」


「もう、貴女方はこの地に降りられないでございます……わたくしたちが、消し去るから」


『消し去る』という言葉に反応したのか、精霊たちは笑い出す。


「炎と炎、水と水じゃあ百戦錬磨じゃない?」


「それに、いくらなんでも、その力尽きた顔色じゃあ……あと一撃くらいの力しかないはずね」


精霊たちの言葉は正しい。


そう、智菜たちの力は本当に後一撃する力しか残ってはいないのだ。






「「わたくしたちは、勝算がない戦いは避けるでございます」」






智菜たちの言葉に眉をあげる精霊たち。


それにかまわず、力の限り最後の一撃を放つ智菜と智香。




「爆炎覇!!」


「極凍覇!!」




精霊たちは目をむいた。


それしかできなかった。


自分に迫ってきたのは、対の攻撃だったから。


「い、いつの間に……」


「入れ替わって……?!」


ファライの目の前にいるのは、確かに深紅の着物を着ていて、


ウォライの前には藍色の着物を着ているのに……








「わたくしたちは」


「双子であって双子ではありませんので」


目の前に残ったのは煙だけ。


智菜も智香も、力尽きて眠ってしまう。


落下しながら、2人は消えた。


夕日をバックにして。








「消えちゃいましたね、美奈」


「ええ」


美奈と奈美は最後まで智菜たちを見ていた。


互いに手を取り合って。


「塚原家は、二度と『光』を持つことはないわね」


美奈の言葉に頷く奈美。


2人は夕日を見ながら言った。




「「何して遊ぶ?」」




他愛無い笑顔。


その笑顔の秘訣は、智菜と智香の存在が残されているに違いない。






****


「い”で――――――!!」


突然の雄たけびに、驚いてベッドから見事に落ちた智菜と智香。


「……い、今の声は……」


「理奈さまでございます!」


2人は着替えず寝巻きのまま飛び出した。


雑談する、フロアーへと。


「「どうしたのでございますか?!」」


見事な二重奏に、笑うメンバー。


まあ、理奈は苦笑していたが。


「いわんこっちゃねえ……あいつら起こしちまったじゃねーくゎっ」


ギシギシと理奈の腕を押しているのは蛍。


理奈は涙を浮かべて動かせる体の一部をバタつかせる。


「な、何を……?」


「しているのでございますか?」


さっぱり空気が読めない智菜たちに、星花と杏が耳打ちしてくれる。


「理奈はん、無茶な技出したっすから。その治療っすよ」


「治療というより、怒りをぶちまけているだけに見えますけどね」


口調は真剣だが、星花も杏も目尻が笑っている。


楽しんでいる証拠だ。


「――――あれが、蛍流の心遣いですね。


蛍はかなり心配していましたから、無事に帰ってきた喜びがあんな風に出てしまうのですよ」


幸が言うと何故か『ああそうなんだ』と思えてしまうのは何故だろう。






「そ、それより、あのっ」


「智菜、安心なさい。理奈の罰はなしですから」


智菜の言いたいことを先に読み取り、返答する幸。


「本当でございますかっ?!」


智香が身を乗り出すように確認する。


幸が優しく微笑むと智菜も智香抱き付き合う。




「あまい気もするっすけど」


「理奈さんがいなくなってしまうと私たち困りますもんね」


星花も杏も笑いながら台詞をはいた。


「さあ、打ち上げをいたしましょう。


あの2人は放っておけば、そのうち来ますから」


幸の言葉に星花と杏が笑いながらついていく。






「お疲れさまでございました、智香」


「智菜もお疲れさまでございました」


智菜と智香は静かに言葉を交わす。


「「これからもヨロシクお願いいたしますね」」


最後の最後まで、再度二重奏で笑いあう2人。


それを見守ったのは、理奈と蛍だけだった。




                                         FIN

更新が遅い上に、描写が無い物語でしたが、

最後までお付き合いくださった方々に感謝をします。


彼女達の過去にも触れてみたいと思うのは私だけですかね;



では、またお会いできるのを祈りつつ……


                      Rue

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