担当:智菜&智香2
ファイル・0 キャラ雑談
「――――いや、だから何で続けるこのコーナー」
うんざりと蛍が言う。
だが、応えるものは誰もいない。
幸はシャボン玉を無意味に飛ばしているし、
星花はそれをまともに食らってわめいているし、
杏と智菜&智香はお茶を満喫していた。
「たくっ……コイツはまだ寝てやがるし」
八つ当たり気味に、グースカ寝ている理奈を睨み見る。
「……キャラ雑談って何だ?俺しか喋ってねーのに」
「べっつにいいんじゃない?私たちのせいじゃない」
「って、いきなり何起きてやがんだ?!理奈!」
心臓に手を当てて驚く蛍。
そんなに驚くことだったのだろうか……
「あ、お早うございます理奈さん」
「理奈さま、今お茶をたてますゆえ」
「お茶菓子をつまみながら、しばしお待ち願うでございます」
「理奈、よく眠ってましたね」
「セーカ君を助けてほしいっす〜」
理奈が起きた途端、騒がしくなる住人を蛍は複雑な気持ちで見ていた。
「”起動”」
「でございます」
どさくさに紛れて双子が小さく口開く。
ここは、赤い夢。
どんな人間でも持っている世界。
そこに彼女達はいた。
そこで待機していた。
自分達を呼ぶ、人間の助けの声を。
7人で話しながら、助けの声を待っていた。
迷える子羊達の声を。
助けの声を彼女達は、迷える子羊の声と言っていた。
7人は能力を生かして、迷える子羊を己のやり方で解放していくのが役目。
姿を見せることも、隠すことも、その者の勝手。
どう助けるかは、7人とも違う。
さあ、7人7色始まりです。
遊びたい、話したい……
私が思うなら、きっとあの子も同じ気もちだよね?
ファイル6 担当・智菜&智香【下】〜双子に幸あれ〜
「う、う”ぅ”……」
苦しみながらもウォライは立ち上がろうとする。
その姿を見ながら、改めて智菜と炎龍の相性の良さを実感する智菜。
本来、『炎』が『水』に勝てるはずがない。
だが炎龍と智菜は確実にウォライを苦しめた。
原因は、ウォライの身体の造りだ。
ウォライは『水』の精霊だが、身体は氷で生きている。
炎をぶつければ蒸発させるのは簡単だ。
それと『強い心』。
心から、『水に勝ちたい』と強く願いながら攻撃することは大切だ。
「智菜、流石は天性の炎使いでございます……」
ふっと笑みがこぼれる智香。
どこか懐かしさを感じているような眼差しだ。
「では、こちらも反撃するでございます……滝柱!」
地面から無数の水が一直線に溢れ出す。
まるでテーマパークのアドベンチャーように、次々と溢れ出す水柱。
ウォライは必死に水に近づこうとするが、まるで避けるように遠ざかる。
水しぶきの一滴すら、落ちてこない。
「―――――あ、あんた……」
「悪いことした精霊には優しくしないでございます」
絞りだすような声のウォライ。
厳しい眼差しの智香。
2人の間を冷たい風が駆け抜けた。
****
「――――幸の姐御、いっちゃいけないっすか?」
「駄目です」
星花の台詞が終わると同時に、幸は言った。
「星花、俺も反対だぜ?ちなみに杏もそうらしい」
蛍の言葉に無言で首を縦に振る杏。
「行きたいのはやまやまですが、最終決断を下すのは幸さんではないですし」
「俺でもない。他ならぬ、理奈だからな」
皆、それぞれの台詞をはくと無言で理奈の部屋を見る。
さきほどから、何の音もしない。
「ま、寝てはないだろうな」
「呼んできてくださいますか?蛍」
幸の微笑みは、『NO』と言ったらしばかれる微笑だった。
****
「……はっ言うじゃないか……でもそっちが攻撃しない限り、ファライは生き続けるんだ……」
ウォライは半分なくなった顔で話し出す。
『ざまーみやがれ』とでもいう風に。
「そんなこと、わかっているでございます。
ですが、わたくしが攻撃してしまえば、貴女さまは復活。
どちらにしても、こちらが不利です」
意外と落ち着いた声音の智香に、再度恐怖が全身を駆け巡るウォライ。
智香の目は、何かを待っている目だ。
「何を―――」
「敵にこちらの作戦を教える方がどこにいるのでございましょう」
にっこり笑う智香の背後から、覚えのある精力が感じ取れた。
「ファライ?!」
「おまたせでございます!!」
ウォライの声をかき消した、元気な声は勿論、智菜。
彼女は炎龍と共に現れた。
ファライを炎の鎖で縛り付けたまま。
「―――遅れたでございますか?」
「大丈夫でございます」
手のひらを互いに叩き、ウォライを見る2人。
「ウォライは、後一撃といったところでございますか」
「ですがわたくしがウォライに攻撃しない限りは、倒せないでございます」
智菜が問い、智香が答える。
会話の内容のわりには、2人の顔に焦りの文字はない。
全て計算どおりといったところか。
「それでは、始めるでございます」
「心に迷いを失くして、信じることが大切でございます」
智菜と智香が同時に空へと舞い上がる。
「炎弾の舞」
「氷の大雨」
智菜と智香が同時に技を繰り出した。
ターゲットは勿論、ファライとウォライ。
****
コンコン
軽くノックをする蛍。
幸に脅迫されて、理奈を呼びに来た蛍。
聞こえるはずの理奈の返事が聞こえない。
「まさか寝たのか?理奈の奴」
ブツクサ言いながら、蛍は理奈の部屋を開けて中にズカズカと入った。
「おい、理奈。なんで電気つけてな―――!?理奈?おい理奈??」
蛍の怒鳴り声は、虚しく部屋に響いた。
理奈の部屋には誰もいない。
「幸、幸っ!!理奈が!」
「蛍、落ち着いてください。理奈の居場所はわかっています……」
ドダダダダと階段を駆け下りる蛍が向かった場所は、当然ながら幸の居場所。
珍しく何度も転びそうになりながら、蛍は幸の所に辿り着いた。
息を弾ませながら、飛び込んできた蛍。
対して幸は、とてつもなく落ち着いている。
「――――あ、あの馬鹿は、どこだよ?!幸っ!」
「?!蛍の兄貴、落ち着いてくださいっすっ!」
蛍が取り乱したのを初めてみた杏、そして星花の2人かがりでとめに入った。
だが、蛍の力は2人が予想していた以上に強い。
一瞬でも気を緩めれば、幸を叩きのめすだろう。
理由は分からないが………
「よく聞いて下さい、蛍。そして、星花と杏も」
蛍の豹変に動じず、マイペースで話す幸。
だが、この時の杏たちが聞こえていたかはわからない。
それでも幸は話す、淡々と。
「理奈は、自ら作った決まりを、破りました。
今、理奈は智菜たちのほうにいるんです……
『どんなことがあっても、担当ファイル以外に介入しない』という決まりを破って」
****
「炎弾の舞」、「氷の大雨」がウォライを襲う。
が、ふたつの技が当たる瞬間信じられないことが起きた。
「――――1対2とはなかなか卑怯な真似をするじゃない?」
捕らえていたはずのファライが、ウォライの前に立ち、
「氷の大雨」をかわしてウォライに当てる。
最も、まだ美奈の格好をしていたが……
「炎弾の舞」は素手で見事に受け止めていた。
「よく炎龍から逃れることができたでございます……」
「大変な精力を使ってしまったのではないでございますか?」
智菜と智香が交互にファライに尋ねる姿は、本当に幼女だ。
「炎龍の使い手、智菜。
あんた言ってたね、『炎龍が私と戦いたい』って言ってるって」
美奈の姿のファライが確認する。
「………そうでございますが?」
智菜の返答直後、美奈の中からファライが飛び出した。
その顔は笑っている。
「炎龍!」
落下してきた美奈を炎龍が背でキャッチした。
智菜の呼びかけがなくとも、炎龍は助けに行ったと思うが。
「じゃ、望みどおりに始めるよ!ウォライも完全蘇生したことだし?」
言葉どおり、見事に傷跡は修復されていた。
智香の放った『氷の大雨』が原因だ。
下唇をかむ智香。
だが、起きてしまったことは仕方がない。
智菜と智香は背中合わせにファライたちに向き合う。
「やるしか、ないでございます」
「上手くいくかは、わたくしたちの心次第でございます」
智菜と智香が弾かれるように、精霊たちに向かっていく。
「おーおー……やってるやってる」
お気楽モードで理奈がはく。
理奈の現在地は、篠塚家から少し離れた樹の上。
右手でしっかりと愛刀・冴凪を握っている。
「智菜、智香……あんたたちを信用してないわけじゃないけど来ちゃったよ。
もしもの時に備えて、ね」
理奈の表情に影が出来る。
いつもの勝気な顔つきではない。
「思う存分、戦い抜きなさい。智菜そして智香」
帽子を目深に被りなおし、理奈は傍観に入った。
****
空が異様な光を放った。
たった一瞬のことなのに、目をきちんと開けれない智菜と智香。
目を開けられないのは、炎龍と青龍も同じらしい。
見えなくとも、2匹の状態はわかる。
伊達に古くからの友達ではない。
『智菜、大丈夫でございますか?』
『智香こそ大丈夫でございますか?』
心で呼びかけ合いながら通じる2人。
目が見えないため、ギリギリのところでファライたちの攻撃を回避する。
一時の休みもなく。
息つく暇さえ与えないファライたちは、完全に遊んでいた。
「目が見えない奴を、一撃で殺してもつまらないからね」
「でも、見えるようになったときは……あんたたちの最後だよ」
ファライもウォライも、剣を手にしていた。
どちらとも、よく光っている。
だが、そんなことは分からない智菜と智香。
ひたすら避けて飛んで、避けて飛んでの繰り返し。
反撃したいのはやまやまだが、下手に撃つと被害が大きくなる可能性がある。
美奈と奈美の安全は確保したものの、他の人間に、森に迷惑はかけられない。
「一か八か……やってみるのもいいかもしれないでございます」
智菜が智香の心に話しかける。
未だに目は見えないが、ファライたちに負けたくないという闘争心を失くしていない。
失くしてしまえば、自分たちの『負け』だから。
「運を天に任せてみてもいいかもしれないでございますね」
智香が言葉を返す。
正直、幼い2人の集中力も体力も限界に近かった。
いい加減、反撃しないと危ない状態なのは確かである。
「では、わたくしがファライたちの相手を―――」
「わたくしは、奈美さまたちを」
智香と智菜が二手に分かれた。
まるで見えているかのように、手を叩いて。
「一体、なんのつもり―――」
「炎龍!激炎覇!!」
紅の炎がファライとウォライの前に立ちふさがる。
智香を追おうとしたウォライが反射的に後ろに下がった。
「行かせないでございます!智香の方には決して!!」
2人の前に躍り出た智菜は、勇ましく台詞をはいた。
休まず、自らの両手から小さな炎を連続で投げつけていく。
「目が見えないといって、これ以上回避を続けても百戦錬磨でございます。
だったら、わたくしたちも攻撃にまわるのでございます!」
言いながらも智菜の手は休まない。
加勢するように、炎龍もそれに続いて炎をはいていく。
「頑張るのでございます、智菜そして炎龍……わたくしもすぐに行くのでございます」
言いながら、2つの鱗をとりだした。
炎の鱗には美奈が、水の鱗には奈美が眠っている。
「―――本来なら、智菜と一緒にやるべきことですが、
今はそんなことを言ってられないでございます……」
両手を組み、智香が口を開いた時だった。
目に、誰かの手が当てられたのは。
「―――おし、これでいいでしょ」
数秒間当てられた手が声と共に離れると、周りの景色が目に入ってきた。
ただ気になるのは、今の声だ。
明らかにあの声は――――
「り、理奈さま?」
驚きでポカンとしている智香に、冴凪がコツンと当てられる。
正真証明の理奈が立っていた。
笑いながら、目の前に立っていたのだ。
智香も赤い夢の住人のひとり。
決まりを知らないわけじゃない。
「何故、ここに―――」
聞こうとしたその時、
「智香、やるでございます!」
智菜が猛スピードで智香の元に舞い降りる。
同時に理奈はファライたちの元に飛んで行った。
「あんた、誰?」
「見たことない。弱いのはわかるけど」
ファライとウォライが理奈を怪訝そうに見る。
いきなり挑発的な発言をするのは、理奈が精霊をまとっていないからだ。
理奈が持っているのは、冴凪だけ。
精霊には物理的攻撃は全く通用しないのだ。
「めざわり」
「逝きな」
ファライとウォライの同時攻撃が理奈に向かってきた、その時。
理奈の長剣、冴凪が空を切った。真横に。
「――真横の、バズーカ砲―――――!!」
引き裂いた空気が、すんでのところでとまり、
ファライたちの攻撃を全て吸収する。
「んでもって……連続バズーカ……ホームラン!」
冴凪を大きくふっていくと、触れた部分がボールの形になり、
ファライたちの方に帰っていく。
直径2mはあるボールを見事に当て返す理奈に、ファライたちも気を引き締めた。
「名前は?」
「言う必要は、ない」
ウォライの問いに、冷たく答える理奈。
すばやく精霊たちの頭上に移動した。
「我が友、冴凪よ。お前の力、今ここで解放すべし……『神経一時破壊!』」
精霊の頭上から一直線に冴凪を下していく。
2人の精霊を同時に裁く為、理奈は冴凪の中心を握っていた。
ファライとウォライの真ん中に、理奈が割り込んだ形になる。
「――――しばらくは、あんたら動けないよ、絶対に」
ファライもウォライも睨みつけることすら出来ない状態だった。
『智菜、智香……早く、してね』
静かに、理奈の背中を汗がつたった。
****
「理奈はんが、決まりを破った……?」
目を見開き、白装束と同じような顔色になる星花。
血が下がっていくのが自分でもよくわかった。
杏は何も言わずに、幸の顔を凝視する。
幸はそれに応えることはしなかったが。
きまづい沈黙が流れ出す。
赤い夢を作ったのは理奈。
自分たちを誘ってきたのも理奈。
だから、当然、決まりを作ったのも理奈なのだ。
その本人が、破った。
いや、裏切ったに近い。
言い過ぎかもしれないが、彼女たちにとってはそれくらいの重罪に値する。
「……あんの馬鹿」
ぶつけようのない怒りが蛍の身体を駆け巡る。
「蛍、怒っても仕方ありません」
「確かに起こっちまったのはしゃーねーだろうが……
アイツはやっちゃ池ねーことをやったんだぜ?!」
幸がなだめるが、蛍の怒りは爆発するばかり。
そんなとき、杏が口を開いた。
「――――――でも、わかる気がします。
理奈さんは、智菜さんと智香さんを実妹だと思っていると思うから……」
「そーいや理奈はんって、生きてた時……」
「……ええ、理奈には双子の妹がいたんです」
星花の言葉を幸が継ぐ。
その顔は、とても悲しい顔だった。
「―――でも、智菜たちは双子じゃ、ねーだろが」
今なら、どんな音でも聞き逃さない静けさが、蛍たちを支配する。
****
『ここは、どこだろう』
私、篠塚美奈は、とんでもなく奇妙な場所に来ていた。
あたり一面が真っ赤な世界に。
「明らかに地球じゃないわね」
赤い着物で動き回る美奈。
どこにも出口というものがない。
「この世界に出入り口なんて必要ないですから、当然でございます」
いつの間にか、美奈の背後に幼女が立っていた。
深紅の着物を身にまとった幼女が。
「時間がないので単刀直入に聞くでございます……
篠塚美奈さま、貴女さまは実妹の奈美さまにお会いしたいと思うでございますか?
会ってしまえば、代々継がれてきた精霊の力はなくなってしまうでございますが」
美奈は、幼い智菜を凝視して一言だけ言った。歌うように。
「遊びたい、話したい……ひとりで遊ぶのは、もう飽き飽き」
美奈の顔に偽りはない。
それが読み取れたから、にっこりと微笑んだ。
「智香、OKでございます」
智菜がぽつりとこぼした声で現れたのは、智菜そっくりの幼女。
「あ、貴女たちも双子?」
「見てのとおりでございます、美奈さま。
それはさておき、貴女さまにお会いしたいという方がいるのでございます」
智菜と智香が左右に移動すると、そこには自分がいた。
一度は鏡かと思ったが、明らかに着物の色が違う。
それに、鏡は喋らない。
「遊びたい、話したい……
こう思うのは、自分がもうひとりいると知っているから―――」
やはり歌うように喋る自分。
自分であって自分ではない少女。
「奈、美?」
美奈は問うが、肯定の返事はない。
この無言は『肯定』の返事に値するのがわかってるから。
ふと、美奈は微笑みながら歌いだす。
「遊びたい、話したい……ひとりで遊ぶのは、もう飽き飽き」
「遊びたい、話したい……こう思うのは、自分がもうひとりいると知っているから―――」
美奈は黙り、続いて奈美が声に出す。
「「遊びたい、話したい……私が思うなら、きっとあの子も同じ気もちだよね?」」
2人のハミングは、とても暖かいものだった。
****
息がきちんとできないという行為は、大変きついことだと理奈は改めて実感していた。
もう、冴凪を持っているのも億劫だ。
いっそのこと手を離してしまいたい。
「………っ」
漏れそうになる声をなんとか押し戻す理奈。
あと、幾度繰り返せばいいのだろう。
そんなことがよぎった時だった。
自分の手が冴凪から離れたのは。
「―――しまっ……!」
落下を止める力も残っていない理奈は、急降下するしかなかった。
それをみすみす逃がす精霊たちではない。
「よくもまあ、余計なこと、してくれたね」
「……逝け」
ファライもウォライも冴凪から離脱し、すでに攻撃態勢に入っていた。
肩で息をしているというのに。
精霊たちが、剣を同時に振り下ろすとどす黒い光が放たれる。
標的は勿論、理奈だ。
「よ、避けきれるわけないっしょ………」
と目をつぶった時だった。
「『―――100年に一度、酉が鳴く満月の夜に産まれし子供は光の双子……
光の双子は、すぐに引き離すべし。それが2人のためである。
光の双子は決して会う事は許されぬ。
しかし、どうしても会いたいならば、会えば良い。ただし光は永久にもてなくなるが……』」
歌声を聴いたとき、理奈は笑った。
「……ギリギリ、だね……」
そういい残して、消える理奈。
彼女の役目は、ここまでだ。
「助かりました、理奈さま」
「帰ったら、お茶をご一緒しましょう」
智菜と智香、そして炎龍と青龍がファライたちの光を弾き返す。
「――もう、フィナーレといたしましょう」
智菜の台詞に笑い出すファライ。
「ついに負けを認めるか」
この言葉に対して、智菜は首を横に振る。
「負けは、貴女さまたちでございます」
「何だと?」
眉間にしわを寄せ、問い返すウォライ。
「……伝承の1節にあるでございましょう?
「『どうしても会いたいならば、会えば良い。ただし光は永久にもてなくなるが……』」と。
美奈さまと奈美さまは、光……すなわち『精霊の力』より、互いを取ったのでございます。
あの方たちにとって必要なのは『支え』でございますから」
智香の言葉が信じられないらしい。
ファライもウォライも目を大きく見開くばかりで、動かない。
智菜と智香が、ファライたちに近づく。
勿論、炎龍たちと共に。
「―――わたくしは忠告したでございます……
『本気で攻撃しなくては、貴女さまは永遠に消滅する』と」
「もう、貴女方はこの地に降りられないでございます……わたくしたちが、消し去るから」
『消し去る』という言葉に反応したのか、精霊たちは笑い出す。
「炎と炎、水と水じゃあ百戦錬磨じゃない?」
「それに、いくらなんでも、その力尽きた顔色じゃあ……あと一撃くらいの力しかないはずね」
精霊たちの言葉は正しい。
そう、智菜たちの力は本当に後一撃する力しか残ってはいないのだ。
「「わたくしたちは、勝算がない戦いは避けるでございます」」
智菜たちの言葉に眉をあげる精霊たち。
それにかまわず、力の限り最後の一撃を放つ智菜と智香。
「爆炎覇!!」
「極凍覇!!」
精霊たちは目をむいた。
それしかできなかった。
自分に迫ってきたのは、対の攻撃だったから。
「い、いつの間に……」
「入れ替わって……?!」
ファライの目の前にいるのは、確かに深紅の着物を着ていて、
ウォライの前には藍色の着物を着ているのに……
「わたくしたちは」
「双子であって双子ではありませんので」
目の前に残ったのは煙だけ。
智菜も智香も、力尽きて眠ってしまう。
落下しながら、2人は消えた。
夕日をバックにして。
「消えちゃいましたね、美奈」
「ええ」
美奈と奈美は最後まで智菜たちを見ていた。
互いに手を取り合って。
「塚原家は、二度と『光』を持つことはないわね」
美奈の言葉に頷く奈美。
2人は夕日を見ながら言った。
「「何して遊ぶ?」」
他愛無い笑顔。
その笑顔の秘訣は、智菜と智香の存在が残されているに違いない。
****
「い”で――――――!!」
突然の雄たけびに、驚いてベッドから見事に落ちた智菜と智香。
「……い、今の声は……」
「理奈さまでございます!」
2人は着替えず寝巻きのまま飛び出した。
雑談する、フロアーへと。
「「どうしたのでございますか?!」」
見事な二重奏に、笑うメンバー。
まあ、理奈は苦笑していたが。
「いわんこっちゃねえ……あいつら起こしちまったじゃねーくゎっ」
ギシギシと理奈の腕を押しているのは蛍。
理奈は涙を浮かべて動かせる体の一部をバタつかせる。
「な、何を……?」
「しているのでございますか?」
さっぱり空気が読めない智菜たちに、星花と杏が耳打ちしてくれる。
「理奈はん、無茶な技出したっすから。その治療っすよ」
「治療というより、怒りをぶちまけているだけに見えますけどね」
口調は真剣だが、星花も杏も目尻が笑っている。
楽しんでいる証拠だ。
「――――あれが、蛍流の心遣いですね。
蛍はかなり心配していましたから、無事に帰ってきた喜びがあんな風に出てしまうのですよ」
幸が言うと何故か『ああそうなんだ』と思えてしまうのは何故だろう。
「そ、それより、あのっ」
「智菜、安心なさい。理奈の罰はなしですから」
智菜の言いたいことを先に読み取り、返答する幸。
「本当でございますかっ?!」
智香が身を乗り出すように確認する。
幸が優しく微笑むと智菜も智香抱き付き合う。
「あまい気もするっすけど」
「理奈さんがいなくなってしまうと私たち困りますもんね」
星花も杏も笑いながら台詞をはいた。
「さあ、打ち上げをいたしましょう。
あの2人は放っておけば、そのうち来ますから」
幸の言葉に星花と杏が笑いながらついていく。
「お疲れさまでございました、智香」
「智菜もお疲れさまでございました」
智菜と智香は静かに言葉を交わす。
「「これからもヨロシクお願いいたしますね」」
最後の最後まで、再度二重奏で笑いあう2人。
それを見守ったのは、理奈と蛍だけだった。
FIN
更新が遅い上に、描写が無い物語でしたが、
最後までお付き合いくださった方々に感謝をします。
彼女達の過去にも触れてみたいと思うのは私だけですかね;
では、またお会いできるのを祈りつつ……
Rue